コロナ感染推移を5期間に区分。期間ごとの行政区別物件検索数を調査・分析

8月末現在、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからず、終息に向けての出口が見えない状況が続いている。国内・海外を問わず多くの産業がその影響を受けて業績や売り上げを大きく落としており、世は感染拡大防止最優先なのか、それとも経済活動を維持しつつ感染防止策を並行して実施するのか試行錯誤を繰り返し、手探りで前に進んでいる状況だ。私たちは当面”withコロナの時代”を生きていかざるを得ない状況に置かれている。

時間を遡ると、新規感染者が100人を超えた3月27日から国の緊急事態宣言が発出された4月7日を経て5月中旬の解除までの期間は感染防止を最優先し、経済の循環を可能な限り停止するような状況に至った。不動産関連業界ではホテル・旅館および民泊施設が極めて大きな打撃を受け、住宅業界においても新築マンションの販売が事実上ストップしたり、中古住宅の流通が激減したりするなど、住宅市場自体も国内経済と歩調を合わせるかのように停止することを余儀なくされた(便宜上この期間を【コロナ第一波】と呼ぶ)。
5月中旬以降は一旦感染者数が低水準で推移し、最も懸念された医療崩壊の危険性もある程度回避できたとの判断から、徐々に経済活動が再開された(同じく【コロナ抑制期】と呼ぶ)。
その後、移動自粛が本格的に解除され、再び感染が徐々に再拡大して現在に至っている(同じく【コロナ第二波】と呼ぶ)。

今回、LIFULL HOME’S総研では上記の期間にユーザーが物件検索した閲覧数(PV)を基に、期間を5区分(区分はグラフを参照)、コロナの感染状況推移に伴い、ユーザーがどのような検索・閲覧行動を取り、どのエリア(行政区単位)の物件が数多く閲覧されたのかを増加率で検証・分析していく。

閲覧数検証および分析対象としたのは、中古住宅の戸建およびマンション。
新築物件は期間中に分譲物件数および戸数が激減したこと、賃貸物件は今回分析地域とした1都3県と周辺6県(※)とで物件数に比較的大きな違いがあることからいずれも分析対象とせず、比較的まんべんなく分布している中古住宅を対象とした。データ分析において同質性を担保する試みである。
なお、対象の1都9県の約500市区町村のうち、実際に中古住宅の登録物件数が多い上位150市区町村を分析対象とし、各期間の上位20行政区をランキング表示している。

※首都圏に加えてユーザーが近隣以外に住み替えを検討する可能性が高いと考えられる、茨城・栃木・群馬・山梨・長野・静岡を集計対象として集計・分析

厚労省からのデータに基づいたコロナ新規感染者数の推移グラフ。これを基に5期間に区分し、分析データを集計した厚労省からのデータに基づいたコロナ新規感染者数の推移グラフ。これを基に5期間に区分し、分析データを集計した

「コロナ以前」期間を100とした各期間の物件閲覧数増加率を算出

今回のデータ分析の主たる目的は「通常であれば勤務先や居住しているエリアの近隣で住宅を探すであろうユーザーがコロナのリスクを考慮して物件検索・閲覧エリアを変更しているか否か」である。

まず、国内での感染者がほぼゼロであった「コロナ以前」(2020年1月1日~2月12日の43日間:クルーズ船での感染者などを除く)の毎日の閲覧数を行政区ごとに算出。一日平均の閲覧数を母数としてその後の「コロナ初期」期間(国内初の死亡が確認された2月13日~新規感染者が100人未満だった3月26日までの43日間)、「コロナ第一波」(新規感染者が100人を超えた3月27日~39県で緊急事態宣言が解除された5月14日までの49日間)、「コロナ抑制期」(緊急事態宣言が解除された翌日の5月15日~再び新規感染者数が100人を超える前日の6月27日までの44日間)、「コロナ第二波」期間(新規感染者数が再び100人を超えた6月28日~集計最終日の8月11日までの45日間)の閲覧数の増加率を算出した。

「コロナ初期」期間では、まだコロナ感染を自分事として捉えているユーザーは少数である可能性が高く、ユーザーの閲覧行動に通常時との違いは見いだすことができない。
すなわち物件数の多い都心・近郊の住宅地があるエリアを中心に閲覧数の上位エリアが形成されている状況にあったが、新規感染者数が全国合計で連日100人を超える状況になった「コロナ第一波」期間では、表のとおり閲覧増加率が大きくなったエリア(行政区単位)が“郊外化”する。

