2022年の長崎新幹線開業にあわせた“まちなかの賑わいづくり”プロジェクト

長崎観光というと『大浦天主堂』や『グラバー園』など、異国情緒溢れる美しい街並み散策を真っ先に思い浮かべる方も多いのではないだろうか?しかし、現在長崎市では「一般的な観光イメージだけに止まらず、多彩な表情を持つ長崎の魅力やまちの歴史をもっと知ってほしい」という想いから、長崎市中心街で暮らしの中で育まれた魅力を市民や企業・行政などが連携して磨くための『まちぶらプロジェクト』に取り組んでいる。

長崎新幹線(博多~長崎を結ぶ九州新幹線西九州ルート)の開業を2022年に控えて、さらなる地域発展の機運が高まる長崎市中心街。新幹線開業を大きな契機と捉え、市街5つのエリアの個性を顕在化してまちの玄関口とつなぎ、人の流れを広げて行きたいという狙いがあるようだ。

ひとつのエリアを活性化するのではなく、中心街の各街区が横並びの連帯感をもって地域全体を盛り上げていく…この『まちぶらプロジェクト』について、長崎市役所まちづくり部まちなか事業推進室の担当者に話を聞いた。

▲市街地の5つのエリアを軸でつなぐ『まちぶらプロジェクト』のエリアマップ。「ポルトガル貿易港として長崎港が開かれましたが、その近くのもともと岬になっていたところに町が作られ、まちの発展とともに土地が足りなくなり、中島川や海岸を埋め立てたことで今のような地形になりました。“どんどん土地を広げていった長く突き出た岬”であることから『長崎』という地名が誕生したという説があります」▲市街地の5つのエリアを軸でつなぐ『まちぶらプロジェクト』のエリアマップ。「ポルトガル貿易港として長崎港が開かれましたが、その近くのもともと岬になっていたところに町が作られ、まちの発展とともに土地が足りなくなり、中島川や海岸を埋め立てたことで今のような地形になりました。“どんどん土地を広げていった長く突き出た岬”であることから『長崎』という地名が誕生したという説があります」

豊かな観光資源とコンパクトシティ、長崎の強みを生かして地域活性化を

▲国宝・大浦天主堂は江戸時代幕末の開国後、1864年(元治元年)に建立された。この大浦天主堂がある南山手エリアそばの『長崎港松が枝国際ターミナル』には、年間200隻もの大型クルーズ船が入港。ほぼ毎日のように外国人観光客が長崎のまちを訪れる。こうした観光客の“足”を東山手・南山手エリアだけでなく『まちなか』全域へ広げたいという想いもあり『まちぶらプロジェクト』が進められている▲国宝・大浦天主堂は江戸時代幕末の開国後、1864年(元治元年)に建立された。この大浦天主堂がある南山手エリアそばの『長崎港松が枝国際ターミナル』には、年間200隻もの大型クルーズ船が入港。ほぼ毎日のように外国人観光客が長崎のまちを訪れる。こうした観光客の“足”を東山手・南山手エリアだけでなく『まちなか』全域へ広げたいという想いもあり『まちぶらプロジェクト』が進められている

「鎖国時代、貿易港が置かれた『長崎』は、海外との交流の中で開かれてきたまちです。

当時の日本の玄関口は『長崎港』でしたから最初は港一帯が栄え、その周辺に内町(うちまち)と外町(そとまち)と呼ばれる『市中』が誕生。その後、1625年に『鎮西大社諏訪神社』が建立されて秋の祭礼である『長崎くんち』がはじまると、神社の氏子地域にあたる街道町が栄えるようになりました。

さらに1634年に『出島』ができた頃には周辺に商店街が形成され、商人や職人たちの交流が広がっていきました。現在も残る地名では『新大工』『寺町』『銅座』など。そこに住む人たちの職業や暮らしぶりが地名から窺えるようなそれぞれのまちが発展していったのです。

皆さんお馴染みのスコットランド出身の商人、トーマス・ブレーク・グラバーが『南山手』に洋館の住まいを構えたのは開国後の1863年のことですから、長崎のまちなかの歴史としては比較的新しいほうですね」(以下、「」内は担当者談)

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プロジェクトでは、歴史や文化、商業、サービスなど主要都市機能が集積する市街地の約180haのエリアを『まちなか』と呼び、各エリア別にまちづくりの方針を定めている。

