2019年の台風15号と19号の被害はタワーマンション人気に影を落とした

タワーマンション(20階以上の超高層マンション)は地域のランドマークとなり得る大型の建造物であり、大型であるが故に構造計算一つ取っても一般的な分譲マンションよりも高度な技術を活用して建築・設計されている。制振・免震装置や非常用備蓄倉庫、発電機、火災警報器&スプリンクラー、耐震ラッチなど数多くの災害対策も施されていて安全性が高く、住民の安心感の醸成にも役立ってきた。さらに、再開発事業などで誕生することが多いタワーマンションは、いくつかの例外を除けば、市街地の中心部や駅の近くなど交通や生活の利便性が極めて高いエリアに開発されている。

住戸のバリエーションも豊富で、単身者からファミリー層、高齢者など、どのライフステージの住民にも住みやすい環境が用意され、豊富な共用施設だけでなく、商業施設やオフィスなどが併設されることもあって、それ自体が街として機能するケースも珍しくない。このようにタワーマンションは、生活面での快適性、眺望や共用設備を含めた良好な居住環境、交通の利便性、ランドマーク性、安全性など居住を希望する多くの人にとって好ましいと感じる要素を満遍なく備えている。相応に高額であっても、居住価値だけでなく将来の資産価値も高いと考えられており、投資対象として、また相続税対策にも一定の効果があるとの認識があってタワーマンションに対する需要は依然高い。

ところが近年、このタワーマンション人気に影を落とす事態が続いている。
2018年の北海道胆振東部地震発生時には札幌市街地の停電が長期化し、同地区のタワーマンションもエレベーターや上下水道が使えなくなったりするなど生活インフラに大きな影響を与えたし、2019年秋の台風では主に首都圏のタワーマンションが配電盤の浸水被害によって、同じく一定期間電気の使用ができなくなるケースが発生した。

いずれも住民の生命・身体の安全は守られていて安全性に疑義が生じた訳では全くないが、災害発生後の停電などによって事実上生活ができなくなる事態に陥ったのは居住者に大きな負荷となったことは記憶に新しい。1年を経てなお被災した事実が報道されるということは、それだけタワーマンションに対する社会の関心が高いということだ。
そのタワーマンションに”弱点”があることが明らかになったことは、盤石と思われていたタワーマンション神話にも陰りが出る可能性があるとの指摘があるものの、一方で避難所や仮設住宅で不自由な生活を強いられる可能性を考慮すれば、相対的な安全性、および総合的な居住性は依然高い。

現在、全国に約1400棟以上あるともいわれるタワーマンションは上記の安全面についてだけでなく、将来の維持・管理においても莫大なコストが発生することが想定されており、経済的な側面でも懸念材料があるとの指摘もある。
2019年の台風被害から一年余り、災害を契機としたタワーマンションの資産性や安全性、さらには将来像について、改めて有識者の見解を問う。

全国に約1400棟以上あるともいわれるタワーマンション。今後、安全・維持・管理に多大なコストが発生することが想定されている。タワーマンション人気は続くのだろうか全国に約1400棟以上あるともいわれるタワーマンション。今後、安全・維持・管理に多大なコストが発生することが想定されている。タワーマンション人気は続くのだろうか

タワーマンション間での競争が、今後は激しくなっていく~岡本 郁雄氏

<b>岡本郁雄</b>:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ岡本郁雄:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ

2019年の台風による浸水被害は、電源喪失時のマンションの課題を改めて浮き彫りにした。
これから発売されるタワーマンションの中には、電気室を2階に移設するなど浸水対策を強化しているものもある。想定を超えた台風被害は、治水対策を十分施している河川でも氾濫のリスクがあることを知らしめた。これはマンションだけでなく一戸建てにもいえることで、ハザードマップの浸水エリアにあたる一戸建ての販売にも影響が出たようだ。

便利で快適な暮らしが実現できるタワーマンションにおいて、一定の管理費・維持修繕費は避けられないコストだ。平成30年度マンション総合調査によれば、タワーマンション(20階建て以上)の1m2当たり月額管理費は、306円であり全体平均の221円を大きく上回っている。また修繕積立金は、積立金が段階的に見直される「段階増額積立方式」を採用している割合が68.3%(平成30年度マンション総合調査)もあり将来的な修繕積立金の増額も必要だ。タワーマンションは、資金的に余裕のある高所得者向けの住まいといえるだろう。

