空き店舗を再生し“まちの社交場”として機能してきた「UCO」が閉鎖へ

「UCO」で使用していた家具を利用し生まれ変わった「NUCO」の店内(筆者撮影)「UCO」で使用していた家具を利用し生まれ変わった「NUCO」の店内(筆者撮影)

2016年から名古屋市港区の築地口一帯で行われている「アッセンブリッジ・ナゴヤ」(※1)。
名古屋市と港まちづくり協議会などの団体で構成する実行委員会が主催しているもので、1年に1度、2ヶ月間にわたって、まち全体を巻き込んで行われるクラシック音楽と現代アートのフェスティバルだ(2019年の開催日程は記事末に記載)。

今回は2016年の第1回から継続しているアートプロジェクト「UCO(ユーシーオー)」に焦点を当ててみようと思う。「UCO」とは、簡単に説明すると港まちで約20年間空き家となっていた「潮(うしお)寿司」の店舗をリノベーションしたカフェで、さらにそこから派生した様々な活動をする“まちの社交場”のこと。

「アッセンブリッジ・ナゴヤ2016」から、アーティストユニットL PACK.(※2)のプロジェクトとしてこの空き店舗を再生させた。
当初、会期中のみの開催だった「UCO」は会期後も継続して運営されることとなり、地域の人が利用するカフェと作品の展示やワークショップを行うアートスペースとして機能し、“まちの社交場”となっていった。まさに、「アッセンブリッジ・ナゴヤ」の象徴的なプロジェクトだった。
「だった」というのは残念ながら2018年10月をもって「UCO」は閉鎖されてしまったから。建物の老朽化などの理由から取り壊され、今はコインパーキングとなっている。

しかし、紆余曲折を経て、2019年6月、新たな「UCO」=「NUCO(ニューシーオー)」としてオープンした。そこにはどんな背景があったのだろうか。

「アッセンブリッジ・ナゴヤ」でアートのプログラムディレクターを務める吉田有里さんと、建築家として同フェスティバルに参加する米澤隆さんにお話を伺った。

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※1)「集める」「組み立てる」という意味の「アッセンブル(assemble)」と「ブリッジ(bridge)」を組み合わせた造語「アッセンブリッジ(assembridge)」には、音楽やアートが架け橋となり、まちと人が出会いつながることで新たな文化が育まれていくようにとの想いが込められている。2018年には、まちに暮らす人や働く人とともに「港まちお助け隊会議」を発足し、地域と共同で取り組みを進める体制もスタートした。

※2)L PACK.(エルパック)/横浜市を拠点に活動する小田桐奨さんと中嶋哲矢さんのアートユニット。「コーヒーのある風景」をテーマに、アート、デザイン、建築、民藝などの思考や技術を横断しながら、各地でコミュニティの場づくりを展開している。

「痛みを伴う」閉鎖を乗り越え「NUCO」として新たなスタート

地域の社交場となっていた「UCO」。2018年に開催された「UCOマーケット」では、店舗の裏庭会場だけでなく、築地公設市場内、近隣のガレージにも出店エリアを拡大し大盛況だった地域の社交場となっていた「UCO」。2018年に開催された「UCOマーケット」では、店舗の裏庭会場だけでなく、築地公設市場内、近隣のガレージにも出店エリアを拡大し大盛況だった

「2016年からL PACK.のふたりを中心に作ってきた空間が『UCO』でした。まちの人が毎日ふらっとコーヒーを飲みに来てくれたり、港まち手芸部の方が展示や編み物会を開催したりと、3年間の活動の中でまちの人とアートプログラムが混ざり合ういい形が育ってきている時期でしたので、閉鎖が決まったときはとても残念でした」(吉田さん)

解体は精神的にも肉体的にも「痛みを伴うものだった」と米澤さんも振り返る。
建築学科の学生や一般の参加者を募り、真夏のハードなワークショップを経て完成した店舗が、ようやく軌道に乗り始めたところで解体とは。無念さは想像できる。

「でも、建物とともにまちの人たちとの交流まで消失してしまうのはもったいないですし、なんとか別の場所で再開できないものかとみんなで話し合い、場所を探して再開させたのが『NUCO』です」(吉田さん)

