素通りされてきた中心市街地に、多様な人が集う拠点が誕生

中心市街地ににぎわいをもたらしたフラノマルシェ(上)とフラノマルシェ2(下)中心市街地ににぎわいをもたらしたフラノマルシェ(上)とフラノマルシェ2(下)

「富良野」と聞けば、ラベンダーやテレビドラマ、スキーリゾートと、人気のコンテンツがいくつも思い浮かぶ。年間200万人ほどが訪れる一大観光地だ。一方で人気スポットや宿泊施設は郊外に散らばり、中心市街地は観光客に素通りされてきた。だが近年は民間主導のまちづくりが根を張り、まちなかを歩く人が増え、雰囲気が変わってきたという。観光都市・富良野はどんなまちを目指しているのか、現地で探った。

JR富良野駅から歩いて約7分の、道路沿いに商店が続く中心市街地。芝生が敷かれ、パラソルやベンチが置かれた広場を囲むように、平屋の3棟が並んでいた。まちなかに人を呼び込み、市民が地元の食文化を楽しむための空間として、2010年に誕生した「フラノマルシェ」だ。産直のファーマーズマーケットや地元食材にこだわったカフェ、物産センター、テイクアウトの店舗などが入居する。店で買い物する客だけでなく、広場で遊ぶ子どもたちもいるのが印象的だ。

マルシェ誕生のきっかけは2007年にさかのぼる。中心市街地でも最良とされる場所にあった大型病院の移転を受けて、約2,000坪がぽっかり空くことになり、その活用策が有志で話し合われるようになった。地元企業や個人が出資して2003年に設立された「ふらのまちづくり株式会社」によると、これに先立って駅周辺の土地区画整理事業が2002年に始まったが、行政主導の「箱もの」開発となり、事業費55億円のうち30億円が補償費に充てられるなど資金の効率的な活用がなされず、かえってまちなかの衰退が加速した。

まちなかの衰退を受けて奮起した民間

行政主導ではない、民間の発想を取り込んだまちづくりを進めた西本社長行政主導ではない、民間の発想を取り込んだまちづくりを進めた西本社長

ふらのまちづくり株式会社の西本伸顕社長は「行政中心の再開発は、55億円を投じながらうまくいかなかった。病院の跡地問題では大型スーパーを入れる案もありましたが、そうすれば商店街が壊滅的になります。道の駅をつくっても、通過型になって、まちなかに呼び込めない…。官に頼る時代ではないし、民間の発想を入れなければと、仲間で検討を始めました」と振り返る。

もともと、まちなかの店舗は人口減やネット通販の普及、後継者不足で厳しい状況にあったが、西本社長は「富良野は超大型店がないのが幸いだった。頑張ればコンパクトシティとして再生できる可能性がある。今やらないと大変なまちになる」と考えていた。さらに、中心市街地を利用する観光客は6~10万人ほどにすぎず、ほとんどが通過している状態だった。「観光客を200万人とすると194万人を取り逃がしている状況で、それを取り込む知恵がないか、かねて議論はされてきました。そこで複数の集客拠点をつくり、きちっと稼ぐエンジンにして、にぎわいを点から線に展開していこうと計画しました」

変わり始めた、中心市街地の風景

計画を具体化させる中で、ブランドイメージの高い富良野の「食」に着目。立地を生かし、まちなかの回遊拠点として着実に収益を上げる仕組みを固めていった。2010年に「フラノマルシェ」がオープン。2015年には、全天候型アトリウムや保育所、サービス付き高齢者向け住宅を備え、店舗部分の上階を賃貸住宅とした「フラノマルシェ2」を開業させた。「2」では地元にこれまでなかった、日常使いできるフラワーショップや、贈り物を用意するときに便利な雑貨店も入り、地元住民の人気を集めている。

業績は予想を超えて伸びていき、両施設で今や年間120万人が足を運ぶようになった。この集客力を背景に中心市街地の新陳代謝が進み、撤退分を差し引いても、マルシェが誕生して以降は20以上の店が新たに増えたという。

マルシェはまちなかの風景を変えつつある。

富良野商工会議所やふらのまちづくり株式会社の調べでは、中心市街地の1時間あたり歩行者数はオープン前の2009年に2,162人だったが、2015年には3,873人になった。中心市街地の観光客数は2009年以前は10万人を切っていたが、2017年には120万人を超えるようになった。隣接地の地価は、2014年以降の6年連続で上昇し、2013年と比べると2018年は路線価で27.6%、基準地価で20%それぞれアップした。

「フラノマルシェ2」にある、全天候型のアトリウム。施設内には普段の生活を彩る店が並ぶ「フラノマルシェ2」にある、全天候型のアトリウム。施設内には普段の生活を彩る店が並ぶ

かつてのコミュニティを再生し、コンパクトシティへ

特筆すべきは、観光都市ながら、まず地元の満足度を高めることを主眼に置いている点だ。観光客も楽しめる場は、その先に実現できるという考え方に立つ。「観光とは光を見ること。観光客におもねるのではない。観光客も、地元の人が楽しんで暮らしているという『光』を見たい、中に入ってみたいと思うものです。普段の暮らしを見たい、あわよくば会話をしたい、と。そんな拠点を作ったんです」と西本社長は話す。

マルシェは「食文化」を通して、市民だけでなく観光客、事業者の老若男女が自由に集って楽しむ集客拠点を標ぼうし、ふらのまちづくり株式会社は、それを「まちの縁側」と呼んでいる。敷地内に貼ったポスターでも「まちの縁側です」と浸透を図っているほど。西本社長は「『なんか楽しいね』『住んでよかったね』と言われるまちにしたい。戦後すぐにあったような、世代を超えて人や店が集積するコミュニティの再生をして、歩いて豊かに暮らせるコンパクトシティをつくりたいですね」と青写真を描いている。

その展望に沿うように、富良野のまちなかは進化を続けている。2018年6月には、観光客を吸い寄せるべく、新たな「まちの縁側」が誕生した。

フラノマルシェの広場では子どもたちが遊び、市民の憩いの場になっているフラノマルシェの広場では子どもたちが遊び、市民の憩いの場になっている

2019年 07月07日 11時00分