生産緑地への関心の高さを示した満員の会場

2017年の生産緑地法の改正、2018年9月の都市農地の貸借の円滑化に関する法律(都市農地貸借法)の施行と、生産緑地(都市農地)に関係する法制度が相次いで変わり、都市部の貴重な「緑の空間」の行方に関心が集まっている。こうした状況を踏まえ、2018年10月30日、都市農地の保全と活用に関する情報提供を中心とした、一般財団法人 都市農地活用支援センター主催の定期講演会が開催された。会場は満員となり、関心の高さがうかがえた。

生産緑地法改正で広がる農地活用の選択肢

講演会では最初に、国土交通省と農林水産省から、生産緑地法の改正と都市農地貸借法の施行について情報提供が行われた。登壇した国土交通省都市局都市計画課課長補佐の一言太郎氏は、生産緑地法改正の背景と改正のポイントを説明。従来、市街化区域内の農地は宅地化すべきものと位置づけられていた。だが、人口減少に伴う宅地需要の鎮静化、緑がもたらす良好な景観や災害時の避難場所としての機能への期待の高まりなど、状況が大きく変化したことから、2016年に閣議決定された都市農業振興基本計画で、都市農地は保全すべきものへと方針変更された。一言氏は「生産緑地法の改正もこうした政策の転換を受けたものです」と話し、改正の3つのポイントを挙げた。

1つ目のポイントは、生産緑地地区の面積要件を引き下げたこと。従来は一団で500m2以上となっていたが、自治体により300m2まで引き下げることが可能になった。また、これまでは生産緑地の一部が相続などで指定解除される場合、残った部分の面積が規模要件を下回ると一緒に解除となる"道連れ解除"が起こっていたが、これも解消されることになった。

2つ目は、生産緑地地区における建築規制の緩和。改正前は農業用施設に限定されていたが、農業団体などからの要望もあり、農産物の直売所や加工施設、農家レストランなども設けることができるようになった。

そして、最後は特定生産緑地制度の創設だ。生産緑地は指定から30年経過すると、市町村への買い取りの申出が可能になることから、生産緑地制度が始まった1992年から30年が経過する2022年に、緑地の多くが宅地に転用、売却され、土地価格が下落するのではと懸念されている。いわゆる2022年問題だ。今回創設された特定生産緑地の指定を受けると、買い取りの申出期間がさらに10年間延伸され、税制の特例措置も継続される。また、特定生産緑地の指定は10年ごとに更新可能だ。特定生産緑地制度により、2022年問題の影響は低減することが見込まれている。一言氏によると、国土交通省が練馬区と世田谷区の農家を対象にしたアンケート調査でも、60%以上が特定生産緑地の指定を受けると回答しているそうだ。

特定生産緑地制度について、都市農地の保全や、コンパクトシティ政策実現の観点から、今後は地方都市での導入が必要と一言氏。生産緑地制度によって、固定資産税などの特例措置を受けられることが農家の経営を安定させ、都市農地の保全につながると指摘している。

特定生産緑地制度の創設により、生産緑地の指定から30年経過後の選択肢が増えることになる特定生産緑地制度の創設により、生産緑地の指定から30年経過後の選択肢が増えることになる

生産緑地の活用を促す都市農地貸借法の施行

借り手が市民農園として使用したい場合、きちんと管理してもらうため、貸し手は「適切に管理していない場合市町村が協定を廃止する」等の条件を規定する必要がある借り手が市民農園として使用したい場合、きちんと管理してもらうため、貸し手は「適切に管理していない場合市町村が協定を廃止する」等の条件を規定する必要がある

