旧小学校校舎を活用した交流センター&宿は地域に愛される施設

旧木造校舎と新しい宿泊施設と食堂の間には中庭があり、憩いの空間になっている旧木造校舎と新しい宿泊施設と食堂の間には中庭があり、憩いの空間になっている

和歌⼭県⽥辺市の市街地から⾞で約15分、⾥⼭・秋津野の集落に着く。ここには、「秋津野ガルテン」という施設があり、⼩学校の旧校舎を活⽤し、都市と農村の出会い・交流を目指す拠点になっていて、地域住⺠との交流を外国⼈旅⾏者等も楽しむなど、人気となっている。

秋津野ガルテンの「ガルテン」とはドイツ語で「庭」を意味する。この施設は、単なる観光や地域振興のみならず、地域住⺠も集える「庭」としての役割も担う。施設の位置する上秋津地区では地域課題を地域住民同士が議論して実行に移すなど、地域づくりの盛んなエリアであったからこそ、このようなコンセプトのもとで施設を作ることが可能となった。

敷地内には、2階建ての旧⽊造校舎がある。⻑い廊下を進むと、かつての教室があり、そこには昔ながらの机が並ぶ。各教室は、お菓⼦づくり体験⼯房や交流スペース、地域のみかん作りの歴史を紐解いたみかん資料室等に活⽤されている。⼀⽅、宿泊棟とレストランを2008年のオープン時に新築し、地元のお⺟さん⽅がつくるスローフードバイキング料理を提供する農家レストラン、そして全7室の「『農』のある宿舎」という宿が誕⽣している。

上秋津地区はもともと「地域づくり」の盛んなエリア、全国の視察を受⼊

さて、前述したように、この施設は、地域づくりが盛んな地区だったことが、秋津野ガルテン誕⽣に影響している。それは、明治時代、⼤⽔害で壊滅的な被害を受け、その後数⼗年をかけて住⺠が⼒を合わせて復興してきた歴史があるからだ。その協調精神から、1956年(昭和31年)の6村合併を機に、村の財産(ほとんどが⼭)を活⽤し、将来の地域の発展のために役⽴てようとする、社団法⼈上秋津愛郷会(かみあきづあいごうかい ※現在は公益社団法⼈へ変更)という和歌⼭県で初めての地域づくり組織ができた。

さらに1994年(平成6年)に地域づくり団体の「秋津野塾」が結成され、新旧住⺠が幅広い合意形成を図りながらより活発な村づくりへ取り組むこととなった。交流事業も盛んで、⽣産農家と住⺠との交流イベントも多く実施されている。
⾃分たちの住んでいる場所を良くしたい、それが上秋津地区住⺠の第⼀⽬標だ。秋津野塾では、地域の課題に繰り返し取り組んでいくことで、地域の⼈々も、地域づくりに関わるようになった。経済不安、若者の流出、後継者問題など、いろいろ話し合ってきたのだ。

秋津野ガルテンの全景。新しい建物も違和感のないデザインにしてある秋津野ガルテンの全景。新しい建物も違和感のないデザインにしてある

旧小学校の木造校舎の存続方法を地域が中心に考える

2000年になると田辺市は、上秋津小学校を近隣に新しく建てる計画を発表した。木造校舎が老朽化したからだ。一方で、跡地は宅地にする案が有力とされた。
学校は物理的にも精神的にも地域の真ん中にあり、旧校舎を保存すべきとの意見が秋津野塾であがった。そこで、メンバーは、その旨を行政に伝え、市長から「一回、どういったことができるか地域の皆さんで考えてください」という話を引き出した。

そして秋津野塾は、2002年(平成14年)外からの意見を求め、先進的な木造校舎に詳しい大学の先生や行政の方々等で「現校舎利用活用検討委員会」を組織し、約40名とディスカッションを繰り返し、その中で、木造校舎を宿泊施設にするプランが浮上した。しかし木造校舎は大き過ぎること、耐震性の問題があることから、交流、研修センターにして、別に宿泊施設とレストランを新築するプランに固まった。施設を運営する農業法人株式会社秋津野の⽟井社⻑は、「外からの発想がなければいきつかなかっただろう」と当時を振り返る。

