「残価設定型住宅ローン」とは

今年3月からの国の制度拡充により残価設定型住宅ローンの本格的な拡大が見込まれている。残価設定型住宅ローンとは、住宅の将来価値=売却想定額(残価)をあらかじめ設定し、その分を差し引いた金額について住宅ローンを組むものだ。

自動車のカーローンや、携帯電話購入の際の機種変更を前提とした残価設定型購入は、一般に広く知られているが、住宅購入でも同様の手法が本格化することは画期的である。自動車の残価設定ローンの住宅版ともいえる仕組みだが、金融機関側には最長で30年以上先を見据えて住宅の残存価値を評価する難しさもあって、現時点では一部の金融機関が慎重に導入を進めている段階である。

たとえば5,000万円の住宅で、金融機関が将来の残価を2,000万円と設定した場合、購入者は差額の3,000万円について毎月返済を行い、契約終了時には、設定された残価を一括返済する、売却して返済する、あるいは継続して毎月返済するという選択肢が想定されている。

つまり、終の住処として住み続けることを前提とした住宅ローンというよりも、自動車や携帯電話と同じく将来の売却や住み替えを視野に入れた制度設計となっているのである。

項目 残価設定型住宅ローン 一般的な住宅ローン
毎月の返済負担 残価設定分が軽減される 借入総額に応じた負担
元本返済 残価を除いて返済 借入額全体を返済
最終的な残債 残価が残る 完済を前提
契約終了時 一括返済・売却・継続返済など選択 住宅を所有し続ける前提
住まいの考え方 将来の住み替えも視野 “終の住処”として保有
住宅価格下落時 制度上一定のリスク軽減あり 売却額不足は自己負担
向いているケース ライフステージ変化を想定 長く住み続けたい
金利上昇リスク 残価が大きく残るため影響を受けやすい 後半ほど小さくなる
対象住宅 高性能住宅中心 幅広い住宅が対象

月々の負担を抑えやすい一方、将来リスクも

住宅金融支援機構住宅金融支援機構

残価設定型住宅ローンのメリットは、特に住宅価格高騰によって購入が難しくなっている若年層や子育て世帯にとって、月々の返済負担を抑えやすい制度である点にある。また、将来の不動産価値=売却額が設定された残価を上回った場合には、その差額が購入者の手元に残る。

一方で、物件売却などで一括返済する際、想定していた残価より実際の住宅価値が低かった場合でも、そのリスクを住宅金融支援機構の住宅融資保険(特定残価設定ローン保険)が支える制度となっている点は、従来の住宅ローンにはない特徴=安心材料といえる。

なお、残価は最後に一括返済とは限らず、金融機関での商品設計によっては継続返済できる可能性があるが、その際には再審査および金利環境によっては返済条件が変わることも想定される。

通常の住宅ローンでは、返済が進むにつれて元本が減っていくため、金利上昇があっても影響は次第に小さくなる。しかし、残価設定型住宅ローンでは、将来に比較的大きな元本が残っているため、変動金利を選んだ場合には、金利上昇時の返済負担が大きくなりやすい特徴がある。その結果、金利を下げるために借り換えを検討したり、場合によっては住み替えを含めた判断が必要になる可能性がある。

そのため、変動金利で残価設定型住宅ローンを選ぶ場合は、残価の返済方法まで含めて慎重に資金計画を立て、そのうえで将来の住み替え・買い替えを前提として利用を検討することが望ましい。

普及が限定的な背景

一方で、金融機関側にとっては、最長で30年以上先の住宅価値を見込む必要があるため、人口減少や地域の将来性、建物管理状況による価格変動リスクをどう評価するかが課題となる。そのため、現時点では対象物件やエリアを限定しながら慎重に導入を検討している段階である。

