月に一度、空き家を巡回して点検、掃除を行う「空き家ガーディアンズ」

キッチンの水切りかごには食器が伏せてある。広縁には肌着が一枚、干しっぱなしになっている。この家の住人は今、ちょっと買い物に出ているだけ、と言われれば納得しそうなほど、生活の痕跡は色濃い。ただ、食器棚に貼られたカレンダーは7年前に時を止めていて、ここは空き家なんだと教えてくれる。

7年近く人の住まない家が清潔に保たれているのは、月に1回、「空き家ガーディアンズ」が巡回し、外回りの点検や室内の空気の入れ換え、清掃を行っているからだ。屋内の掃除は1回60分、場所を決めて順繰りに行う。この家の場合は巡回を開始して約3年、同じ場所を少なくとも5回は徹底的に掃除しているので、汚れはほとんど目立たない。

不動産会社「エステートプロモーション北九州」代表の北島達夫さんは、2013年に空き家管理サービスの提供を開始した。北島さんの記憶によれば、マスコミがぼつぼつ「空き家問題」を取り上げ始めた頃という。国が「空家等対策の推進に関する特別措置法」(2014年11月公布、15年2月施行)を施行する2年前だ。2016年にはフランチャイズシステム「空き家ガーディアンズ」を立ち上げ、現在は北九州店(直営店)、山口西店(FC店)、福山店(FC店)の3店舗で業務を行っている。

自ら現場に出向き、試行錯誤を繰り返しながら、ビジネスとして持続可能な「空き家管理サービス」を確立したという北島さん。これまでに延べ約130軒の空き家を管理してきた。その巡回に同行し、現場から見る「空き家問題」の実態について伺った。

「空き家ガーディアンズ」が巡回する住宅の一つ。一見するとあまり傷んでいないようだが、増築部分に雨漏りが見られる。土地にも段差があるため「解体しても売却はかなり難しいだろう」と北島さん。庭の椿は花がすべて終わった頃に剪定する予定だ「空き家ガーディアンズ」が巡回する住宅の一つ。一見するとあまり傷んでいないようだが、増築部分に雨漏りが見られる。土地にも段差があるため「解体しても売却はかなり難しいだろう」と北島さん。庭の椿は花がすべて終わった頃に剪定する予定だ

持ち主が認知症になると売却は困難。約4割が「解体費用をかけたくない」

前述の空き家は、北九州市の住宅街にある。登記上の所有者はすでに亡くなっており、最後の住人となった妻は、認知症が進んで施設に入所している。空き家管理の依頼者は所有者夫妻の長女で、現在は結婚して市内に他の住宅を取得しており、この家に帰ってくることはなさそうだ。ほかに兄弟はいないという。

「持ち主のお母さんが十分な意思表示ができない以上、勝手に家を処分するのは難しい。当面は、ご近所に迷惑をかけないために、私に管理を委託しているわけです」と北島さん。家の所有者が認知症になった場合、その自宅を売却するのは困難だという。

「ほかにも、空き家を売らない、解体しない事情は多々あります。亡くなったお父さんの13回忌まではこの家で法要をしたいという人もいたし、ほかに仏壇の行き場がないこともある。荷物が多いからそのままにしておきたいという人も少なくありません」

現在、北島さんが巡回している約50軒の空き家のうち、一時的な転勤などでいつか家族が戻る予定がある家は10軒ほど。残る約40軒の行く末は不透明だ。

下のグラフは、国土交通省が2014年度に行った「空家実態調査」の結果。全国の空き家所有者(有効回答数2140)に今後5年程度の利用意向を尋ねたところ、21.5%が「空き家にしておく」と回答している。その理由は多い順に「物置として必要だから(44.9%)」「解体費用をかけたくないから(39.9%)」「特に困っていないから(37.7%)」となっている。

