日本独自のニーズに応え進化するキッチン、2つの相反する要望を満たし大ヒットしたレイアウトは?

日本は世界の中でもかなりの手間を掛けて家庭で料理をする国である。日本人の約8割が1日3回の食事をとり、夕食を外食にする頻度は月に1~2日程度が4割弱、ほとんど無いが同じく4割弱というデータ(※1)がある。それ故、住宅用のキッチンも、日本独自の食文化や生活スタイルに合わせて様々な進化を遂げてきた。

はるか昔、住まいの外にあった煮炊きをする場は、徐々に屋内へ移動。土間から板の間へ移った台所は、憧れの公団住宅のダイニングキッチンを経て、現在の主流は対面式スタイルである。対面式スタイルとは、ダイニングにいる家族と顔を合わせながら炊事ができるよう配置するプランで、ここ30年以上にわたり子育て世代を中心に爆発的に大ヒットしている。

と言っても、当初キッチンは「隠す」時代だったため、キッチンとダイニングの間に窓をくりぬいた壁を作るプランが一般的だった。これなら「顔は見たいけれどキッチンは隠したい」という相反する2つの要望を同時に満たすことができるため、数多くの現場で採用され一世を風靡したレイアウトとなった。

対面式スタイルのキッチンは現在も不動の人気を誇っているが、そこからまた新しい形が生まれ、キッチンカウンターやシンクの素材、形状、収納の構成も時代と共に進化している。

今回は、住宅設備機器メーカーTOTO株式会社のシステムキッチンの工場にお邪魔して、キッチン製造現場の最前線にいる2人に、最新事情や最近の売れ筋、人気の透明カウンターの特徴や製造方法などを聞いた。
(※1:食生活による世論調査より-2016年/NHK)

上:分譲マンションも対面式スタイルのキッチンかどうかで売れ行きが変わると言われている。炊事の間も子どもの様子を見守ることができるため、特に子育て世代に人気のレイアウトとなっている
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下:クリスタルカウンターを製造しているTOTOプラテクノ株式会社勝浦工場で話を伺った。右はTOTO株式会社キッチン・洗面事業部キッチン商品企画グループリーダーの原田拓氏。左はカウンターやボウルの製造を行っているTOTOプラテクノ株式会社技術第一部生産技術第一グループリーダーの山口陽平氏上:分譲マンションも対面式スタイルのキッチンかどうかで売れ行きが変わると言われている。炊事の間も子どもの様子を見守ることができるため、特に子育て世代に人気のレイアウトとなっている
下:クリスタルカウンターを製造しているTOTOプラテクノ株式会社勝浦工場で話を伺った。右はTOTO株式会社キッチン・洗面事業部キッチン商品企画グループリーダーの原田拓氏。左はカウンターやボウルの製造を行っているTOTOプラテクノ株式会社技術第一部生産技術第一グループリーダーの山口陽平氏

カタログから見える時代と暮らしの変化、吊戸棚は減少、家電収納は増加

ひと昔前のキッチンカタログと今のものを見比べると、生活スタイルや消費者ニーズがかなり変化していることがよく分かる。例えば、以前は家電収納のページはほんの小さな面積でしか取り扱われていなかったが、最新のカタログではかなりのページを割くようになっている。

キッチン家電の数と量は以前より増えているのに、収納が追い付かず困っている人は多い。TOTO株式会社キッチン・洗面事業部で商品企画を行っている原田拓氏によると、今の時代は家電収納の充実度でキッチンの購入を決める人もいるほど、キッチン選びの決め手になっていると言う。

また対面式スタイルも新しい形へと変化をしている。よりオープンなキッチンを好む人が増え、手元の立ち上がりの壁が無いフラット対面式と呼ばれるスタイルが人気だ。更に、以前のカタログではシンクの上には必ずといっていいほどあった吊戸棚が、現在のカタログでは無いプランのほうが圧倒的に多い。

これまで日本の狭いキッチンで数多くの台所製品を片付けるには、ありとあらゆる空間を活用する必要があり、吊戸棚も必須アイテムのひとつだった。しかし引き出し式キッチンの登場でキッチンそのものの収納力が格段に向上し、吊戸棚が無くても十分足りるようになった。何より吊戸棚を付けなくて良いなら、キッチンをもっと明るく広々とさせることができる。実際、吊戸棚を取り付ける人は減少傾向にあると原田氏は言う。

