日本人にとって、お正月とは

謹厳な師さえ走らずにはいられないほど忙しいとされる、12月。年末が近づくと、しめ飾り(注連縄)や門松を玄関に飾り、鏡餅を神棚などに供え、お正月の準備をするのが日本古来の伝統だ。
しかし「お正月飾り」は単なる習慣になってしまっており、それにどんな意味があるのかを気にしていない方もおられるだろう。お正月飾りを用意してはいけない日もあるので、その日にしめ飾りや門松を飾ってしまわないよう、知識を得ておきたいもの。
年末には少し早いが、お正月飾りの基礎知識をおさらいしておこう。

まずは日本人にとって、大晦日・お正月とはどういう日であると考えられてきたのか、見てみよう。
昔話には、大晦日の夜に福を授ける存在が、正直者の家を訪れるモチーフが散見する。例えばよく知られている笠地蔵は、正直者のおじいさんとおばあさんが、大晦日に体験した話だ。おじいさんは町で笠を売り歩くがまったく売れず、帰り道に雪の積もったお地蔵様を見つけ、気の毒に思って笠をかぶせる。そしてその夜、おじいさんとおばあさんが寝ていると、「正直者のおじいさんの家はどこだ」とお地蔵様たちが米俵や宝物を運んでくるというのだ。
また、一般に「大歳の客」と呼ばれる物語は全国に流布している。地域によってディテールは違うが、大晦日(大歳の日)の夜、宿を乞うた貧しい旅人が、正月の朝には金の塊に変わっているというのが大筋だ。実は旅人の正体は歳神様であったという。

つまり、新しい年を目前に、「歳神様」と呼ばれる異界からの旅人が訪れ、親切で正直な人に福を授けると考えられてきたことがわかる。お正月とは歳神様をお迎えする日なのだ。歳神様はお正月に間に合うよう、大晦日の夜に人々の家を訪れる。そして「お正月飾り」は、この歳神様を歓迎するためのものだと言われているのだ。

歳神様とは何か

正月や旧正月(節分)に舞われることの多い「翁舞」も、神の降臨を表現したものと言われている正月や旧正月(節分)に舞われることの多い「翁舞」も、神の降臨を表現したものと言われている

では、歳神様とはいったいなんなのだろう?昔話を見る限り、福を運んでくれる存在のようだが、秋田県では恐ろしいなまはげが大晦日にやってくる。なまはげもまた、歳神様の一形態であると言われていることを考えれば、単純に「歳神=福の神」とは言えない。
『徒然草』第十九段の中で兼好法師は、「大晦日の夜、故人が来る夜として魂を祭る行事は近年途絶えてしまった」と書いている。鎌倉時代、大晦日は死人が帰ってくる夜と考えられていたのだ。つまり、歳神様は一種の先祖信仰だと考えられる。身内だからこそ、正直な者には福を授け、怠け者には罰を与えるのだろう。

大晦日の日に訪れるのがご先祖様ならばなお、しめ飾りや門松などを正しく飾り、福を授けていただきたいものだ。そこで次に、しめ飾りや門松、鏡餅の意味と、飾るにふさわしい日を見てみよう。

お正月飾りの意味と飾り方

お正月には神社の拝殿にも門松が飾られるお正月には神社の拝殿にも門松が飾られる

お祭りの日、神社に参拝すると、砂山の上に笹や松の枝を刺してあるのを見かけることがある。これは「依り代」と呼ばれるもので、神が降臨する際の目印だ。依り代には松や竹が使われることが多い。つまり、歳神様の依り代が門松なのだ。ちなみに、松は常緑樹で、生命力が強いことから、また竹は節がありまっすぐに伸びることから、縁起のよい植物であるとされてきたと言われている。門松が玄関の目立つところに飾られるのは、こういった意味があるのだ。

門松が一般家庭に普及したのは平安時代の末期と言われている。当時の門松は、門の両脇に松、あるいは榊などの常緑樹をくくりつけたものであった。そこに竹が加えられるようになったのは鎌倉時代と言われ、現代の門松は梅や葉牡丹などを組み込んだ豪勢なものもあるが、その仕様は地方によりさまざま。一般的な家庭では、松を奇数本水引で束ね、門の両脇にくくりつけるという、平安時代から伝わる形で飾ると良いだろう。

しめ飾りには依り代の働きもあるが、それ以上に結界の意味が強い。「この家の中は清浄」という印になると同時に、疫病神が入ってこないよう、入り口を守っているのだ。
注連縄型のしめ飾りは一般に左巻になるように左捻りになるよう飾るのが正式。ただ、市販のしめ飾りは橙や紙垂などが飾られていて裏表を間違うことはないだろう。しめ飾りも歴史が古く、地方によりその形態はさまざまだ。関東では玉飾りと呼ばれる輪状のものがよく見かけられるが、これはお金をイメージしたものだと言われている。また東北地方のしめ飾りは餅や昆布、魚などを飾る豪華版だ。近年、これ以外にも様々なデザインのしめ飾りが見かけられるようになったが、「結界」と「目印」の意味は変わらないので、従来のものと同じように、家の入口の高い場所に飾ると良い。

鏡餅については諸説あるが、歳神様へのお供え物だと考えられている。
飾り方には地域性があり、一定ではないが、三宝の上に裏白を敷き、その上に二枚の丸い餅、頂上に橙を載せるのが一般的だ。その他、縁起物の昆布や干し柿などを飾る場合もある。お供え物なので神棚があれば神棚に、なければ玄関に飾ろう。

正月飾りに最適な日は

それでは、正月飾りはいつすべきなのだろう。絶対にNGとされているのは、12月29日と31日だ。伝統的に、お正月を目前に控えた31日に飾ることを「一夜飾り」と呼び、あまりにも急ごしらえで歳神様に失礼だと考えられてきた。そして29日の「9」は「苦」に通じ、「苦立て」と呼ばれて縁起が悪いとされるのだ。
基本的に、この2日以外ならば、年末のどの日に正月飾りをしても問題はないのだが、江戸時代は12月13日を「正月事始め」といい、門松に使う松や竹、正月料理に使う薪を山へ採りに行っていた。それに倣うなら、正月飾りは12月13日に飾るべしとなるが、現代ではそんなに厳密に考える必要はないだろう。

正月飾りの処分方法

さて、お正月も終わると、門松やしめ飾りを処分する必要がある。しかし神様を迎えるための縁起物をゴミ箱にポイ!……というわけにはいかない。それではどうすればよいだろう。
まず、処分するのは、「松の内」が終わるころ。地方によって7日から15日ごろと定められている。
そしてその頃、地方自治体や神社などで、数本の竹を組み、その中でお正月飾りを燃やすお焚き上げの行事が開催される。地方によって「とんど」「左義長」などと呼ばれるが、大晦日に訪れた歳神様を炎と共に天へ見送る意味を持つ。
町内会などで開催される場合もあるので、どこでお焚き上げが行われるか、確認してみればよいだろう。
また、地方によっては、一年中飾る場合もあるので、合せて確認してみると良い。

今まで習慣的に行ってきた正月飾りも、こうして見ると深い意味を持つとわかる。今年の大晦日は、伝統に則って正しく飾り、福をもたらす歳神様を呼び込みたいものだ。

近所の正月飾りを集めて山のように積み、火をつける「どんど焼き」の様子。</br>火を利用して餅を焼くなど、子どもも楽しみにする町のイベントとなっている地域もある近所の正月飾りを集めて山のように積み、火をつける「どんど焼き」の様子。
火を利用して餅を焼くなど、子どもも楽しみにする町のイベントとなっている地域もある

2014年 11月03日 09時55分