自転車部品の世界最大手企業が提唱する「散走(さんそう)」

皆さんは「散走(さんそう)」という言葉をご存じだろうか?
移動を目的とするのではなく、散歩感覚で道中に何かを見たり、何かに出会ったりすることを愉しむことを目的として自転車に乗ることいい、自転車部品の世界最大手企業(※1)である株式会社シマノが提唱する言葉である。

北海道では豊かな自然、幅の広い道路など、その特性や魅力を活かしたサイクルツーリズム(自転車観光)が盛んなのだが、十勝エリアにある芽室町では、2017年に「芽室町サイクルツーリズム協議会」を設立し、この「散走」を通して、芽室の食や景観といった魅力を発信している。

今回、芽室町サイクルツーリズム協議会の副会長を務め、芽室町の地域おこし協力隊でもある及川雅敦(おいかわまさのぶ)さんに話を聞いた。

※1 スポーツ自転車向け部品でシマノは85%程度の世界シェアを握る(SMBC日興證券試算)

こちらが今回お話を伺った及川さんこちらが今回お話を伺った及川さん

観光を主軸とし、電動アシスト自転車で

電動アシスト自転車の扱い方はガイドが丁寧に教えてくれる電動アシスト自転車の扱い方はガイドが丁寧に教えてくれる

北海道でのサイクルツーリズム、つまり「自転車を活用した観光」が各地で活発化している背景には、国が策定する北海道総合開発計画(2016年3月閣議決定)で「『世界水準の観光地』を目指し、サイクルツーリズム等の広域的な観光周遊ルートの形成を促進する」と掲げ、北海道開発局を中心として取り組んでいることが挙げられる。

この北海道のサイクルツーリズムというと、ロードバイクやクロスバイクに跨がり、ピッタリとしたライドウェアに身を包んで、広大な土地を活かした50km以上の長距離をサイクルルートとするケースが多い。だが、芽室町のサイクルツーリズムは少しそれとは異なる。

「芽室町サイクルツーリズムの大きな特徴は電動アシスト自転車を使用していることです。1回の散走距離も他に比べると少し短めのおよそ20km程度ではありますが、自転車を漕ぐだけで疲れてしまうということは避け、『散走』を楽しんでもらうことを一番に考えています」と話す及川さん。

スポーツというよりは観光としての側面をメインとし、芽室町の景色や人との触れ合い、食などを楽しんでもらうのが芽室流なのである。

一年中楽しめる芽室らしいサイクルツーリズムを

北海道の中でも作付面積や収穫量がトップクラスであり農業が盛んな芽室町。北海道を代表する小麦、馬鈴薯(ジャガイモ)、小豆、てん菜、スイートコーン(トウモロコシ)といった作物を生産している。及川さんは、これを活かさない手はないと、面白い取り組みも行っている。

「散走しながら農家さんと触れ合ったり、野菜の収穫体験なんかもできるようにツアーに組み込んでいます。参加した方には五感で芽室を感じてもらえたらと思っています」

これまでには「農を感じる散走(めむろごぼう編)」「農家のお母散走(おかあさんそう)ツアー」といった、農家さん自身がガイドを務めるというモニターツアーを実施し、参加者からは「普段は農家さんと話す機会なんてないので、農業への認識がすごい変わった」などと好評だった。

さらに、2020年には「一年中自転車で楽しめる町めむろを目指す」というコンセプトの元、冬でも自転車を楽しむという新たな取り組みも始まった。

「スキー場内の雪上に自転車コースを整備して一般の方向けにコースの開放や、ファットバイクのレンタサイクルを始めました。また『ガイド付きゲレンデダウンヒルツアー』と題して、ガイドの先導の元、早朝のスキー場ゲレンデを貸し切り、ファットバイクでダウンヒルをするというイベントも実施しました。参加者からは『スリル満点!』と好評の声が多かったです」

一昔前まで北海道の冬に自転車の姿はほぼなかった。だが、このファットバイクのような新たな自転車の登場により、最近では街中でその姿を見かけることもあるほどだ。
今後はこうしたアクティビティの他、日常における冬の自転車文化は大きく変わっていくのかもしれない。

冬のサイクルツーリズムの舞台はメムロスキー場。初心者や家族連れでもレンタサイクルで気軽にファットバイクを楽しむことができる冬のサイクルツーリズムの舞台はメムロスキー場。初心者や家族連れでもレンタサイクルで気軽にファットバイクを楽しむことができる

外からの視点を活かし、自転車を芽室の特徴の一つへ

及川さんは地域おこし協力隊=移住者でもある。出身は埼玉県、将来海外で働きたいという思いから東京外国語大学でポルトガル語を専攻し、卒業後は大手自動車メーカーに就職。東京にある海外の子会社を管理する部門で忙しい日々を過ごしていた。

「就職して2年目の夏、骨休みとして北海道に一人旅で来たんです。そうしたら一気に北海道の魅力に引き込まれてしまいました」

もともと都会の喧騒が苦手だったという及川さん。学生時代にはバックパッカーの経験があったこともあり、自然に囲まれた土地で過ごしたいと思いを強めていったという。そして、北海道へ行くための手段を模索し見つけたのが地域おこし協力隊という方法だったのだ。

「芽室は緑も多いし、空気もおいしい。でもやっぱり人が一番ですね」

サイクルツーリズムでも関わることが多い農家さんや協力者の方々。こうした人との触れ合いは及川さんの原動力になっている。また、外から来た移住者だからこその視点を活かしてこんなことも考えている。

「観光を目的としたサイクルツーリズムはもちろんですが、これからは芽室の子どもたちや地元に住む方々にも改めて自分のまちを散走して、新しい発見ができるようなツアーも実施したいと思っています。町民の方々にも楽しんでもらうこと、そしてこの芽室のサイクルツーリズムを知っていただくことも大事だと感じています」

これからもサイクルツーリズムを通した色々な取り組みを考え「自転車を芽室の特徴の一つにしたい」と話す及川さん。
大事にしているポイントは「人」。人との交流を生む仕掛けで、更なる芽室らしいサイクルツーリズムを模索している。

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◎筆者:くらしごと編集部 土谷涼平

海外への留学経験もある及川さん。語学力を活かしたインバウンドへのサービス提供も考えたいという海外への留学経験もある及川さん。語学力を活かしたインバウンドへのサービス提供も考えたいという