「コロナ第一波」期間、つまり感染者が急増して緊急事態宣言が発出される状況に至った期間は、医療崩壊の可能性や海外の感染者および死亡者の急増が報道され、にわかに自分と家族や身近な人たちの生命・身体の危険を現実のこととして受け止めるようになった時期である。同時に外出自粛や行動抑制が自治体単位でさまざま実施されて、感染リスク(その先の重症化および死亡リスクも含めて)の高まりが心理的に切迫した状況を生み出していた時期でもある。
その時期に物件閲覧増減率1位となったのは、神奈川県箱根町(「コロナ以前」期間比159.2%)である。マスコミではコロナ感染リスクを避ける目的で軽井沢を筆頭に箱根や熱海などのリゾート地にある物件に転居するケースが報道されていたこともあり、首都圏から避難することを“漠然と”イメージした時期に検索・閲覧された可能性が指摘できる。
以下、2位に千葉県木更津市(同148.2%)、3位市原市(同136.5%)、4位神奈川県伊勢原市(同133.1%)が閲覧増加率上位となり、いずれも首都圏郊外に位置する行政区の物件が閲覧数を大きく伸ばしていることがわかる。掲出した上位20行政区のうち、都心・近郊は6位の横浜市中区、17位の渋谷区および18位の江東区にとどまり、残り17行政区は首都圏郊外もしくは静岡県、茨城県で、物件の閲覧が「コロナ第一波」期間では圧倒的に郊外方面へと拡散している状況を確認できる。

コロナ以前と比較したコロナ第一波期の物件PV数増加率ランキングコロナ以前と比較したコロナ第一波期の物件PV数増加率ランキング

感染が一旦終息に向かった「コロナ抑制」期間は現実的な選択に変化

この「コロナ第一波」期間における閲覧増加エリアの郊外化は、緊急事態宣言が解除され、新規感染者数も全国で100人以下にとどまっていた「コロナ抑制期」にさらに変化した。

この期間の1位は千葉市緑区で、「コロナ以前」期間と比較して209.2%と実に2倍以上の閲覧数に達している。「コロナ第一波」期間で1位に躍進した箱根町の物件数は実際には限られており、また交通アクセスについても最寄駅から徒歩圏の物件は少ないこともあって実際に生活することのイメージが持てなかった可能性がある。代わって東京方面から見ると千葉市中心部以遠に位置する緑区が閲覧数で急浮上する。緑区にはJR外房線「鎌取」「誉田」「土気」の各駅があり、「蘇我」で乗り換えれば都内へのアクセスも比較的容易なエリアであり、また物件価格も相応に安価であることから閲覧数が大きく伸長したものと考えられる。

2位は「コロナ第一波」期間の2位から引き続き高い閲覧数を維持した木更津市(「コロナ以前」期間比163.1%)。JR内房線を利用して千葉・東京方面へのアクセスが可能であり、また東京湾アクアラインで都心・近郊と結んでいることから、郊外エリアとしては比較的良好な交通利便性が評価された結果とみることができる。内房エリアに位置していることから台風や大雨などの自然災害も少なく、東京湾沿いの自然環境が整ったエリアであることも都心・近郊に居住するユーザーからの支持が高い要因である。

3位は小金井市(同152.1%)で「コロナ第一波」期間の111.7%から急増している。緊急事態宣言下ではより遠方に位置する物件検索・閲覧が行われた印象が強いが「コロナ抑制」期間になると、都心から比較的容易にアクセスが可能なエリアでの物件閲覧が増加し、その代表格として急浮上した可能性が考えられる。

以下、東京都あきる野市(同143.8%)、横浜市神奈川区(同139.3%)、茅ヶ崎市(同138.8%)と閲覧増加率上位の行政区が続くが、傾向として明らかなのは「コロナ第一波」期間と比べて、閲覧増加率の高いエリアが都心方面に近づいてきていることだ。緊急事態宣言が発出されている状況下では、なるべく都心から離れようとの意識が働いたのか、首都圏の外側のエリアでも検索・閲覧数が増加したのに対して、「コロナ抑制」期間においてはより現実的に都心・近郊へのアクセスが可能なエリアへと閲覧増加率の大きい行政区が移っている。

これは来たるべき第二波(その定義は曖昧である)に備えて、もしくはコロナ感染拡大が長期化することへの対策として「コロナ第一波」期間の多少パニック的な検索・閲覧ではなく、実際に行動することを想定しての閲覧が行われていたとみることもできそうだ。

コロナ以前と比較したコロナ抑制期の物件PV数増加率ランキングコロナ以前と比較したコロナ抑制期の物件PV数増加率ランキング

「コロナ第二波」期間は感染再拡大も「コロナ抑制期」期間から大きな変化なし

コロナの感染者数は緊急事態宣言解除後一ヶ月半程度抑制されていたが、自粛解除および飲食店の時短営業が緩和され、市中にある程度の賑わいが戻るにつれて新規感染者数も増加した。
6月28日には全国で再び100人を超え、しかも移動制限を解除したことによって感染者数の少なかった地方圏でも新たな感染者が増加する結果となり、「コロナ第二波」期間における感染者数は「コロナ第一波」期間よりも増加のペースも感染者の絶対数も大きくなっている。

