マンション関連二法案の改正が衆議院で可決成立

2020年6月、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(通称:マンション管理適正化法)、および「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」(通称:マンション建替え円滑化法)の一部改正がともに衆議院で可決成立した。本年2月の閣議決定を受けて改正案が法案化され、国会を通ったことで改正が正式決定したことになる。
上記二法案の改正の主旨は、一にも二にも“マンションの老朽化”をどう未然に防ぎ、維持・管理をしやすくするかということだ。
その長らくの課題に法が(ようやく少し)対応したということになる。

国交省によれば、現在築40年超のマンションは約81万戸存在するが、これが2030年には2倍強の約198万戸、2040年には4.5倍の約367万戸となるなど、10年ごとに倍々で急増することが明らかとなっており、今後は築年数が相当経過しているにもかかわらず老朽化対策の不備や管理組合の担い手不足が顕著なマンションも急増することが確実視されている。
これには対策としてまず老朽化を抑制すること、外壁タイルの剥落ほかマンション周辺に危険が及ぶことを防止するために維持・管理をさらに適正に実施すること、老朽化が進んで機能保持のための修繕が困難なマンションを「再生」させることについて、取組みを強化することが求められている。

今回の一部改正では、特に地方公共団体の役割の強化によってマンション管理の適正化を推進し、建替えを行う必要があるマンションの再生の円滑化を図ることを主眼としている。
具体的には、
「マンション管理適正化法」については、
1.国による基本方針の策定:マンション管理の適正化の推進を図るための基本的方針を策定
2.地方自治体によるマンション管理適正化の推進:
①マンション管理適正化推進計画の策定(任意)→③へ
②必要に応じて管理組合に対する指導・助言の実施
③各マンション管理組合が策定した管理計画の認定

「マンション建替え円滑化法」については、
1.除却の必要性に関する認定対象の拡充:現行の耐震性不足に加えて、外壁の剝落の危険があるマンション、バリアフリー性能が確保されていないマンションを追加
2.団地における敷地分割制度の創設:要除却認定を受けた団地において、敷地共有者の4/5以上の同意によりマンション敷地の分割を可能とする制度を創設
が主な改正ポイントである。

これらの法律的な対応が、現在の老朽化に直面するマンションに果たして有効な対策となり得るのか、また管理組合はこれからどのように資金不足と対峙しつつマンションの維持・管理を推進していくべきなのか、法改正によって「解散→再生」という選択肢もより具体的に見えてきたなかで、マンションの管理全般に詳しい専門家の意見を聞く。

“マンションの老朽化”を防ぎ、維持・管理をしやすくするかのために</br>「マンション管理適正化法」と「建替え円滑化法」が一部改正された“マンションの老朽化”を防ぎ、維持・管理をしやすくするかのために
「マンション管理適正化法」と「建替え円滑化法」が一部改正された

区分所有マンションに対して地方公共団体が介入することに疑問~中川 雅之氏

<b>中川雅之</b>:1984年京都大学経済学部卒業。同年建設省入省後、大阪大学社会経済研究所助教授、国土交通省都市開発融資推進官などを経て、2004年から日本大学経済学部教授。専門は都市経済学と公共経済学で、主な著書等に「都市住宅政策の経済分析」(2003年度日経・経済図書文化賞)、「放棄された建物:経済学的な視点」(2014年学会賞・論文賞)がある中川雅之:1984年京都大学経済学部卒業。同年建設省入省後、大阪大学社会経済研究所助教授、国土交通省都市開発融資推進官などを経て、2004年から日本大学経済学部教授。専門は都市経済学と公共経済学で、主な著書等に「都市住宅政策の経済分析」(2003年度日経・経済図書文化賞)、「放棄された建物:経済学的な視点」(2014年学会賞・論文賞)がある

今回のマンション2法の法改正では、
ⅰ国によるマンションの管理の適正化の推進を図るための基本的方針の策定
ⅱ地方公共団体によるマンション管理適正化推進計画の策定
ⅲ上記計画を策定した地方公共団体による適正な管理計画を有するマンションの認定
ⅳ地方公共団体による、管理の適正化のための、管理組合に対する指導・助言制度
ⅴ除却の必要性にかかる認定対象を耐震不足のものに加え、外壁の剥落等により危害を生ずるおそれのあるマンション等の追加
等が行われた。

