DIYで空き店舗を地域の交流拠点に。リノベ第1号「カフェダンジョン」

北九州市北西部に位置する若松区は、明治から昭和初期にかけて、筑豊の石炭を全国に積み出す港として隆盛を極めた街だ。戦災を免れたため、今も海岸沿いには往時の繁栄を偲ばせるレトロな洋風建築が点在する。しかし、地方都市のご多分に漏れず、人口減や空き家の問題を抱え、昔ながらの商店街にはシャッターを閉めたままの店が目立つようになった。

若松のメインストリート・中川通りにある地域交流拠点「カフェダンジョン」も、3年ほど前まではこうしたシャッター店舗の一つだった。地元に生まれ育ち、30年以上まちおこしに奔走してきた小山洋明さんと末廣要さんが借り受け、リノベーションに乗り出したのが2014年のこと。ワークショップを開いて地域の人たちを巻き込みながらDIYで改修した。

2015年1月、オープンに漕ぎ着けたときの目標は「1ヶ月のうち30日間、シャッターが開いている状態にすること」だったと、小山さんは振り返る。「15ぐらいのグループがおのおの月2回ワークショップや教室を開いてくれれば30日稼働する、という目算。けれども実際には、最多でも月15日ぐらいしか開けられませんでした」

しかし、人が集まる場所をつくり、イベントを仕掛けたことは、次の展開につながった。「カフェダンジョン」オープン以来の2年間で、周囲に少しずつリノベーションの輪が広がり、新たな店舗ができ、仕事が生まれ始めているのだ。小山さんは2017年7月、エリアマネージメントに取り組む一般社団法人「ワカマツグラシパートナーズ」を設立。「カフェダンジョン」の一角には、ダイニングバー「NAKAGAWA Spoil」が開業し、ほぼ連日シャッターが開くようになった。

(左上)オープン当時の「カフェダンジョン」(右上・左下)DIYワークショップの様子(右下)ダイニングバー「NAKAGAWA Spoil」/以下、写真はすべてワカマツグラシパートナーズ提供(左上)オープン当時の「カフェダンジョン」(右上・左下)DIYワークショップの様子(右下)ダイニングバー「NAKAGAWA Spoil」/以下、写真はすべてワカマツグラシパートナーズ提供

周辺にゲストハウスやインテリアショップが誕生、“点”のリノベが“面”に広がる

「カフェダンジョン」に続くリノベーション2件目は、北九州市にある九州工業大学の女子大学院生たちのシェアハウス「recoya」だった。誕生のきっかけは、学生たちから小山さんに「シェアハウスを探しています」という相談が持ちかけられたこと。そこで「見付からないのなら、つくってしまえば?」と提案した。「カフェダンジョン」の裏手に広がる木造住宅密集地には、小さな空き家がたくさんある。そのうちの一つを借り、DIYに着手した。

学業の合間を縫ってのDIYは計画通りには進まず、4ヶ月で仕上げる予定が11ヶ月かかったが、地元メディアでも話題になり、学生にはまたとない経験になったはずだ。彼女たちの卒業後、ふたたび空き家になった「recoya」は、今年9月26日、ゲストハウス「まちやどrecoya」としてリニューアルオープン。Airbnbを通して1〜5人用の一棟貸しを始めたところだ。

3件目のリノベーションを手掛けたのは、東京でインテリアショップ「Decor Tokyo」を経営する藤田毅さん。「カフェダンジョン」のDIYワークショップで小山さんたちと知り合い、今は「ワカマツグラシパートナーズ」の代表理事の一人だ。「recoya」と同じく一帯にある空き家の一つを改修し、DIY材料やインテリア雑貨を扱う「マテリアル中川町」をオープンした。主力はオンライン販売で「倉庫や発送拠点をつくるなら、東京より地価が安い若松が有利」という判断だったという。現在、「マテリアル中川町」は4人の学生アルバイト、1人のインターンを雇用し、若い人たちに活躍の場を提供している。

(左)空き家を改装してオープンした「マテリアル中川町」外観(右上)「マテリアル中川町」店内風景(右下)別の空き家をリノベし、シェアハウスを経てゲストハウスに生まれ変わった「recoya」(左)空き家を改装してオープンした「マテリアル中川町」外観(右上)「マテリアル中川町」店内風景(右下)別の空き家をリノベし、シェアハウスを経てゲストハウスに生まれ変わった「recoya」

首都圏から若松に移住してまちづくりに取り組む若者も現れる

こうした動きをキャッチして、首都圏から若松に移り住む人も現れた。今や「ワカマツグラシパートナーズ」の中核メンバーとなった関目峻行さんだ。大学で建築を学び、まちづくりに携わる仕事がしたいと若松を訪れ、その魅力にとりつかれた。「街の中心部には昭和初期の繁栄の名残りや、昔懐かしい路地裏があり、郊外には山も海もあって古い集落が残っている。とてもおもしろい場所だと思いました」

関目さんは今、リノベーションしたばかりの「本町Terminal」の一角に住んでいる。もともと看板屋だった建物で、1階に広い作業場、2階に経営者と従業員の住まいがあったそうだ。「ワカマツグラシパートナーズ」は、2階をシェアハウスとして使い、1階をサイクリストやランナーの休憩所に改修した。

「若松の海岸沿いは格好のサイクリングコースで、多くの人が訪れているにもかかわらず、ほとんどが街に立ち寄らずに帰ってしまう。飲食や休憩ができる場所を用意して、ひとと情報が集まる拠点にしたい」と関目さん。10月21日に行ったオープニングイベントでは、サイクリストを含む地域の人たちと一緒にベンチやテーブルをつくり、休憩スペースを完成させた。

(左上・右上)「本町Terminal」オープニングイベントのDIYワークショップの様子(左下)完成した「本町Terminal」で乾杯(右下)店内の様子。入場料500円で日替わり駄菓子やワンドリンク付きの休憩スペースが使える。オプションでシャワーや貸しタオルなども利用できる(左上・右上)「本町Terminal」オープニングイベントのDIYワークショップの様子(左下)完成した「本町Terminal」で乾杯(右下)店内の様子。入場料500円で日替わり駄菓子やワンドリンク付きの休憩スペースが使える。オプションでシャワーや貸しタオルなども利用できる

まちづくり活動は“ハード”から“ソフト”へ。まちをレベルアップし住む人を増やす

今後は「地域を支える人材の育成や起業支援を行っていきたい」と小山さんは言う。地元企業と学生たちをつなぎ、IT技能が学べるようなスクールを開いたり、飲食店などを開業したい若者たちに場所やノウハウを提供したり、といったことだ。実際、前出の「カフェダンジョン」で営業を始めたダイニングバー「NAKAGAWA Spoil」の経営者入口翔さんは関目さんの友人で、神奈川県からの移住者だ。

また、ワークショップなどを通じて地元の人たちと動画編集やホームページ作成のノウハウを学び、クオリティの高い情報発信に結び付けることも始めている。「それを見て、世界から若松に遊びに来て欲しいし、若松に住む人も増えて欲しい」。「ワカマツグラシパートナーズ」の野望は、まだまだ膨らんでいきそうだ。

取材協力
本町Terminal
http://honmachi-terminal.com/

「ワカマツグラシパートナーズ」代表理事の3人。左から藤田毅さん、小山洋明さん、末廣要さん「ワカマツグラシパートナーズ」代表理事の3人。左から藤田毅さん、小山洋明さん、末廣要さん

2017年 11月19日 11時05分