実は筆者は今から20年ほど前に「吊戸棚撲滅委員会」を勝手に発足し、会長を自認していた。これまで数多くのキッチンリフォームの現場に立ち会ってきたが、吊戸棚の中に入っているものと言えば、粗品のラップ、古い密閉容器や使われていない弁当箱、捨てられなかった釜めしの空き容器など、つまりはほとんどが不要品であった。なぜこんな物が集まるかと言えば、吊戸棚は使いにくい場所なので使わない物を入れるからだ。

また高齢者の家庭内事故の原因のひとつに脚立や踏み台からの落下がある。何となく吊戸棚を取り付けるという行為は、お金を掛けて不要品置き場を作り、危険な事故を招くプランになりかねない。もちろん安全で有効な吊戸棚の取り付け方法はあるが、ただ漫然と取り付ける人が減っているのであれば、筆者としてはうれしい限りである。

左:一世を風靡した閉鎖的な作りの対面式スタイルのキッチン。築18年のマンションのキッチンの様子。吊戸棚とカウンターの間にある横長の窓からダイニングをのぞき込むようなプラン。しかし開放感が無く暗い、頭上の吊戸棚がうっとうしいという声もあった(撮影:一級建築士事務所 OfficeYuu)<BR>
右:最新のカタログ写真で見る現在人気のフラット対面式スタイル。手元の立ち上がりの壁が無くなり、カウンターはまっすぐ段差無くダイニング側に伸びている。吊戸棚は無く、より広く明るいキッチンとなっている(ザ・クラッソ/TOTO)
左:一世を風靡した閉鎖的な作りの対面式スタイルのキッチン。築18年のマンションのキッチンの様子。吊戸棚とカウンターの間にある横長の窓からダイニングをのぞき込むようなプラン。しかし開放感が無く暗い、頭上の吊戸棚がうっとうしいという声もあった(撮影:一級建築士事務所 OfficeYuu)
右:最新のカタログ写真で見る現在人気のフラット対面式スタイル。手元の立ち上がりの壁が無くなり、カウンターはまっすぐ段差無くダイニング側に伸びている。吊戸棚は無く、より広く明るいキッチンとなっている(ザ・クラッソ/TOTO)

システムキッチンの普及率は約7割、迷走?進化?時代と共に変化し続けるシンクの形

設備メーカーが販売しているキッチン設備は大きく分けて2種類ある。コンロの箱やシンクの箱を並べて設置する「セクショナルキッチン」と、箱型のキャビネットや部品を組み合わせ、その上にカウンターを乗せて組み立てる「システムキッチン」だ。その他、フルオーダーメイドでいちから作る方法などもある。

システムキッチンが普及し始めたのは1990年頃からである。当初は高級品だったため、輸入車を買うかシステムキッチンを入れるか悩むといったような存在だった。TOTOがキッチン市場へ参入したのは1981年、ヨーロッパの憧れのシステムキッチンを日本へというコンセプトで始まり、やはり高級路線だったと言う。

現在、システムキッチンの普及率は7割近く(※2)に及び、普及品から高級路線まで様々な価格帯が存在する。TOTOでも手ごろな「ミッテ」とハイグレードな「ザ・クラッソ」の2つのシリーズがあり、細部のデザイン、選べるカウンターや扉の種類、収納の形状、サイズオーダーの範囲などが異なる。

各設備メーカーはそれぞれ、このような普及品と高級品とおおよそ2つのグレードを準備している。一般的な機能を求めるのなら普及品、こだわる人は高級品を選ぶことになるが、それぞれ組み込める設備の種類や扉カラーの選択肢が異なるため、選ぶ際には違いをしっかり確認することが肝心となる。

さて忘れがちではあるが、注目したいのがシンクの形状の変化だ。この30年でキッチンのシンクは迷走と言うべきか進化と言うべきか、とにかく様々な変化をし続けてきた。

1980年代、通常のシンクの隣に付け置き洗い用の小さなシンクがついたダブルシンクが登場した。欧米ではよく見るデザインだが、日本ではあまり使われないまま1990年代にはほとんど消滅している。また1990年代には幅90㎝以上ある大型シンクが人気になった。シンクが大きければ中華鍋など大きな調理器具が洗いやすく、魚をさばく際にも便利なため、こぞって大型シンクが採用された。