●新大工・・・・・・商店街・市場を中心としたふだん着のまち
●中島川・寺町・丸山・・・・・・和のたたずまいと賑わいの粋なまち
●浜町・銅座・・・・・・長崎文化を体感し、発信する賑わいのまち
●館内・新地・・・・・・中国文化に触れ、食を楽しむまち
●東山手・南山手・・・・・・異国情緒あふれる国際交流のまち

上記の5つのエリアをつなぐルートを“まちなかの軸”と設定し、2022年の新幹線開業に合わせハード・ソフト両面から個性や魅力の顕在化を進めている最中だ。

実は、もともと斜面が多く海との距離が近い長崎の『まちなか』は、隅から隅まで歩いても約2~3km。早歩きで散策すれば約1時間程度で巡ることもできる。その“コンパクトシティならではの強み”を生かし、まちを感じてもらい、賑わいの活性を促進するための取り組みが、今回取材した『まちぶらプロジェクト』なのである。

「長崎は『まちなか』の資源が豊かで、しかも、それぞれのまちがそれぞれの個性的な成り立ちを持っています。そうした資源を活用しながら、陸の玄関口である長崎駅周辺と、海の玄関口である松が枝周辺から『まちなか』への回遊性をもっと高めていきたいという狙いがあります」

市民・企業等と連携し、“地域力によるまちづくり”を目指す

2013年度からスタートした『まちぶらプロジェクト』には3つのテーマがあり、①それぞれのまちの特徴や個性を生かした“エリアの魅力づくり”、②各エリア間やまちの玄関口との回遊環境を整える“軸づくり”、そして、③行政だけでなく市民や企業が一丸となって取り組む“地域力によるまちづくり”を掲げて『まちなか』の賑わいづくりを進めている。

「回遊環境整備の具体例としては、店舗の敷地や建物の一角に休憩スポットをつくったり、建物の1階部分を雨の日でも歩きやすいようにセットバックしたり、民間のトイレを開放するなど、“住む人や訪れる人の快適さ”に配慮した整備を進めています。

こうした取り組みには『長崎市まちぶらプロジェクト認定制度』で認定を受けられた皆さまの活動が欠かせません。“プロジェクトの趣旨に賛同し、継続的なまちなかの賑わいにつながる市民や企業の取り組み”に対して事業認定を行い、認定証を交付します。市民の皆さんや企業の皆さんがまちの魅力を高めるプレイヤーとして、プロジェクトに参加してくださっていることが本当にありがたいですね。行政としては、皆さんの活動を支援しながら多くの力を結集し、まちの魅力づくりに努めています」

長崎市が認定した事業はすでに62事業。中には「長崎の伝統料理のレシピを再現する」「洋館の栞をつくる」「ハロウィンイベントを開催する」といった活動のほか、「ひと休みできる場所を提供する」「トイレの清掃活動を行う」「イベント開催時には社員をボランティアスタッフとして派遣する」といったユニークな取り組みもある。市民や企業がそれぞれ“無理なく、楽しくできること”を事業として申請し、市から認定を受けることで、プロジェクトの連帯感がより強められている印象だ。

「市役所が事業をコントロールすることはありません。信頼できる相談窓口として地域のみなさんと課題や目的を共有しあいながらまちづくりを進めています」

▲長崎の観光名所・眼鏡橋のたもとにある『もてなしや』では、『まちなか』に点在している店舗の商品の一部を店頭にて一挙紹介することで各店舗への誘導を促している。いわば“まちの観光案内所”のような存在だ。「眼鏡橋を渡っただけで、そのままお客様が帰ってしまうのはもったいない。代表的な観光スポットを玄関口として、周辺の商店街やまちへ誘導する仕組みを作っています。まちの中を歩いてもらい、まちのことを知ってもらい、長崎のことを好きになってもらいたい。そんな想いを地域の人たちみんなで共有しているんです」。トイレを開放し、2階に休憩スペースを設けたコンビニもある▲長崎の観光名所・眼鏡橋のたもとにある『もてなしや』では、『まちなか』に点在している店舗の商品の一部を店頭にて一挙紹介することで各店舗への誘導を促している。いわば“まちの観光案内所”のような存在だ。「眼鏡橋を渡っただけで、そのままお客様が帰ってしまうのはもったいない。代表的な観光スポットを玄関口として、周辺の商店街やまちへ誘導する仕組みを作っています。まちの中を歩いてもらい、まちのことを知ってもらい、長崎のことを好きになってもらいたい。そんな想いを地域の人たちみんなで共有しているんです」。トイレを開放し、2階に休憩スペースを設けたコンビニもある

