洋風建築と長崎らしい風景を残す、南山手と東山手の伝建地区

ぶらぶらと町あるきをするテレビ番組が長崎にやってきた時、「ドンドン坂」を散歩していた。小高い丘から長崎湾を一望するその風景は、海と空を間近に感じることができ、まさに”長崎らしい”景観が楽しめる。

伝統的建造物群保存地区(通称:伝建地区)とは、歴史的な建造物群を石垣や樹木などの周囲の環境と一体ととらえ町並みごと保護していこうとする、市町村によって決定された地区のこと。長崎市では、居留地時代の町並みを残す東山手、南山手が伝建地区になっている。
ドンドン坂のある南山手伝建地区には、1863年にイギリス貿易商グラバー氏が築いた住宅「旧グラバー住宅」や日本に現存する最古の教会堂である「大浦天主堂」などの人気のスポットがそろっており、国内外の旅行客などが多く訪れる。居留地時代から主に住宅地として活用されていたこのエリアは、多くの洋風建築が残り、現在も閑静な住宅地だ。

もう一つは、東山手伝建地区。ポルトガルやアメリカなど各国の領事館や礼拝堂が建ち、かつては「領事館の丘」と呼ばれていたが、その後、跡地にミッション系の学校が増え、現在に至っている。海に向いて開放的なベランダを有した洋風建物が多く、特に社宅や賃貸住宅として計画的に建設された東山手洋風住宅群(7棟)は全国的にも珍しく、東山手地区の代表的存在でもある。

南山手伝統的建造物群保存地区の景色。長崎湾から山手まで一望できる南山手伝統的建造物群保存地区の景色。長崎湾から山手まで一望できる

洋風なのに和風? 擬洋風建築の面白さ

長崎市文化観光部文化財課の学芸員・田中希和さん。現職3年目、現担当2年目長崎市文化観光部文化財課の学芸員・田中希和さん。現職3年目、現担当2年目

長崎居留地は、開港後、外交や通商などで訪れる外国人の住まう場所として、貸し出されたエリアのこと。海岸に近い上等地には、貿易のための商館や倉庫、その背後の中等地にはホテル・病院・娯楽施設など、さらに下等地とされた山手には、 住宅・領事館などが建設され、洋風建築が立ち並ぶ町並みが形成されていた。
長崎の洋風建築物の大きな特徴は、「擬洋風建築(ぎようふうけんちく)」にある。幕末から明治中期に、伝統的な日本の技術をベースに洋風の要素を取り入れているのが特徴だ。

「日本の大工さんが、洋風の建築物を真似して造ったものです。旧グラバー住宅も見た目は西洋風ですが、屋根の小屋組みは、和小屋という日本ならではの造り方なんです。また、洋館に見えても、柱や建具の寸法は、尺寸法にピタリと当てはまります。外壁に使われている素材もさまざまで、石造り、レンガ造りといった西洋風のもの、木材や漆喰塗りといった日本の伝統的なものなどバラエティに富みます。瓦屋根の上になぜか煙突が立っていたりして、どこか不思議。東山手地区の洋風住宅群のベランダのらんま飾りには、和風・中国風のデザインも見られるんですよ」と長崎市文化観光部文化財課の田中さんは話す。

町並みは、生きもの。保存しながら活用していく

伝建地区の保護を担当している文化財課では、洋風建築物の修理の相談窓口や補助金の申請手続きだけでなく、文化財課が所有する歴史的建築物を活用した施設の維持管理を行っている。中でも町並み案内や居留地の資料の展示をしている町並み保存センターは、運営を地域住民で構成される「町並み保存会」に業務委託している。自分たちの住んでいる地域の魅力を、観光客にリアルに伝える役割を担ったり、日々洋館施設を運営することで、壊れている箇所などに気づいて連絡を取り合ったり、良い連携を築いている。

