アマゾンやヤフーが相次いで不動産市場に参入!?
ニュースなどで目にした方も多いと思うが、ヤフーとソニー不動産が業務提携し、中古住宅の個人間売買をサポートする仕組みを立ち上げた。正式には間もなくオープンとのことで、現状ではソニー不動産のサポートを受けつつインターネットを介して比較的簡単に個人の所有する不動産を、所有者自身が売却するという「構想」がヤフーの専用サイトで紹介されている段階だが、不動産流通において、大手ポータルサイトが不動産の個人間売買を手掛ける段階に至ったということ自体が注目に値する。今後の展開に是非期待したいものである。
また、世界最大のeコマース/ECサイトを運営するアマゾンも積水ハウス、大和ハウスリフォーム、ソニー不動産などと業務提携し、キッチンやバス、トイレなどのリフォームサービスを提供する「リフォームストア」を開設した。開設後まだわずかな期間を経たのみだが、反響は上々とのことでまずは無難な船出を果たしたと言えそうだ。さらに、日本マイクロソフトがリクルート住まいカンパニーと提携&開始した「bing不動産」も直感的に物件検索が可能なマッピングサービスとして、その可能性が期待される。
ちなみに、筆者が所属しているネクストが運営するHOME'Sでも“地図から探す”を選択すればマンションでも戸建でも賃貸物件でも、同様の物件検索が可能だし、リフォームについては無料・匿名見積もりの依頼を既に可能にしているので、これらの試みが目新しいサービスということではないが、物件や物件に付随するサービスを探すのにいちいち不動産会社に個人情報を開示しながら問い合わせをするということもなく、手元にあるPCや携帯端末から簡単に情報検索できるというのは、手間を軽減し検索のハードルを下げるという意味で不動産流通と市場の活性化に大きく貢献する可能性がある。
もともとインターネットは不動産事業と親和性が高い
このように、相次いで不動産関連事業者とインターネット事業者が提携する背景には、ネット側からすれば顧客の囲い込みや集客力の差別化、コンテンツの多様化など、ECサイトも商品メニューの拡充や採算への期待などのメリットがあり、不動産関連事業社にも自社サイトで個別にアピールするのではなく、既に多くの顧客にサービス展開しているポータルと連携することで短期間&数多くの訴求が可能になるという、相互にメリットが生まれる図式がある。
もともと不動産販売業および賃貸業は、価格や賃料、間取りや最寄駅からの所要時間などといった「情報」の集積力と発信力が必要な事業であり、そのために「不動産情報」を専門に取り扱うポータルサイトが早くから求められ拡充してきたという経緯があるが、さらに一歩踏み込んで、従来の不動産流通の仕組みを変えたり、設備品の販売なども手掛けるというのは、「情報」を短期間に広いエリアから数多く収集し、それらを見比べた上で判断に利用したいという消費者/ユーザーの要求に対応するべく生まれてきたものと考えられる。「必要は発明の母」という言葉の通り、インターネットが消費者の意向に影響を与え、その結果、消費者がユーザーとしてさらにインターネットのサービスを拡充させる方向に動かしたということなのだろう。
その意味では、こういった不動産関連事業者(=情報を持つ者)とインターネット事業者(=情報インフラを持つ者)との連携は必然であり、利便性と効率化を同時に提供する仕組みが早晩消費者の支持を得て徐々に定着していくことは想像に難くない。
それでも残る不動産流通の仕組みと課題
閑話休題。
少し前の統計資料だが、5年に1度実施されている国土交通省の「住生活総合調査」2008年版によると(2013年版は速報値のみでまだ全容が公表されていない)、住宅の要素に対する“不満”の割合(複数回答)は「高齢者への配慮(が足りない)」が58.4%でトップ、以下「冷暖房のエネルギー効率(が悪い)」53.0%、「地震・台風時の安全性」49.7%、「住宅の断熱性・気密性」46.2%などが続く。安全性、防犯性、断熱性、遮音性など住宅に対する不満は、住んでみてしばらく経ってから実感されるものであり、いわばアナログ的なものとして発露される類である。
これらの不満の一つ一つが、インターネットでの情報検索やその先にある実際のサービスでどれほど改善されるのだろうか。答えは明らかになる筈もないが、少なくとも現在のインターネットを経由して提供される各種のサービスで簡単に解決できるものとは考えにくい。もちろん防犯性能を高めるためにECサイトでカギを購入したり、玄関ドアのリフォームを発注することはできるが、抜本的な解決手段ではなく、対処療法的なものに留まる可能性が高い。つまり安全性や防犯性といった漠然とした住宅に対する不満に対応するには、消費者一人一人の要望を細かく確認する作業が必要で、インターネットを活用して不動産流通のフローを効率化するだけでは具体的な解決策を提示することができず、実際に「住む」段階に至るには様々なハードルが立ちはだかることになる。要望や不満を吸い上げて多変量解析などの統計処理を行ない、これらの多くに対応できたとしても、それによってコンサルティングが不要になる道理はないのである。
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国土交通省の「住生活総合調査」2008年版より抜粋
不動産流通市場に求められているのは、効率化とともに「価格の見える化」
この2つの事象を挙げて何が言いたいのかというと、不動産流通をITによって効率化することは必要でも、それだけでは解決しないことが山ほどあるということである。
特に最も求められているのは、市場の透明化や価格の見える化だろう。不動産価格についてはこれまで幾度となくコラムで指摘してきたので、殊更な言及を避けるが、“なぜこの価格になるのか&なったのか”を根拠とともに明示してくれるサービスがIT化時代に最も求められる要素になるのではないかと考えている。
価格の根拠とは何も難しいものではなく、「価格の明細」ということである。不動産価格は基本的に土地+建物のワンプライスで表記されているが、その内訳および建物価格の何にいくら掛かって、人件費がどれくらいで、流通経費や税金・印紙代などの諸雑費がいくらで、という価格と経費の構成要素が開示されることは、訴訟などのトラブル時などごく稀なことであり、大抵の場合、契約して初めて内訳を知ることになる(それでも人件費などはなかなかわかるものではない)。日用品や消費財など少額で購入できるものであれば価格の構成要素を確認する必要を感じる局面は少ないが、不動産のように1,000万円単位の“買物”ともなれば、価格の根拠を知らずに、もしくは認識せずに購入するのはこの時代、極力避けたいものだ。資材価格の高どまり、地価の上昇、人件費の高騰が物件価格を押し上げているとマスコミを通じてまことしやかに喧伝されるのであれば、せめて実際に購入する消費者には、その価格の明細を詳らかにするべきであると思う。
インターネット大手が今後の不動産流通の仕組みを変えていこうと思うならば、流通の効率化とともに消費者、住宅購入者を代表して価格の「見える化」を業界に働き掛ける努力をしていただきたいものだ。それが本当に不動産流通の仕組みを変えることにつながるのである。
2015年 08月05日 11時06分