続いて、農林水産省農村振興局農村政策部都市農村交流課都市農業室課長補佐の高橋正智氏が、都市農地貸借法の概要を解説。この法律はその名の通り、生産緑地の貸借を円滑にするもので、所有者が高齢などによって生産緑地の管理が困難になっても、貸借することで継続して管理できるようにし、生産緑地の機能を守っていくことを目指したものだ。
従来の農地法では、生産緑地を貸借すると法定更新制度が適用され、知事の許可を得ない限り、農地が所有者に戻ってこない仕組みになっていた。高橋氏は「この制度が農地の貸し渋りの一因になっていました」と指摘し、「都市農地貸借法の事業計画認定制度により、貸借契約期間後には生産緑地が戻ってくるので、所有者は安心して貸せます」と強調した。さらに、農地法での貸借では、相続税納税猶予が打ち切られ、貸主側が猶予税額に利子を追加した額の納税が必要になるのに対して、貸借法では相続税納税猶予を受けたまま農地を貸すことができ、大きな違いを生んでいる。

この事業計画認定制度では、生産緑地の貸借にあたっては、借り手が事業計画を市区町村長に提出し、農業委員会の決定を経て市区町村長の認定を受けることが必要で、6つある認定基準のいずれかを満たしていれば認められる。一定の割合の生産物を直売所で販売したり、農作業体験など住民が農業に親しむ取組みを行ったりといったように、都市農業の機能の発揮に適合することなどが認定基準になっている。

一方、これまで、企業やNPOが生産緑地を借りて市民農園を開設する場合、市民農園の開設に関する法律だった特定農地貸付法では、地方公共団体や農地利用集積円滑化団体などの介在が必要で、所有者から直接借りることはできなかった。都市農地貸借法では、それが直接借りられるようになる。貸借にあたっては、借り手が所有者や市区町村と協定を結び、農業委員会の承認を受けることが必要で、協定には「適切に利用していない場合に、市町村が協定を破棄する」などの規定を設ける必要がある。また、協定の承認基準は、現行の特定農地貸付法と同様で、市民農園の利用者1人当たりの貸付面積が10a未満で、貸付期間は5年を超えないこと、複数の利用者を対象にすることや、農作物の栽培は営利を目的としないことなどとなっている。
高橋氏は「生産緑地の保全から活用へと進みたい」と訴え、法案への理解を求めていた。

都市農業や農地の今後のために、後継者の養成を

安藤教授(写真左)は、都市農業や都市農地に対する認識は、社会経済情勢の変化に伴い、都市の「邪魔者」から「必要不可欠な存在」へと大きく変わったと振り返るとともに、相続税納税猶予制度適用農地の賃貸借ができるようになったことや、生産緑地の規模要件などが緩和されたのは「都市農地の保全に向けた大きな成果であり、新たな一歩を踏み出すことができた」と評価した安藤教授(写真左)は、都市農業や都市農地に対する認識は、社会経済情勢の変化に伴い、都市の「邪魔者」から「必要不可欠な存在」へと大きく変わったと振り返るとともに、相続税納税猶予制度適用農地の賃貸借ができるようになったことや、生産緑地の規模要件などが緩和されたのは「都市農地の保全に向けた大きな成果であり、新たな一歩を踏み出すことができた」と評価した

次に講演を行った東京大学大学院農学生命科学研究科の安藤光義教授は、「家屋敷地を維持し、農業所得の不足を補えるだけの賃貸用不動産を確保できれば、それ以外の農地については相続発生時などに売却できるよう、可能な限り開発せずに残すというのが都市農家の行動原理。残すべき農地については生産緑地の指定を受けるケースが多く、すべてをマンションにするような人は少ない」と語り、こうした行動がこれまでは市街化区域内の農地の転用を阻害してきたが、それが都市農地を残す結果につながっていると説明した。
しかし、相続税納税猶予を受けても家屋敷地は広く、賃貸用不動産なども所有しているために都市農家の相続税の節税には限界があり、さらに後継者不足などによって、これから農地の転用が進むのではないかと、安藤教授は危惧している。安藤教授のデータ分析によると、農地面積が1ha以上の農家は生産緑地指定率が高く、相続に伴う農地面積の減少率も小さいが、農地が50aを下回る農家は処分してしまう傾向にあり、小規模農家が農地を保全しやすくなるようなテコ入れが特に必要と指摘。また、今後の都市農地の保全のために、屋敷地や樹林地も守る緑農地制度の創設、市民の農民化や援農の支援、宅地から農地への転換、さらには農地の物納を増やし、それを地方公共団体に長期貸与して保全することも提案した。

