空き校舎になった小学校をどうするか

青森県の南西部にある中津軽郡西目屋村は、人口1,400人ほどの小さな村だ。ブナの原生林を有する世界自然遺産、「白神山地」の玄関口として知られている。

この村の唯一の中学校が、生徒数の減少により2015年に閉校になった。弘前市に事務が委託され、生徒たちは弘前市の中学校に通学することに。それにより、西目屋小学校の生徒たちは隣の中学校の校舎に引越すこととなり、小学校は空き校舎となったのだ。

「空き校舎になることが決まった2015年に、西目屋村の村長の関さんから声をかけてもらいました。『西目屋には働く場所がないと感じて村を離れてしまう若者が多い。ものづくりに触れられる場所が身近にあれば、村で働きたいと思う子どもたちが増えるかもしれない。校舎を活用したいから協力してほしい』と。」

そう話すのはブナコ株式会社 代表取締役の倉田昌直氏。ブナコ株式会社は、ブナの木を加工した工芸品BUNACOを制作・販売し、高いデザイン性が日本だけでなく海外でも高く評価されている。倉田氏はその話があったとき、すぐ、BUNACOの工場として空き校舎を活用することに合意したと言う。
この活用によって、空き校舎はどうやって生まれ変わったのだろうか?現在の校舎の様子を見に行った。

旧西目屋小学校旧西目屋小学校

青森県の形をしたテーブルが出迎えるカフェ

「西目屋村はBUNACOの材料であるブナの天然林を有する白神山地や、岩木川の源流があります。自然に恵まれて非常に環境がいい。小学校のすぐ裏には山が茂り、ブナを使った製品であるBUNACOの"ものづくり"を伝える場として、西目屋村は合っていると思いました。ここなら観光にきた人にも、製品の良さを知ってもらえて、この場所の良さも伝わると思います。子どもたちや観光客がものづくりに触れられるよう、工場は見学できるようにしています。」

さらに、関村長からの「BUNACOの商品を飾った、たくさんの人が利用できるカフェを作ってほしい」というリクエストを受けて、小学校はBUNACOの工場とカフェを兼ねる施設にリノベーションされ、晴れて2017年4月にオープンしたのだ。

カフェは1階の元給食室をリノベーションしてつくられた。大きなブルーの青森県の形をしたテーブルが出迎える。このテーブルは、2016年に亡くなったインテリアデザイナー内田繁氏の遺作である。BUNACOの照明も使われ、インテリアにこだわったカフェが出来上がった。20人ほどが利用できる規模の大きめのカフェは、これまで西目屋村になかったそうだ。取材当日もお客さんで賑わっていて、村の人たちの交流の場所としても利用されているようだ。

小学校の給食室が地域の人が集まるカフェに。青森のリンゴを使ったデザートなど、ご当地のグルメも楽しめる小学校の給食室が地域の人が集まるカフェに。青森のリンゴを使ったデザートなど、ご当地のグルメも楽しめる

BUNACOをつくる工程が分かる工場

工場は校舎の1~2階の教室を活用してつくられた。教室ごとに工程が分かれ、つくる順番ごとに職人のものづくりを見て、BUNACOがどんどん製品になっていく様子がわかる。

まず、ブナの木を大根のかつらむきのような方法で、厚さ1mm、長さ約2mの薄い板(単板)の状態にする。それをさらにテープ状に加工する。
ブナは水分が多く狂いやすいため、建築には向かない木材とされ、"役に立たない木"とも言われてきた。BUNACOは、このブナを薄いテープ上に加工してから制作する独自の方法により、狂いや割れが発生することを抑えている。ブナの木を有効活用する画期的な方法である。

テープ状になった木を巻き付け、コイル状の円盤にしていく工程を見せてもらった。くるくると、バウムクーヘンのように木と木を繋いで巻いていくのだが、その作業の早さに驚いた!職人さんは器用にも話しながら手を動かしている。「慣れてくれば、巻きながら説明をするのも全く問題ない。」とのこと。
巻く強さを部位によって調整し、全体の形が変わらないようにうまく木と木を繋げて巻いていくのだ。巻きが終わったものを見せてもらったが、つなぎ目があることはよく見ても分からないほどだった。

