世界でも有数のタイル研究博物館

愛知県常滑市にあるINAXライブミュージアム。前回の記事では、国登録有形文化財になっている「窯のある広場・資料館」のリニューアルについてお伝えした(※記事「INAXライブミュージアム『窯のある広場・資料館』。3年にわたる保全工事を終え、建物の魅力とものづくりの魂を後世へ継ぐ」参照)。今回は、その取材後に株式会社LIXILのINAXライブミュージアム広報・竹内綾さんに案内していただいた、その他の施設についてご紹介したい。

「世界のタイル博物館」は、世界でも有数の装飾タイルに特化した研究博物館。タイル研究家であった故・山本正之さんから1991(平成3)年に約6,000点ものタイルの寄贈をされた常滑市が、LIXILの前身であるINAXに管理・公開の委託をしたことをきっかけに、1997(平成9)年に開館した。

1階の常設展は「装飾する魂」をテーマに、エジプト、イギリスなどの装飾タイル空間を時代ごとに再現している。入り口は、イスラームの鮮やかなペルシアンブルーのタイルと、床にイギリスの象嵌タイルの復元品を使ったエントランスアーチ。「5,000年以上あるタイルの歴史のなかで、イスラームではモスクなどの建築物に多く使われていました。また、イギリスは中世から教会の床などにタイルが使われ、19世紀に近代的な製法を発明して象嵌タイルを製造しました。イギリスもまたタイルの発展に大きな役割を担っているんです」と竹内さん。

左/「世界のタイル博物館」。隣接する「窯のある広場・資料館」の煙突が映るように設計された。右/「世界のタイル博物館」で1階常設展の入り口を飾るエントランスアーチ左/「世界のタイル博物館」。隣接する「窯のある広場・資料館」の煙突が映るように設計された。右/「世界のタイル博物館」で1階常設展の入り口を飾るエントランスアーチ

人々を魅了してきた美しいタイルの歴史

美しい青が印象的なアーチを抜けると、装飾壁の原点とされるクレイペグで造られた壁がある。“粘土の釘”を意味するクレイペグは、円錐状のやきものになっている。紀元前3,500年頃のメソポタミア地域ウルクで使われていたといわれ、先端に色を付けたクレイペグを積み上げるとドットの模様ができる。円錐状のため丸みのある場所にも対応できるのが特徴だ。ここでは、約5万本のクレイペグのうち、3,500本をワークショップで子どもたちが作った。波や風といった自然現象を表現したといわれるデザインを再現している。

そこから、世界最古のタイルといわれるエジプト・ピラミッドの地下にあったタイル、イスラーム建築のドーム天井へ。そして、それまで神様や王様といった特別な人のための建物に使われていたのが、一般家庭に浸透していった17世紀のオランダの部屋の再現へとつながり、19世紀の産業革命後にタイルが大量生産されるようになったイギリスのパブを再現した空間、最後にLIXILが作るモザイクタイルを使って日本の四季を描いたモザイクタイルアートとなる。

5,500年前から現代まで、建物を美しく装飾してきたタイルの世界がひと目で分かる展示となっていた。2階では、山本さんのコレクションとLIXILのコレクションから選りすぐった約1,000点の実物タイルを展示。オリエント、イスラーム、スペイン、オランダ、イギリス、中国、日本と地域別にコーナーを設けている。

「文化がいろんなところで伝わって、広がったり、またそこで発展したり。タイルの歴史を通して、そういったつながりが見えてくるのが面白いですね」という竹内さんの言葉の通り、タイルというやきものが文化を発展させる一つにもなり、交流や輸入などで世界の地域をつなぎ、私たちの生活を彩るようになってきたことを知ることができる。

タイルは確かに人々を魅了してきた。そして何千年も前から始まった発展により、現代の建築物や住空間がより豊かなものになっているのだ。

①装飾壁の原点になったとされるクレイペグ。先端に色を付け、幾何学模様を作り出す②世界最古のタイルが使われたピラミッドの地下空間を再現。生命の色とされるブルーのタイルが使われ、王の再生や復活を願ったのではないかと言われているという。「世界のタイル博物館」の2階では、この世界最古といわれるタイルの実物を展示③イスラームのタイル張りドーム天井。日の光をイメージした中央の照明で、朝~夜までのタイルの見え方の変化を体験できる④タイルが一般家庭にも普及した17世紀のオランダの部屋の暖炉。中国の染付の美しさに魅せられ、ブルー&ホワイトのタイルが広まったという。壁の下の装飾にも使われており、オランダの有名な画家・フェルメールの「牛乳を注ぐ女」の絵でも描かれているそうで、この空間でも紹介されているのでぜひご確認を⑤19世紀のイギリスのパブを再現。ビクトリアンタイルといい、深みのある濃い色と艶が特徴⑥日本の四季を表現したモザイクタイルアート①装飾壁の原点になったとされるクレイペグ。先端に色を付け、幾何学模様を作り出す②世界最古のタイルが使われたピラミッドの地下空間を再現。生命の色とされるブルーのタイルが使われ、王の再生や復活を願ったのではないかと言われているという。「世界のタイル博物館」の2階では、この世界最古といわれるタイルの実物を展示③イスラームのタイル張りドーム天井。日の光をイメージした中央の照明で、朝~夜までのタイルの見え方の変化を体験できる④タイルが一般家庭にも普及した17世紀のオランダの部屋の暖炉。中国の染付の美しさに魅せられ、ブルー&ホワイトのタイルが広まったという。壁の下の装飾にも使われており、オランダの有名な画家・フェルメールの「牛乳を注ぐ女」の絵でも描かれているそうで、この空間でも紹介されているのでぜひご確認を⑤19世紀のイギリスのパブを再現。ビクトリアンタイルといい、深みのある濃い色と艶が特徴⑥日本の四季を表現したモザイクタイルアート