マンションの建替えなどに強い制約が課されている中で、できるだけ良好な居住環境を維持して、どうしようもない状況になった場合には敷地売却という出口を広くするという今回の改正は、社会の要請に応えた一つの整合的な回答であると評価することができる。しかし、私自身はⅱ~ⅳのようなアプローチは必ずしも効率的な政策手法だとは考えていない。

このような政策は既に東京都において先行的な導入が行われている。その東京都の制度を検討する審議会の場において、私は異なる意見を申し上げてどなたの賛同も得ることができなかった経験がある。以下の意見はおそらくマンション管理にかかる専門家、実務家の目からは荒唐無稽なものに見える極端な意見であろうことを、あらかじめ申し上げておく。

個々のマンションを、長期間維持管理を行いながら現行マンションのまま存続させるか、建替えを行うか、区分所有関係を解消するかについては、個々のマンションの区分所有者が決定すべきであり、そこに地方公共団体が介入することに理由があるのだろうか、というのがそもそもの私の疑問である。地方公共団体がそのような「道行き」や維持管理に関して指導・助言をしても、それを執行できる能力が、区分所有者の集団に備わっているかどうかも自明ではない。

このように、十分な情報を持っていない公的な主体が中途半端な介入を行うよりは、情報開示を徹底することで、市場が良いマンションとそうではないマンションを選別できる機能を強化することの方がずっと効率的な結果がもたらされるであろう。
その結果、選ばれないマンションが出現した場合には、現在、建物の物理的な状況に限定されている敷地売却制度の出口をもっと広げて、マンションの市場からの退出を容易にする方が、効率的に良好に管理されているマンションストックを社会に提供するという目的を実現するのではないだろうか。

「管理計画認定制度」が実際にどの程度機能するかに注目~藤代 賢吾氏

改正法で創設された「管理計画認定制度」は「マンション管理適正化推進計画」を策定した自治体が実施できる管理組合の認定制度だ。
認定に際しては、国が定める基準に適合することが求められるがこの基準に、修繕積立金の額を定めようという動きがある。
公表されている認定基準の素案では、修繕積立金について「積立額が著しく低額でないこと」とし、長期修繕計画の「計画期間全体での修繕積立金の平均額(1平方メートル当たりの単価)が一定額以上であること」を求めている。

具体的な金額は現在検討中だがマンションの規模に応じた判断基準を設ける予定で、ある程度の金額を落とし込めれば、認定を受けた管理組合に関しては長期修繕計画期間は、それなりの額の資金を確保できる、つまり老朽化に対応できる資力がある、と見込むことができそうだ。
認定基準に満たない管理組合は、基準をクリアすることを目標にしてもらい、認定を取得することで修繕資金の底上げが図れるー。こんな見立てをすれば、制度が老朽化対策に一定の効果をあげることは可能だといえそうだ。

だが見立て通りに制度が機能するかどうか。
認定取得で期待される効果について国は「適正に評価されたマンションとして市場において評価される」とするが、どの程度の評価を得られるのかは未知数だ。
現段階では管理組合にとって認定を受けるメリットは乏しい面があり、制度を魅力あるものとすることができるかどうかが「老朽化対策」におけるひとつの鍵を握ることになるだろう。
また、老朽化対策としては、管理不全の兆候が出始めるなど、認定制度の「枠外」に位置すると考えられるマンション管理組合(管理組合が事実上存在しない場合もあるが)への対応をどう進めていくのかも課題になる。
改正法は地方自治体に管理組合に対する助言・指導、勧告権を設けているが「管理不全」もしくは、その一歩手前の管理組合あるいは区分所有者に、こうした措置がどこまで響くか懸念が生じる。
これらのマンションへの対応は、将来的には「要改善」などと自治体が指定し、改善計画を提出させる、といった強制的な措置が必要になってくると思われるが、いつの時点でこうした「見切り」を付けるかもポイントになる。
見切りどきを誤ると、特に地方では管理不全の進行を防げないリスクが高まることも予想される。

