震災後、漁業をカッコよくて稼げて革新的な産業に変えるプロジェクトが始動

漁師、事務局などフィッシャーマン・ジャパンの面々。後列一番左が今回お話を伺った島本氏漁師、事務局などフィッシャーマン・ジャパンの面々。後列一番左が今回お話を伺った島本氏

2011年の東日本大震災で大きな被害を蒙った東北地方沿岸部は漁業の一大集積地。当然、漁業も大きな打撃を受けたが、当地、いや、日本の漁業は大震災以前から衰退を続けていた。2003年に日本全国で約23万8,000人ほどいた漁業就業者(*)は2014年に約17万3,000人になっており、平均年齢は60歳を超す。宮城県の場合、牡鹿半島には30の浜があるそうだが、漁師の数が少ない浜では10人いるか、いないか。加えて漁師である親たちは自分の子どもが漁師を継ぐことを勧めず、公務員になれなどという例も少なくなかったという。

そこに震災が起きた。復興の過程で生まれたのが平均年齢30歳前後の水産業従事者が集まるフィッシャーマン・ジャパンという団体だ。「私たちが言うフィッシャーマンは必ずしも漁師だけを指しているのではなく、流通や販売、情報発信なども含め水産業に携わる人たち。立ち上げ後10年目となる2024年には1,000人の水産従事者=フィッシャーマンを作り出し、水産業をカッコよくて、稼げて、革新的な、新しい3K産業に変えていきたいと考えています」(フィッシャーマン・ジャパンプロジェクト管理本部島本幸奈氏)。

2014年に漁師8人、魚屋3人、事務局2人の13人で一般社団法人としてスタートしたフィッシャーマン・ジャパンが手がける仕事は大きく2つ。ひとつは未来のフィッシャーマンを育てる担い手育成事業「TRITON PROJECT」で、その一部としてシェアハウスがある。そして、もうひとつは水産物販売事業。これは海から顧客までを一気に繋ぐ次世代型の流通モデルだという。ここでは担い手育成事業のうちのシェアハウスを中心に見て行きたい。

*漁業就業者とは満15歳以上で過去1年間に漁業の海上作業に年間30日以上従事した者をいう。データは水産庁魚政部企画課動向分析班調べ。以下同

職場である海の近くにシェアハウスを作り、担い手を養成

女川のシェアハウスで暮らす早坂信秀氏。紆余曲折を経てどうしても水産業にとこの地にやってきた女川のシェアハウスで暮らす早坂信秀氏。紆余曲折を経てどうしても水産業にとこの地にやってきた

漁業に限らず、地域で働く人を増やすためには仕事、住まい、そしてコミュニティが必要だとはよく言われることだ。だが、三陸の沿岸部には元々新たに来た人が借りられるような不動産はなかったし、既存の住宅の多くは被害を受けた。だとしたら、作るしかないと生まれたのがTRITON BASEと呼ばれる海辺の、シェアハウスを中心とした物件だ。

「市の中心部から浜まで通うのは大変ですから、海辺の近くに。住むだけなら寮でも良いのかもしれないけれど、居住者間はもとより、周辺の人たちとの間に関係を作るためには人が集まる場所が必要です。そこで女川、十三浜は共有スペースのあるシェアハウスという形にしました。場がある意味は大きく、十三浜はコンビニまで車で20分、スーパーも30分という場所のため、地元の同じ水産業で働く人たちがシェアハウスの住民を気遣い、おかずを持って寄ってくれるようです」。それに応え、お菓子作りが趣味な住民が休日にケーキを作り、職場に持って行くなど、共有スペースを中心に交流が生まれている。

この2軒はフィッシャーマン・ジャパンの理事2人にゆかりの住宅で、それを一部寄附を募り、それ以外は所有者が個人で投資をしてシェアハウスに改造、利用している。元々は古い民家だが、デザイン性の高いリノベーションが行われており、住居としても魅力的だ。「各3部屋あり、女川には四国で養殖に携わった後、一時は水産の世界を離れたものの、やはり、夢が諦めきれないと銀鮭漁師として働いている男性が居住。十三浜には元郵便局員で、今年からワカメ漁師として船に乗り始めた男性、春休みを利用して水産業でアルバイトをする男性、今月からは新しく県内から一人入る予定となっています」。

震災後、石巻市中心部の家賃は高騰しており、1Kで5~6万円というが、シェアハウスは住む人の収入や滞在期間、その他の要件によって異なるものの、おおよそ、光熱費込みで2~3万円程度。担い手を養成するという趣旨を考えると、払うのが大変な額にはならないというわけだ。

観光の拠点、夫婦で住める、短期滞在できるなど物件も多様

シェアハウス以外の物件もある。歌津にあるTRITON BASEは海と親しむ観光、ブルーツーリズムを推進する拠点となっており、年間1,000人の来訪者があるという。街は観光に力を入れており、漁業もそれに力を貸している状況だ。漁業体験、漁業者との交流は他の物件でもでき、企業でツアーを開催する例もあるそうだ。

また、2016年3月末を目指して工事が進められている牡鹿は石巻市水産業担い手センター開設も予定しているという。これには石巻市からの委託で一部公費も入る。「今回は2階建てになっており、1階には15畳ほどの交流スペース、2人で住める12畳の部屋に短期滞在用の2段ベッド2台が置かれた部屋、事務所があり、2階には6畳2部屋用意されます」。