しかし限られたスペースでシンクが大きくなれば、作業スペースが狭くなる。結局シンクの上にまな板の受け台のような器具を渡して調理スペースを広げることになり、こちらも時代と共に減少していった。

現在のシンクの標準サイズは幅80㎝の中型である。もちろんただ幅が狭くなっただけではなく、奥行きを広くとることで、作業スペースを温存しつつシンク内部の容積を確保することができるようになっている。そのため最近増えているのが「異形シンク」と呼ばれる、真ん中が膨らんだような形状のシンクだ。

しかしTOTOは奥行きの広さは確保しつつ、あえてまたシンプルな長方形のシンクに戻した。原田氏は、現在の大きな消費者ニーズに「手入れのしやすさ」があると言う。シンプルな長方形のシンクなら掃除がしやすく、またシンクの底に傾斜をつけ、排水口を片側に寄せることで、1方向に水がサッと流れるようになり、シンク内に汚れがたまりにくくキレイを保ちやすい。

更に使い勝手を向上させるため、水栓金具は「水ほうき水栓」と呼ばれる、シャワーの幅が広く出るタイプが採用されている。実は筆者は、この水ほうき水栓は本当に役立つのか?と疑問に思う節もあった。そう問いかけると、幅広の吐水だとザルを洗う時などにその威力を実感できると言われ、なるほど通常吐水よりシャワーのほうが洗いやすいのは当然だが、その吐水の幅が更に広くなれば滝のように流すことができるので、洗いやすくなるのは当然かと、ひとり勝手に腑に落ちたのである。
(※2:消費動向調査 主要耐久消費財の普及率の推移(二人以上の世帯)/内閣府)

長方形のシンプルな形状のシンクと水ほうき水栓。シンクの底に傾斜をつけ、排水口を片側に寄せることで、水がスムーズに流れシンク内に汚れがたまりにくい。忙しい現代人ができるだけ素早く手入れができるよう、随所に工夫が凝らされている(ザ・クラッソ/TOTO)長方形のシンプルな形状のシンクと水ほうき水栓。シンクの底に傾斜をつけ、排水口を片側に寄せることで、水がスムーズに流れシンク内に汚れがたまりにくい。忙しい現代人ができるだけ素早く手入れができるよう、随所に工夫が凝らされている(ザ・クラッソ/TOTO)

システムキッチンの売れ筋サイズと価格帯、人気のカラーは圧倒的に白色

現在のキッチンの売れ筋を原田氏に聞いてみたところ、サイズに関しては圧倒的に幅2.55mが売れているとのこと。実はこれは尺貫法で建てられている日本の一般的な木造住宅にぴったり納まるサイズであり、日本独特の寸法である。

人気のカラーは圧倒的に白色で、以前「水まわりは白の時代」というコラムを執筆したことがあるのだが、ここ10年以上にわたり便器や洗面台、浴槽など水まわりの人気カラーも白色である。白は何と言っても清潔感がある。また昨今、世界中で人気のナチュラルモダンなインテリアによく似合う。

価格に関しては、商品の定価で100~120万円が売れ筋で、リフォームの場合は既存キッチンの撤去、取り付け、壁パネルの施工、商品値引きなどを考慮に入れると、トータルで120~140万円程度の費用を掛ける人が多いそうだ。

さてここ数年、新しい動きが出ているのがカウンターとシンクの素材である。これまでほとんどの場合、キッチンカウンターは人造大理石かステンレスかの2択で、シンクはステンレスという時代が長く続いてきた。しかしここ数年、セラミックやガラスのような透明素材のカウンターが登場、シンクも人造大理石を選ぶ人が増えるなど、変化が起きている。

ガラスのように透明なTOTOのクリスタルカウンター。最近のキッチンのデザイン傾向は、カウンターのエッジの軽やかさにある。厚み11ミリの透明なエッジはまるでガラスのように美しいガラスのように透明なTOTOのクリスタルカウンター。最近のキッチンのデザイン傾向は、カウンターのエッジの軽やかさにある。厚み11ミリの透明なエッジはまるでガラスのように美しい

