住宅をリノベーションしていない無差別級最優秀賞

木材の流通から始めて団地の空き店舗までをリノベーションした「流通リノベとシニア団地」木材の流通から始めて団地の空き店舗までをリノベーションした「流通リノベとシニア団地」

リノベーション・オブ・ザ・イヤーの主催はリノベーション住宅推進協議会である。つまり、住宅のリノベーションがお題。だが、5回目の今回、授賞式に参加し、ノミネート作品を見ているうちに、おや?と思うようになった。住宅ではないリノベ事例が数多く含まれており、しかも、それがどれも魅力的なのである。

もっともそれが分かりやすいのは無差別級部門で最優秀賞を射止めた「流通リノベとシニア団地」(タムタムデザイン)だろう。なにしろ、作品を表す画像は積まれた材木とその前に立つ男性たちなのである。どこにも住宅はない。疑問を持つのは当然だろう。

この作品は従来、根元の曲がりが大きいので商品価値が無いとされてきた「林地残材」を、施工者が山まで足を運び、材にするまでの流通過程をいくつかスキップして施主に届けるというやり方で流通をリノベーション。さらにそれを使って築40年を超えるUR団地の1階、入居者世帯と同様に高齢化していた空間をリノベーションした。生まれたのは元作業療法士である施主が開く惣菜店とイートインコーナー、健康器具コーナー、ディサービスである。

つまり、この作品がリノベーションしたのは住宅ではないのはもちろん、建物ですらない。流通なのである。その結果として空間とその使い方も再生されているが、一連の流れが作品と考えると、明らかにこれまでとは違うスタイルである。

この建物を残したいという気持ちからの始まり

緩やかなカーブを描く印象的な建物を外から、内側からそれぞれ見たところ緩やかなカーブを描く印象的な建物を外から、内側からそれぞれ見たところ

もうひとつ、総合グランプリを受賞した「扇状のモダニズム建築、桜川のランドマークへ」(アートアンドクラフト)も建物の一部に住宅はあるものの、全体としては複合ビルである。それに、作品の概要を読んでみると、このリノベーションが最終的に目指したものは住戸の再生ではなく、ビルそのものや地域の再生のように思われた。以下、ざっくりと再生の経緯をご紹介しよう。

この建物が住宅と店舗、オフィスなどの併存住宅として建てられたのは1958年。60年ほども前の、まだ多くの住宅が木造の低層住宅で、数としても足りないと言われていた時代である。当時、国は土地所有者に住宅金融公庫の中高層建築物融資を利用して、これからの賃貸経営の手本となる建物を建てることを推奨していた。そのひとつが今回リノベーションされた新桜川ビル。おそらく、竣工当時は憧れの目を向けられた建物なのだろう。

その後、周辺の環境は激変した。一番大きな変化は半円を描く建物の外壁に合わせて、巻き付くように走る阪神高速道路15号堺線だ。竣工後10年ほどして建設されたそうだが、この高速道路と建物の曲線を見上げたエントリー写真からは変化の激しさ、それに翻弄されてきた建物の歴史が読み取れた。高速に近いうるささからだろうか、まちのイメージも変わり、リノベーション前には半分以上が空室という状態で、所有者は当初建替えも検討していたという。

だが、依頼されたアートアンドクラフトはモダニズム建築として知る人ぞ知るこの建物を取り壊すのは忍びないと考えた。その結果、甦った建物は地域のランドマークとしての姿を取り戻し、今では満室稼働に加え、空室待ちの人までいるという。建物、地域、そして歴史をもリノベーションで取り戻したと言ってもよいのではなかろうか。

新築を凌ぐ高性能な住宅も可能な時代に

今回のエントリー作品の中には新桜川ビル以外にも古い大型建築物を舞台とした地域や歴史の再生がいくつかあった。熱海の景勝地に建つ昭和戦前期の別荘建築「陽明館」、戦後に焼け野原だった川崎市の日新町に建てられた企業の本社ビルの再生「unico」、大阪の築88年の三軒長屋を複合施設にした事例などである。また、隅田川沿いのオフィスビルを宿泊施設に改装した事例「LYURO東京清澄」では川と人の関係や水辺空間の使い方が再生、再発見されていた。リノベーションの対象は住宅のみに留まらず、大きく広がりつつあるのである。