近代日本の建築で使われたテラコッタ

INAXライブミュージアムにある6つの施設のなかで、2012(平成24)年に完成した「建築陶器のはじまり館」は最も新しい施設。大正から昭和初期の日本の建物を飾ったタイルやテラコッタを展示する。

入り口すぐの正面にあるのは、フランク・ロイド・ライトが設計した帝国ホテル旧本館のダイニングルームの柱。実は、帝国ホテルの建設と常滑のまちは関わりが深い。フランク・ロイド・ライトは、帝国ホテルの建設で黄色の煉瓦を希望したが、当時の日本で黄色いやきものを焼けるのは常滑の建築陶器職人・久田吉之助だけだった。依頼を受けた久田だったが、その時には病に侵され、片腕も失っていた状態。ホテルに必要な250万丁もの煉瓦を仕上げることはできなかった。

そこで帝国ホテルは常滑に直営の煉瓦製作所を造り、技術顧問として招かれたのがINAXの創業者である伊奈長三郎と、父親の伊奈初之烝だった。帝国ホテルに煉瓦を納品後、長三郎が製作所の設備の一部と従業員を引き継ぎ、伊奈製陶(のちのINAX)という会社を1924(大正13)年に設立。初之烝が行っていた土管製造に加え、テラコッタやタイルを生産していった。

また、建物の裏にある屋外広場「テラコッタパーク」では、横浜松坂屋本館など、近代日本の建築を飾ったテラコッタが展示されている。

「帝国ホテル旧本館の竣工式のまさにその日が、関東大震災が起こった1923(大正12)年9月1日でしたが、鉄筋コンクリート造の帝国ホテルは倒壊することなく、頑丈な建物であることでさらに評判があがりました。使われていたスクラッチタイル(細い溝の模様があるタイル)が東京、大阪など各地の建物で人気となりました。同時にテラコッタで建物の外壁を装飾する文化も流行したのですが、それは企業が震災から復興する気持ちを込めて、ビルの外壁を飾っていったからだそうです」

その後、テラコッタで装飾されたのは20年ほど。戦争に至る1930年代になると、こういった装飾は緊急材ではないと生産が縮小されていった。戦後には、モダンなデザインの建物が流行し、ここにあるような華やかなテラコッタは作られることがなくなってしまったそうだ。

左上/帝国ホテル旧本館のダイニングルームの柱。使われた黄色い煉瓦は常滑で作られたもので、INAXの創業者が関わった。左下/1909(明治42)年に竣工した京都府立図書館にあった、常滑の陶工・久田吉之助が手がけたテラコッタ。「やきものなので、焼くと変形が出ることもありますが、焼き上がった状態できれいな直線が出ていたり、表面がとてもなめらかに仕上がっていたりと、久田の技術の高さが表れています」と竹内さんは語る。帝国ホテルに使われた黄色い煉瓦は、常滑のある知多半島の内海という地域でとれる土を使い、久田が研究を重ねた技術も欠かせない要素だった。右上/テラコッタパーク。白いテラコッタは横浜松坂屋本館に飾られていたもので、伊奈製陶が手がけた(写真提供:INAXライブミュージアム)。右下/東京の大阪ビル一号館にあった、建築家・村野藤吾がデザインを手がけた鬼面のテラコッタ。同じ場所に建てられた日比谷ダイビルにも同じテラコッタが飾られている左上/帝国ホテル旧本館のダイニングルームの柱。使われた黄色い煉瓦は常滑で作られたもので、INAXの創業者が関わった。左下/1909(明治42)年に竣工した京都府立図書館にあった、常滑の陶工・久田吉之助が手がけたテラコッタ。「やきものなので、焼くと変形が出ることもありますが、焼き上がった状態できれいな直線が出ていたり、表面がとてもなめらかに仕上がっていたりと、久田の技術の高さが表れています」と竹内さんは語る。帝国ホテルに使われた黄色い煉瓦は、常滑のある知多半島の内海という地域でとれる土を使い、久田が研究を重ねた技術も欠かせない要素だった。右上/テラコッタパーク。白いテラコッタは横浜松坂屋本館に飾られていたもので、伊奈製陶が手がけた(写真提供:INAXライブミュージアム)。右下/東京の大阪ビル一号館にあった、建築家・村野藤吾がデザインを手がけた鬼面のテラコッタ。同じ場所に建てられた日比谷ダイビルにも同じテラコッタが飾られている

