移動可能、オフグリッドの移動式避難所を計画

小屋の下を良く見ると車輪が見えており、牽引するためのフック部分も見えている小屋の下を良く見ると車輪が見えており、牽引するためのフック部分も見えている

災害が起きて自宅が危険になった場合、しばらくは近隣にある避難施設で暮らすことになるが、東日本大震災後の状況を見て、避難所以外で暮らすためにはどうすれば良いかを考えた人がいる。高知県高知市に事務所を構える建築士の中宏文さんである。「家族に体育館での生活はさせたくない。そこで、避難できる空間を作ろうと思い、2つの要件を考えました」。

ひとつは移動できること。「普段は週末ライフのテント替わりに利用しておき、災害があったら安全な場所に移動できるようにしておけば無駄なく使えると思いました」。もうひとつはオフグリッドハウスであることだ。グリッドとは電力会社の送電網を意味し、そこから切れた、オフグリッドは発電した電気で自給する暮らしを意味する。災害でライフラインが切断されても生活ができるようにすると考えれば良いだろう。

そこで、まずは車のシャーシ(車体)を購入。その上に家を建てることにした。「千葉にある会社が350㎏まで積載できるシャーシを輸入しており、それを購入して、車検を取って登録しています」。このタイプでシャーシ本体は約30万円。トラックで高知まで輸送してくる代金が8万円だったそうである。車輪が付いているので、普通乗用車で牽引して移動することができる。こうしたシャーシを販売している会社は他にもあり、軽自動車でも引ける軽いモノから2トンまでを載せられる大型のものなどがあるのだとか。今回はコンパクトな350kgにしたが、次は2トンタイプにしてロフトを作ってみようかと考えているそうだ。

「土地に縛られない家なので、動かして自由に売りに出すことができます。従来の住宅という概念からすると新しいカタチだろうと思います」。

太陽光パネル一枚で小さな設備を稼働させる

ライフラインが途絶してもオフグリッドにしてあるので最低限の電気は使える仕組みライフラインが途絶してもオフグリッドにしてあるので最低限の電気は使える仕組み

電気は太陽光パネルを載せ、バッテリーを置いて使用。「1枚5万円の200Wのパネル一枚で換気扇、照明、ノートパソコン、扇風機にキャンピングカー用の小さな冷蔵庫までは使えます。洗濯機やエアコン、冷蔵庫を使うには無理がありますが、それ以外は意外に使える品があります」。

住宅用の太陽光発電システムは太陽電池が発電した直流電力をパワーコンディショナを使って交流電力に変換、それで家電製品に電気を供給している。ところが前述したノートパソコンや扇風機などは直流でそのまま利用できる。そのため、発電した電力が無駄なく使える。そのため、パネル一枚でも意外にいろいろ使えるのだという。ただし、直流電力は感電する恐れがあるため、扱いが難しい。誰にでもできるというわけではないのが、残念なところだ。

既存のライフラインに繋がっていないのは電気だけではない。ここでの火力はガスではなく、七輪。キッチンの天板に丸く穴が刳りぬかれており、そこに七輪を入れて火を使う仕組みになっている。燃料となる木炭は長期保存しても劣化したり、着火することがなく、安心な品。週末はバーべキューに利用して慣れておけば、災害時にも役立つはずだ。

水はタンクに組んできて使い、排水はそこからホースで受けてまたタンクに。これは井戸水その他が使える環境があってできること。都市では作る場合には水を保存しておく、あるいはどこからか汲めるような仕組みがないと難しいかもしれない。

カセットトイレかコンポストか。トイレ問題は切実

右がカセットトイレ、左はコンポスト。コンポストを利用する場合には上に便座を載せる必要がある右がカセットトイレ、左はコンポスト。コンポストを利用する場合には上に便座を載せる必要がある

もうひとつ、問題なのはトイレ。これについては2つの選択があり、決めかねているところだとか。ひとつは国産のキャンピングカーでよく利用されているカセットトイレと呼ばれるもの。タンクに汚物が溜まったら、それを便座の下から引き出し、公衆トイレなどで処理できるようにするという仕組みだ。もうひとつは生ごみを処理するコンポストを利用して、その上に便座を載せて使うもの。大便はそのままコンポストで肥料にし、小便は水で10倍以上に薄めて流せばよいそうだが、こちらは自治体の指導などに従い、適切な処理を行う必要がある。

ところで、面白いのは風呂、トイレ、キッチンがない小屋の場合には家とはされず、固定資産税がかからないという点。「何を住宅と考えるかと言った時には、この3点のいずれかが土地に用意されたライフラインと接続されていることを要件とする例が多いのです。逆に水道管を固定するとそれだけで家を認識されるようになることもあります。どこを境とするかは自治体によって異なりますし、都会では家の形状をしていれば、それが家でないのはおかしいと指摘する近隣も出てきます。庭などに作ろうと思う場合には、地元の自治体に相談したほうが良いかもしれません」。

トレーラーハウスでも水道管などを外すのに工具が必要なやり方で固定すると家とみなされるルールがあり、家なのか、それ以外の建物に該当することになるかは注意が必要だ。建築基準法では一区画の土地には一軒の家というルールがある。もし、庭に作るとした場合、建築物とみなされない小屋なら良いとしても、家であるとされる建築物を建てると法令違反になる。建ててみたい人は事前調査をしよう。

壁、屋根がある空間のありがたさ

キッチン部分。上のタンクから水が流れ、使った水は下のタンクに貯められるシンプルな仕組み。左側、天板の下に見えているのが七輪キッチン部分。上のタンクから水が流れ、使った水は下のタンクに貯められるシンプルな仕組み。左側、天板の下に見えているのが七輪

さて、実物の小屋だが、全体の大きさは2.5坪(8.25m2)ほど。部屋は2畳半ほどでそこにキッチン、廊下、トイレがある。地元高知の県産材を利用した木造軸組み工法で作られており、建築にかかった日数は20日間ほど。内訳は骨組みに3日、外壁、屋根にそれぞれ3日、内装に1週間、キッチンその他を入れて20日くらいだそうで、本職の大工に頼んで作れば1週間から10日ほどでできるという。「このくらいのサイズの家なら、ある程度基本を覚えれば一般の人でも作れます。もちろん、プロほどきれいには仕上げられませんが、毎日暮らすのでなければ問題ありません」。この小屋の場合、構造計算は自身でやっており、強度はお墨付き。かかった費用は全体で150万円ほどとか。コンパクトながら、木の感触が気持ち良い空間である。

だが、週末ライフと兼用ならテントでも良いという考え方もあるが、と聞いてみると「テントだと強風にあおられて飛ぶなど、雨風が凌げません。鍵がかかる点で考えると防犯面でもテントより優れていますし、壁、床のある安心から考えても、やはりこの形のほうが落ち着けるだろうと思います」。

この小屋は家族3人を想定したそうだが、東京都や内閣府その他自治体などの災害時の想定で見ると避難所の一人当たりの面積は1.5m2から3m2以下、帰宅困難者の受入れでは3.3m2に2人などというケースが多く、畳1畳分に一人という状況がイメージされる。その視点で考えると、この小屋はやや狭いが、室内にいるのは家族だけ。気を使う必要は少なく、避難所よりはストレスを溜めずに済みそうである。都心では難しいかもしれないが、郊外で暮らしている人なら、こういう考え方もありかもしれない。

2015年 09月19日 11時00分