実際、授賞式後の懇親会では副会長であるブルースタジオの大島芳彦氏が、協議会の名称から住宅の文言を外すことを示唆した。2015年のグランプリにホシノタニ団地が選ばれ、住戸ではなく団地を、団地を通じて地域を変えたことが評価された時点で、いずれは住宅に留まらない活動に広がっていくことを予感してはいたが、やはり、である。

もうひとつ、今回の受賞で変化を感じたのは1000万円以上部門で最優秀賞作品賞を受賞した「光。空気、気配、景色。すべてが一つにつながる 代沢の家」(YKK AP)、超高性能エコリノベ賞を受賞した「パッシブタウンで『一生賃貸宣言』しませんか」(YKK不動産)である。

代沢の家は築30年、木・鉄筋コンクリート造地下1階付2階建ての一戸建てを開口部を残したまま、現状では最高レベルといっても良いほどのエネルギー性能、耐震性能を備えた住宅にリノベーションしたもの。パッシブタウンも賃貸という概念を越えた高性能が売りである。ここ2年ほど性能にこだわるリノベーションが評価されてきたが、中古でもやり方次第で新築を凌ぐ性能の家が手に入る時代になったのである。

左上から時計回りに陽明館、LYURO東京清澄、代沢の家、unico左上から時計回りに陽明館、LYURO東京清澄、代沢の家、unico

家を変えたら生活が、仕事が、人生が変わった

今後は働き方と暮らし方が互いに影響しあいながら社会を変えていく可能性があることを示唆してくれた物件「てとてと食堂」今後は働き方と暮らし方が互いに影響しあいながら社会を変えていく可能性があることを示唆してくれた物件「てとてと食堂」

加えて、語弊を恐れずに言うと、これまで中小の、若い企業中心の協議会にYKK APのような大手・老舗企業が加わり、そこが新しい道を切り開いたという点も大きいのではないかと思う。受賞に当たり、同社担当者は「新築では一定以上のシェアを得ている高性能サッシが既存住宅ではまだまだ」というような悩みを口にした。リノベーションに強い他社と組むことでそこに突破の可能性が開けたのだとしたら、後に続きたい建材メーカーは多数いるはず。中古住宅の性能を向上させたいと考えるリノベーション会社からしても、そうした動きは歓迎すべきものだろうと思う。

リノベーションが可能にした未来という意味で審査員特別賞のひとつ、素敵ライフスタイル賞を受賞した「てとてと食堂、はじめます」(リビタ)にも触れておきたい。これは自宅で料理教室や食事会を開催する料理好きのご夫妻の自宅リノベーション。こだわった空間を作り、本腰を入れて活動を始めて1年。法人化を考え始めたほど盛業で、リノベーションで手に入れた理想の住まいが、生活はもちろん、仕事、人生までも変えそうだという。多くの人が仕事を主に、利便性などを考えて住まいを選ぶが、実は住まいを主に、仕事を見直すと発想を転換してみると、意外な未来が生まれてくるのかもしれない。

間取り図が見たいと思う事例も多数

フォトジェニックな表現が評価された「100+∞」と個人的に気になった本棚のデザインフォトジェニックな表現が評価された「100+∞」と個人的に気になった本棚のデザイン

最後に事務局への要望と個人的な感想などを。要望は間取り図が見たい、この点である。どの事例も写真を見ながらどこがどう変わったのだろうと眺めるのだが、たまにどうしても全体が分からず、もやもやする事例がある。

たとえば、今回ベストデザイン賞の「100+∞(無限大)」(タムタムデザイン)で多くの人を魅了したRが続く廊下(だろうか)は一体どの部分をどう撮ったものか。あるいはグッドコンバージョン賞の「銀行を住まいにコンバージョン」(オレンジハウス)は銀行元々の姿がどう変わったのだろうか。すばらしい事例であればあるほど、ウチもこうしたい、こういうやり方があるのかと参考になるはず。ぜひ、次回以降、間取り図も一緒に見せていただければ嬉しい。

今回、事例で特に気になったのが本棚を始めとする壁面収納だった。新築マンション、建売住宅などでは衣類、靴や食器などにはそれ用の収納が用意されるが、本その他、個人の趣味に属するようなモノの収納は自分で考えるしかない。特に本は奥行きが浅く、他の収納とは異なる。だからリノベーションでしか実現できないのだろうが、「本で彩る壁」(i・e・sリビング倶楽部)のように、見せる収納としての本棚にはまだまだ可能性がある気がする。本好きとしてはさらなる発展形に期待したい。

2018年 01月26日 11時05分