小中学校32校、幼稚園・保育園31園で実施される新発田の食育

新発田市の小中学校32校、幼稚園・保育園31園では、近隣地域農家の協力のもと、農作物を校内で育てる新発田市の小中学校32校、幼稚園・保育園31園では、近隣地域農家の協力のもと、農作物を校内で育てる

日本全国の自治体で様々なテーマに基づく「まちづくり」が行われているが、新潟県新発田(しばた)市では、一風変わった「食(食育)」に注目したまちづくりが行われているという。

新発田市では「食の循環によるまちづくり」を標榜し、生産者と消費者の距離を縮め、地産地消を推進。生産段階から、加工、販売、調理、残飯処理、肥料づくりなどの一連のサイクルをつなぎ、それに携わる事業者や市民それぞれが役割を理解し、分断された食の循環を再生することでまちづくりに活かそうとしている。

特に、次世代の産業を担う人材育成にも力を入れ「食とみどりの新発田っ子プラン」の名のもと、新発田市の小中学校32校、幼稚園・保育園31園で同市ならではの食育が実践されている。

食の循環そして食育を通して、どのようなまちづくりが行われているのか? 今回、新発田市教育総務課にお話を伺ってきた。

近隣農家の指導で野菜を育て、調理実習では郷土料理を地域住民から教わる

「食とみどりの新発田っ子プラン」の食のサイクル図。新発田市では、「育てる」「作る」「食べる」「返す」の食のサイクルそれぞれで地域や家庭と連携しながら食育の取り組みを行う「食とみどりの新発田っ子プラン」の食のサイクル図。新発田市では、「育てる」「作る」「食べる」「返す」の食のサイクルそれぞれで地域や家庭と連携しながら食育の取り組みを行う

新発田市は、新潟県の北部に位置する人口10万人の県北の中核都市だ。江戸時代には新発田藩十万石の城下町として繁栄し、現在も良質のコシヒカリ産地として知られ、それを活かした米菓や日本酒などの食品加工業が盛んに行われている。現在のところ、人口は減少することなく横這いを続けているが、当然ながら少子高齢化の波は避けることができない。

こうした中で、新発田市では次世代の産業を担う人材育成に力を入れ、食(食育)を通してのまちづくりを行っている。2008年から市内の幼稚園・保育園、小中学校で行われている「食とみどりの新発田っ子プラン」と名づけられた取り組みだが、具体的にはどういったものなのだろうか? 新発田市 教育総務課 食育・給食係 佐久間 与一氏によると「“育てる(栽培)”→“作る(料理)”→“食べる”→“返す(リサイクル)”の食のサイクルを通じて、食に関する知識はもちろんのこと産業や地域への学びを深める」ものだという。しかもこの取り組みは単に座学ではなく体験型であることが重要視されている。

例えば、サイクルの中の「育てる(栽培)」「作る」では、新発田の産業、そして地域の食に関する歴史などを体感的に学べる取り組みが多い。

同市の小学校では低学年の頃から地域農家の指導のもと野菜や稲を育てる経験をする。それが本格的で、毎朝畑に様子を見にいき、農作物の成長や変化を学ぶほか虫の発生や肥料枯れなどトラブルの対処なども児童に考えさせるという。現在ではハウス栽培などにより感覚が薄れてきている農作物の「旬」についても、収穫時に時期を逃さず行うことで感覚を自然と身につけていける。

「もちろん収穫後は、調理実習として育てた野菜などを料理しますが、その点でも地域との連携を意識しています。メニューには郷土料理が取り入れられ、例えば「のっぺ」と呼ばれる小煮物のつくり方を地域住民の指導のもとで子どもたちに教えています。地方と言っても核家族化は進んでいますから、途絶えがちな郷土料理の味をきちんと食育の中で伝えるようにしています」(佐久間氏)

また、「育てる」行程は農作物ばかりでない。地域の酪農家が自ら子どもたちのためにと企画をして、校内で子牛と触れ合える出張「酪農ふれあい体験」や「バター作り」なども行われている。命をいただくことへの感謝を促すと同時に、子どもたちにとっては、酪農家の仕事やそのやりがいなどを見聞きできる貴重な体験になる。

こうした産業との連携は昔から社会科見学などを通して行われてきたことだが、新発田市の取り組みでは、それが日々の学校生活の中に浸透していること、そして地域とのコミュニケーションの密度が高いことに特徴があるのではないだろうか。特別な日だけの実習や見学会だけではなく、毎日の学校生活の中に取り入れられることで、地域産業への理解と興味が自然と子どもたちに培われていくように思う。

給食食材の新発田産率は46.4%の高さ

さらに「食べる」の行程では、学校給食における地産地消に力が入れられている。地産地消の取り組みは全国的に広がり、国の目標にも30%以上が掲げられているが、新発田市では学校給食における新発田産の使用率が46.4%(2014年度)にも及ぶ。

