多様化する高齢者の暮らし方。「サ高住」の役割は

一昔前まで、高齢者向けの住まいと言えばいわゆる「老人ホーム」が一般的だっただろう。しかし一言で高齢者と言っても、健康状態などは人それぞれ。高齢化が進む日本では、幅広い需要に応じた住まいが必要となった。
そうした中、2011年4月に「高齢者の居住の安全確保に関する法律」(高齢者住まい法)が改正される。高齢者が必要なサービスを受ける事ができる環境と、高齢者の住まいの安定的な確保を目指した法律となったのだ。
それにより誕生したのが「サービス付き高齢者向け住宅」(以下、サ高住)だ。老人ホームが介護施設であるのに対してサ高住は、見守りサービスや入居者の生活相談の機能を備えた「賃貸住宅」。つまり、自立と介護の間にいる高齢者向けの選択肢となる。介護や医療面も含めたサポートを行う老人ホームに対して、元気な人のサポートをするサ高住。サービス内容の違いはどのような点なのか。また、それを施す現場は、何を意識しているのだろうか。

全国250箇所以上の有料老人ホームやケア施設を展開する株式会社ベネッセスタイルケアが、2014年8月に同社としては初めてのサ高住を東京都府中市にオープンした。今回、完成したばかりの「リレ府中白糸台」現地を訪問し、ベネッセグループのサ高住のサービスについて取材してきた。

リレ府中白糸台の外観。駅からフラットな道で3分という立地も、魅力の一つリレ府中白糸台の外観。駅からフラットな道で3分という立地も、魅力の一つ

「普通に暮らしたい」入居者の思い

今回、お話を伺った株式会社ベネッセスタイルケアの宮地尚子氏は、これまで同社の介護付き老人ホームのお客様相談を主に担当してきた。ホームへの入居検討者とのやりとりの中ではやはり、「老人ホームはまだ早い」「できることは自分で続けていきたい」という声が多かったようだ。

パートナーを亡くし、ひとりになって感じる生活の不安。例えば握力が少し低下し瓶の蓋を開けにくくなったという不便さや、体力や記憶力の低下に対する微かな不安など、普通に暮らす分には問題無いけれど少しの不安があり、サポートがある方が望ましい…。そんな風に感じている高齢者が少なくないようだ。
また、逆の例もあるという。宮地氏がこれまで出会ったケースを聞いた。
「手術をして車椅子を使うようになったため、他社老人ホームに入居された方のお話です。周りのご入居者が次第に要介護の状態になっていく様子を見るのが辛くなったその方は、本当にリハビリに精を出し、なんと毎日終日お杖で外出されるようになったのです」
その方から入居相談を受けた時の言葉でとても印象的なものがあるという。「私は『普通の生活』がしたいんです。そのためにサ高住に入りたい」というものだ。朝起きて食事をし、服を選び、外出して帰ってくる。そんな「普通の事」が、年齢とともに叶わなくなってしまうのだという。「それを聞いた時、『普通の生活をサポートすることが、リレシリーズの役割なんだ』と思ったんです」と、宮地氏。

普通の生活、つまり、「その人がその人らしく生活する」事のサポートが、サ高住に求められるニーズということだろう。

地域とつながり、イキイキと暮らすための拠点「satomachi」

「リレ府中白糸台」は、京王線「多磨霊園」駅から徒歩3分の立地にあり、25.07m2、25.15m2の1Kと40.14m2の1LDKのタイプの計60戸からなる。
居室内は、引き戸や手すりを設けたバリアフリー設計。通常の賃貸住宅と変わらないシンプルなつくりで、プライバシーを守りながらもこれまで通りの生活ができる空間となっている。

1階には「satomachi(=さとまち)」と名付けられた共有スペースがあり、キッチンとダイニング、「satomachiホール」という多目的ホールが設けられている。ダイニングでは、提供される食事(有料)をとる他に、自室で作った食事を持ち込んで食べる事も可能。外から友だちを呼んでお茶をするなど、自由な使い方ができる。

ここの特長の1つに、この「satomachi」を拠点に地域や企業と連携して行う様々な取り組みがある。
「太極拳や英会話、手芸などの教室や、信用金庫などの企業とタイアップしたイベントを開催します。参加対象者は、入居者の方と地域にお住まいの方。ご好評で定員オーバーの回も出るほどです」(宮地さん)企業や多世代との交流拠点として、地域活性化の一助にもなりそうだ。地元の人が集うあたたかいコミュニティの様子を、このスペースの名前「satomachi=さとまち」が表しているということだろう。元気な入居者の方には地域にもっと出ていってほしい、長く続けていたお稽古事や趣味の活動を行う場所としても提供し、入居者がイキイキと過ごせるための場所にしたい、という運営側の思いが、こうした取り組みに表れている。
「どんなイベントを企画しようとか、旅行にも行きたいと考えています。そうしたイベントを楽しんで頂くことで、ご入居者さまが『来年も旅行に行かなきゃいけないから元気でいなきゃ!』と考えて、気持ちも元気になりますよね」と話す宮地氏自身が、入居者の方を思ってワクワクされている様子がとても印象的だった。