“土”の魅力に建物を含めて触れる「土・どろんこ館」

続いてご紹介するのは、「土・どろんこ館」。ここは、タイルをはじめとするやきものの原料であり、建築素材でもある土がテーマ。やきもの用の粘土を削って、丸め、化粧どろという素材を表面に塗って磨いて光らせていく“光るどろだんご”づくりなどの体験教室を開催している。

体験教室で土と触れ合うとともに、建物自体も土の魅力を感じられるものとなっており見応えがある。入り口に近いところにある、竹を編んだ網代のような壁は、世界的にも知られる左官職人の久住有生(なおき)さんが手がけた。鏝を使った手作業とは思えない直線のすばらしさ、塗り面のなめらかさは、ため息ものだ。

また、その先に進んだ階段横の壁は、ワークショップで地元の人々が作った日干し煉瓦を使用。久住さんなど一流職人の壁と対比するように設計されたそうだが、土が持つ味わい深さを感じられる。

外壁は、版築(はんちく)という技法でできている。古くは万里の長城の一部でも行われたというもの。1mくらいの木の枠に土を入れ、木の棒などで突き固め、それを層にして積み上げていくのが本来の方法だが、ここでは現代的な手法を取り入れて重機を用いたそうだ。

「自然の土と石灰を混ぜており、ひび割れが出てきてしまいますが、自然の土の強さがあるからこそです。こういった自然の趣、味わいを楽しんでください」

人の手によって多彩な表情を見せる土に出合うことができる。毎夏には、館の前の広場で「どろの遊園地」を開催。泥のプールが登場し、人気のあまり、抽選となっているそうだ。

①左官職人の久住有生さんが手がけた壁は、「常滑大壁」と名付けられている。天窓から入る光の反射を考慮しながら塗られ、光で美しく輝く。訪れた人が触れる場所は角が丸くなっているところがあるが、上の方は直角であることが分かり、弧を描いている形もすばらしい。縦に配置された棒状のものは、先の項でも紹介した黄色い煉瓦でも使われた内海の土を使って焼いた陶管②右側がワークショップで地元の人々が作った日干し煉瓦を使った壁③版築工法で作られた外壁④体験教室で作ることができる、光るどろだんご。子どもだけでなく大人も楽しめる。作品の出来を競う全国大会も毎年開催⑤トイレはLIXILのモザイクタイルを使って装飾①左官職人の久住有生さんが手がけた壁は、「常滑大壁」と名付けられている。天窓から入る光の反射を考慮しながら塗られ、光で美しく輝く。訪れた人が触れる場所は角が丸くなっているところがあるが、上の方は直角であることが分かり、弧を描いている形もすばらしい。縦に配置された棒状のものは、先の項でも紹介した黄色い煉瓦でも使われた内海の土を使って焼いた陶管②右側がワークショップで地元の人々が作った日干し煉瓦を使った壁③版築工法で作られた外壁④体験教室で作ることができる、光るどろだんご。子どもだけでなく大人も楽しめる。作品の出来を競う全国大会も毎年開催⑤トイレはLIXILのモザイクタイルを使って装飾

ものづくりを伝えるミュージアム

その他には、ものづくりの伝統や技術を製品などで紹介するとともに古いタイルや、やきものの復原、アーティストとのコラボレーションなどの活動拠点でもある「ものづくり工房」、タイルアートや絵付けを楽しむ体験教室を開催する「陶楽工房」がある。

INAXライブミュージアムの公式サイトでは、「土は水を得て形となり、火を通してやきものになります。土とやきものが織りなす多様な世界を、観て、触れて、感じて、学び、創りだす、体験・体感型ミュージアムです」とある。その名に“ライブ”と付けられている通り、生で体感、体験できることは心にとても響く。

ミュージアムにはフォトジェニックな場所がたくさんあると人気だそうだが、それはタイルやテラコッタなどの美しさからなるもの。土からできたやきものは、ものづくりを追求してきた人々の思いを乗せているので、温もりがある。住まいの彩りの参考に、ぜひ訪れてはいかがだろうか。

取材協力:INAXライブミュージアム https://www.livingculture.lixil/ilm/

「陶楽工房」では、LIXILのモザイクタイルを使うモザイクアート、タイル絵付けなどを有料で体験できる「陶楽工房」では、LIXILのモザイクタイルを使うモザイクアート、タイル絵付けなどを有料で体験できる

2020年 02月05日 11時05分