再生の場所となったのは、「UCO」の向かいにある、かつて編み物教室だった建物。
「実はその前に地元ではなじみの深い旧・喫茶千代田を一時的に借りて運営を続けてはいましたが、台風に襲われて修理に相当お金がかかる状態になってしまいましたので、こちらも結局中断することになってしまったんです。なかなか思うように進まず、当時は相当なジレンマを抱えていましたね」(米澤さん)

ようやく新しい場所を見つけた後は、約2ヶ月かけて改修が行われ、L PACK.が再び意匠や使い方をデザインし2019年6月のオープンに至った。

建物がハブになり人が集う。まちを学び、社会を学ぶきっかけに

『NUCO』となった建物は三軒長屋の真ん中。2階建ての建物だ。

「1960~70年代がこのまちが商業港として栄えていたピークで、1980年代には金城ふ頭の埋め立てが始まり、そのころに建てられた長屋がたくさんあるのがこの地域の特徴です。『UCO』も『NUCO』もそういった長屋の名残です」(米澤さん)

『UCO』のリノベーションに端を発し、建築学生たちが集う「港まち空き家再生プロジェクト」が2017年からスタートしており、『NUCO』では米澤さんの指揮のもとプロジェクトのメンバーが中心となってリノベーションを行った。

「南側の壁にはコの字型に壁を設置して耐震補強を施しました。L PACK.やアッセンブリッジ・ナゴヤのみなさんとも相談して、照明やトイレ、キッチンだけでなく、すべての建築部材や素材、道具も『UCO』で使っていたものを再利用しました。モノだけでなく、工事の内容、使用した金具からトラブル、失敗まですべて細かいノウハウも再利用しています。細かく履歴を残していたことで今回は『UCO』の時よりはスムーズに工事が進んだかなという印象です」と米澤さん。

プロジェクトが始まったことで学生が行き来することが多くなり、まちの人たちと交流が増えるにつれ、「うちの離れを社交場にしたい」「お祭りの山車を入れる場所が欲しい」といった声を直接耳にすることも多くなったという。

「そこに住む人やまちや社会を知らないと建物はデザインできません。今後はこのプロジェクトで、まちの人たちの困りごとを解決する“建築の便利屋さん”としての機能も果たしていけたらと思っています」(米澤さん)

「NUCO」として再生された長屋は、米澤さんによると築30年ほどではないかとのこと。工務店や構造家など専門家を交えた3回のワークショップと「空き家再生プロジェクト」メンバー20人ほどでリノベーションを行った「NUCO」として再生された長屋は、米澤さんによると築30年ほどではないかとのこと。工務店や構造家など専門家を交えた3回のワークショップと「空き家再生プロジェクト」メンバー20人ほどでリノベーションを行った

建物は思い出を蘇らせる装置みたいなもの

「最初はどんなお店かもわからないし入りづらいと言っていたまちの人も、今はだいぶ定着して、昔この建物はこんな風だったんだよ、とか、ここのお寿司が美味しくてね、と建物にまつわる話を聞かせてくださることがあって。長年閉まっていた建物を開くことで、地域の人たちの思い出も蘇る、建物はそんな装置になっているんだなと感じました」
とは、「UCO」に対する吉田さんの話。

「アッセンブリッジ・ナゴヤ2019」のアートプロジェクトのタイトルは「パノラマ庭園ー移ろう地図、侵食する風景ー」。
まさに「UCO」の閉鎖・解体はまちの移ろいゆく風景のひとつだっただろう。空き地や空き家は今後も増え続け、まちの風景もこの先変わっていくことが予想されるが、新たに誕生した「NUCO」には「UCO」で育まれたコミュニティが継承され息づいている。
この場所の建築でまちの人たちと交流が深まった学生たちは、地域の最大のお祭り「みなとまつり」や「みなとまちクリーンアップ大作戦」という清掃活動にも積極的に参加しているという。移ろいゆくものがあると同時に新しく生まれたものもあるのだ。