「メニューには変わったものも登場します。例えば新発田発のB級グルメのアスパラガスを使ったアスパラみどりカレーなどが出されます。食の循環によるまちづくりをすすめる新発田では、地域の農産物を活用したメニュー開発も行われていて、アスパラカレーはその1つ。学校給食へ地場農産物を供給する仕組みづくりや生産者の確保・育成にも努めています」(佐久間氏)

そして「返す(リサイクル)」の行程も、子どもたちは地域の取り組みを肌で感じられるように工夫がされている。同市では食べ残しを堆肥化する「有機資源センター」を3件ほど有しているが、ここに運ばれる学校給食の食べ残しも児童自ら分別するそうだ。分別することでどれだけ食べ残しが出ているか、もったいない状況になっているかを子どもたちは体験する。完食は身近なエコ活動と言われるが、この分別活動の効果は高く、2008年に児童一人あたりの給食の食べ残し分量が48グラムであったものが、2014年には32グラムまで減少している。

小学校の社会科見学として「有機資源センター」への見学も行われ、児童たちが給食の食べ残しがどのような形でリサイクルされるのか、その先の行程も知ることになる。

アスパラみどりカレーは、新発田の名産アスパラのピューレを加えた新発田B級グルメ。給食では新発田産の食材を使う仕組みが整えられている。「返す」のサイクルでは、学校級食の食べ残しを児童自らで分別(写真:下段左)、それを市内3カ所にある「有機資源センター」(写真:下段右)で堆肥にリサイクルされるアスパラみどりカレーは、新発田の名産アスパラのピューレを加えた新発田B級グルメ。給食では新発田産の食材を使う仕組みが整えられている。「返す」のサイクルでは、学校級食の食べ残しを児童自らで分別(写真:下段左)、それを市内3カ所にある「有機資源センター」(写真:下段右)で堆肥にリサイクルされる

小学校6年生で一人でお弁当が作れる、新発田っ子!

小学校6年生が作ったお弁当。大人の手を借りずに作るのがルール。小学生でこれだけのものを作れてしまうことに驚き!キャラ弁もさることながら、煮物のおかずが多いことには脱帽!小学校6年生が作ったお弁当。大人の手を借りずに作るのがルール。小学生でこれだけのものを作れてしまうことに驚き!キャラ弁もさることながら、煮物のおかずが多いことには脱帽!

また、家庭との食育連携として、月に一度子どもたちが自分で作ったお弁当を持ってくる「弁当の日」を推進しているのも面白い。お弁当は子ども一人で作るのがルールだというが、出来上がったお弁当を集めたポスターをみると、これが主婦顔負けのレベルの高さだ。

「食とみどりの新発田っ子プラン」では、年長児で「一人でごはんが炊ける子ども」。小学校6年生で「一人で弁当を作れる子ども」。中学3年生で「一人で小煮物(のっぺ)のある夕食1食分を作れる子ども」を目指しているという。

写真はすべて小学校6年生が作ったものだというが、煮物などが入っていることが多い。小学校6年生が立派にお弁当を作るだけでも驚きだが、さらに煮物をなんなく作っていることにも驚く。調理実習などで地域住民から教わる郷土料理のレシピや経験もきっと活きているのだろう。

この取り組みは、お弁当の献立を一緒に考える、など家族とのコミュニケーションを図る狙いもあるそうだが、それもきちんと形になっているのではないだろうか。

「弁当の日」は、地域のスーパーや商店でも協力体制がとられ、子どもたちに食材の鮮度の見分け方や旬の食材を提示する動きもあるそうだ。

地域産業への理解や郷土愛を培う「食育」

お話をうかがった新潟県新発田市 教育総務課の佐久間与一氏(写真:左)と同じく教育総務課の渡邊祥子氏お話をうかがった新潟県新発田市 教育総務課の佐久間与一氏(写真:左)と同じく教育総務課の渡邊祥子氏

食育というと、どうしても親が実践して子どもに見せるものといったイメージがあったが、新発田の食育は、きちんと子どもたちの実践を通して育まれている印象だ。しかも、核家族化が進む現代の家庭に閉じるものではなく、地域の産業への魅力や食文化を通した歴史の継承までも含む、第三者や産業とのコミュニケーションが介在しているように思う。

「近頃の子どもたちは、私たちが受けた地域教育とはまったくレベルの違うものを手にしていると感じています」(佐久間氏)

新発田市の取り組みで私たちが学ぶべきものは“循環”の視点を取り入れたことではないかと思う。それぞれの役割の人々が参加しやすい枠組みを提示することで、子どもたちはもちろんのこと、そこに生活する人々が自然と郷土愛を育み、地域の産業にも目を向けることができるのではないだろうか。

こうした教育を受けた子どもたちは、どのような大人になっていくのか。地域に対してどのような意識を持ち、仕事を選んでいくのだろうか。子どもを持つ親としてはその点も興味深い取材だった。

2015年 11月27日 11時06分