元洋服屋さんの1階を開放、近所の人がふらりと立ち寄る西国図書室

図書室全景。実際には右手にトイレ、読書も楽しめる階段というスペースもある図書室全景。実際には右手にトイレ、読書も楽しめる階段というスペースもある

新しい土地に引越し。周囲に誰一人として知る人がいないという状況を経験したことはないだろうか。ペット、子どもがいれば、それをきっかけに周囲の人と話す機会も作りやすいが、ひとり暮らしあるいは夫婦2人の暮らしでは、なかなかきっかけがない。中には長くその土地に暮らしてはいるものの、学校、仕事場、家庭以外には知り合いがいないという人もいるかもしれない。

私が西国図書室(国分寺市。最寄り駅は西国分寺)にお邪魔し、室長の篠原靖弘さんと話をしていた時に訪れてきた人も近所に知り合いがいなくてというお一人だった。フェイスブックで見て訪ねてきたその人は私たちとおしゃべりをし、その後、3人で一緒にドイツのボードゲームを楽しんだ。ゲーム好きという彼だが、夫婦2人だけだとできないゲームが多いんですよとおっしゃる。誰かと一緒にゲームできるのは楽しいなあ……。

西国図書室は、そんな、地域で暮らしている人たちが出会う場である。図書室という名称だが、公的なものではなく、篠原さんご夫婦が暮らす元洋服屋だった一戸建ての1階部分を地域に開放したもの。そのため、開室するのは基本、篠原さんがお休みの日曜日午後。置かれている本はご夫婦が持っていたものに加え、会員である、幅広い年代の利用者が持ち寄ったものである。

預けた本を通じて、見知らぬ人と時空を超えて会話する

ナルニア国物語の第一作、ライオンを魔女の本籍証。子どもがおかあさんからもらった本を預けているナルニア国物語の第一作、ライオンを魔女の本籍証。子どもがおかあさんからもらった本を預けている

利用開始時、会員になりたい人は自分の本を持ってきて図書室に預ける。会員は預けた冊数だけの本を1カ月借りられ、利用には最初に500円、その後1冊借りる度に100円がかかる。本を預ける期間は本人が選択でき、1年以上から。オープンから2年、会員は130人を超し、預かっている本はそろそろ400冊ほどになるそうだ。

面白いのは本を預ける際に貼られる2枚の紙。1枚は本籍証と呼ばれ、預けた人が書く。人によって内容は異なるが、その人にとってのその本の意味や思い入れ、感想、お勧めポイントなどが書かれており、読む人は誰かの思いと共にその本を手にすることになる。

また、読んだ人のためには旅の記録なるもう1枚の紙が用意されている。感想などを書きこめるもので、預け入れた期間が終わり、本の旅が終わって手元に戻って来る時には1冊の本に持ち主、読んだ人たちの感想が書き込まれていることになるわけだ。持ち主、読んだ人たちが見知らぬ同士だとしても、同じ本を読むという経験を通じてなんとなく繋がっているように感じる、そんな仕組みである。

その本が旅している状況を想像するのも楽しい。ひょっとしたら、道行く知らない人が自分の本を手にしているかもしれないと思うと、街行く人に、街に親近感を覚えるのではないかと思う。知らない人ばかりじゃないのかもしれない、そう思うだけで孤独、疎外感は薄れるのではないかとも思う。西国分寺は中央線、武蔵野線が交差する街で、移り住んで来る人も多い。そんな場所であれば、なおさらである。

本を通じて会話が広がる、人間関係が広がる場に

本棚の上には地域のイベントや集まりなどの案内のチラシなどが置かれていた本棚の上には地域のイベントや集まりなどの案内のチラシなどが置かれていた

2年前、共にシェアハウスに暮らしていた篠原夫妻がそこを出ざるを得なくなり、仕事先との関係から選んだのは互いに地縁のない街。しかし、多くの人が共用する街に開かれた場のある暮らしに馴染んでいた2人は「住まいは街に開かれているほうがいい」という考えから住まいの1階を西国図書室として開くことに。「図書室になったのは2人がたくさん本を持っていたため。それに1階は本棚しか置きようがない変形な空間でしたし」(篠原さん)。

開室後に国分寺の街起こしイベントに参加したことから地域につながりができ、今では西国分寺駅前にあるカフェ「クルミドコーヒー」、そして国分寺駅近くにあるパン屋「ラ・ブランジュリ キィニョン」にも西国図書室の本が置かれた分室が誕生。本室の開いていない曜日にも利用できるようになっている。また、本室では図書室の常連や地域の人たちが集まって今後の図書室のあり方などを考える会議なども開かれるようになり、人間関係が広がっている。

図書室と聞くと、みんなが無言で本に向かい合っている空間を想像するが、西国図書室では見知らぬ人とも会話が弾む。「本を読んでいるより、ボードゲームをしたり、おしゃべりしている時間が長いこともあるほど」だそうで、一度訪れれば、街に知り合いができる。誰ひとり知る人のいない街が、知り合いのいる街に変わるだけで生活は楽しくなるし、街が好きにもなる。西国図書室のような空間があちこちにあれば、初めての街での暮らしももっと楽しくスタートさせられるのになあと思う。

■記事に登場した場所の詳細はこちらから。
西国図書室
クルミドコーヒー
ラ・ブランジュリ キィニョン

2014年 04月20日 10時19分