年をとったらどこでどう暮らすか、誰しも悩むところだが、そのうちでも問題が切実なのは単身者。その選択肢のひとつとして高齢女性が集まって住むコーポラティブ住宅の建設計画が進んでいる。自由に設計できる部分もあり、建設時に一時金を拠出する必要があるが、賃貸ながら終身居住できるという。
相続した土地に高齢単身女性のためのコ・ハウジングを建設
現在、計画が進んでいる高齢単身女性を対象としたコーポラティブ新築賃貸住宅「チェリーコモン」は親から土地を相続した中島明子さんの構想から始まった。中島さんは京都大学大学院工学研究科で博士(工学)を取得し、長年和洋女子大学で教授を務めた方で、現在は和洋女子大学名誉教授。家政福祉学や居住学を専門分野とし、超高齢社会の居住政策と女性やホームレスなど社会的弱者の居住支援について研究・実践を行ってきた。
取材当日頂いた名刺には「NPOすみださわやかネット」理事長という肩書もあった。この団体は墨田区で安心して暮らせる地域社会の実現を目指して活動する団体で、医療、福祉、住まいに関する相談や居場所作りなどをしている。つまり、中島さんはこれまでの仕事を通じた活動を相続した土地で実践しようとしているわけである。
ただ、最初から高齢単身女性向けの賃貸コーポラティブ住宅を新築しようとしていたわけではない。既存建物をどうするか、誰のためのどんな使い方をする建物とするかなど何年かの模索を経て、最終的にたどり着いたのは、北欧とくにデンマークで増加しているというコ・ハウジングという暮らし方。
これはプライバシー空間が確保された各人の専有部分に加え、キッチンやダイニングなどの共用スペースを備えた住宅のことで、一般的な集合住宅よりも建物内や近隣などの周囲との関係が生まれやすい。高齢者の孤立は日本だけでなく、世界でも課題となっており、北欧のデンマークでは、高齢期の社会保障が進み基本的には子が親の面倒をみる必要はないものの、やはり、高齢期の孤立・孤独の問題はある。そこで問題意識を持つ人たちが集まって暮らし始め、現在は国中に広がっているのだという。
それが実現できる建物をどう作るかを考えるところで知り合ったのがNPO法人都市住宅とまちづくり研究会(以下としまち研)。としまち研は2000年に都心の過疎化を憂えるまちづくりグループを母体として誕生。以来、安全で快適、かつ個性ある都市住宅の供給と、暮らしやすい地域コミュニティの構築と再生をめざす活動を続けてきている。具体的には共同建替え、コーポラティブハウスやシェアハウスの事業企画、運営、マンション再生などを手掛けている。
中島さんが目指す孤立や孤独を感じない暮らしを可能にする住まいをどう作るか。話し合っているうちにとしまち研が得意とするコーポラティブというやり方をベースとして選択、コ・ハウジングのような暮らし方ができる住まいを目指すことになった。
東京都、国の助成金と事業協力金、借入で住宅を新築
非常に簡単に説明すると、コーポラティブ住宅とは家が欲しい人たちが集まって自分たちで家を建てるというもの。始まりは18世紀後半のイギリス。劣悪な住宅事情を解消するために労働者が掛け金を積み立てて協同組合方式で住宅を建設したことだったという。日本では地価上昇が著しく、都市部での住宅購入が困難だった高度経済成長期に、みんなで土地を買ってそこに自分たちで家を建てればより原価に近い金額で住宅を取得できるのではないかという発想からスタートした。
その後の紆余曲折を経て、現在では一口にコーポラティブ住宅といってもさまざまなやり方があるが、重要なのは自分たちでお金と意見を出しあって主体的に家づくりに関わって建てるということ。その関わりが完成後は人間関係として続く。住み始めた時点で人間関係がある住まいであれば、中島さんがお手本とするコ・ハウジングに限りなく近いのではないかというわけだ。
やり方はコーポラティブと決まったが、次の課題は資金。その頃、偶然、としまち研に東京都の担当者から連絡があり、東京都の「高齢者いきいき住宅先導事業」の助成金に応募することになった。だが、それだけでは足りない。
「資金についてとしまち研が調べてくれたところ、国の『人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業』を利用できるのではないかということが分かりました。初年度、国の制度と併用できなかった都の制度が併用できるようになったというのです。そこで2つの制度に応募、幸いにして2つの助成金を受けられることになりました」と中島さん。
