高齢化が進む地域に共通して課題となるのは空き家問題
前回の【忍者の里・三重県伊賀市の取り組み①】では、人口の30.8%が65歳以上の高齢者となった三重県伊賀市の『観光都市』としての地域活性化対策をご紹介したが、今回は同市が抱えるもうひとつの課題である『空き家問題』と、地元の人たちの取り組みについて取材した。
空き家2,000軒を活用するために誕生した『伊賀市空き家情報バンク』
「伊賀上野はもともと城下町として栄えたところ。車で走っていると、まるで御殿のような立派なお宅があちこちに残っています。しかし、暮らしている人たちの高齢化が進み、若い世代が地元を離れ、代々受け継がれた住まいを手放さなくてはならないケースが増えてきました。昔ながらの御殿が潰されていくのを見るのは悲しいですね」と語るのは、株式会社まちづくり伊賀上野の山崎祐子さん。
平成16(2004)年11月、上野市・伊賀町・島ヶ原村・阿山町・大山田村・青山町の一市五町村が合併して『伊賀市』が誕生したが、合併当初から比べると5,000人以上が減少しており、人口減少に歯止めがきかない状態になっているという。
「現在、市内の空き家の数は約2,000軒。誰もが空き家に住んでくれる人を呼びたいと思っているのに、人は減っていくばかり。空き家だけでなく、街なかでは空き店舗も増えています。御殿のような立派なお屋敷も、城下町の風情が漂う町屋も、放っておいたらぜんぶ潰れて駐車場になってしまう…そこで『伊賀市空き家情報バンク』が誕生したのです」(山崎さん談)。
平成20(2008)年、株式会社まちづくり伊賀上野では、市内の空き家・空き店舗情報を管理し、貸したい人と借りたい人の橋渡しをおこなうための空き家情報バンク『daco不動産』を設立した。希望者はホームページの申し込みフォームに入力して送信をするだけの簡単な仕組みとなっているが、現在の登録件数は約20軒と少々伸び悩んでいる。
「高齢者が多いこともあって、そもそも地元の人たちに“家を貸す”という感覚がないのが一番の伸び悩みの原因でしょう。外国人観光客に好まれそうな古民家も多いため、民泊としての活用も考えてはいるのですが、民泊の場合は防火対策や耐震性能についての基準が厳しいなどの理由から、さらにハードルが高くなります。
まずは、地元の皆さんに『伊賀市空き家情報バンク』の存在を知ってもらい、空き家活用についての理解を得ることが大事。いきなり不動産屋さんに相談するのではなく、わたしたち『まちづくり伊賀上野』という地元の組織を介することで、空き家対策をもっと身近に感じてもらいたいと考えています」(山崎さん談)。
虫籠窓のある町屋が一度に競売に…地元のピンチを救った有志たち
この地に続く酒問屋の4代目で、空き店舗対策委員長を務める菊野善久さんは、商工会議所や地元商店主と連携をとりながら伊賀上野の街並み保存に尽力している一人だ。東京に本社のある大手酒造メーカーに勤務し、大都会での生活を経て地元・伊賀上野に戻ってきた。だからこそ、地域活性への想いも強い。
「藤堂高虎が伊賀上野城と津城を結ぶために400年前に造った『伊賀街道』沿いには、古くから様々な商店が集まり、いまも虫籠窓(むしこまど)のある町屋の街並みが続いています。
しかし、数年前にその町屋4棟が一度に手放され、競売にかかってしまったことがありました。そのまま県外の業者に買い取られたら、建物がすべて潰されて街が変わってしまう…そこで、我々地元有志たちでその競売物件を買い取り、なんとか建物を保存することができました」と菊野さん。
買い取った町屋を複合店舗として活用することで国からの補助金も得た。現在は、交流サロンやギャラリー、イタリアンレストランなどが入店する和のサロン、『まちやガーデン伊賀・色々』としてその存在が地域活性の一翼を担っている。
地域活性に必要なものは、“街に残されているものの価値を見出すこと”
「もともと“忍びの者たち”が集まっていた土地柄だからでしょうか。伊賀上野のひとたちは、静かに忍び続けることは得意でも、自分から情報を発信してPRしていくことが苦手のようです(笑)。そのため、誰かが音頭取りをして盛り上げていかないといけません。
ここ伊賀上野と同じように人口減少に悩んだ街の地域活性事例を見ていると、本来の姿を壊してピカピカに新しくした街は、一時的な活性効果はあったとしてもその後概ね苦戦をしています。
わたしたちの街にはせっかくこれだけの“息づいている歴史”があるのですから、『街に残されているものの価値を新しく見出す作業』をしなくてはいけないと考えています」(菊野さん談)。
人・住まい・雇用・学校・産業・・・地域活性にはたくさんの要素が必要
このように山崎さん、菊野さんらが中心となって音頭を取ることで、伊賀上野の空き家・空き店舗対策は少しずつ実を結び始めている。『上野市』駅前にある長屋商店街『新天地Otonari』には、若い女性好みのカフェやレストラン、生活雑貨店などが続々とオープンし、10店舗すべてが満室となった。
「地域を活性化させるためには、たくさんの要素が必要となります。まずは人・人が暮らすための住まいや商店・人が学ぶための学校・人が生活を続けるための雇用、そして、農業などの六次産業。六次産業は豊かな食文化だけでなく、その街ならではの特産物を生み出してくれます。
伊賀上野は歴史や観光資源にも恵まれた街ですが、それだけの要素では人口減少を食い止めることはできません。長年息づいている歴史や文化に加えて、今自分たちの街にあるものを大切にしながら、これらの要素をじっくりと育んでいきたいと思っています」(山崎さん談)。
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地域の魅力を、地元の人たちが再認識すること…これが空き家対策を含む地域活性の原動力となることは間違いないようだ。これから伊賀上野がどのように『住みたくなる街』『訪れたくなる街』へと変化を遂げて行くのかを楽しみにしたいと思う。
■取材協力/株式会社まちづくり伊賀上野
http://www.m-igaueno.co.jp/
■伊賀市空き家情報バンク daco不動産
http://www.m-igaueno.co.jp/bank/
2016年 05月01日 11時00分