最後に、安藤教授は、神奈川県秦野市で農家を対象に行ったアンケート調査の結果を紹介。「土地利用制限期間が10年程度に緩和されたら指定を受けるか」や「相続税納税猶予適応農地の貸借を認める制度改正をどう思うか」などの設問について、後継者がいる人は制度改正を望む割合が高く、後継者がいないと関心が低い結果になっていた。安藤教授は、「せっかくの制度改正も、後継者がいなければムダに終わる」と、後継者作りの必要を訴えるとともに、農業収入で生活できる自立経営の育成を都市農業政策の基本にするべきと提案して締めくくった。

立地に応じた活用が求められる都市農地

大木氏(下写真左)は、事業計画の立案や運営にあたって、都市計画や農地の専門家だけでは思いつかないアイデアが生まれる可能性もあると、マーケッターなど異業種の人材の参加を提案。「生産緑地法の改正で、農家レストランもできるようになりましたが、成功させるにはただ地産地消を売り物にするだけではなく付加価値をつけることが必要。それを市場で評価させるマーケティング力も必要なのです」。大木氏(下写真左)は、事業計画の立案や運営にあたって、都市計画や農地の専門家だけでは思いつかないアイデアが生まれる可能性もあると、マーケッターなど異業種の人材の参加を提案。「生産緑地法の改正で、農家レストランもできるようになりましたが、成功させるにはただ地産地消を売り物にするだけではなく付加価値をつけることが必要。それを市場で評価させるマーケティング力も必要なのです」。

最後に登壇した定期借地権推進協議会運営委員長の大木祐吾氏は、土地有効利用のコンサルティング業務に携わってきた経験から、都市農地を活用の選択肢が多い立地、特定の選択肢なら可能な立地、農地が最有効利用である立地の3パターンに区分し、活用を検討することを提案。活用にあたっては、生産緑地の買取を申し出ると相続税の納税猶予が打ち切りになること、特定生産緑地の指定を受けないと固定資産税の負担が大きくなることなどを理解した上で、「専門家を入れて税務面のチェックを」と訴えた。

活用の選択肢の多い立地の農地について大木氏は、賃貸住宅経営、貸店舗・事務所、駐車場とさまざまな用途が考えられるが、活用計画の策定にあたっては、土地の特性の把握と目的の明確化の2つの視点が不可欠とし、「活用に失敗している事業は、2つの視点のいずれかが欠けています。駅から徒歩20分の立地で、シェアハウスが成り立つかどうかはよく考えるべきです」と、安易な計画のリスクを警告した。また、土地を分割して一部を第三者に売却する場合も、売り方を間違えると使い勝手の悪い土地が残る可能性があると注意を促した。「例えば、接道条件のいい土地を売ってしまい、路地奥に残った広大な土地を有効利用できないというケースがしばしば見受けられます」。
さらに大木氏は、定期借地権を使い、土地を一団として残しながら住宅として活用している例や、賃貸住宅などと生産緑地とをコラボレーションさせて付加価値を上げるアイデアなども紹介。農地を住宅などで活用する場合や、特定の活用であれば可能な立地の農地についても、成功するには「差別化」が必要と、大木氏は強調していた。実際、賃貸住宅などと市民農園とのコラボレーション例は少しずつ増えているという。農地を住宅に活用する場合、一部を農地として残すことは大きな強みになる可能性が考えられるとし、事業としてのリスクを避けるためには定期借地権を利用する場面も増えるのではないかと今後を展望した。「農地はまとまった方が価値は高いのです」と一団での農地の活用を訴え、講演を終えた。

法改正によって活用の選択肢が広がった都市農地。だが、うまく活かしていくためには所有者側の知識や工夫も必要になる。都市農地活用支援センターでは、農地活用に関する研修・セミナーを随時開催している。農地活用にお悩みの方は、こうした機会も利用して、上手な使い方を探ってみてはいかがだろうか。

2018年 12月08日 11時00分