よりコンセプトの特化が求められるコワーキングスペース

44田寮の寮長であり、運営する株式会社レスもあ代表取締役の赤木優理氏。自身の仕事場も同コワーキングスペースの一角にある44田寮の寮長であり、運営する株式会社レスもあ代表取締役の赤木優理氏。自身の仕事場も同コワーキングスペースの一角にある

安価なワークスペースというだけでなく、クリエイターなど最先端の情報を求める人たちの情報交換の場としても機能するコワーキングスペース。常に新しい情報が出入りし、今までなかった思考を生み出だそうとする場ゆえに、そのコンセプトはより特化したものが求められている。たとえばミシンを完備したアパレル系デザイナー向けだったり、キッチンを備えたフードクリエイター向けだったり。
今回紹介するのはそんなコワーキングスペースの中でも、ちょっと変わった施設だ。なぜなら「仕事場の提供」よりも「起業家の研究」に重きを置いているから。その名は「StartUp44田寮(ヨシダリョウ)」(以下44田寮)。新しい市場に挑戦する起業家に特化したサポート機能を持つコワーキングスペースだ。その内容を寮長である株式会社レスもあ代表取締役赤木優理氏に聞いた。

“場所貸し”ありきではなく“起業家の研究”ありき

所々にバンカラな学生帽。壁にはスローガン。決して整理整頓されているとは言えないカオス的雰囲気。しかし、利用者の起業への熱気が伝わってくる所々にバンカラな学生帽。壁にはスローガン。決して整理整頓されているとは言えないカオス的雰囲気。しかし、利用者の起業への熱気が伝わってくる

44田寮はJR渋谷駅から徒歩7分ほどの場所にあるマンションの1室。中に入ると、雑然とした中で10人程の人たちが黙々とパソコンに向かっていたり、話し込んでいたりしていた。少しムっとするような熱気を感じる。たしかに一般的なコワーキングスペースとは違うようだ。起業家に特化したスペースをつくった理由を赤木氏は以下のように語った。
「私自身が起業をしようと思った2011年当時は、今ほど日本の起業シーンが盛り上がっていなくて、ネットや本で色々調べても「0(ゼロ)からどうやって事業創造するのか?」などの情報は体系的に整理されていませんでした。元々、これからの日本には起業環境の整備が重要だとの認識をもっていた私は、起業家の実体をリアルに研究しナレッジ(知識)を体系的に構築する仕事をしたいと考えました。当時の私の周りには起業家を志す人がたくさんいました。彼らは基本的にお金がありません。だから仕事する場としてスターバックスなどのカフェを利用しますが、いつも店員に嫌な顔をされる。そこでまずは仕事環境、つまり起業家が事業創造をしやすい機能を搭載したオフィスから整備しよう、そこで起業家の相談にのったり行動観察をすることで事業創造ナレッジを研究しようと考えコワーキングスペースの運営を始めたのです」
つまりスタートから“場所貸し”ありきではなく“起業家の研究”ありきだったのだ。

モデルは京都大学の吉田寮

赤木氏や同じ志を持つ仲間と意見をぶつけあうことで、壁を乗り越えられる赤木氏や同じ志を持つ仲間と意見をぶつけあうことで、壁を乗り越えられる

起業家の研究がコンセプトとはいえ、壁にはスローガンが貼られ、いたるところにバンカラな印象の学生帽が置かれた雰囲気は独特なものを感じる。

「私の出身校である京都大学には吉田寮という学生寮があります。築100年(大正2年築)を超える木造建築で、たとえ警察であっても学生が拒む者であれば入れないという自治寮です。そこでは現在でも社会に迎合しない学生たちが集まり、授業にも出ずに昼間から麻雀卓を囲んで哲学などを討論している不思議な空間です。独自の思想が育まれる吉田寮からは、世界的な哲学者や研究者など数多くの偉人が輩出されています。独自のイノベーション(革新)で世界を変えていく起業家にもそういった空間があればいいのに、と感じていました。私はここを渋谷の吉田寮にしたいのです」(赤木氏)。

事業構築など起業するための様々なサービスを用意

取材中も引っ切り無しに寮生が赤木氏へ相談に来ていた取材中も引っ切り無しに寮生が赤木氏へ相談に来ていた

この施設を利用する方法は2通りある。ドロップインと呼ばれる方法と寮生になる方法だ。前者は起業家を目指すことは求められず飛び込みでOK。1日24時間1,000円(税込)で、1席、電源、無線LAN、コピー機などを自由に利用できる。
後者は起業家を目指すことが条件で、寮長である赤木氏の面談にパスしなければならない。ドロップインのサービスに加えて事業構築やマーケティング、ファイナンスサポートなど、起業するための様々なサービスが用意されている。費用は月額1万円(税込)。オプションで法人登記や郵便物受取代行などのサービスを受けることも可能だ。
「面談をパスする条件は2つあります。1つは今までにない市場に本気で取り組む覚悟があること。マネタイズ(収益化)やビジネスアイディアは関係ありません。事業創造のプロセスで変わるからです。むしろアイディアの源泉、その人のトラウマや感動などを重視しています。もう一つは人を巻き込むチカラがあることです。人を巻き込むチカラがないとビッグビジネスは創れません。寮生になれば私はとことんバックアップします。いつでも相談に乗るし、お金がなければご飯を食べさせてあげることもあります」(赤木氏)。

上記金額で果たして採算が合うのだろうか。赤木氏によるとやはり赤字だそうだ。しかし、同コワーキングスペースは起業家に関する研究施設である。社員研修や新規事業開発などのために起業家ナレッジを求めている大手企業などのクライアントに対し、研究結果を基としたサービスを提供することで利益を確保しているという。赤木氏自身も今までにない市場を開拓したと言えるだろう。

ただの「箱モノ」から文化形成の一部に

同コワーキングスペースは、起業という共通の志を持つ者が集い、お互いに刺激を受けることで、より事業計画をブラッシュアップさせる機能を持つ同コワーキングスペースは、起業という共通の志を持つ者が集い、お互いに刺激を受けることで、より事業計画をブラッシュアップさせる機能を持つ

現在の寮生の年齢は25歳から45歳。学歴や年齢に制限はない。卒寮生の中には、オンライン型動画学習サービスのschoo(スクー)や不動産ポータルサイトのietty(イエッティ)など、資本金数億円の規模にまで成長させた起業家たちもいる。赤木氏は今後もこのような起業家をサポートし研究し続けるために「いつでも面談します!」と熱い意気込みを話してくれた。

44田寮は、ただの「箱モノ」ではなく「ナレッジ創出の空間」といえるだろう。これからのコワーキングスペースは、コンセプトを絞り込んだ仕事場というだけではなく、文化形成の一部も担っていくのかもしれない。

取材協力:「StartUp44田寮(ヨシダリョウ)」(株式会社レスもあ)
http://www.lessmore-yoshidaryo.com

2015年 03月05日 11時05分