「satomachi」のダイニングスペース。食事の持ち込みも、お酒もOKだそう。</br>これから、入居者やそのお友達で賑わう様子が想像される「satomachi」のダイニングスペース。食事の持ち込みも、お酒もOKだそう。
これから、入居者やそのお友達で賑わう様子が想像される

お手伝いしたい気持ちをぐっと我慢、「背中で様子を伺う」距離感で

1階にあるアシストカウンターでは、フロントスタッフが生活相談の対応を行う。血圧計もここに用意されており、健康状態のチェックも可能だ1階にあるアシストカウンターでは、フロントスタッフが生活相談の対応を行う。血圧計もここに用意されており、健康状態のチェックも可能だ

老人ホームは既に多数展開し、そのノウハウも豊富なベネッセスタイルケアだが、サ高住は今回が初めて。ホームとは入居者のニーズが異なるため、当然求められるサービスもこれまでとは異なる。オープン前のスタッフ研修で”サービスマインド”、つまり”リレ府中白糸台で大切にしたいこと”について話し合ったそうだ。

「安心安全や笑顔の他に、『お客様をおもてなししたい』という言葉もスタッフから出てきました。しかし、ご入居者様は「お客様」扱いを望まれているだろうか、など白熱した議論になり、最終的に収まったのは『さりげなく・まごころ』。何でもやってさしあげるのではなく、敢えてお手伝いしない事が真心でもありますよね。背中でご入居者様の様子を伺うような、適度な距離感が大切です。…とはいえ、ついお手伝いしたくなってしまうので、みんな我慢して鍛えています」(宮地さん)
綿密なケアが必要な老人ホームとは対照的に、基本的に元気なサ高住の入居者。手伝うか見守るかのラインはサービスを提供する側にとって難しいところだろう。やってあげてしまう事はむしろ簡単、しかしそれでは却って入居者のためにならない…スタッフたちにはそんな葛藤があるという。

しかしもちろん、見守ることが全てではない。
24時間有人体制で、フロントや相談室での生活相談や1日1回の安否確認などのサービスを行う。また、何か少しでも異変があった場合は時系列に記録するなど、高齢者の体調の変化に適切に対応するため、入居者の状況把握は綿密に行うという。
「入居時にはお元気でも、その後認知症が進んでしまうという事もあるでしょう。その場合はご本人やご家族と『どうすれば安心して暮らせるか』相談し、場合によっては老人ホームを選択肢としてご提案することもあります」(宮地氏)

「らしく」「輝いて」暮らすための選択肢として

株式会社ベネッセスタイルケアの宮地尚子さんは、「ご入居者様だけでなく、地域の方とのお喋りも楽しいんです」との事だが、そのパワフルさが周囲に元気を与えているに違いないと感じた株式会社ベネッセスタイルケアの宮地尚子さんは、「ご入居者様だけでなく、地域の方とのお喋りも楽しいんです」との事だが、そのパワフルさが周囲に元気を与えているに違いないと感じた

リレ府中白糸台の周辺には、ベネッセスタイルケアが運営する老人ホームや介護センターが複数存在する。入居から半年経過後は、近隣の系列老人ホームの体験が無料でできるなどの特典も。入居は空室状況次第となるが、万が一介護が必要になった場合でも地域を変えずに同じ会社のサービスが受けられるというのは本人や家族にとっても安心で、ベネッセグループならではの特典と言えるだろう。

「サ高住は、『その人が今、どうしたいか』が大切なんです。もしかしたら終の棲家にはなれないかもしれない。でも、せっかく引っ越して来られるのだから、自宅にいる時よりも楽しくイキイキと暮らして頂きたいと考えています」自由に暮らせるうえに、プラスアルファの安心感。だからこそ、自分で決められる元気なうちにサ高住に住みたい、という声も多いのだとか。
「入居して頂いたら後悔させません、とお客様にお話しています」と笑う宮地氏からは、入居者にイキイキと輝いて暮らして欲しいという思いと同時に、長年住み慣れた自宅を離れる事で当然感じるであろう、入居者の不安や寂しさを気遣う気持ちも伝わってきた。

名前の「リレ(Li-Re)」には、「自由(Liberty)」、「安心(Relief)」を叶え、「人や地域とのつながり(リレーション)」を大切にしたいという思いが込められている。
高齢者が「より輝いて自分らしく暮らせる」場所としてのサ高住は、最近は各地に増えてきており、「元気な」シニア向け住まいが広まっている。「本当に困ってから」ではなく、元気なうちに老後の暮らし方を考えておくことで、年齢を重ねても自分らしく、いわゆる「第2の青春」を楽しむことができるのではないか。

2014年 10月16日 11時20分