【写真左】お話を聞かせてくださった米澤さん(左)と吉田さん(右)。現在「NUCO」は木・金・土曜のみのオープン(アッセンブリッジ・ナゴヤ会期中は木曜~日曜、祝日オープン)。「手伝いたいと言ってくれる学生やプロジェクトメンバーで今の運営が成り立っているのですが、まちの人からは毎日開けてくれたらいいのにと言われることも多いので、今後の課題として考えていきたいです」と吉田さん。<br>
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<br>「潮寿司」の頃から使われていた照明や水屋が「NUCO」にも引き継がれている。取材時、常連さんがやってきて「向いのお店にコーヒー差し入れしといて」という場面も目にした。コミュニケーションの場を創るL PACK.の「コーヒーのある風景」を目の当たりにした気がした(筆者撮影)【写真左】お話を聞かせてくださった米澤さん(左)と吉田さん(右)。現在「NUCO」は木・金・土曜のみのオープン(アッセンブリッジ・ナゴヤ会期中は木曜~日曜、祝日オープン)。「手伝いたいと言ってくれる学生やプロジェクトメンバーで今の運営が成り立っているのですが、まちの人からは毎日開けてくれたらいいのにと言われることも多いので、今後の課題として考えていきたいです」と吉田さん。
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「潮寿司」の頃から使われていた照明や水屋が「NUCO」にも引き継がれている。取材時、常連さんがやってきて「向いのお店にコーヒー差し入れしといて」という場面も目にした。コミュニケーションの場を創るL PACK.の「コーヒーのある風景」を目の当たりにした気がした(筆者撮影)

「潮寿司」から「UCO」へ、「UCO」から「NUCO」へ

「UCO」閉鎖から「NUCO」再生への流れは「アッセンブリッジ・ナゴヤ」の掲げるテーマ「音楽やアートが架け橋となり、まちと人が出会いつながることで新たな文化が育まれていくように」との想いを体現するものではないだろうか。
ひとつの建物から生まれたストーリーや人と人とのコミュニケーションは、今後どのような変化をまちにもたらすのだろう。注目していきたい。


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◆NUCO
営業日|毎週 木・金・土
(アッセンブリッジ・ナゴヤ会期中は木曜~日曜、祝日)
時間|12:00~18:00
(アッセンブリッジ・ナゴヤ会期中は11:00~19:00)
場所|名古屋市港区名港1-18-4

◆「アッセンブリッジ・ナゴヤ2019」
会場/名古屋港~築地口エリア一帯
9月7日(土)~11月10日(日)の木・金・土・日・祝日開催
※現代美術展、プログラムによっては「ブリッジパス」700円が必要(中学生以下無料)
時間|11:00~19:00


【取材協力・写真提供】
アッセンブリッジ・ナゴヤ実行委員会
http://assembridge.nagoya/

<UCOのための設計-8枚切りのアーカイブー/撮影: 冨田了平>※2018年終了<br>「UCO」の取り壊し後、L PACK.によるアーカイブ展が行われた。<br>実際に「UCO」で使用していた道具や建築部材を使用し、店で提供していたホットサンド用の8枚切りの食パンをモチーフに制作。この場所から生まれた取り組みやコミュニティを記録した「UCO」の過去・現在・未来が想像できる仕掛けで、3年間の「UCO」が凝縮されたアート作品となっていた。<br>これは先述した吉田さんの「建物は思い出を蘇らせる装置みたいなもの」という言葉を象徴するようなものに思える。現在、この展示で使用されたパーツが新たな場所「NUCO」に使われている<UCOのための設計-8枚切りのアーカイブー/撮影: 冨田了平>※2018年終了
「UCO」の取り壊し後、L PACK.によるアーカイブ展が行われた。
実際に「UCO」で使用していた道具や建築部材を使用し、店で提供していたホットサンド用の8枚切りの食パンをモチーフに制作。この場所から生まれた取り組みやコミュニティを記録した「UCO」の過去・現在・未来が想像できる仕掛けで、3年間の「UCO」が凝縮されたアート作品となっていた。
これは先述した吉田さんの「建物は思い出を蘇らせる装置みたいなもの」という言葉を象徴するようなものに思える。現在、この展示で使用されたパーツが新たな場所「NUCO」に使われている

2019年 10月21日 11時05分