これによって事業計画は大きく進展した。2つの助成金に加え、入居する各人に一人1000万円の事業協力金を出してもらえば建設は可能になる。ただ、その分、対象者は限られることになった。
「本当は住宅困窮者を対象にしたかったのですが、2つの助成金と私が借り入れるお金で住宅を建てるには資金が足りない。そこで対象は建設にあたって事業協力金を用意いただける高齢単身女性ということになりました。
私の周りにも高齢単身女性である程度の財産はあるものの孤立している、孤立するのが怖いという人が少なからずおり、そこで助成金審査時には当面は高齢単身女性を対象にすると説明しました。ただ、いずれは高齢男性単身者用や男女ミックス、あるいは若い人々の住まいになる可能性もありますが」と中島さん。
借金を抱えて80歳からの新規事業には反対も多数
住宅建設までのめどはついたが、事業開始までにはもうひとつ、大きなハードルがあった。家族や友人その他、この計画を話したすべての人に反対されてしまったのである。助成に加え、借入もして始める。しかも、これまでにない事業である。失敗したらどうするのか。多くの人が懸念した。
事業内容だけでなく、中島さんの年齢も反対の要因だった。
「私は今80歳。だから、このプロジェクトはある意味、期限付きでスタートすることになります。私亡き後にこの事業をどうするか。相続人がちゃんと引き継いでくれるか。そこで家族と腹を割って話すことにしました。としまち研に来てもらってリアルで、家族だけでオンラインで、リスクも含めて徹底的に話をし、そこで私自身もこれでやっていけると思うに至りました。最初は5人定員で4人の申込みがなかったら止めようと思っていましたが、今は3人集まるなら設計変更など次の手を考えて続けていこうと思っています」
個人的には80歳にしてこのチャレンジを考え、実行しようという中島さんに感銘を受けた。高齢だからできないと思うのでなく、できる時にできることをする。施設そのものが高齢者を応援するものであるのはもちろんだが、中島さんの姿勢そのものが多くの人を勇気づけるのではないかと思う。
建設方法、資金計画、そして家族、友人の反対を乗り越え、入居者募集が始まったのは2026年3月から。一般的な賃貸住宅とは全く違う仕組みであるため、仕組みからきちんと説明しようと現地近くで説明会を開催、その後で現地を見学するというやり方を取った。
最初のうちは事業の新奇性が目を惹いたからか、実際に住みたいという人よりも、高齢者居住に関心のある人や、今後の住まいづくりのヒントにしたいという人が多かったそうだが、「その後、地元に情報を流すことで実際に住みたいという人が集まるようになりました」ととしまち研理事長の関真弓さん。
「新聞折込チラシを配布、地元の自治会に情報を流してもらうなどしたところ、周辺地域で一人暮らしをしている高齢単身女性が参加してくださるようになりました。現地のある練馬区桜台周辺の住宅地は昭和30~40年代に宅地化されており、世代交代の時期。今回の住宅が対象としている60歳以上の単身女性も多いのではないかと考えています」
今後、一定の募集期間後に申込みを受け付け、入居者が決まっていく予定で、2026年8月には建物が着工、2027年春の竣工、入居開始を予定している。同時に安全に暮らす仕組みづくりも進んでいく予定だ。
みんなの庭、みんなの部屋があるバリアフリーの1LDK が5戸
続いて、どんな家が建てられる予定かを見ていこう。設計・監理は有限会社アルテ建築計画が担当、説明会では同社の山崎裕之さんがオンラインでどんな住宅になるのかを説明した。
立地するのは練馬区桜台6丁目。最寄り駅は東京メトロ有楽町線氷川台駅で駅からは歩いて7分ほど。駅と建設予定地までの間にはスーパーや飲食店、ドラッグストアなどが並び、生活に必要なものの大半は駅周辺で揃う。
また、駅との間には桜並木がきれいな石神井川が流れており、予定地近くには高稲荷公園も。「静かで住みやすい場所で、両親はこの土地をこよなく愛していました」と中島さん。
建物は木造2階建て。1階に2戸、2階に3戸の住宅になる予定で、特徴は1階の2住戸の間にみんなの庭、みんなの部屋が設けられること。コモンスペースである。
そこでは居住者と共に地域の人々を巻き込んで、食事会や子ども食堂、料理教室、ピアノの演奏等、居住者の方々が相談してさまざまな活動が可能となる。庭についてはウッドデッキ、バーベキュースペースが予定されており、季節の良い時期には庭でランチをという楽しみ方もできそうである。