藤代賢吾:(株)マンション管理新聞社が月3回発行する旬刊紙「マンション管理新聞」編集長。分譲マンション管理業の動向など分譲マンション管理に関するあらゆるできごとを20年以上にわたって取材。1999年から現職。2002年、マンション管理士資格取得。明治大学経営学部卒。東京都出身

法改正によって管理不全マンションの抑制に一定の効果を期待~瀬下 義浩氏

<b>瀬下義浩</b>:マンション管理総研 代表。一般社団法人日本マンション管理士会連合会 会長なども務める。2010年国交省「修繕積立金に関するガイドライン検討委員会」委員、2012年・2016年度~ 東京都「耐震促進都民会議」委員等、行政委員を歴任。主な著書に『依頼が殺到するマンション管理士の仕事術』(住宅新報社)など瀬下義浩:マンション管理総研 代表。一般社団法人日本マンション管理士会連合会 会長なども務める。2010年国交省「修繕積立金に関するガイドライン検討委員会」委員、2012年・2016年度~ 東京都「耐震促進都民会議」委員等、行政委員を歴任。主な著書に『依頼が殺到するマンション管理士の仕事術』(住宅新報社)など

今回の法改正の背景としては、老朽化を抑制して周辺への危害等を防止するための維持管理の適正化や、老朽化が進み維持修繕等が困難なマンションの再生に向けた取組みの強化が喫緊の課題となっていることが挙げられる。
都市の競争力の向上を目的として、マンションストックやその敷地の有効活用のため、管理組合による適正な維持管理を促す仕組みや建替え・売却による更新を円滑化する仕組み等を検討し、所要の制度的措置を講ずることが重要となってきた。

この法改正の一連の動きのプロローグとして、我々マンション管理士が登録している一般社団法人日本マンション管理士会連合会(以下「日管連」という。)の施策であるマンション管理適正化診断(無償の管理状況診断、火災保険割引特典あり)及び管理組合損害補償金給付制度(マンション管理士の組合口座印預かり不正による損害補償)について、2019年末に以下の各会議においてプレゼンテーションの要請があった。
・11月1日 国交省社会資本整備審議会・住宅宅地分科会のマンション政策小委員会
・12月6日 住宅土地・都市政策調査会及び中古住宅市場活性化委員会(自民党本部)
・12月19日 公明党マンション議員懇話会(衆議院会館)
これらの経過をもって、改正法案は国土交通省委員会、参議院・衆議院本会議での可決の流れとなった。

マンション管理の業界潮流としては、公益財団法人マンション管理センター(適正化法指定・適正化推進センター)マンション管理研究会において、計画修繕だけではなく総括的なマネジメントを含めて長期修繕計画を超える50年計画である「マンションの長期マネジメント計画」を策定している。
一般社団法人マンション管理業協会(適正化法指定の管理会社の団体)では、「管理評価検討委員会」において2019年後半に適正管理評価研究会を開催し、170項目からなる管理状況評価基準を策定しようとしており、高評価マンションには火災保険料軽減のインセンティブを与える仕組みを構築中である。

業界としての最終的な目標は、重要な社会資本であるマンションの管理不全化(古く言えばスラムマンション)の抑制であり、その防止策の延長として、マンション売買市場における管理評価の反映に他ならない。マンション所有者としては、管理組合運営において適正な管理に心掛けなければ、財産としてのマンション価値の維持或いは価値向上は望めないことになると推測される。

改正マンション管理適正化法においてマンション管理士が担うであろう事項として、行政指導によるマンションの管理状況実態調査や管理不全マンションへの助言・指導のための派遣、同法に定める管理計画認定制度における認定申請業務も想定される。
改正建替え円滑化法においては、基本、前述の通り管理不全マンションを再生して市場に戻すことであるが、改正法を適用して取り壊し敷地売却や建替える場合における管理組合内での合意形成については、マンション管理士の顧問契約による助言・指導が有効と考える。

2020年 12月11日 11時05分