新型コロナウイルス感染症対策で生活習慣が変化し、不眠に?

新型コロナウイルス感染症の影響で、これまでの日常が変化。「眠れない」という声も上がっている新型コロナウイルス感染症の影響で、これまでの日常が変化。「眠れない」という声も上がっている

世界で猛威をふるう新型コロナウイルス感染症。日本でも感染拡大防止のため不要不急の外出自粛が呼びかけられている。学校の休校、テレワークなどで在宅時間が長くなり、生活がガラリと変わってしまったという人も多いのではないだろうか。

そんななか、江戸川大学の睡眠研究所は「(新型コロナウイルス感染症対策に伴う)外出自粛中によい睡眠を確保するための5つのヒント」を2020年4月9日に公開。ストレスの増加や生活の変化で乱れやすくなるという睡眠習慣に対し、よい睡眠を維持するために科学的根拠に基づいたヒントを提供している。

今回、睡眠研究所の研究員で、江戸川大学社会学部人間心理学科准教授の山本隆一郎さんに話を伺うことができた。

「睡眠は、単に日中にたまった頭や身体の疲れを回復させるだけではなく、免疫や内分泌を整えたり、心を安定させる積極的な機能を持つことが非常に多くの研究から報告されています。よい睡眠を確保することは、人々が健康的に過ごすための基盤でもあります」と山本さん。

「江戸川大学睡眠研究所は、『眠りの不思議を解き明かし、眠りを通して社会に貢献する』ことを目的に掲げています。新型コロナウイルス感染症の流行という、睡眠が乱されやすい状況下において、何かできることはないかと考えていました。

3月25日に東京都の外出自粛要請があったことから、“日本の状況を踏まえて”“実証的な研究の蓄積のある確実な”“年代や置かれている環境の個別性に左右されない”“誰もが取組むことが難しくない”“具体的でミニマムな”情報を、できる限り早く多くの方にお伝えしたいと思い、5つのヒントの作成に至りました」

そんな思いから、日本で緊急事態宣言が発令された4月7日の翌々日には公開することができたそうだ。同「5つのヒント」は、公開後に学識経験豊富な睡眠研究者にも確認してもらい、趣旨・内容に賛同する研究者は50人近くにのぼる。

「外出自粛中によい睡眠を確保するための5つのヒント」

朝は日光を浴び、身体を目覚めさせよう朝は日光を浴び、身体を目覚めさせよう

①毎日、普段通りの時間に起きて日光を取り入れましょう
②長い時間の昼寝をしないようにしましょう
③布団は夜に眠る時にのみ使用しましょう
④お昼と夜のメリハリをつけましょう
⑤1日・2日眠れないことがあっても気にしない


この「5つのヒント」は、広く知ってもらうために1枚ものの掲示可能なポスター資料が作製されている。「フォントをユニバーサルデザインにしたり、WHOの啓発資料を参考に青を基調に対照色を使って目立たせたり、ピクトグラムのみでも参考になるようになど、工夫をしました」とのこと。

当サイトでもポスター資料を掲載したいところだが、「この資料を安心してご活用いただくために」と、一つ一つのヒントの背景にある科学的な根拠や目的、意図、利用の仕方などについて説明資料も作られている。併せてより理解を深めるため、ぜひ下記のホームページにアクセスしてほしい。

https://www.edogawa-u.ac.jp/facility/sleep/sleeptips.html

眠りを誘う身体のリズムを大切にする

江戸川大学睡眠研究所・山本隆一郎准教授。臨床心理学(認知行動療法)・睡眠行動医学・睡眠公衆衛生学を専門分野とする
https://www1.edogawa-u.ac.jp/~yamamoto/index.html
江戸川大学睡眠研究所・山本隆一郎准教授。臨床心理学(認知行動療法)・睡眠行動医学・睡眠公衆衛生学を専門分野とする https://www1.edogawa-u.ac.jp/~yamamoto/index.html

ここでは「5つのヒント」のポイントとなることを紹介したい。

「ヒントのなかで特筆すべき点としては、『1日・2日眠れないことがあっても気にしない』という点と、起床の一貫化は強調しているけれども就寝時刻については敢えて言及していないという点です。

人間は生活を工夫して、努力をして“寝る(go to bed)”を習慣づけようとすることはできますが、1日を通した眠る(sleep)のための身体の準備なくして夜に努力して眠る(sleep)ことはできません。

寝床に入って“眠ろう”と努力すると、かえって覚醒が高まり、苦しい夜を過ごすことになります。外出自粛に伴い、職場や学校と家庭の境界線があいまいになるなかで、睡眠のリズムは乱れやすいですし、ストレスを抱えていると寝床に覚醒を持ち込んでしまい、眠れなくなることは自然なことなのです」と山本さん。

通勤、通学の時間がなくなったことで、起床時間がこれまでより遅くなってはいないだろうか。特に若い世代ほどリズムが遅れがちになるそうだ。すると、日中の活動性が落ち、生活にメリハリがなくなって、「夜に眠りが訪れる身体の準備ができなくなる」ことに。そして日中に眠く、夜に眠れなくなるという悪循環に陥るのだ。

