今までの賃貸マンションの常識を覆すUR都市機構の「DIY物件」

賃貸に住むにあたって結ぶ契約書には、壁に釘を打たない、穴を開けない、勝手にクロスを張り替えないといった厳守すべき事項が記載されている。仮に勝手に内装に手を加えても退去時には、入居時と同様に部屋をなおす“原状回復”が契約によって義務づけられているケースが多い。
賃貸とは、自分のしたいように仕様を変更することができないもの、というのがこれまでの常識だった。だが、ここにきてその常識を覆す『DIYできる賃貸物件』なるものが登場した。

DIYとは「Do It Yourself!」の略で、専門業者に任せず自分たちの手で、室内の内装や仕様を自由に変更したり、修理したりすることをいう。海外では、自分達で家に手を入れることは一般的であったが、日本でこのDIYが注目されるようになったのはここ最近のこと。
賃貸物件でDIYをするとは、実際にどのようなことができるのか。どこまでできるの?何ができるの?難しくない?
そこで、自分らしく室内空間を変更できる『DIY対象団地』を提唱しているUR都市機構に、気になるアレコレを伺ってみた。

DIYで生まれ変わったカフェのようなキッチンスペースDIYで生まれ変わったカフェのようなキッチンスペース

DIY物件の入居を機に、つくる喜びを実感!

和室をおしゃれな洋室にDIY。個性的なクロスと家具がオリジナル性を際だたせている和室をおしゃれな洋室にDIY。個性的なクロスと家具がオリジナル性を際だたせている

「UR賃貸の関西エリアでは、建物の構造強度に関わる躯体以外なら、どんな内装変更もできる『DIY』と、変更内容に制限のある『Petit DIY』の2種類のDIY対象団地を扱っています」とおっしゃるのは、UR都市機構・千里エリア経営センター・団地マネージャーの西山直人さん。この2種類のDIYは、現在15ヶ所の団地で採用されているという。

DIYは、どんな変更も可能というが実際どのような内容なのか。
事前に申請し許可を得てからの作業になるが、住居内のクロスはもちろんフローリングやタイルといった床材の張り替え、壁面の棚設置、押入の形状変更、ふすまの材質変更、キッチン・浴室の設備取り替えなどが可能だという。

そこまで、内装変更できるのはいいが、一般的には内装会社が行う作業を、自分たちの手でできるものなのだろうか?
実際の入居者は、日曜大工好きの人や大工、物作りを主とするクリエイティブな職種の人が多いのではないかと勝手に思い込んでいた。でも実情はDIY物件の入居を機に、自分たちでつくる喜びに芽生えた方がほとんどで、今まで金槌やドライバーさえ使ったことのない人が大半だという。
フローリングやクロスなどの部材はホームセンターのDIYコーナーや通販、インテリアショップなどで簡単に手に入る。近年、DIYが注目されはじめその人気とともに、バリエーション豊かな商品アイテムが揃うようになり、より自分好みの部屋に近づけることができるようになっている。

気をつけたい、DIYの「失敗」「できること」「できないこと」

元は和室だった部屋が洋室に変身。押入(画面左)は、ちょっとした書斎にリメイク元は和室だった部屋が洋室に変身。押入(画面左)は、ちょっとした書斎にリメイク

DIYを行うにあたって、知らずに工事してしまうと失敗する可能性があるので、事前に確認しておくとよいことがある。

例えば、壁に棚をつくろうとする場合に注意したいのは、棚を付けたいと思う位置に下地補強がされているかどうかだ。下地補強がなされていない壁に棚を付けてしまうと、置いた物の重さに絶えられず棚が落下するおそれがある。
和室を洋室に変更する場合、畳の上にそのままフローリングを貼るのだが、湿気などが気になる場合は防止策として防湿不陸調整シートを、畳とフローリングの間に敷くといいかもしれない。
基本的には専門業者を使わないことが前提にあるDIYだが、キッチンや浴室の取り替えなどについては電気や水道工事が必要になり、専門業者でなければ対応してはいけない作業があり当然ながら、自分たちで工事はできない。

あとは、作業をする時間帯だ。近隣の方々の迷惑にならない時間帯に作業をしよう。仕事から帰宅した夜の遅い時間に、トントン音がすると苦情になるので気を付けたい。ちなみに、UR賃貸ではこれらの注意事項を「DIYの手引き」で説明しているので、相談時に確認しておこう。

気になるDIYの費用。実際は10万円程度がボリュームゾーン

押入の仕様に手を加えて、オープン収納に。押入の仕様に手を加えて、オープン収納に。

DIYのモデルルームを見学し現実の室内空間を体感したお客様からは「ここまでやってもいいんですね」という喜びの感想を聞くことが多いという。家族の思いのままに室内を変更できるのは、オリジナルの部屋をつくりたい人や住まいにこだわりのある人にとっては願ってもない物件だ。

そこで気になるのはDIYにかかる費用。UR賃貸がDIY物件の入居者を対象に、実際にかかった費用などをアンケート調査している。入居者がどこまで内装を変更するかによるので、一概には言えない部分もあるがアンケートの結果では、5万円〜30万円程であり、実際は10万円程度がボリュームゾーンだという。思ったより手の届く現実的な予算ではないだろうか。

入居者からは「次はここをDIYするので、完成したら見に来てくださいね」や「家に対する愛着が湧きました」、「楽しみながら住めるので、これからもずっと住みたいです」といった声があがっている。
生活をする中で不便を感じれば、我慢をせず自分でDIYでき、それが住みやすさに繋がっているのではないか、と西山さんは言う。

団地高齢化にストップをかける、UR賃貸の狙い

そもそも、UR賃貸がDIY物件を採用したきっかけは何だったのか。昨今、一戸建ての空屋や賃貸などの空室増加が話題になっている。やはりその対策がメインなのだろうか。よくよく聞いてみると、狙いは少し違うようだ。もちろん、空室改善や部屋に愛着を持つことで長く住んでもらえるというメリットもあるが一番解消したいことは、団地の高齢化だという。

DIYの入居者は20代〜50代と幅広く、単身者やディンクス、ファミリーと様々な生活スタイルの世代に受け入れられている。
中でも、DIY物件は小さなお子さんがいる30代のファミリー層に人気だとか。確かに子どもと一緒に、部屋をつくるということは他ではなかなかできないこと。家族で一緒に考え共に汗を流し、自分たちの生活空間をつくることで物を大切にする心も育ちそうである。
また、団地は郊外に多く緑豊かで敷地内の棟配置にもゆとりがあり、子育て世代に喜ばれる要素が多いことも魅力の一つ。
UR都市機構は、こういった特長を活かし、若い世代を団地に呼び込むことで団地の高齢化に歯止めをかけたい考えだ。

小さな子どもと高齢者のふれあいを通じて、各年代の交流がどこまで団地の活性化につながるのか、今後の動向に注目したい。


取材協力:UR都市機構 UR賃貸住宅 関西エリア「DIY」
http://www.ur-net.go.jp/kansai/diy_house/

2013年 11月07日 10時08分