強く丈夫でガラスのように透明で美しいキッチンカウンター、デザイン性の高さで出荷台数が3倍に増加

人造大理石カウンターが人気になって久しいが、昨今はシンクでも人気が伸びている。その背景には、耐久性の向上という技術の進歩がある。ステンレス神話という言葉がある。人造大理石が未熟だった頃の話だ。人造大理石は熱や衝撃に弱く、ステンレスは強くて丈夫と考えられていた。いくら人造大理石シンクのデザイン性が優れていても、耐久性が低くては話にならない。

しかしその後、人造大理石の耐久性やメンテナンス性は格段に向上した。人造大理石にも様々な種類があり、最新の高品質なものは熱に強く、細かい傷が付いてもスポンジで磨けば殆ど目立たなくなるので、美しさを維持しやすくなっている。カウンター、シンクともに人造大理石を選べば、シームレス接合ができるため継ぎ目を気にする必要もない。見た目が美しいだけでなく耐久性も高いということで、現在では人造大理石のカウンターに人造大理石のシンクを組み合わせて選ぶ人が増えているそうだ。

更にTOTOはガラスのように透明な「クリスタルカウンター」の開発に成功した。クリスタルカウンターが開発された背景には、デザイン性が高いガラス製のインテリア素材が人気なのにもかかわらず、地震が多い日本ではガラスは危険という認識が強く、なかなか普及しないということがあった。

そこで開発されたのが割れずに硬く丈夫でありながら、透明で美しいクリスタルカウンターである。実は透明なキッチンカウンターを実現させることができたのは、現在日本ではTOTOだけだと言う。材質はこれまでのアクリルやポリの人造大理石とは異なり、独自配合を行ったエポキシ樹脂で、型に樹脂を流し込んで熱を加えて固める注型成形によって製作されている。

クリスタルカウンターは従来の人造大理石よりも熱や汚れに強い性質を持ち、またソリッドのため万が一汚れや傷が付いてもナイロンたわしでこすれば元に戻る。クレームになりがちな墨汁も問題なく落ちる。クリスタルカウンターを実際に製造している様子をTOTOプラテクノ株式会社勝浦工場で、生産技術のグループリーダーを務める山口陽平氏のもと見学する機会に恵まれたが、あまりに繊細な工程に、日本の技術の素晴らしさを実感させられた。

クリスタルカウンターは2016年に柄入りを発売し、キッチンにインテリア性を求める人に選べる楽しさを提供。それをキッカケに出荷台数が3倍に増加したそうだ。カウンターにひとめ惚れをして購入を決める人が少なくないそうで、カウンターの品質と美しさが売り上げを引っ張っている状況だ。

実はTOTOの売り上げ構成比は、新築に比べてリフォームのほうが圧倒的に多く2倍以上を占めている。TOTOは1993年に「リモデル宣言」をして以来、リフォームにターゲットを絞り長年注力をしてきたという経緯がある。2018年には「あんしんリモデル戦略」をスタート、消費者が安心してリフォームに取り組めるよう様々なサポートを行っており、施工会社選びのアドバイスの他、他社製品のことであっても相談が可能なデスクを準備している。

キッチンはどんどんリビングに近付いている。食べる場がくつろぎの場となり、もはやキッチンは隠すのではなく見せる時代になった。キッチンは一度購入したら最低でもこの先20年以上は使い続けるものである。どうか後悔の無いよう、丈夫で美しく、そして何より暮らしを楽しく豊かにしてくれるキッチンを選んで頂ければと思う。

取材協力:TOTO株式会社 

上:硬化した透明のクリスタルカウンターとシンクの裏側から塗装を吹き付けている様子。人気色はクリスタルスノー。まるで本物のすりガラスのように見える
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下:クリスタルカウンターとシンクの結合部に光を当てて気泡が入っていないか検査をしている様子。こちらは検品見本であえて気泡を入れてあるのだが、筆者の肉眼では探し出すことはできなかった(共にTOTOプラテクノ株式会社勝浦工場にて撮影)上:硬化した透明のクリスタルカウンターとシンクの裏側から塗装を吹き付けている様子。人気色はクリスタルスノー。まるで本物のすりガラスのように見える
下:クリスタルカウンターとシンクの結合部に光を当てて気泡が入っていないか検査をしている様子。こちらは検品見本であえて気泡を入れてあるのだが、筆者の肉眼では探し出すことはできなかった(共にTOTOプラテクノ株式会社勝浦工場にて撮影)

2019年 07月18日 11時05分