進む再開発、変わりゆく都市

都市の再開発が進んでいる。
国土交通省では、市街地再開発事業の目的を『都市再開発法に基づき、市街地内の老朽木造建築物が密集している地区等において、細分化された敷地の統合、不燃化された共同建築物の建築、公園、広場、街路等の公共施設の整備等を行うことにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図る』としている。

確かに戦後、住宅不足の中で急速に都市が発展し、込み入って建てられた住宅街には防災上危険な地域も多くみられる。今後、人口減が加速度的に進む中、空き家問題なども含めると、老朽化した都市をそのまま放置しておくことは大きな課題となる。地域にとっての大きなリスクとなりえることは事実である。

その一方、都市の再開発は古くから残る「良い部分のまちの特色」を変えてしまう要素も、少なからず孕んでいるといえる。
2016年1月に、武蔵小山駅東口を出て正面にある路地裏飲み屋街の一角、りゅえる一帯の既存建築の解体が始まった。昭和の雰囲気が残る場所であり、込み入った路地にあるなじみの店が解体されることに複雑な思いをもつ人々も多い。

都市は、いかにして魅力のある場所として成立しているのであろうか?そして、我々がこれから求める都市とは、どのようにあるべきなのであろうか?

2016年1月14日、築60年の木造アパートを改修した台東区の文化複合施設「HAGISO(はぎそう)」で、都市を考える目線をもつ二人のセミナーが行われた。
HOME'S総研所長の島原万丈氏と一般財団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表で内閣官房 地域活性化伝道師の木下斉氏によるセミナーである。そのテーマは、「官能都市×ナイト・タイム・エコノミー 〜官能性と夜間文化経済からみる世界の都市、日本の都市〜」。新たな観点で都市を語る、二人のセミナーに参加してきた。

島原氏、木下氏…それぞれがもつ「都市への目線」

HOME'S 総研所長 島原万丈氏(左) 一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事 木下斉氏(右)HOME'S 総研所長 島原万丈氏(左) 一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事 木下斉氏(右)

島原万丈氏は2015年「Sensuous City[官能都市] ―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」という、都市を動詞ではかった調査報告書を発表した。

「もともと都市をテーマに調査を始めたきっかけが、都市に生きる生活者が感じる良いまちと、都市計画が考える良いまちとの間にあるギャップでした。センシュアス・シティ・ランキングは、都市の序列、順位付けそのものを目的にしたわけではありません。人間がより実感をもてる魅力のある都市とはどのようなものなのか…都市を見る価値や軸をずらし、人間らしい物差しがほしかったんです。
これまで、公園面積や財政力数といったスペック的な視点から評価され、結果的にランキングが低かった都市も、評価の基準を変えることで、良いまちとして捉えられるケースが見られました」と島原氏はいう。

一方、木下斉氏は、夜間文化経済"ナイト・タイム・エコノミー"という考え方で、都市の中心部再生のひとつの方法を提示している。

「先進国で進む職住近接、都心回帰によって、それまで通勤に費やしてきた時間が消費の時間となります。一方で、イギリスを例に挙げると、インターネット市場の急伸により、『購入』という物の消費の都市中心部の役割が希薄化しているんです。そこで、都市中心部の役割を夜間の飲食や映画などの『体験』に基づくビジネスを集約し、同じまちの歩ける範囲の中で夜間でも安全に楽しむことができるまちにシフトして、経済を活性化していこうという取り組みが始まっています。

夜間の飲食サービスは、卸小売と比べて粗利率が高く、インターネットに代替されにくいといえます。小規模でも経営が成立し、必要な不動産の規模も相対的に小さくて済みます。日本においても、"ナイト・タイム・エコノミー"戦略は、観光産業とセットで考える外貨獲得策として、目を向けなくてはならないと思います」と木下氏は語る。

「都市の官能性」と「夜間経済」という異なる目線であるものの、二人は奇しくも"魅力ある都市とは?"ということに向き合ってきたのだ。

現在の都市再開発の目に見える現状

島原氏:「Googleの画像検索で、『駅前再開発』と検索してみてください。この検索された画像の結果を見ると、いったいどこの都市なのかが区別がつかなくなっています。
つまり、駅前再開発された都市は画一化され、どこも特色がなくなっているんです。これらの都市計画を見ると、広い道路を作り、駅前ロータリーを整備、小さな街区の密集エリアを統合して、土地の高度利用で商業・オフィス・住宅・公共などの複合施設を作るといった、どれも同じでコピーアンドペーストの世界になっている。まずはこのあたりから見直すべきではと思うのです」。

木下氏:「幅が何mの道路をつくる、緑地率を稼ぐといったような作業を遂行していけば、画一的なものができるのは当然です。誤解を恐れずに言えば、マニュアルをただ遂行していく真面目な人々が都市を画一化していると言ってよいと思います。

