最盛期の人口の約22%になってしまった町、下川町

北海道の北部。旭川市から1時間45分ほど車を走らせたところに位置する町、下川町を知っているだろうか。
人口約3,400人ほどが生活するこの町は、総面積の90%が森林で覆われた町だ。明治34年に開墾が始まったこの町は、銅や金などの鉱物資源にも恵まれ、昭和35年に人口のピークを迎える。15,000人ほどの町に発展した後、相次ぐ鉱山の閉鎖などに伴い、人口も減少。現在の人口は、最盛期を100とすると実に22ほどのサイズとなる。

北海道の多くの町が、炭鉱や鉱山と共に人口を伸ばし、閉山と共に人口を減らすというパターンに陥っている。一度大きくなったサイズの町がまた小さくなるということは、大きな町のサイズに合わせた都市計画が実行され、鉄道を含むインフラや産業も形成された後に、人口減少と共に、コンパクトな人口に合わせた再設計をしなければならず、多くの町が人口が多い時代の名残に悩んでいるのが現状だ。

厳しい状況の中、下川町は平成22年度には、人口減少問題に対して、すぐれた成果を上げ、先進的・モデル的事例としてふさわしいとされる、過疎地域自立活性化優良事例表彰総務大臣賞を受賞。これは、木質バイオマスを余すところなく活用し、快適な生活環境とCO2排出量の削減を両立させる次世代型「北の森林共生低炭素モデル社会」に向けた取り組みを評価されてのことだ。北海道の市町村のなかでも特徴的な成果をあげ、今もなお挑戦し続けている町である。

その最前線に立つ団体と、活動を通じて移住してきた木工作家の話を届けたい。

バードコールで鳥と会話ができるほど、自然豊かな北海道下川町バードコールで鳥と会話ができるほど、自然豊かな北海道下川町

北海道下川町が選んだ、移住提案の方向性は
「自然との共存」と「仕事と生き方の組み合わせ」

下川町の地方創生加速化事業として、2016年4月に発足した地域活性化に向け移住促進などに取り組む下川町産業活性化支援機構タウンプロモーション推進部 プロジェクト総括部長の長田 拓さんにお話しを聞いてみた。
聞けばご自身も大阪からの移住者だそうだ。

「下川町では、仕事と暮らしを調和させる『ワークライフバランス』ではなく、両者をリンクさせる『ワークライフリンク』を実践できるということを対外的にアピールしています。満員電車の中、往復2時間以上もかけて空の狭い都会のオフィスに向かい、土日は疲れて休むだけの人生を過ごすのはもったいないと思います。自分がしたいこと、好きなことをしていれば、自分が自分としてイキイキできる時間や環境があることの方に価値を感じてもらえる人も下川町では増えていると実感していて、その魅力を発信していきたいのです」。

実際にその考えに共感し、移住してきた若者も多いそうだ。
「町内には森林ガイドの傍ら、狩猟をしている人もいますし、バードコールやスノーボードを作って楽しむ人もいます。薪割りの仕事を自らの生業にした人も登場しました。それぞれが自由に好きなことをして、みんなキラキラしていること。手作りしたり、コラボしたりして、暮らし方に面白さがにじみ始めていますね。移住して来た方などいろんな価値観の人たちと話し合って、下川町ならではの多様性のある町づくりをしていきたいですね」。

※下川町産業活性化支援機構タウンプロモーション推進部の活動の様子をもっと知りたい方はこちら→「くらしごと」

下川町産業活性化支援機構タウンプロモーション推進部 プロジェクト総括部長 長田 拓さん下川町産業活性化支援機構タウンプロモーション推進部 プロジェクト総括部長 長田 拓さん

活用に困っていた古い空き家が、
北海道の木材を使った作品・製品を作りたいというニーズに合致

下川町は、豊富な木材資源を有し、木材の加工時に出る端材等を利用した木質バイオマスボイラーによる公共施設への熱供給など、環境に配慮した取組みに力を入れている。また、循環型森林経営が評価され、国の施策「環境未来都市」と「環境モデル都市」にも選定されており、環境面についても先進的な町だ。

北海道には数多くのクリエイターが集まる地としても有名だが、環境面についての取り組みに共感し、創作地を選ぶ人も増えている。また、木工作家においては、北海道の木材を使った作品・製品を作りたいというニーズが増えてきている。
実は、木材の流通については産地不明のものが多かったり、小ロットでは卸してもらえないなどの課題がある。

