再開発が進んでいなかった地区に新しいコンセプトの宿泊施設がオープン

「大阪」駅から環状線で6分、3つ目の駅が「西九条」だ。阪神なんば線も乗り入れ、「難波」駅までも8分と交通利便性に恵まれた立地である。2001年3月にオープンしたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に近接し、大阪や関西エリアの観光拠点だともいえる。USJの入場者数は2016年に1,460万人に達し過去最高を記録したが、その1割以上が訪日外国人観光客とみられ、「西九条」一帯の潜在的な宿泊需要も高いだろう。

その一方で、西九条地区を含む「此花区」は空き家問題が深刻だ。総務省が実施した「住宅・土地統計調査」(2013年)によれば、此花区の空き家率は20.0%に達し、大阪市全体の17.2%よりも高い。さらに、1980年以前に建てられた住宅が30.1%(大阪市全体では24.8%)を占め、木造住宅(防火木造を除く)に限れば、その46.2%が1980年以前の建築だ。周辺には長屋や再建築が難しい住宅も多く、これまで再開発もあまり進んでいない。

そのような背景をもつ西九条駅の近くに2017年6月、「クラウドホテル構想」を掲げた民泊施設として「SEKAI HOTEL」がオープンした。「クラウドホテル構想」とは何か、他の民泊とはどこが違うのか、運営責任者の山岡啓一朗氏にお話を伺った。

お話を伺った山岡啓一朗氏お話を伺った山岡啓一朗氏

点在する空き家を有効活用し、街全体に「ホテル」としての機能を持たせる

まず「SEKAI HOTEL」の概要やその特長について聞いてみた。

「西九条駅近くに設けた『フロント』から、おおむね徒歩3分以内に『客室』として6部屋を運用しています。いずれも既存の空き家をリノベーションしたものですが、それぞれ4名〜10名の宿泊に対応し、いまのところ最大収容人数は32名です。また、隣接した空き地を活用して新築も行い、年内に合計10室まで拡大する予定です」

「エリア内の空き家や空き地をうまく活用するとともに、近隣の既存飲食店と連携したり、新たに飲食店を誘致したり、さらに物販店舗を設けるなどして、街全体にホテルとしての機能を持たせることを計画しています。いわば『街ごとホテル』ですが、イベントやシステム開発、大阪観光ガイドなどソフトコンテンツを充実させ、『遊べるホテル』をコンセプトにしています」

一般的な民泊は1室あるいは1棟で完結するだろうが、「SEKAI HOTEL」は複数の建物に機能を分散させたうえで、街全体とリンクしていくことを構想しているようだ。

「SEKAI HOTEL」のフロント施設「SEKAI HOTEL」のフロント施設

民泊を通して地域問題の解決にも取り組んでいきたい

大阪市では2016年10月から国家戦略特区による民泊を導入しているが、「SEKAI HOTEL」を始めたきっかけは何だったのだろうか。

「特区による民泊および旅館業として『簡易宿所』の許可を受けた民泊の運営を通してノウハウを蓄積してきましたが、単に『民泊経営』をするだけでなく、空き家や空き地など地域が抱える問題を解決しながら事業展開ができないかと考え、2016年8月にプロジェクトチームを立ち上げました」

「SEKAI HOTEL」のスタート時には大阪市内の5つの企業などが参加している。クジラ株式会社(北区)、株式会社Otomari(北区)、株式会社サイバーポート(北区)、Chinese Language School(都島区)、フォーカスクライド法律事務所(中央区)、特定非営利活動法人ARCO(西区)だ。

これら各社の協力のもとで綿密に事業計画を練り上げ、地域の特性などを分析したうえでうまくマッチングできたのが西九条地区(此花区)だという。民泊を運営しながら地域問題にも取り組んでいきたいということだが、行政とは連携していないのだろうか。

「行政との連携というと補助金、助成金などのイメージも強いでしょうが、事業のスタートにあたって市や区からの補助などは受けていません。しかし、これから地域の活性化に関わっていくうえで、資金面ではなく、ソフト面で行政との連携を検討していきたいと考えています」