「伝建地区は、先人たちが脈々と守ってきてくれた居留地時代の町の風情を残しつつ、どうすれば今の生活に適応させて住民が長く住み続けられるかということが大切です。建物は常に風雨にさらされているので傷みますし、使われなくて人がいなくなるとゴーストタウンになってしまうし、逆に観光地化されすぎてしまうと町並みの風情が失われてしまう場合もあります。
文化財保護という言葉の中には、保存と活用の2つの意味があります。町並みは、時代や人々の生活によって変わっていく、いわゆる”生きもの”なので、昔の状態を美術工芸品のように箱の中にしまって保存しておけないもの。私たち文化財課は、この保存と活用を両立していくバランス感覚が重要です。
そんな中、実際に住んでいる人たちの協力があることはとてもありがたいことです。今、保存センターの運営を委託している『町並み保存会』をはじめとする地域住民の皆さんが、自分たちの町の魅力を知り、伝え、観光客や外の人を柔軟に受け入れてくださるおかげで、町の雰囲気が保たれています」と田中さん。

(左上)ドンドン坂からの景色。洋館を右手に長崎湾を臨む(左下)伝建地区を歩くとこのような洋風建築を見かけることができる(右上)瓦屋根に煙突(右下)日本風・中国風のデザインが用いられているらんま飾り ※画像提供:長崎市教育委員会(左上)ドンドン坂からの景色。洋館を右手に長崎湾を臨む(左下)伝建地区を歩くとこのような洋風建築を見かけることができる(右上)瓦屋根に煙突(右下)日本風・中国風のデザインが用いられているらんま飾り ※画像提供:長崎市教育委員会

伝建地区で始まっているまちづくりの活動

伝建地区内では、地元住民によって洋風建築物を積極的に活用する機会が増えている。毎年9月の第3土日に開催される「長崎居留地まつり」は、地域住民が主体となって企画しているもので、普段は資料館などとして使われている建物や地区内の街路を使って、”居留地大バザール”や”グラバー坂かけあがり大会”などさまざまな催し物が行われる。最近では、東山手伝建地区にある伝統的建築物の居住者が、建物所有者の了解を得て、民泊を始めた事例も出ている。まちづくりに興味のある居住者が、地区の魅力と歴史に対して興味を持ってくれていると田中さんは感じているそう。

「長崎はもともと外国人を受け入れてきた土地だから、よそ者をはねつける地域ではないと、よくそういうふうに言われますね。中国に始まり、江戸時代にはオランダ、居留地時代にはイギリス・アメリカ・ロシアとたくさんの外国文化を受け入れて、自分たちの文化と抱き合わせるように、融合させてきたんだとの地域の皆さんともよく話していますね。
文化財課の役割りは、町並みを守りながら、地区内で生活や活動をする市民のサポートをすること。住民から自主的に自分の住む町を盛り上げようとする動きがあることは、嬉しいことだと思っています。他の伝建地区を見ていても、観光地化されすぎていたりとか、便利な都会に移住してしまい建物が別荘化してしまっているケースもあります。そういう意味では、長崎は程よく都会なんですよね。立地的にも観光客の人が来やすいところなので、いいところはそのまま残して、住んでいる人たちにとっても住みやすいようにしていきたいです」

(左上・左下)長崎市で開催している「ながさき歴史の学校」という一般人向けに行っている講座。伝建地区を実際に町歩きすることで、意識付けにもなっている(右上)「ながさき歴史の学校」のチラシと保存センターのパンフレット(右下)「長崎居留地まつり」の文化財課が主催しているイベントの様子。地域住民と積極的に交流している ※写真提供:長崎市(左上・左下)長崎市で開催している「ながさき歴史の学校」という一般人向けに行っている講座。伝建地区を実際に町歩きすることで、意識付けにもなっている(右上)「ながさき歴史の学校」のチラシと保存センターのパンフレット(右下)「長崎居留地まつり」の文化財課が主催しているイベントの様子。地域住民と積極的に交流している ※写真提供:長崎市

2019年 03月03日 11時00分