シェアハウスで12畳、2人で暮らせる広さは珍しいが、これには働き方の多様化を目指す意図もあるという。「これまで10人ほどが私達に相談、水産業に就業していますが、漁業で独立したい人、雇用されて漁師をしたい人、繁忙期だけ短期で働きたい人などと人により、働き方の希望はそれぞれ。であれば、住宅も多様であっても良いのではと考え、夫婦で住みたいという人を想定した部屋を作りました」。

女川の個室。冷蔵庫、洗濯機、電子レンジその他生活に最低限必要なものは用意されている女川の個室。冷蔵庫、洗濯機、電子レンジその他生活に最低限必要なものは用意されている

半農半Xならぬ、半漁半Xという暮らし方もあり

女川のシェアハウスで開かれた漁業を体験するTRITON CAMPの一風景。楽しそうだ女川のシェアハウスで開かれた漁業を体験するTRITON CAMPの一風景。楽しそうだ

働き方の多様化という意味で面白いと思ったのは漁業にも野菜、果物などと同じように旬があるということだ。たとえば、スーパーではワカメは通年売られている商品だが、旬は春。その時期のワカメ漁師は非常に忙しい。だが、それ以外の時期はそれほどでもない。逆に言えば繁忙期にだけ働いて欲しいというニーズがあるというわけである。

「私たちが開催した漁師育成のためのプログラムに参加し、今度、牡鹿半島に引っ越しが決まっている人がいるのですが、その人は彫刻家。シーズンには牡蠣の生産を手伝い、それ以外の時期は本業に勤しむ。そういう暮らしを考えていらっしゃるようです」。

少し前から半農半X、つまり、自分の時間の半分で自給的な農業をし、残りの半分の時間は自分のやりたいことをやるという考え方が広まりつつあるが、この人の場合には漁業でお金を稼ぎ、それ以外の時間で彫刻に取り組む、半芸半漁ということになろう。好きだけれど、それだけでは生活に足りない仕事をしている人なら、半分の時間で漁業に取り組み、生活費が安く済む地域で暮らす手を考えてみるのも手。このやり方なら生活に不安を抱えることなく、自分のやりたいことが実現できる可能性がある。

また、浜によって旬が違うことを考えると、シェアハウスを移動しながら必要な期間だけ働くという手もある。いずれ、三陸だけでなく、日本の他の地域にもTRITON BASEのような施設ができれば、漁師なら日本中どこでも働けるようになるかもしれない。

もちろん、誰にでもできる他のアルバイトとは違い、漁業は海という自然を相手にする仕事。経験も必要で、島本氏は短くても半年は続けて欲しいという。一人前になるために必要な期間は人により考え方が異なり、3年という人もいれば、10年、いや、いつまで経っても半人前という言い方もあるようだが、大事なのは今というタイミングだろう。まだベテラン漁師が各浜に残っており、彼らの貴重な体験を直接教えてもらうことができるのだ。フィッシャーマン・ジャパンでも漁協と連携、4カ所の浜の、ベテラン漁師16人を先生にした二泊三日の漁業スクールを開くなどして、技術や経験の伝承を行っている。

世界を視野に入れれば水産業は衰退産業ではない

ホタテ、銀鮭、海苔、ワカメ、アカモク、ムール貝、メカブ、昆布、アサリに海鞘、そして様々な魚など取り扱う水産物は数多いホタテ、銀鮭、海苔、ワカメ、アカモク、ムール貝、メカブ、昆布、アサリに海鞘、そして様々な魚など取り扱う水産物は数多い

とはいえ、漁業の未来自体はどうなのか?と思った人もいるのではなかろうか。日本では2006年に魚の摂取量が肉の摂取量を下回り、その後2009年からはその差はさらに拡大の一途。魚離れが進んでいる。だとしたら、これから水産業に従事するのはリスキーではないか、と。

だが、その考えは日本だけを見た時のもの。実は世界での水産物輸入貿易量、金額は年々増加しており、2001年から2011年で1,317億ドルと倍以上に。これまで魚をあまり食べなかった人たちにも魚食は広まっているのだ。世界のあちこちの街角に寿司店ができていることを考えれば、水産業の未来はそんなに悲観的ではないことは分かるだろう。当然、フィッシャーマン・ジャパンも三陸、日本だけではなく世界を視野に入れた活動を行っており、昨年はマレーシア、今年はタイでのフェアを予定、販路を海外にも広げていくという。

国内でも漁師がチームを組むことで旬が異なる商品を年間を通じて届けられるようになっており、大手飲食店、チェーン店、個人飲食店に直接卸したり、飲食店とのコラボレーション、スーパーやデパートでの対面販売などを行い、新しい販路が広がっているという。水産業特化型の求人サイト作成その他、活動自体も広がっている。世の中が衰退産業と思っている分野でも、発想、視点を変えれば大化けすることはあり得る。世界を相手に日本の漁業が子どもたちに憧れられる職業になる日を期待したい。

ちなみにフィッシャーマン・ジャパンが設立当初、子どもたちがなりたい職業ベスト100を調べた時には漁師も含め、サンズイの付く職業はひとつも入っていなかったとか。近い響きの仕事としてシャーマンが入っていたというが、そんな、日本ではあり得ない職業よりこれからはフィッシャーマンだよ、子どもたち、である。

フィッシャーマン・ジャパン
http://fishermanjapan.com/

2016年 03月11日 11時07分