授業をきっかけに生まれるつながり

3月9日の授業を担当した立花さん(上)とSHIORIさん(下)3月9日の授業を担当した立花さん(上)とSHIORIさん(下)

使われなくなった施設で大人が学ぶ「熱中小学校」。全国に12ある中で、国内最北の「十勝さらべつ熱中小学校」(北海道更別村)が熱気に包まれている。2017年4月に開校してから延べ500人以上が学び、「部活動」で生徒同士のつながりやビジネスの種を作ってきた。レストランやゲストハウスも誕生し、地域の交流施設としても定着。童心のようなワクワクと、スキルや経験を身につけた大人の本気が混じり合い、化学変化が起こっているという。2019年3月9日の授業を見学させてもらった。

「キンコンカンコーン」というチャイムが授業の始まりを知らせる。ホームルームとして日直の2人が「部活動など報告はありませんか」「連絡事項はありますか」と確認した後、講師を紹介した。全員で起立、礼の後に「よろしくお願いします」とあいさつ。木製の四角いイスに着席した。学校そのものだ。

この日は「生活」と「家庭科」の授業があった。それぞれ受け持ったのは、東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市で、子どもの探求心や生きる力を育む複合体験施設「モリウミアス」を運営する立花貴さんと、料理家で若い女性の支持が厚いSHIORIさん。2人はチャレンジに至ったきっかけ、事業や出版の裏話や苦労、得たものを生徒に伝えた。全国的に活動する2人の経験に引き込まれ、「自分も新しいことに挑戦してみたい」という思いに駆り立てられた。

授業の後は教室での茶話会と、同じ敷地内にある別棟の「熱中食堂」での懇親会が開かれ、希望する生徒が先生や級友を囲んで交流した。授業はあくまでもきっかけ。「聞いて終わり」ではなく、先生とのつながりや刺激を得るチャンスがいくつもある。生徒の6~7割が十勝地方で、道内各地や首都圏からも通う。年齢層は14~82歳と4世代にわたり、職業もさまざまだ。

廃墟のような国有施設をリノベーション

熱中小学校は「もういちど7歳の目で世界を…」をコンセプトに、全国の経営者や研究者たちから学ぶ「出会いと学びの場」。廃校を再生して2015年に山形県高畠町で開校したのを皮切りに、地方創生を進める政府の後押しもあって全国に広がった。国内のほかアメリカ・シアトルでもオープンしている。

「十勝さらべつ」の校舎は国土交通省北海道開発局の地域事業所をリノベーションした。敷地内に宿舎や共同の風呂、食堂もあった。2011年まで使われていたが、木々が茂って立ち入りできない場所になり果てていた。「村の中心部にあって廃墟のようでした」と振り返るのは、仕掛け人で事務局長の亀井秀樹さんだ。

亀井さんは福岡県で生まれ、オーストラリアで育った。高校進学に合わせて帰国し、学生時代にはヒッチハイクや青春18きっぷで全国を旅した。やがて海外広報の仕事に携わって人口減少や過疎の現状を知り、「自分にはふるさとがない」「地方を盛り上げる仕事をしたい」という思いが頭をもたげてきた。学生時代、起伏がなくどこまでも畑が広がる十勝の風景にオーストラリアと同じ雰囲気を感じたのを思い出し、「村」への憧れもあって移住。2014年4月から、地域おこし協力隊として勤務した。

レストランとゲストハウスが入る、リノベーションされた施設。右2枚はレストラン、左下はゲストハウスの1室レストランとゲストハウスが入る、リノベーションされた施設。右2枚はレストラン、左下はゲストハウスの1室

地域づくりは人づくり

授業の後の茶話会で、先生を囲んで交流する生徒たち授業の後の茶話会で、先生を囲んで交流する生徒たち

亀井さんは、地域おこし協力隊の仕事をしながら地域を元気にする術を見聞きする中で、「スーパー公務員」のようなスター的なプレイヤーに依存するのは限界があると感じた。「地元の人が、自分事として地域の課題を解決していく能力を培わないと長く続かない。まずは大人の意識を変えていくことが必要だ」と思うようになった。ただ、地方では情報をインプットする機会は都市部より少なく、挑戦しようにも仲間が限られるという現状もあった。そんな折、熱中小学校を創設した元IBM常務の堀田一芙さんと2015年6月に出会い、大人の学びの場や人づくりの取り組みに可能性を見出した。