国のコロナ感染対策費は、国民全員に一人当たり10万円を支給する給付金制度や店舗や企業に対しての助成金支給する制度などにより、財政負担は増加。2020年度は、過去最大だった2019年度の104.7兆円の約1.5倍の規模で、しかもその追加財源はすべて国債発行で賄い、その国債発行額は90.2兆円に達する。これ以上の財政負担を避けるべく経済活動の本格的再開に舵を切ったことで、結果的に感染者数の再拡大を防げなくなったと考えられる。

この状況下では、「コロナ第一波」期間よりもさらに検索・閲覧エリアの郊外化と拡散が進むものと予測される。閲覧増加率1位は「コロナ抑制」期間と同じく千葉市緑区であるが、増加率は290.6%と約3倍にまで拡大している。2位は東京都小金井市の174.3%だが千葉市緑区とは増加率に大きな差が認められる。3位は木更津市(「コロナ以前」期間比159.1%)、4位には東京都あきる野市(同149.8%)が新たにランクインし、5位には箱根町(同149.3%)が再び登場している。
ランキング上位に登場する行政区の顔ぶれは、箱根町が再登場するなどやや郊外化したとみることもできるが全体的な顔ぶれは「コロナ抑制」期間と大きく異なることはなく、ただし千葉市緑区での閲覧増加率が突出して高いという結果となった。

これは感染の再拡大で危機感を強めたユーザーが、さらに現実的な選択として「千葉」以遠の房総半島エリアに的を絞って閲覧したとみることもできるし、感染者の増加が常態化し、販売されている物件の価格帯や行政サービスなどを把握したうえで冷静に閲覧した結果が千葉市緑区であったとみることもできる。木更津市が3位、新たに茂原市が6位(同148.0%)、鎌ケ谷市も18位(同135.0%)と急浮上しているのも千葉県の房総半島エリア・郊外エリアへの「コロナ対策人気」が高まっていることがみてとれる。
いずれにせよ、閲覧増加率の高い行政区の郊外化という傾向には変わりがなく、感染が長期化することで本格的に転居することを検討し始めたユーザーが増えていることを示すものといえる。

コロナ以前と比較したコロナ第二波期の物件PV数増加率ランキングコロナ以前と比較したコロナ第二波期の物件PV数増加率ランキング

コロナ禍で物件閲覧は郊外化。購入ユーザーの意向は首都圏外にほぼ出ない

以上が「コロナ以前」期間の物件閲覧数を基に、その後の「コロナ第一波」「コロナ抑制期」「コロナ第二波」の各期間における閲覧増加率を行政区単位で検証した結果である。

これらの結果から浮き彫りになったのは、中古住宅を購入しようと考えている、または首都圏で物件を探しているユーザーは一時的に(「コロナ第一波」期間に)伊豆半島方面の箱根町や熱海市、伊東市など首都圏の外で物件を検索し閲覧するケースが多くみられたが(軽井沢町も物件は多くないものの閲覧数の増加が確認されている)、その後の「コロナ抑制期」「コロナ第二波」の各期間には冷静さを取り戻したかのように千葉県房総半島エリアを中心として都心・近郊にアクセスが比較的容易な首都圏郊外での物件検索を行っている様子がうかがわれる(※つくばエクスプレスが延伸する茨城県方面は宅地開発およびマンション開発が盛んで相対的に中古住宅の物件数が少ないことから今回のランキングには登場していない)。

また、「コロナ第一波」期間のランキング上位20行政区の平均閲覧増加率は126.8%と1.2倍強の増加であったのに対して、再拡大期である「コロナ第二波」期間では平均で151.2%、約1.5倍に達している。これは直近の「コロナ第二波」期間のほうがより多くの閲覧数を得ていることになり、それだけ首都圏郊外での物件購入に関心を持つユーザーが増えているという結果でもある。

これらの結果をふまえると、コロナの感染拡大に伴う生活様式の変容が長期化および本格化すればするほど、働き方改革の進捗に伴い、実際に住宅を探すユーザーの目は首都圏郊外エリアに注がれていく可能性が高まることになるだろう。

かつて高度成長期には、首都圏全域への流入人口が多くなり地価の高騰に伴って住宅立地が郊外化(ニュータウン政策を含む)するという“ドーナツ化”現象が発生した。その後は職住混在とマンションの普及によって”都心回帰“および”都心一極集中“と言われるようになったが、今度はコロナの影響とその対策、およびテレワークの進捗などによって再び住宅地が”ドーナツ化“する可能性が出てきている。置かれた状況は全く異なるものの、果たして歴史は繰り返されるのだろうか。

■データ集計期間 2020年1月1日~2020年8月11日
■分析データ   LIFULL HOME'Sの中古住宅(戸建及びマンション)物件データにおける 東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城・栃木・群馬・山梨・長野・静岡のPV数
■分析      LIFULL HOME'S総研 副所長 兼 チーフアナリスト 中山 登志朗

2020年 08月31日 11時05分