出典「平成26年空家実態調査集計結果」国土交通省住宅局出典「平成26年空家実態調査集計結果」国土交通省住宅局

空き家を放置せず、近隣の生活環境に悪影響を及ぼさないよう管理する

北島さんは、「空き家対策」を、以下の4つのフェーズに分解する。

(1)空き家を増やさない
(2)空き家を減らす
(3)放置空き家を増やさない
(4)放置空き家を減らす

「現実に少子高齢化が進んでいる以上、空き家が増えることは避けられません。だから(1)は不可能です。(2)には、空き家バンクなどを利用して貸したり売ったりする方法が考えられますが、それが可能な空き家はおそらく全体の数パーセントでしょう。対策のメインにはなりえない」

北島さんのいう「放置空き家」とは、適切な管理が行われずに、近隣の生活環境に悪影響を及ぼしかねない空き家のことだ。
「(4)については、解体補助金を出す自治体があります」。
北九州市の場合、1981年5月以前に建築された老朽空き家で、倒壊や部材の落下のおそれがあるなどの基準を満たす場合、最大50万円の補助金が出る。しかしこれも、所有名義が親の場合はその同意が必要だ。

北島さんの仕事の意義は(3)にある。「空き家が増えること自体が問題なのではなく、それが放置されることが問題なんです。日本では財産権が保証されているのだから、空き家だからといって、周囲が売れとか壊せとか責めることはできない。お話ししたように、事情は人それぞれ。ただ、持ち主には家をきちんと管理する責任があることを自覚してほしい」

定期的な管理を行ったうえで、空き家状態の継続は5年を限度と考える

同じく北九州市の別の空き家。持ち主は現在、埼玉県に住んでいるそうだ同じく北九州市の別の空き家。持ち主は現在、埼玉県に住んでいるそうだ

「空き家ガーディアンズ」では、空き家管理の目的として、以下の3つを掲げている。

(1)建物の劣化を防ぐ(資産価値の維持)
(2)近隣住民に迷惑をかけない(良好な住環境の形成)
(3)犯罪行為(放火・いたずら・不法投棄等)を予防する

「通りすがりの人が見たときに、空き家だと分からないようにするのがポイント」と北島さんは言う。巡回先の住宅に到着したら、まず外回りを写真を撮りながら一周。瓦や外壁の剥落はないか、たばこの吸い殻や空き缶などが落ちていないかチェックする。「空き缶は、誰かが空き家かどうか確かめるために置いている可能性がある。きちんと回収しておく必要があります」

鍵を預かっている場合には、室内空気の入れ換えや清掃を行う(オプション)。まず屋内を一周しながら全ての窓を開け、60分間掃除をしてから全ての窓を閉める。「全部の窓を開け閉めするのは、閉め忘れを防ぐためです」と北島さん。同時に、雨漏りや害虫発生などのチェックを行う。「一つの家を同じ担当者が繰り返し訪ねれば、“変化に気付く”ことができます」

充電式の掃除機と水10リットル入りのポリタンクも持参するので、水道や電気の契約を解除している空き家でも掃除できる。庭の除草サービスもオプションで、60分、90分、120分と作業時間ごとの契約にしている。

作業工程は前後を細かく写真で記録し、ホームページ上の報告書に掲載する。空き家ごとに設定したパスワードでアクセスするので、管理の依頼者が兄弟や親戚と情報共有することも可能だ。「紙の報告書だと写真が不鮮明になってしまいますし、メールだと容量が限られてしまう。オンライン報告書ならたくさんの写真が載せられて、拡大して見ていただくこともできます」

料金は外回りのみの基本サービスで月3,000円。これに、室内状況確認500円、室内清掃60分2,500円…などと追加していく仕組みだ。月額合計8,000円〜1万円の契約を結ぶ人が多いという(※金額はいずれも税別)。

とはいえ、空き家の管理委託は問題の最終的な解決にはならない。「専門会社に管理を任せたからといって、持ち主が責任を忘れていいわけではありません」と北島さん。「人が住まず、改修も行われない住宅は、やはり劣化が進みます。私たちが預かる期間はせいぜい3〜5年。5年後には売却するなり解体するなり、次のステップに進めるように、準備しておいていただきたいですね」

空き家ガーディアンズ http://www.akiya-g.jp/

2020年 04月03日 11時00分