亀井さんは翌年3月から検討を始めた。提案を受けた、教員出身の西山猛更別村長はその時を振り返り「これからは人だ。『これはいけるな』と直感しました。人づくりをしないと、持続可能な社会はできないですから」と話す。熱中小学校のバックアップを約束し、自身も駆け回った。検討を始めた7ヶ月後にはオープンスクール、その半年後には開校にこぎ着けた。

2018年度下期は地域再生の仕掛け人、牧場主、ミュージカル作家、地元新聞社の社長ら多彩なボランティアの先生が、生徒に刺激を与えた。十勝さらべつでは、全国の熱中小学校で教鞭をとっている先生だけでなく、自分たちで発掘した先生が半数を占めオリジナリティのある授業を展開している。授業をして終わり、ではなく、生徒や地域と継続的に関係を築いてくれる人を選ぶ。更別に来てくれたからには地域の人やモノを紹介したり、仕事につなげたりして、更別ファンになってもらうことを目指している。

部活動でビジネスの種をまく生徒たち

ピザ部の活動で新品種の小麦の種をまく様子(上)クレヨン部が作り、地元保育園に提供されたクレヨン(下)ピザ部の活動で新品種の小麦の種をまく様子(上)クレヨン部が作り、地元保育園に提供されたクレヨン(下)

「十勝さらべつ」の特徴の一つは、生徒が自主的に運営している部活動にある。

新品種の小麦を使ったピザを開発している「ピザ部」では帯広畜産大学と共同で育種し、畑づくりでは地元農家が協力している。「クレヨン部」では地元素材を使った「十勝の色クレヨン」の製品化を模索。ほかにも「豆研究会」や「グラノーラ部」「レーザー加工倶楽部」「野遊び部」「写真部」「EC研究会」などが活動している。

継続して「通学」する地元の生徒にとっても部活動の存在は大きく、「いろんな部活があって、有機的にみんながつながれる」「自分が普段やっていないことを経験できるから楽しいですね」と好評だ。西山村長も「確実に化学変化が起きている。何かをしたいという気概を持っている人が集まっていて、人をつなぐ核になっている」と、部活動の存在の大きさを物語る。

自立運営を目指すための交流施設

もう一つの特色はレストランやゲストハウス、スタジオといった存在だ。熱中小学校の授業だけでなく、事業を展開するのは十勝さらべつが唯一という。地域に欠かせない存在として収益を生み、授業を長く継続させるために当初から計画されていた。

授業は1期(半年間、22回ほど)で10,000円に抑えられていて、収益を生み出す仕組みにはなっていない。また、5年間の国の交付金(3億210万円)は2020年度に終了する。その後も自主財源を稼ぎ、「自立」させる必要があった。

2018年6月には十勝産食材にこだわるイタリアンをメインにした「熱中食堂」と、元国有施設の宿舎をリノベーションしたゲストハウスがオープン。地元との接点が増え、雇用が生まれるようになった。同時期に、コミュニティFM局が情報発信するスタジオと、ハーブの水耕栽培をするコンテナも新設。栽培事業は、養殖する魚の排出物を微生物に分解させてバジルとチャービルを育てる循環型農業で、熱中食堂でも提供している。既に校舎に併設されていたサテライトオフィスは国や東京大学、企業の研究者が利用し、大規模農業のメッカである十勝をフィールドに、AI農業などを研究している。学校を核にした複合施設に育ってきた。

「地方で何かを始めると、あっという間に広がる。東京と比べるとインパクトが違います。大きな挑戦がしやすいんです」という亀井さん。校舎や交流施設はとかち帯広空港から車で約10分という好立地にあるため、「道の駅のような機能を持った、北海道全域をつなぐハブになれれば」と青写真を描く。

更別村の人口は3,200人。開校で生まれた「関係人口」は年間3,200人に達するという試算もあるという。授業をきっかけに、学校を起点に、人づくりと場づくりが加速している。熱中した大人たちの挑戦は続く。

校舎の前に立つ事務局の皆さん。右から2人目が亀井さん校舎の前に立つ事務局の皆さん。右から2人目が亀井さん

2019年 05月13日 11時05分