「自分は何者なのか?」と自問自答し、起業の道を選んだ元会社員

北海道厚真(あつま)町で行っている、地域で新たな価値創造にチャレンジする「ローカルベンチャースクール」の取組みについては【北海道・厚真町。移住者がけん引する持続可能な地域づくり~厚真町、起業支援プログラム「ローカルベンチャースクール」①】でお伝えした。

今回はその実例として、実際にローカルベンチャースクールに参加し、厚真町で起業に挑戦している成田智哉さんの取組みをご紹介したい。

成田さんは北海道千歳市出身。東京大学で学び、その後トヨタ自動車に入社。ブラジル駐在員も経験し、順風満帆な会社員生活を送っていた。しかし30歳になった時に、「自分は何者で、何を成し遂げられるのか」と思い、起業を決意し、会社を退職した。

起業を決意したと言っても、何をするのかは全く決まっていない状態だったという。日本に戻った成田さんは、日本中の地域を回り、いろいろな人に会って話を聞くことにした。その人数は1,000人にも上り、その中で「地域にこそ最先端がある」と気づいたのだそうだ。

自身を「イエスマン」だという成田さん。”人から誘われたら、躊躇せずにイエスと言い、とにかくやってみる”。そのような姿勢だったからか、「明日、岡山県の西粟倉(にしあわくら)村に行ってみる?」と言われ、「行きます!」と即答。

そこで出会ったのが、「ローカルベンチャースクール」を運営するエーゼロ株式会社の社長・牧大介さんだった。そして、西粟倉村で行っていた「ローカルベンチャースクール」を厚真町でも開始することを聞き、成田さんは興味を持ったという。

厚真町で起業に挑戦している成田智哉さん厚真町で起業に挑戦している成田智哉さん

「起業し、自立して稼ぐ場所として、ローカルは面白い」

最終審査に合格した成田さんは、ローカルベンチャースクールの3期生として参加最終審査に合格した成田さんは、ローカルベンチャースクールの3期生として参加

「起業し、自立して稼ぐ場所として、ローカルは面白いと思いました。また、地域を回っている中で社会起業家という言葉も知り、興味を持っていました。机上でアプリを作って稼ぐよりも、地域で目の前にある困りごとを解決する。人のためというと押し付けになるけれど、それを自分が楽しめて生活も成り立つという環境は、やりがいがあるだろうと思ったんです」

特に、地元の北海道で募集していることも、成田さんの心を動かした。平成30年北海道胆振東部地震の時は、ブラジルにいた成田さん。その時から、地元の千歳市に近い厚真町のことは気にかかっていたという。

目前に迫っていた厚真町のローカルベンチャースクールの話を牧さんから聞き、「どうにかねじ込んでもらって応募しよう」と急きょ準備を開始。
厚真町という地域を知る中で浮かんでいたビジネスプランは、地域の交通インフラの問題を解決する事業だった。

北海道の高齢・過疎地域では採算性の問題で交通網が衰退しているが、行政と協力し、ITを駆使して既存のバスや自動車を活用して解決するというプランだ。一次審査、最終審査に合格した成田さんは、ローカルベンチャースクールの3期生として参加することになった。
厚真町でこの事業を実現させるべくスタートすることになったのである。

厚真町の充実した伴走とサポート体制

成田さんが感じた、厚真町の印象とはどのようなものだったのか。
「まずは、こういった制度で人を受け入れようとする柔軟な行政が面白いと思いましたね。新しいことをやろうとしても行政が歯止めをかけるという話はよく聞きますが、行政が率先してやっているのですから、人の輪は広がりますし、地元の人とうまくやっていくことで長く続いていく事業が作れると思いました」

成田さんが作った会社の名前は、”マドラー株式会社”。「レガシー(遺産)×テクノロジー」、「都会×地方」、「ベテラン×ワカモン」など、相反するものを混ぜ合わせ、お互いをリスペクトしていいところを引き出し、新しい価値を生み出すことを目指している。