都市は何のために、誰のためにあるのか、ということを考えず、画一化されていく都市に何の疑問も呈さない。真面目に、マニュアル的にやっていくことを重要視するまちづくりからのオリジナリティの創出というのは、難しいのではないでしょうか。

マニュアル的に進めるとともに、こうした駅前再開発を推し進める人たちの中には、従来のまちづくりの価値観のもと地域活性を考えている人が多いのです。従来のまちづくりの活性化とは、"きれいで大きくて新しいもの、高付加価値(物販)、大資本・チェーン店舗が上である"というものです。今後の都市需要の変化を考えずに、高度経済成長化で行ってきた大規模再開発と同じような投資をしてつくり、結果、市場性がなく人々に支持されない、収益性に大きな課題を生むケースが続出しています。

どの都市にもどの地域にも同じものがある…都市に汎用品が溢れる状態なったときに、センシュアス・シティ・ランキングのような評価をすると、逆に残ったところが希少性が高くなり、相対的に評価があがる状態になるという…実に皮肉なことが起こっていると思います」。

「駅前再開発」を画像検索すると、画一化された風景が並ぶ結果に…。どの都市の駅前なのか見分けがつかない「駅前再開発」を画像検索すると、画一化された風景が並ぶ結果に…。どの都市の駅前なのか見分けがつかない

人とまち、を考える~官能都市とナイト・タイム・エコノミー

オープンテラスが多く、夜も賑わうポルトガルの夜景オープンテラスが多く、夜も賑わうポルトガルの夜景

島原氏:「先日、ポルトガルの首都リスボンに行ってきました。まちのいたるところにオープンテラスがあり、夜中にも関わらず、ちょっとした隙間を見つけて外で人々が飲み語らうという、にぎやかなまちでした。

日本では建物と通りを隔絶したつくりが多いのに対し、海外の都市は、景観を守りながら外部との曖昧な境界を作っています。まちの中を巡る動線を含め、公共空間の活用が上手だと感じました。皆一人ひとりが、夜間の飲食を通じて語らいをいかに楽しむかを考えている気がしました。

日本は飲食店のテナントもビルの中に埋もれてしまっており、建物と通りを隔絶されていることが多いと思います。特に再開発されたビルに入っている大手飲食チェーン店は、個人商店と比べて閉店時間も早い場合がほとんどです。だから日本に帰ってきたとき、なんて禁欲的なまちなんだと感じました(笑)」。

木下氏:「いまだに日本のまちの仕組みは、真面目すぎる価値観で決められてしまっています。河川敷のバーベキューはいけない、昼間からのアルコールはいけない、という禁欲的であることが良いと捉えられている。まちに暮らす楽しみを奪うような考えではなく、いい意味での欲をもっと出していくことが大切だと思います。

日本はいまでこそ、産業的に劣っているといわれた時代から高度経済成長を経て一定の資産を持つ国になりました。これまで真面目で禁欲的が良いとされていた価値観をすぐに転換することは、実は難しいことでもあるのです。

だからこそ、島原さんが提示するセンシュアス・シティ・ランキングによる価値基準の明確化は重要なんです。都市の評価軸は、一面的にスペックで評価されるものではなく、人間の五感や生活のライフスタイルによって、商売のやり方が変わる可能性があると思います」。

島原氏:「センシュアス・シティ・ランキングが提示する新しい都市の価値基準は、生活者の体験、実感を伴った都市との向き合い方に、一石を投じる議論になると思っています。

そして、まちづくりや都市開発に携わっている人たちこそ、もっとまちに繰り出して、まちで過ごす楽しさ、雰囲気を感じる感覚を、いま以上に掴んで欲しいですね」。

本当の都市の再生には何が必要なのだろうか?

世界中の魅力的な都市には、必ず人の五感を震わせる官能性があり、昼間だけでなく夜間にも素晴らしい文化と経済が成立している。

都市をスペックだけで見るのでなく、またノスタルジーだけで語るのでなく、本当の都市の再生には何が必要なのだろうか?島原氏の「都市の官能性」と、木下氏の「ナイト・タイム・エコノミー」。提示されたこの2つの考え方は、新たに日本が魅力的な都市を生み出していく上で、一つのきっかけを与えてくれるのではないか、と期待する。

だが、なによりも私たち都市に暮らす生活者自身が、「暮らし、生活を豊かにするためのまち」を意識して考え、「まちを感じる」ということからはじめることが、魅力的な都市を創る一歩なのかもしれない。

国内外の都市計画の事例を中心に、3時間以上に及ぶ熱いトークが展開された国内外の都市計画の事例を中心に、3時間以上に及ぶ熱いトークが展開された

2016年 03月08日 11時05分