そのような背景もあり、長田さんにひとつの相談が入る。
ある木工作家から「森に近い場所で、地域材を使って、その地域ならではのモノを作りたい」との移住相談だ。
長田さんは、「町のNPO法人が、木材として流通に乗らず、パルプ材になっている地域材を木工などに生かす取組みを始めたんです。この取り組みを活かせば…と考え提案させていただきました」という。

長田さんは、作家の工房探しにも同行。10カ所以上を見て回った結果、理想どおりの場所を見つけることができたそうだ。物件は、築年数不明。かつては森林組合の事務所と使われていたが、今は使われていない空き家だった。

耐用年数は優に過ぎた建物だが、その自然豊かな立地や使われてきた背景にも価値を見いだした河野さん耐用年数は優に過ぎた建物だが、その自然豊かな立地や使われてきた背景にも価値を見いだした河野さん

埼玉県出身、元営業職の男性が木工作家になり、北海道へ移住した

北海道の地域材を使ってモノ作りができる環境を求め、移住を実現したのは、埼玉県出身の河野文孝さん。
河野さんは、木が持つ個性を活かした温もりのあるテーブルやイスなどを製作する家具工房 『森のキツネ』代表である。専門学校を卒業後、営業の仕事に就くも、元来好きだったモノ作りの道へ本格的に進もうと、北海道北見市の技術専門学院に再入学した。28歳のことだ。
卒業後は、自分の製作スタイルに合った環境を求め、北海道の東川町、剣淵町、愛別町と移り住みながら製作を続けた。その後、アート作品を下川町内の商店に展示するアートイベントに参加したことで交流が深まっていた長田さんに相談したのが、下川町に移り住むキッカケだった。

「新たな自分の創作場所として選んだこの場所は、建物は古いけれど、自分が希望していた森から近いという条件がまずクリアになっていること。柱も梁も大きくしっかりしていたので気に入りました。建物の大家さんから『町の特産品をつくって欲しい』というお願いもあり、地元産の木材にこだわり、この地域ならではのものづくりをしようとさらに強く考えるようになりました」。

この場所で創作活動も続けながら、建物の改修も手がけていくということで、この工房がどんな姿に変わっていくのかも彼の作品のひとつにもなりそうだ。

森のキツネ 代表 河野文孝さん森のキツネ 代表 河野文孝さん

「移住者」は、「地元の人」になる。
その橋渡しするのが本当の「地域交流」

河野さんと「パンとケーキの店 やない」の矢内啓太さん。木工作家とパン屋のコラボレーション。河野さんと「パンとケーキの店 やない」の矢内啓太さん。木工作家とパン屋のコラボレーション。

河野さんが現在製作を進めている仕事のひとつが、二又の木の形を生かしたテーブル作り。
「枝分かれした木は扱いづらいため、一般には流通しません。だからこそ使いたいと思い、長田さんから町役場の森林産業推進課に相談してもらい、協力していただきました。木材の産地だからできることですね」。
枝分かれした一方の枝はそのままで、もう一方は板状にして、他にはないテーブルを作り上げる予定とのこと。

また、下川町で80年以上続く「パンとケーキの店 やない」に、4年ほど前に帰郷した矢内啓太さんとのコラボも開始。
矢内さん曰く、町内にハード系パンが浸透していないことが分かったため、何とか広めようと、バゲットとカッティングボードを一緒に店頭に出し、“豊かなライフスタイル”と結びつけて提案することを考えだした。
二人の出会いは、同推進部が企画する移住者と地元の人たちの交流の場「タノシモカフェ」だった。打ち合わせを重ね、ボードは地元産のクルミ材を使って作ることに決定。その理由は、パンに使ったクルミのカスで手入れができるから。矢内さんは「お買い上げのカッティングボードは、当店のサービスで、いつでも手入れをさせていただくつもりです」と話す。

単に移住者を呼び込むだけでなく、ライフスタイルまで提案し、移住者と地域の人々との交流や、地域の生活に溶け込んだ活動を提案する北海道下川町では、近年、若い移住者が増えてきているという。
仕事と自分の時間を切り分けない、“ワークライフリンク”の考え方が、自然豊かな北海道で、さらに共感が広がっていきそうな予感だ。

※森のキツネ 河野 文孝さんをもっと知りたい方はこちら→「くらしごと」
※北海道下川町への移住相談窓口はこちら→「移住交流サポートWEBタノシモ」

関連サイトと情報
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◎筆者:くらしごと編集部 三浦智昭

2017年 10月26日 11時05分