「悪循環にならないためには、朝しっかり起きる、昼寝をしないようにする、と努力や工夫で取組めるところに着目することが重要です。就寝から工夫しようとしてしまうと、かえって不眠になってしまいます。起床を普段通りにし、昼寝するといった不眠や睡眠不足を補う行動を行わないことが、結果として“よい睡眠”を確保することにつながります」

“眠らなければ”と思っても、かえって眠れなくなることがある。それは不安やストレスに対する正常な反応だという。不眠を長引かせないために無理をせず、朝はしっかり起きるようにする。そうすれば、おのずと夜に眠れるリズムが戻ってくるそうだ。

不眠がもたらす不調とは? 感染症対策にも大切な睡眠

最初の項で「よい睡眠を確保することは、人々が健康的に過ごすための基盤でもあります」との言葉を記したが、よい睡眠がとれないことがもたらす身体の不調についてあらためて聞いてみた。

「よい睡眠がとれないと心身のさまざまな不調につながります。身体的な側面ですと、睡眠習慣の乱れや睡眠不足は糖や脂質の代謝問題につながり、生活習慣病のリスクが高まりやすく、肥満にもなりやすい。生活習慣病や肥満は、睡眠に悪影響を与えることも分かっており、悪循環にもなりやすいのです。

また、睡眠不足の状態があるとインフルエンザの予防接種後の抗体価が低くなったり(抗体の数や機能の総合的なパワーが下がる)、風邪をひきやすくなることも報告されています。

さらに睡眠中は脳の老廃物を洗い流すことが行われていますが、不眠や睡眠不足が続くと老廃物(アミロイドβなど)の沈着が起こり、認知症のリスクが高まるとされます。

一方、こころの面では、睡眠不足や不眠の状態があるとイライラしやすくなることは、素朴にもみなさん経験されていることではないでしょうか。不安感受性が強くなって不安になりやすくなったり、うつ病の発症リスクが高くなるということが知られています。子どもの場合は、脳機能の発達にも影響するとされています」

睡眠に関するさまざまな研究結果は、報道などでもよく目にする。しかし、睡眠習慣の乱れや睡眠不足がこれほどに多くの不調となって現われるとあらためて聞くと、その大切さがよく分かる。感染症予防対策として十分な睡眠が呼びかけられているのも、山本さんが教えてくださった理由が関わっているのだ。

よい眠りのための住空間を整える

睡眠については間違った情報もたくさん出回っているそうだ。例えば、平日に睡眠時間がとない場合は、週末にたくさん眠るといい、などだ。これは逆にリズムを乱してしまう。

「よい睡眠の大事な側面として、規則性があります。人間の脳には睡眠覚醒リズムをつかさどる体内時計があります。この体内時計が身体の内分泌や代謝などの24時間周期を作っていて、朝起きて夜眠るというリズムが生まれます。

この24時間の周期は、外の世界のさまざまな周期と同調して、その時刻を調整しています。こうした時間を調整することに関わる因子を“同調因子”といいますが、光は最も強力な同調因子です。日が昇り、沈むという光の情報が入ってくることによって体内時計は調整されています。いまのような自粛期間で部屋にいる時間が長くなると、外の光周期情報を採り入れることが難しくなります」

そのことから、朝の光を浴びることで、夜になると眠けが早くくるそうだ。ところが、日本の住宅の照明は明るく、波長の短いものが多い。それは太陽光にも含まれる青色光(ブルーライト)だ。

「体内時計は波長が380~500ナノメートルの青色光に影響を受けることが知られています。日本の一般的な家庭で使用される昼白色や昼光色の照明は、照度が高く(明るく)、波長が短い(青白い)です。このような光環境下で夜を過ごすと、体内時計が遅れたり、眠気に関連するホルモンの分泌が抑制されてしまうのです。逆に、朝に照度の高い波長の短い光=太陽光を目から取り入れると、体内時計が前進し、夜早く眠りが訪れるとされます。ただし、太陽を直接見ることは危険です。朝は部屋に太陽光を取り込み、日当たりのいい場所で過ごすのがよいでしょう」

これは「5つのヒント」の①や④に当てはまること。夜になったら間接照明を利用し、目から光を取り込むことを抑えるのもよいという。

また住空間ではもうひとつ、「5つのヒント」の③に関連することとして、「活動する場所と睡眠をとる場所をはっきりと区別することが重要です」と山本さん。

ベッドの上で読書やパソコンなどの作業をすることもあるかもしれないが、「布団と眠ることの結びつき」のためには避けたほうがいいそうだ。一人暮らしで寝室と生活の場所を分けることができないこともあるが、部屋の中で仕事をする場所、くつろぐ場所、眠る場所と分けることが“よい睡眠”につながるので、ぜひ工夫をしてみてほしい。

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江戸川大学睡眠研究所のホームページには、自身の睡眠パターンを知ることができる「すいみんチェックシート」も掲載されている。可視化してみると自身で理解できることもあるだろう。

新型コロナウイルス感染症の影響がいつまで続くか分からない不安もあるが、生活や自分の身体に不調が出ないよう、よい睡眠をとることを心がけていきたい。

取材協力:江戸川大学 睡眠研究所 https://www.edogawa-u.ac.jp/facility/sleep/

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2020年 05月14日 11時05分