無いなら他の場所から運んで移築しよう

神奈川県鎌倉市は家を買うにも、借りるにも厳しい場所だ。海沿いの、周囲を山に囲まれた地形のため、住宅適地は少ないし、歴史ある古都だけにうかつに掘ると遺跡が出る。敷地に対して定められた緑の割合も他地域に比して高く、植栽にお金がかかる。さらに「どうせ鎌倉に住むなら古民家に住みたい」と思い始めるとハードルはさらに高くなる。程度の良い古民家は少ないし、高い。加えて古い住宅は修復などに費用が要るし、修復しても暑かったり、寒かったりすることもある。

だったら、思い切って移築という手で「鎌倉で古民家」という夢を実現しようというのが西御門プロジェクトである。そこに無いなら、他の土地で不要になった古民家を持って来れば良いではないかという考えだ。

もちろん、誰にでもできるわけではない。このプロジェクトを手がけるくらす株式会社の福田徹氏が一般社団法人全国古民家再生協会のメンバーで情報が得られる立場にあり、かつ再生に当たってノウハウのある仲間たちがいることから可能になった話である。

「古民家移築の場合、材はもらえますが、解体、運搬にお金がかかり、かつ、建てるための大工の手間も一般的なプレカットで作るよりもやや高くつきます。また、運んできた材は自分たちで刻むため、その場所が必要になります。使われなくなり、解体を待つ古民家は少なくないものの、移築されるケースがそれほど多くないのは、そうした手間、ノウハウが必要だからです」。

高台、緑の中に建つ西御門プロジェクトの第一号建物、4戸の連棟式高台、緑の中に建つ西御門プロジェクトの第一号建物、4戸の連棟式

静岡県三保の築80年の古民家の大黒柱が室内に

材、建具の使い方は部屋ごとに異なる材、建具の使い方は部屋ごとに異なる

そうした形で運搬、移築したのが西御門プロジェクトのうち、2018年8月に竣工した4戸の連棟式建物の一部だ。静岡県三保にあった築80年、60坪もあった古民家の大黒柱、梁と建具の一部を移築、半分の2戸の内装に使っているのである。今回の場合、解体・運搬、再利用にかかった費用は400万円。「古民家自体は日本全国にありますが、遠くから運ぶとなるとその分費用がかかるので首都圏で建てるなら、関東近県、遠くて静岡、山梨あたりからでしょうか」という。

今後、敷地内では2棟の一戸建て分譲が計画されているが、実際、そのための部材はそれぞれ100年超の茅葺民家と蔵を解体、静岡県菊川市、埼玉県深谷市からそれぞれ運んできて再利用するとのこと。といっても、もちろん以前の建物をそのまま全部使えるわけではない。蔵の場合は壁は再利用できないし、茅葺も無理。建物の状況によるが、柱、梁を中心に、使えるものがあれば建具などもということになるだろう。

解体、運搬、移築その他で費用が嵩むため、建物価格はスケルトン状態の23坪(76m2ほど)で1,800万円余。設備器具、配管配線、内装仕上げや外構工事費などが加わるので実際にはもっとかかることになり、土地代と合わせて6,000万円くらいになる計算とか。駅から歩いて20分以上かかる高台で、かつ鎌倉市独自の土地利用の制限により、敷地を一度に開発できないことなどもあって比較的土地代が抑えられた結果というが、もっと古民家利用が進み、材が安く使えるようになればさらに手頃にはならないか。思わず妄想してしまう。

太い大黒柱、梁が与えてくれる安定感

竣工している建物を見せてもらった。外観は杉板貼りに漆喰仕上げで屋根は軽量の灰色の鋼板葺きだ。新築というのに落ち着いた雰囲気があるのは材の質感と色目のせいだろう。4戸それぞれに入口の照明のデザインを変えてあったり、エアコンに木のカバーがあるなど細かい配慮があるのが目につくところである。

住戸はそれぞれ間取りが異なっており、それも魅力。そのうちでもっとも印象的だったのは古民家の材を使った2戸のうちの1戸、広い土間に古民家の引き戸を配したもの。今では作れないような細かい細工の引き戸はそれがあるだけで歴史を感じさせる。その他の住戸でも一部にこうした建具を配してある。

室内の柱、梁には古材が使われており、どっしりした太い梁は見事の一言。木と漆喰という自然の素材のみでできた室内は落ち着くし、健康にも良いことだろう。それほどアピールしていないようだが、淡いグリーンやベージュなど各戸で異なる、室内の木の色に合わせたキッチンのセレクトもいいセンスである。

住戸によってはロフトがあり、そこでも古民家の材が使われている。ロフトも含め、間取り自体はさほど特徴があるものではないが、木一本、古いものがあるだけでヨソの家と違う個性が感じられるのは面白いことだ。ちなみに古民家の材を使っていない住戸は国産ブランドの尾鷲杉を利用、木の香りの気持ち良い空間になっている。

左上から順に広い土間のあるタイプを玄関から見たところ、建具を閉めるとこんな感じ。窓のある水回り。柱、梁に古材を使ったリビング左上から順に広い土間のあるタイプを玄関から見たところ、建具を閉めるとこんな感じ。窓のある水回り。柱、梁に古材を使ったリビング

コミュニティを意図した敷地計画

敷地図。中央に広い道路を配し、その左右に建物、駐車場などが作られる。現在竣工しているのは右側の一番奥の建物となり、これから分譲されるのは右側の手前の2棟だ敷地図。中央に広い道路を配し、その左右に建物、駐車場などが作られる。現在竣工しているのは右側の一番奥の建物となり、これから分譲されるのは右側の手前の2棟だ

敷地計画にも特徴がある。敷地中央に8m幅の道路を配し、その両側には桜並木。芝生を植え、ベンチを置いた、居住者全員が使える広場のような空間も生まれる予定だ。これは敷地内にコミュニティを醸成していきたいという考えから。

プロデュースに参画し、自身でも一画を購入。建物の建設を計画しているオモロー不動産研究所の青山幸成氏によると「すでに完成している連棟式に加え、2棟の一戸建て、さらにこの地にほれ込んだ私個人も自宅を建築する予定です。他にもシェアハウスか民泊か、はたまた週末別荘か、この地にあった面白いアイデアも舞い込んできています。

2棟の分譲一戸建て、自宅建築後の3年後にはもう1棟、最後の建物が建ちます。これらの居住者20~30人程度のコミュニティをこれから3~4年かけて作り、この土地の恵まれた自然環境、環境をシェアする場になったらと考えています」とのこと。周囲の山の景観を損なわないため、無電柱化も計画されている。

しかも、面白いのは最後の建物については参加希望者のやりたいことで計画を決めようとしている点。「緑の中のコワーキングスペース、隠れ家レストラン、陶芸家のアトリエ住宅、イベント貸しスペースなど、すでにいろいろな案が出ていますが、中心部の雑踏から離れた自然の中という環境を活かし、集まる人たちが楽しめる計画になれば良いと思っています」。

住宅にせよ、オフィスや店舗にせよ、場所を借りたり、買う場合にはその場所に合わせた使い方をしなくてはいけないのが普通だが、ここでは借りる人、買う人が使い方を提案でき、それによって計画が決まるというのである。どんな空間が生まれてくるのか、これからが楽しみである。

2018年 12月28日 11時05分