『長崎への思い』で芽生えた仲間意識が、まちなか地域の連帯感の根底にある

▲長崎市まちづくり部まちなか事業推進室の皆さん。一般的なまちづくりの場合、昔ながらのまちをあえて壊し、新たなまちを形成する「大規模再開発」がメインとなるケースも多いが、ここ長崎では「今あるものを生かしながらまちづくりを進めていく」という姿勢を貫いている▲長崎市まちづくり部まちなか事業推進室の皆さん。一般的なまちづくりの場合、昔ながらのまちをあえて壊し、新たなまちを形成する「大規模再開発」がメインとなるケースも多いが、ここ長崎では「今あるものを生かしながらまちづくりを進めていく」という姿勢を貫いている

行政・市民・企業が地域一丸となってまちづくりを推進。まさに理想形とも言える『まちぶらプロジェクト』だが、発足された2013年当初から順風満帆だったわけではない。

当時の長崎市には、人口減少・高齢化・まちの賑わいの低下など多くの課題があり、外部組織から“地域の核となるまちなかの再生が不可欠”との指摘を受けたところだった。観光業だけに依存するのではなく、そもそもの「まちの魅力」を再生することが強く求められたのだ。

4年の準備期間を経て、長崎市はまちづくりのガイドラインを作成。「どうしたら長崎のまちがもっと楽しくなるか?」について、市役所の会議室で議論するのではなく、実際にまちへ飛び出し市民らと座談会を行った。「地域のみんなで、まちの特徴・魅力・将来像を共有することが何より重要」だと考えたからだ。

「座談会の結果を受けて方向性を具体化し、最終的には都市デザインやまちづくりの専門家の意見なども取り入れながら、“まちなかをどうするか?”について検討していきました。地元の人たちの意見に耳を傾け、地域みんなと導き出した長崎の魅力づくりの結論が、“地域で育まれてきた営みを磨くこと”だったのです。

長崎の人はみんな長崎が好きです。そして、行動します。今では、全国のいろんなまちで『まち歩き』の仕組みがありますが、その先駆けだった『長崎さるく』も、市民プロデューサーが中心に行政と連携して仕組みをつくり、運営し、今も続いています。江戸時代から続く『長崎くんち』なども、地域がプロデュースする祭礼です。こうした市民が中心となってみんなで物事を進める“長崎のDNA”が『まちぶらプロジェクト』の原動力になったのだと感じています」

『まちぶらプロジェクト』には、自治会、商店街、個人店舗、市民団体、地元企業、個人…と、多世代の市民たちが携わっている。目指す方向性はただひとつ「まちの賑わいをつくる」こと。

「皆さんの熱い想いをどうやって形にしていくか?について真剣に考え、こまやかにサポートしていくのが、行政の重要な役割です」

人々がまちのことを考え、関わり、思いを込めることで、好循環が生まれる

最後に、今後の目標について担当者が語ってくれた。「これまでの長崎のまちのイメージというと“異国情緒”が定番化していますが、実は長崎は“和の趣に満ちたまち”でもあり、多くの和文化も育んできたまちです。まだまだ市民や観光客の皆さんに認知されていない長崎の魅力を、ちゃんと顕在化して発信していくこと。そして、地域の皆さんと一緒にまちの個性を普遍的なものとしていくことが私共の目標です。多くの人たちがまちのことを考え、関わり、思いを込めることで好循環が生まれます。こうした好循環を今後もどんどん広げていきたいと考えています」

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『まちぶらプロジェクト』発足から6年、『長崎新幹線』開業まであと4年。長崎市の10年間の取り組みの成果はどのような形で顕れるのか?2022年、地域一丸となって賑わいを再生したまちの姿を確認しに、もう一度長崎を訪れてみたいと思う。

■取材協力/長崎市役所 まちづくり部まちなか事業推進室
http://www.city.nagasaki.lg.jp/sumai/660000/666000/p024188.html

▲「プロジェクトの効果もあって、最近の『まちなか』にはUターン・Iターンの若い店主が経営する新しいお店が40店舗ぐらい増えました。行政では思いつかないような個人のアイデアが、まちに欲しいモノをつくってくれる。そして、それがまちの活性化につながっていく…もっともっと“まちの営み力”を高めて、賑わいを創出したいですね」▲「プロジェクトの効果もあって、最近の『まちなか』にはUターン・Iターンの若い店主が経営する新しいお店が40店舗ぐらい増えました。行政では思いつかないような個人のアイデアが、まちに欲しいモノをつくってくれる。そして、それがまちの活性化につながっていく…もっともっと“まちの営み力”を高めて、賑わいを創出したいですね」

2019年 08月03日 11時00分