空き家をリノベーションした「SEKAI HOTEL」の客室の一つ。シンプルだが機能的につくられている空き家をリノベーションした「SEKAI HOTEL」の客室の一つ。シンプルだが機能的につくられている

空き家、空き地の活用だけでなく、将来を見据えた人材の育成も

「SEKAI HOTEL」がオープンしてまだ1ケ月あまり(取材時点)だが、手応えはどうか。

「まだそれほど期間は経っていないため、いまのところはニュースリリースなどをご覧いただいた国内のお客様も多いのですが、おおむね良好な稼働率となっています。また、今秋をめどに『コンシェルジュ機能』を備えた自社アプリも開発中で、海外からのお客様へのアピールも積極的に進めていきたいと思っています」

民泊を運営しながら地域問題に取り組むとは、具体的にどのようなことか。

「空き家・空き地の活用や、近隣飲食店との連携による地域の活性化などもありますが、障がい者の雇用、さらには地域の子ども達に無料で語学を教えることも予定しています。その子ども達が将来的に事業へ参加してくれるかどうかはともかくとして、西九条エリアを訪れた外国人を『街ぐるみでもてなす』ことに繋がれば良いのではないでしょうか。また、宿泊料金の一部を積み立て、地域問題の解決や途上国支援にも役立てていくことにしています」

目指しているのは「エリアの人々が運営するホテル」ということだが、同じコンセプトの宿泊施設を他の地域でも展開する予定はあるのか。

「この西九条エリアでノウハウを蓄積しながら、他の地域にも広げていきたいと思っています。ただし、ここのモデルをそのまま持っていくのではなく、それぞれの地域の実情に合わせて新たにチームをつくりアイデアを加えるなど、フレキシブルに展開できればと考えています」

長屋をリノベーションした「SEKAI HOTEL」の客室の一つ。寝室以外の部分を吹き抜けにして開放的な空間がつくられている長屋をリノベーションした「SEKAI HOTEL」の客室の一つ。寝室以外の部分を吹き抜けにして開放的な空間がつくられている

地域のみなさんにしっかりと理解してもらうことが大事

民泊をめぐっては、いわゆる「違法民泊」が急増し全国各地でさまざまな問題が生じている。マンションの一室を使った民泊や、まわりに隠れて住宅地で営業する民泊に対して、近隣住民が差し止めを求める訴訟なども起きているようだ。民泊を営業する際に重要なことは何だろうか。

「大阪市では国家戦略特区による民泊、または旅館業法による『簡易宿所』の許可を受けた民泊のどちらかになりますが、いずれにしてもきちんと許可を受けて営業することは当然です。それと同時に、地域のみなさんにしっかりと理解してもらうことが欠かせません」

「実は当社が最初に事業計画を立てて近隣のみなさんに説明したときも、激しい反対意見や反発がありました。しかし、計画内容を丁寧に説明することを繰り返しているうち、当初は強硬に反対していた人が、いまでは最も良き理解者に変わったのです」

実際に民泊として使用している部屋を見せてもらうため近くの路地を歩いていると、物件の隣にお住いの方が山岡氏に声を掛けてきた。気さくに会話している様子を見て、しっかりと地域に溶け込んでいることが分かった。

ホテルや旅館とは異なり、民泊では外国人宿泊者と近隣住民が接する機会も多くなるだろう。そのとき、外国人宿泊者が近隣住民とうまく交流できる相手になるのか、それともマナーを守らず近隣に迷惑を及ぼす厄介な相手になるのか。それは民泊を経営する者のスタンスに大きく左右されるだろうが、宿泊者に対する地域の接し方も考えてみる余地がありそうだ。

「地域全体で宿泊者を受け入れるモデル」を目指す「SEKAI HOTEL」が、今後どのような広がりを見せるのか注目していきたい。

2017年 08月29日 11時05分