高級品だった畳

その昔、畳は貴人が居住する部屋にのみ敷かれていたその昔、畳は貴人が居住する部屋にのみ敷かれていた

畳は和室につきもののように感じるが、時代劇を見ると、意外と畳が使われていないことに気づくだろう。例えば将軍が大名と謁見するシーンでは、将軍の座る上座にのみ畳が敷かれており、大名たちは板の間に座っているはずだ。

稲作の国日本で、藁を敷物にする文化が生まれるのは自然なことで、畳自体の歴史は決して浅いものではない。畳が使われ始めたのがいつからかは明確ではないが、古事記の景行天皇条に、「菅畳八重、皮畳八重、絁畳八重」という表現が登場する。ヤマトタケルの妻・オトタチバナ姫が、海神の生贄となるため海に入るシーンの描写で、姫はこの何重にも敷かれた畳の上に座り、海に沈んだと書かれている。この「畳」が現代の畳と同じようなものかどうかはわからないが、高貴な人が座るための敷物であったのは間違いなさそうだ。古事記が編纂されたのは西暦712年とされているから、その時代にはもう「畳」と呼ばれる敷物が存在していたということだろう。だから時代劇でも、位の高い将軍が座る上座にだけ畳が敷かれていたのだ。

それでは、畳はどのように発展してきたのだろうか?近代的な畳も扱っている、兵庫県にある株式会社高垣商店 代表取締役 高垣浩明氏にお話を伺ってみた。

弥生時代からはじまる畳の歴史

高垣商店株式会社の高垣浩明代表にお話を伺った高垣商店株式会社の高垣浩明代表にお話を伺った

原初の畳は藁を束ねただけのものだったと言われている。平安時代に入ると、現代の畳の形に近くなってくるが、クッションのない薄いものだった。それでは私たちが「畳」と聞いて思い浮かべる、厚みのある畳が生まれたのはいつごろなのだろうか。
高垣氏に聞いてみると、「今の形になったのは江戸時代ごろです。でも、芯の部分にあたる畳床を藁で作るのはとても大変で、つい近代になるまで畳は特別な存在の人だけが使える高級品でした。ところが昭和の高度成長期には、生活が豊かになって家を新築する人たちが増えました。昔の家は和室がほとんどですから畳が大量に必要になります。そこで、畳の製造が機械化されるようになり、一般の人達にも畳が身近なものになったのです。特に畳床に発砲ポリスチレンフォームが組み入れられたことが、畳の普及に一役買ったと言われています」とのこと。畳が身近な製品となったのは、ごく最近のようだ。

扱いが難しい藁床の畳がいまだ愛される理由

畳は基本的に畳表と畳縁、畳床で構成されている。文字通り、畳表は畳の表面部分、畳縁は畳の縁にある布部分、畳床とは畳の芯にあたる板状のもので、スタイロフォームの畳床は藁の必要量が少なく、断熱性が良い。その他にも、インシュレーションボードという木のチップを糊で固めた畳床もあり、防虫効果が優れているという。
一方藁の畳床は重いうえ扱いが難しく、ダニが発生する心配があるうえ、結露するような家では腐らせてしまう可能性もある。無理に藁を使う必要はないのではないかと思うが、需要はかなり減っているとはいえ、藁床の畳は今でも製造されているのだとか。いったいどういう人が、なぜ藁床の畳を使っているのだろう。

「藁床の畳は足当たりが良いと、御茶室に藁床の畳を求める方が多いです。また、湿度が高すぎると腐らせてしまいますが、風通しの良い部屋であれば、スタイロフォームの畳より吸湿性が高く、快適さを感じられるようです」
と、高垣氏。何でも昔のものの方が良いわけではないが、昔ながらの製品には、自然な良さがあるようだ。
畳床に藁を使い、手縫いで作り上げた高級畳は、畳縁に使われる織物も繊細。すぐに擦り切れてしまうから、メンテナンスが大変だろう。しかし高垣氏は、「近頃では、畳干しをするご家庭は減りましたが、エアコン除湿が有効です。また、高級な畳縁は確かに弱いのですが、茶室を使うような方は、畳縁は踏むものではないと心得ておられますから、案外傷まないものですよ」と笑う。
そういえば子どものころ、畳の縁を踏んで祖母に怒られた記憶がある。「畳の縁を踏んではいけない」という基本的な行儀作法を忘れてしまうとは、畳を意識しない生活をしてきたのだなと反省した。

い草の効能

畳と言えばい草。畳表はい草の織物が貼られている。最近の研究で、このい草にはさまざまな効能があるとわかってきたという。
「い草についてはさまざまな研究をされていて、例えばい草には、O157やサルモネラ菌などの増殖を防いだり死滅させたりする、抗菌作用があるそうです。また、い草にはバニリンという成分が含まれているのですが、バニリンには人をリラックスさせる効果があるそうです」
真新しい畳の匂いを嗅ぐと、なぜだか落ち着く人は少なくない。植物が放出するという癒し物質・フィトンチットの発生により、自宅にいながらにして森林浴に近い効果があるのもうれしいところだ。

しかし、最近はフローリングの部屋が増えたため、畳の部屋は減ってしまった。リフォームすることなく、気軽に畳を楽しむ方法はないのだろうか?

新しい畳で、和室が無くてもくつろぎ空間を演出

モダン乱敷きの一例。擦り切れやすい部分にポイントとなる色の畳を持ってくると、取り換えても目立たないモダン乱敷きの一例。擦り切れやすい部分にポイントとなる色の畳を持ってくると、取り換えても目立たない

最近では縁のない琉球畳のほか、カラー畳、薄畳など、洋室でも使える畳が増えてきているという。例えばフローリングのリビングに隣接した和室などには、畳縁のない琉球畳がマッチしやすく、ファッショナブルに見える。
また、フローリングの部屋だけで構成された家に両親を呼び寄せる場合など、和室を作ろうとフローリングの上に通常の畳を敷くと、段差ができてしまう。薄畳なら、フローリングの上に敷いても大きな段差ができず、危なくないのだそうだ。

また、高垣氏のお薦めは、栃木県の石川畳店が発案した「モダン乱敷き」。カラー畳を不規則に並べた敷き方なのだが、どういった利点があるのだろう。
「普通に暮らしていると、どうしても擦り切れてしまいやすい畳とそうでない畳が出てしまいます。でも擦り切れた畳だけを取り換えると、そこだけが浮いてしまうのです。モダン乱敷きでは、生活動線を考えて、擦り切れてしまいやすい部分にポイントとなる明るい色の畳を敷きます。そうすれば、そこだけ取り替えても目立ちません」

フローリングの部屋は掃除もしやすく、床暖房にすれば冬でも暖かい。しかし床に座ってくつろぎたい人も少なくないだろう。薄畳や琉球畳を取り入れれば、ワンポイントの畳スペースを作りだすことも可能だ。上手に畳を取り入れて、日常にくつろぎを演出してみてはいかがだろうか。

■参考リンク
株式会社 高垣商店
http://tatami-takagaki.jp/

2014年 12月31日 11時00分