左上:厚さ約1mmに加工されたブナの木と、それをさらにテープ状にカットしたもの。テープ状の板を巻き上げて平面にする<br>右上:くるくると巻き上げながら説明をしてくれる職人さん。小ぶりなものであれば、1時間で10個くらいつくれるそうだ<br>左下:場所によって力の加減を変えながら素早く巻いていく<br>右下:巻き上げの作業が終わった状態。木と木を繋ぎ合わせているのだが、よく見てもつなぎ目は分からなかった左上:厚さ約1mmに加工されたブナの木と、それをさらにテープ状にカットしたもの。テープ状の板を巻き上げて平面にする
右上:くるくると巻き上げながら説明をしてくれる職人さん。小ぶりなものであれば、1時間で10個くらいつくれるそうだ
左下:場所によって力の加減を変えながら素早く巻いていく
右下:巻き上げの作業が終わった状態。木と木を繋ぎ合わせているのだが、よく見てもつなぎ目は分からなかった

ほぼすべての工程が手作り。職人の技が間近で見ることができる

次に、バウムクーヘンのようになった平面の巻き板を押し出して立体に形を作っていく。力加減が難しく、熟練の技が必要な作業である。平面の巻き板に角度をつけていくのだが、茶碗の湾曲がぴったりだそうで、くるくると回しながら茶碗を沿わせて綺麗なカーブが出来上がっていく。茶碗が入らない細かな部分は小さい棒を茶碗の代わりにし、目をつんで揃えるヘラも利用して成形をする。

この後、乾燥や木地の研磨、穴埋め作業、パーツの組立て作業、製品検査を経てBUNACOは完成となる。木がどんどん変化していく様子や、時間をかけて丁寧につくられていくのを間近で見られるというのはなかなかない機会だ。

みなさんのあまりの正確な手の動きに驚いたが、西目屋工場で働く職人さんは長くても3年くらいの方だそうだ。工場の開設に伴い、西目屋村から9名の方が就業し、そのなかには小学校の卒業生もいるそうだ。

お茶碗で大まかに形を作った後、小さい棒やヘラなど使って細かい微調整をする。ランプやスツールなど、商品によって角度・大きさがそれぞれ異なるので型を用いて、統一する。決められた高さになっているかもチェックお茶碗で大まかに形を作った後、小さい棒やヘラなど使って細かい微調整をする。ランプやスツールなど、商品によって角度・大きさがそれぞれ異なるので型を用いて、統一する。決められた高さになっているかもチェック

子どもたちがものづくりに触れる場に

工場では、BUNACOの作り方を職人さんに教わり、自分で器を作るワークショップを開催している。JR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」の観光ツアーにこの体験型プログラムが採用されるなど、西目屋村のひとつの観光スポットになりつつあるようだ。

また、工場ができたことにより、近所の子どもたちが「見学させてください」と何度も訪れているという。卒業生も見学に来て、みな「懐かしい」と口にしているそうだ。もしかすると、この子どもたちから将来BUNACOの職人が誕生するかもしれない。

「恵まれた環境である西目屋村を子どもたちが誇りに思ってくれて、『ここで就職したい』と言ってくれたら嬉しいですね。少子化の影響で、西目屋村に限らず空き校舎がどんどん増えています。用途が決まらなければ、校舎は解体することになる。費用をかけて解体しても、ただ更地になるだけで何も残りません。空き校舎活用のひとつの事例として、参考にしたいという方向けに見学も受け入れていきたいと思います。これまで、BUNACOの事業では県など、多くのサポートをしてもらってきました。ここに観光や見学などでたくさんの人に訪れてもらい、少しでも貢献できればと思います。」と、倉田氏。

文科省によれば、平成14年度から平成27年度に発生した廃校の数は6,811校。そのうち、活用の用途が決まっていないのは1,260校で、全体の2割以上を占める。
LIFULL HOME'S PRESSでも、これまで廃校の再生を取材してきたが、地域の特色ある活用例が増えてきた。継続的に人を呼びこむことはできるのか、運用をどうするのか。課題は多いが、新しい発想の廃校活用は、そのまちの魅力となる大きな可能性を秘めている。

音楽室がスピーカーの視聴室に、給食室がカフェに、小学校の名残があちこちに見られる。オルガンや授業で使った大きなそろばんがある風景が懐かしい。小学校のチャイムもそのまま、今は職人さんたちにお昼の休憩時間を知らせている音楽室がスピーカーの視聴室に、給食室がカフェに、小学校の名残があちこちに見られる。オルガンや授業で使った大きなそろばんがある風景が懐かしい。小学校のチャイムもそのまま、今は職人さんたちにお昼の休憩時間を知らせている

2017年 09月26日 11時05分