また、株式会社エーゼロ厚真の取締役である花屋雅貴さんが、必要な場面で助言してくれるのも大きな支えになっているという。
「決して過保護ではなく、まさに伴走してくれるという感じです。相談に応じてくれて、軌道修正してくれる。スタートアップがここでできてよかったと思います」

こちら写真左がエーゼロ厚真の取締役花屋さん。フランクに話せる間柄こちら写真左がエーゼロ厚真の取締役花屋さん。フランクに話せる間柄

ローカルだからこそ、課題の”手触り感”が得られる

厚真町にあるシェアオフィス。マドラー株式会社もここから始まった厚真町にあるシェアオフィス。マドラー株式会社もここから始まった

成田さんは、都市にいたら見えない地域(ローカル)の『手触り感』を何より大切にしているそうだ。

交通インフラ事業は、地域の自治会長と面談し、高齢者の困りごとを直接ヒアリングする。
「直接見聞きすることで、課題の『解像度』が上がっていきます。顔が見えているから、現地ならではのサービスを形にできる。それは、大企業にはできないことだと思います。地域の既存の事業者とも競争関係になるのではなく、合意形成しながらお互いに補完できる関係を目指しています。厚真町で成功したら、他の地域でも同じように課題をあぶり出し、展開していけるのではと考えています」

また、厚真町に住んでみて、良いところを見つけようと思った結果、「良いところしかない」という結論に至ったという。
「空港から近く、山、畑、海がある。気候も過ごしやすく、美味しいものもたくさんあります。五右衛門風呂に入ったり、山菜を採って天ぷらにしたり、マウンテンバイクで本当の山道を走るなど、自然が多いからできる体験もたくさんさせてもらいました。こんなに素晴らしいのに、もともと住んでいる人には当たり前で、こんなに価値があるということに気づいていないんです。これは、東京からどんどん人を呼び寄せて体験してもらいたいと思っています」

地元の人が気づいていない地域の魅力を発見し、外に向けて発信していくことは、移住者だからこそできることなのだろう。

不透明な世の中、「ローカルビジネス最強説」

成田さんは「ローカルビジネス最強説」を唱える。「東京にいたら、起業しても注目されるのは至難の業ですが、人口4,500人の厚真町で起業すれば一瞬で目立てる可能性があります。名もなき人が名を持つことができるんです」

それを武器として使い、ボランティアではなくビジネスとして成り立たせることに意味があると考えているという。「お金を払う人がいるということは、ニーズがあるということ。ビジネスとして回せれば、持続可能性が生まれます。だから、地域の中でビジネスをする価値があるんです」

また、「組織の中で疲弊している人が、そこから離れるならローカルベンチャー」とも提唱する。
大企業という枠から出ると、「あなたは何者か」と問われることになる。成田さんも会社を辞めてたくさんの人に会う中で、人に尋ねられ、自問自答してきたそうだ。

「組織の中にいた時は考えたこともないことを考えるきっかけになります。今の世の中、大企業にいても今後はどうなるかわかりません。そんな中、自分の名刺、自分の居場所を見つけ、将来の戦略を立てることができます。さらに、厚真町にはサポートしてくれる枠組みがある。自分はこのままでいいのか?と疑問を持っている人には、やらない理由はないと思います」

誰もがうらやむようなキャリアを捨て、地域に飛び込んだ成田さん。
そこには、自身が本当に納得できる、自分と仕事に対し手応えの感じられる世界があるようだ。

■取材協力
厚真町役場
マドラー株式会社
エーゼロ株式会社

北海道の人、暮らし、仕事 くらしごと
くらしごと公式Facebook
◎筆者:くらしごと編集部 桃野文香

ローカルベンチャースクールの仲間や、役場の方々と共に。和気あいあいとした雰囲気がよく伝わってくるローカルベンチャースクールの仲間や、役場の方々と共に。和気あいあいとした雰囲気がよく伝わってくる

2020年 04月12日 11時00分