タワーマンションの資産価値は、立地の希少性や眺望、共用施設などでリセールバリューが高いとされている。しかし、物件による差異は意外と大きく一律ではない。例えば、リセールバリューが高いとされる湾岸エリアにおいても、建物の周囲の状況や免震・制振構造などの地震対策、規模や共用施設の魅力度合いなどで乖離がある。タワーマンション棟数が今後も増える中で、競争はさらに激しくなる。山手線最寄りや駅直結など希少性が高いタワーマンションは、供給が限られ資産性は維持されやすいだろう。

一定の経済性を保つためには、維持・管理費を大きく上回る賃料収入が必要となる。経済性が無くなると、越後湯沢などのリゾートマンションのように修繕コストが重くのしかかる。人口減少が進む地方都市だけでなく首都圏でも早晩こうした事態が起きないとは言い切れないだろう。一方で、大きな成長が期待できるアジアの人々は新しい街や高い建物が好きだ。日本の人口はこれから大きく減少するが都市のグローバル化が進めば、タワーマンション需要は相応に維持されると考えるのが妥当だろう。ランドマークとしての存在感があり管理体制が充実した指名買いされるようなタワーマンションなら、今後も資産価値を維持できるのではなかろうか。

タワーマンションこそ長期的視点での維持管理が資産価値に直結する~松田 忠司氏

<b>松田忠司</b>:株式会社不動産経済研究所企画調査部主任研究員。1974年生まれ、福岡県出身。東京理科大学理学部卒。2004年8月に株式会社不動産経済研究所に入社。以降、一貫して新築分譲マンションの調査に携わり、首都圏マンション・建売市場動向を毎月発表している。2012年10月から現職松田忠司:株式会社不動産経済研究所企画調査部主任研究員。1974年生まれ、福岡県出身。東京理科大学理学部卒。2004年8月に株式会社不動産経済研究所に入社。以降、一貫して新築分譲マンションの調査に携わり、首都圏マンション・建売市場動向を毎月発表している。2012年10月から現職

マンションの資産性については、超高層物件に限らず、基本的には立地によって価値を維持できる物件とそうでない物件とで分かれることになるものと考える。その上で築年数が進んだ物件ほど、管理の状態が重要となる。
しかし人気の高いエリアの物件ほど住人の資産性への意識が高く、管理が行き届いた物件が多いものと考えられる。タワーマンションの多くはその人気の高い立地で建てられている。よって最も重要なのは立地であり、人気があり希少性の高い立地に多くの人が住むことが可能なタワーマンションは、その多くが資産性を維持できるものと思われる。

タワーマンションは低層のマンション以上に維持管理の問題が取り上げられる。特に大規模修繕については、多くの物件で専用のゴンドラを用いることになるため話題になるが、タワーマンションの多くは戸数も多く大規模な物件であることから、更新する設備も膨大となるため、常に修繕し続ける必要があるといえる。よって、長期的なビジョンをもって修繕積立金を見積もった物件が資産性の維持という点では当然ながら優位といえるだろう。
しかしタワーマンションはその世帯数の多さから、設備の更新について全体の合意を得ることも容易でないため、その点でも住人の意識が重要なポイントとなる。タワーマンションの躯体は100年コンクリ(圧縮強度が30N/m㎡以上のコンクリート)の使用などによって、長寿命化が進んだ。物件の魅力を維持できるかどうかは維持管理にかかっているといえるだろう。

タワーマンションの人気については当面続くものと思ってよいだろう。この10年間で見ても東日本大震災とそれによって引き起こされた液状化、そして昨年の台風19号の来襲と、購入希望者の足がタワーマンションから遠ざかってしまってもおかしくない自然現象に見舞われたが、人気はすぐに持ち直している。

そしてここ最近特に話題を集めた「ザ・タワー横浜北仲」、「パークコート文京小石川ザ・タワー」、「プラウドタワー東池袋ステーションアリーナ」は、いずれも地下の駅と直結という物件で、その利便性を享受できることもあって低層階も人気を集めた(東池袋は販売中 ※2020年12月現在)。このような立地に計画される物件は、今後もタワーマンションが中心だろう。郊外であっても、例えば海老名駅のように複数路線が乗り入れるようなターミナル周辺の再開発で計画される住宅の多くはタワーマンションとなるはずだ。