なお、2026年5月時点で残価設定型住宅ローンを導入している金融機関は、楽天銀行、三菱UFJ銀行、そして積水ハウスなど大手ハウスメーカーの共同出資により誕生した住宅ローン専門金融機関である日本住宅ローンなどごく一部に限られている。これらの金融機関では、一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)の認定を受けた住宅のみを対象としており、主にJTIの協賛事業者である大手ハウスメーカーなどが建築した住宅に提供されている。具体的には、協賛事業者による施工に加え、高い住宅性能や長期メンテナンスプログラムの策定・実施が求められており、現状では認定長期優良住宅が対象で、残価設定型住宅ローンの”壁”はかなり高めと言ってよいだろう。

つまり、将来の資産価値を長期にわたって見込みやすい住宅に対象を絞っているため、事実上、一般的な中古住宅や性能基準を満たさない住宅には適用しづらく、これが普及のハードルにもなっているといえる。

対象となる住宅が限定的である理由は、単に住宅購入を支援するだけではなく、将来にわたって資産価値を維持し、中古市場で適正に流通しやすい住宅を増やしていくという政策的な意図が含まれているためと考えられる。少子化が進む中、住宅市場全体には新築を大量供給し続ける“フロー型”から、既存住宅を活用する“ストック型”への転換が求められている。一方で、資産価値が維持されやすい良質な新築住宅の供給は、将来的な中古住宅流通の質を高めることにもつながる。

「住み続ける」ための仕組みとの違い

残価設定型住宅ローンは、従来の住宅ローンとは異なる考え方が求められる仕組みといえる残価設定型住宅ローンは、従来の住宅ローンとは異なる考え方が求められる仕組みといえる

住宅を活用した資金調達の仕組みとしては、残価設定型住宅ローン以外にも、リバースモーゲージやリースバックといった制度がある。リバースモーゲージは、自宅を担保に融資を受け、死亡時などに住宅を売却して返済する仕組みで、高齢者の老後資金対策として活用されている。また、リースバックは、自宅を売却した後も賃貸として住み続けられる仕組みで、まとまった資金を確保しながら住み慣れた家に住み続けられる点が特徴である。

一方で、残価設定型住宅ローンは、住宅取得時の月々の負担軽減に重点を置いた制度であり、将来的な売却や住み替えを視野に入れた考え方との相性がよい制度といえる。また、残価を一括返済できない場合には、売却や住み替えを前提とした判断が必要になる可能性もあり、“終の住処”として住宅を取得したい人にとっては、従来の住宅ローンとは異なる考え方が求められる制度ともいえる。

ある程度の年齢になれば、住宅ローンで購入する家=終の住処のイメージであるから、住み続けることを重視するケースも多く、将来の売却や住み替えを前提としやすい残価設定型住宅ローンとは必ずしもフィットしない場合がある。

現在の若年層は、不動産価格が上昇局面にある中で住宅取得を検討しているケースも多く、住宅価格が下落する可能性を実感しにくい環境にある。しかし、人口減少やエリア格差が進む中で、将来的にすべての住宅が資産価値を維持できるとは限らず、残価設定型住宅ローンではその点も踏まえた資金計画が求められる。

つまり、残価設定型住宅ローンは、住宅取得時の負担を軽減するためだけではなく、「将来どのように住み替えるか」「住宅を資産としてどう活用するか」まで含めて考えることが求められる仕組みといえる。

「住み続ける」ための仕組みとの違い

執筆:LIFULL HOME'S総研 研究員 宮廻 優子
2006年にLIFULLへ入社。LIFULL HOME'Sの広告審査業務やガイドライン策定を通じて、不動産情報の正確性と信頼性の向上に取り組む。国土交通省の推進する不動産IDの有用性を検証するモデル事業への採択など、おとり物件撲滅の加速業界全体の透明性とデータ基盤の高度化を通じて、仕組みによる情報精度の向上と安心できる住まい探しの実現を推進している。また、RSC(不動産情報流通推進協議会)において、省エネ性能ラベルの普及拡大についても取り組む。