市の⽅針としては、上秋津小学校は別に新しくできたので廃校という扱いではなく、跡地を上秋津愛郷会に安価で貸したり、市が運営する等の援助をすることはできないという考えだった。そこで、上秋津愛郷会が⼟地と建物を買い取り、施設の運営会社を同会で⽴ち上げることを提案した。⼟地の買取価格は約1億円と算出され、同会のなかで議論したところ、失敗したら誰が責任を取るのかと意⾒も出た。しかし失敗を恐れるよりも、今のうちに⼿を打つ必要があることを同委員会は訴えた。それは今後も農業を守り、地域が⽣き残っていけるようにするためだ。

地元の⾷材が⾷べられる⾷堂では、農家の主婦も運営に参加している地元の⾷材が⾷べられる⾷堂では、農家の主婦も運営に参加している

開業資金集めに成功し、外国人旅行者も利用する施設として根付く

議論を繰り返し、上秋津愛郷会の合意形成がなされ、2007年に⼟地と建物を同会が買い上げ、さらにリノベーションや新築をすることとなった。土地代にはこれまで同会が積み⽴ててきた資⾦、⽥辺市に貸していた⼟地との等価交換、建設資⾦については「農林⽔産省の農⼭漁村活性化プロジェクト⽀援交付⾦」を活⽤。地元では農業法人株式会社秋津野を⽴ち上げ、議決権のある地域内の株と地域外の応援団株を発⾏して、地元を中⼼に298名の出資者から3,330万円を集めた。それが⼝コミで広がり、希望者の声を受けてその3ヶ⽉後にさらに増資を⾏い、最終的には489名、4,180万円の出資⾦が集まった。

そしてついに2008年11⽉、秋津野ガルテンがオープンした。

現在、宿泊施設については、夏休みは空きがないほど好評で、週末は家族連れが多く、年間には2,700⼈から3,000⼈が泊まりに来ている。また研修施設の利⽤者を含めると外国⼈の割合も少なくないようだ。

外国⼈旅⾏者は⼤きく3つのタイプに分けられる。1つ⽬は、教育旅⾏だ。近隣農家14⼾と協⼒する農家⺠泊プランがあり、約2時間の農業体験付きで、2016年はマレーシア、2017年はオーストラリアからの修学旅⾏⽣を受け⼊れた。2つ⽬が、地域づくりを⽬的とした研修・視察だ。韓国を中⼼に地域づくり視察研修の受け⼊れを実施している。ジュースやジャムづくりの加⼯等の研修によって、六次産業を⽬の当たりにでき、同国も地⽅が過疎化で深刻な問題になっていて、積極的に学ぼうと質問も多いそうだ。3つ⽬が、熊野古道参詣道への拠点としての受け⼊れだ。一般社団法人⽥辺市熊野ツーリズムビューローとも連携し、熊野早駈道(くまのはやがけみち)を紹介している。

オーストラリアからの研修受け⼊れでは、みかんジャム作り体験を提供しているオーストラリアからの研修受け⼊れでは、みかんジャム作り体験を提供している

現状に甘んじず、来年に向け、ICTなど、次なる一手を繰り出す

併設のシェアオフィスの完成予想図併設のシェアオフィスの完成予想図

今後の展望として、持続可能な地域づくりを考えれば、これから先の10年を⾒据えた地域づくりが必要と、⽟井社⻑は⾔う。オープンから10年となる2018年は、思いきった⼤きな投資を検討しているそうだ。

⼀つは⾏政と連携したICT企業誘致だ。ガルテンの中に4つオフィスを計画していて、5⼈から10⼈ほど賃貸の⼊居が可能。なぜ、農村地でICTを推進するのか。それは地域の⾼齢化、労働者不⾜は緩和しないと想定され、ICTと農業をつなぐことによって少しでも⽣産性を維持、発展が出来ればと考えているためだ。さらにUターン、Iターンに結びつけば、若者⼈⼝の拡⼤が期待できる。

また、インバウンド、スポーツ観光等、新たな利⽤者が増え、宿泊施設も増設予定だ。
投資額は施設の改修も含め、総額約9,000万円となる予定で、建物の予算は、1/3ずつを県と市とガルテンで負担する。2019年の1⽉には竣⼯だ。

「地域農業も、⾼齢化、労働⼒不⾜等で⼤変な時代です。これを少しでも解決する取り組みが必要であり、その為の新たな仕組みづくりが課題だと考えています」⽟井社⻑の意気込みである。

2018年 10月13日 11時00分