しかし維持管理が適切に行われていないタワーマンションが増え、それがメディアなどで話題になってしまうと、これから登場するタワーマンションの人気にも陰りが見られるようになる可能性はあるだろう。将来もタワーマンションの人気が続くのかどうか、そのカギは既に稼働しているタワーマンションの管理にあるのかもしれない。

資産価値維持のポイントは維持管理への取組み次第 ~酒造 豊氏

<b>酒造 豊</b>:(株)長谷工総合研究所 取締役市場調査室長。1986年4月 長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。分譲マンション市場動向の調査・分析を担当。1994年7月長谷工総合研究所に配属。首都圏・近畿圏における分譲マンション市場動向中心に、住宅市場、不動産市場全般の調査・分析を担当。2001年6月より、不動産関連情報誌「CRI」の編集人を務めている酒造 豊:(株)長谷工総合研究所 取締役市場調査室長。1986年4月 長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。分譲マンション市場動向の調査・分析を担当。1994年7月長谷工総合研究所に配属。首都圏・近畿圏における分譲マンション市場動向中心に、住宅市場、不動産市場全般の調査・分析を担当。2001年6月より、不動産関連情報誌「CRI」の編集人を務めている

気候変動の影響もあり、100年に一度といった大雨が毎年のように繰り返される可能性があり、猛暑や大雨といった自然災害も想定外では済まない時代になっている。首都圏でも2019年には大型台風が複数回直撃したこともあって、暴風雨によって多くの住宅に被害が生じた。

今回のテーマであるタワーマンションも大規模地震に対応した耐震を行い、管理組合としてしっかりとした対策を取っているマンションも多くなっているが、地震に比べると、大雨による水害や強風などに対する意識は低かったと思われる。過去数十年間にわたって実施されてきた治水対策もあって、首都圏では河川氾濫などが激減していたこと、また、水害は立地による個別性が高く、被害のレベルも多様であることなども影響している。水害への対策は「立地によるリスク」を知ることが大切だ。

過去の災害を振り返ると、被災後の復旧・復興にはマンションの居住者同士や近隣住民とのコミュニティが重要な役割を担っており、「顔見知りの隣人」と良好な関係を築いていることが大切となる。管理組合などの活動を通じて、居住者同士、近隣住民とのコミュニティをつくっておくことも重要なポイントだ。

また、管理会社の果たすべき役割も重要である。自然災害などには管理組合の役員を中心に「備え」ることになるが、管理組合の役員は順番で行うケースも多く、災害などに対する「備え」の経験がない場合が多いと思われる。大型台風接近時に浸水の危険が予想されるマンションでは、土嚢の準備、防災倉庫等の確認、浸水の可能性が考えられる地下の機械式駐車場から事前に車を出すことなどの周知を行った管理会社もある。

地震や水害などの災害リスクを踏まえたうえで、そのリスクに対応できる建物・設備といったハード面での充実を図ることに加え、災害が発生した際の復旧や生活を維持していくためのソフト面での対策を居住者・管理組合・管理会社が一体となって取組むことが重要である。

近年、「タワーマンションでは大規模修繕の費用が足りず、また、大規模修繕の事例も少なく、不安材料になっている」といったことも報じられている。こうした不安材料には注目が集まるが、ものの考え方や価値観は各人各様で、対応策を検討することは可能だ。日常・非日常のあらゆる点を考慮した完璧な建物は存在せず、タワーマンションにも一戸建住宅にもメリットとデメリットがある。

2018年12月に公表された「神戸市におけるタワーマンショのあり方に関する課題と対応策(報告書)」では「所有者や管理組合の維持に対する無関心が大きな問題を引き起こすことにもなりかねないことから、維持管理に対して所有者や組合に主体的に関わってもらうことが重要」と指摘している。

タワーマンションの資産価値が今後も維持できるのかどうかは自分自身が管理する共同住宅であると認識し、人任せにせず積極的に維持管理に関わることにかかっているといえる。

2021年 01月18日 11時00分