みんなの部屋は30m2ほど。居住者、ご近所さんなどと食卓を囲めるようにキッチンが用意されており、トイレも設置されている。もうひとつ、この部屋のポイントは茶室として使えると同時に、子どもたちや友人が遊びに来た時などを想定、来客が宿泊できるように和室が作られていること。これなら離れて暮らす家族も安心だろう。この場所は居住者のみならず、近隣の人との集まりなどに使うことも想定されている。
間取りはLDKと独立した寝室という組み合わせで、室内に関しては完全に自由というわけではないものの、自分の好みに合わせて設計を変更してもらうこともタイミングによっては可能。住む人が参加して建設するコーポラティブならではである。
終身建物賃貸借契約、任意後見制度などの利用を検討
高齢になってからの住まいには建物そのものに加えて、安全、安心に暮らしていくため、それができなくなった時の備えなども必要だろう。そこでチェリーコモンではその解としていくつかの仕組みの導入を検討している。
ひとつが認可申請を準備中の終身建物賃貸借契約。これは「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(高齢者住まい法 2001年制定)に基づく特別な借家契約制度で、借家人が生きている限りは契約は存続。死亡時に終了する、相続のない一代限りの借家契約で、この制度を利用するためにはバリアフリー基準を満たした住宅であること、入居者が60歳以上の単身または同居するのが高齢者親族であることなどの要件がある。また、都道府県知事等の認可を受けた事業者でなければこの制度による契約を結ぶことができない。
この制度下で成立した契約であれば家主からの解約は住宅の老朽化、入居者の債務不履行等の限定された要件下でしかできず、入居者は安心して住み続けることができる。家主にとっては入居者の死亡で契約が終了するため、相続人を探して契約を終了させるなどの作業が不要になる。
ただ、この制度を利用した場合には身寄りのない入居者が亡くなった後の片づけをどうするかという問題が出てくる。それに対してチェリーコモンでは身寄りのない人には入居時に「死後事務委任契約」を結んでおくことを推奨している。この契約を結んでおけば葬儀・納骨の手配や居室の荷物の整理などを司法書士等の専門家に託すことができるからだ。こうした法的な支援のため、チェリーコモンでは司法書士法人大城節子事務所とあらかじめ提携。必要がある人はいつでも相談に乗ってもらえる体制を用意している。
ふたつ目が判断能力が低下した場合に備えて「任意後見制度」を利用することを推奨している。任意後見制度とは将来判断能力が低下した際に備えて元気な時に、自分に代わって判断をしてくれる支援者を自分で選び、委託しておくというもの。これについても前述の司法書士法人が個別に相談に乗ってくれる。
任意後見制度、死後事務委任などを想定すると、もうひとつ、入居者が考えておいたほうがよいのではないかと思われるのが遺言書の作成。これについては説明会時に配布された、過去に出た質問への回答をまとめた書類に記載されていたのだが、身寄りのない方はもちろん、家族がいるとしても自分で財産の行き先を決めたい、相続でのトラブルを防ぎたいなどの場合には必要なのではないかと思われる。
それ以外にチェリーコモンでは入居者自身が運営に関わる居住者デモクラシーを安心を支える3つ目の仕組みとして挙げている。コーポラティブという住まいの作り方のところでも触れたが、ここで中島さんが想定しているのは消費者として住むのではなく、主体的に関わりながら住むということだろう。
消費者になるのは楽ちんだが、それは同時に人生の手応えを手放すことでもある。せっかく、会話できる隣人、ご近所さんのいる住まいを選ぶなら、それを楽しんだほうがよいと思う。
最後に気になるお金の話。事業協力金は1000万円、家賃は13万円、管理費は3万円となっており、退去時には事業協力金の一部は返還される。このあたりの話は説明会などできちんと聞くべき内容だろう。この金額をどう思うかはその人次第だが、家賃、管理費も含め、高齢者施設に入ることと比較して考える人が多いと聞いた。
以上、日本では初めてかもしれない、高齢単身女性を対象にした新築賃貸コーポラティブ住宅「チェリーコモン」を紹介した。これからの暮らしを考えている人は参考にしていただきたいものである。

















