3つの住宅地での取組みを紹介

大和ハウス工業が分譲した上郷ネオポリスに新設された野七里テラス。さまざまな意味でこれからの地域の拠点となる場所だ(写真/大和ハウス工業提供)大和ハウス工業が分譲した上郷ネオポリスに新設された野七里テラス。さまざまな意味でこれからの地域の拠点となる場所だ(写真/大和ハウス工業提供)

社会の人口減少と少子化、高齢化の進行と足並みを揃えるように衰退の一途を辿ってきた郊外住宅地だが、住環境としては恵まれていることも多く、それをそのままにしておいて良いのかという議論がある。また、最近のコロナ禍で郊外に目を向ける人が増えている。

2020年6月6日、「郊外住宅地再生フォーラム2020」がオンラインで開催された。大和ハウス工業株式会社とミサワホーム株式会社、株式会社東急不動産R&Dセンターの3社と、国立大学法人東京大学先端科学技術研究センターの共同によるものだ。2019年10月に設立された東京大学先端科学技術研究センター郊外住宅地再生社会連携研究部門は、産官学民が連携、民間のデベロッパーがかつて分譲した郊外の住宅地の再生を創出することを目的にしたもの。そんな中、フォーラムは開発後30~50年近くを経た3つの住宅地で行われている試みの紹介から始まった。

トップバッターは1962年より全国61ヶ所で大規模戸建住宅団地「ネオポリス」を開発してきた大和ハウス工業株式会社。現在はそのうちの「上郷ネオポリス」(神奈川県横浜市)および「緑が丘ネオポリス」(兵庫県三木市)で郊外型既存戸建住宅団地の再耕(再生)事業「リブネスタウンプロジェクト」に取り組んでおり、取り上げられたのは前者。

1972年に開発が始まった上郷ネオポリスは最寄り駅JR港南台駅からバスで20分ほどの場所にあり、2019年時点の人口は約2,000人。同団地のある横浜市栄区自体の高齢化率(65歳以上)が約31%(2020年)と横浜市18区のうちでも高齢化が進む地域だが、同団地はさらに高く約50%(2017年)。周辺には同時期に開発された一戸建住宅地も多く、約1万2,000人が住む。

開発から長年、まちの管理には直接関与していなかった同社だが、2014年から自治会内の「見守りネットワーク」委員と意見交換を開始、以降毎月1回の地道な協議の場を経て、2016年には「上郷ネオポリスにおける持続可能なまちづくりに関する協定(まちづくり協定)」を締結、住民との関係を構築するに至っている。その後、2019年に東京大学、2020年に横浜市と民産学官が連携、健康で生きがいを感じながら安心して住み続けられる街づくりを基本コンセプトに検討、実践が始まっている。

買い物、交通利便性の面から実験

その中で最優先されたのが新たなまちの魅力向上の企画・実践。具体的には2019年10月に誕生したコミュニティ拠点「野七里テラス」である。これはコミュニティスペース「イマテラス」を中心に、コンビニエンスストアのある多目的空間で、地域の人がイベントの企画、運営などにボランティアとして参加している。コミュニティ、生きがいを醸成し、買い物の利便性も向上させようという施設である。また、住民宅の空き駐車場を借りて5ヶ所での移動販売車もスタートした。

ところが、そこにコロナ禍である。対面での定例会はストップしたものの遠隔での開催がスタート。高齢者には難しい面もあるとしながらもLINEグループを作り、コンビニエンスストアの弁当を期限前に販売し宅配をするなど新しい試みも計画されている。また、移動販売車は自治会の申請で7月には公園にも場を広げて7ヶ所で巡回する。周辺の地域からはウチにも来てほしいという声もあるとか。買い物の利便性向上は誰にとってもうれしいポイントだけに、それをフックにしたまちの再生は汎用性が高いようだ。

続く事例報告は2019年12月に国土交通省の「人生100 年時代を支える住まい環境整備モデル事業」に選定された、ミサワホーム株式会社による神奈川県川崎市新百合ヶ丘地区での『「交通と住まい」の視点によるエリアリノベーション』の実証実験。

この地域では2020年2月17日から小田急電鉄がオンデマンド交通「しんゆりシャトル」を実証運行し、配車の効率性や需要調査などの検証が行われたのだが、それに合わせてこのオンデマンド交通利用対象区域のミサワホームオーナーに住まいの利用状況、継続居住の意向の把握、交通手段選択実態に関するアンケート調査を行ったのである。対象エリアは高低差が多く、高齢者にとっては移動が負担になりやすい地域。そこに路線バスより自由度の高いオンデマンド交通が導入されたらどうなるか。

アンケート調査からは2階の洋室、駐車場が使われていない状況や住まいの継承の見通しが立っていない人が少なからぬことまでは分かったが、残念ながらしんゆりシャトルの実験がコロナの影響で早期に打ち切られたことから、交通との関係については明確な答えが出たわけではない。ただ、使われていない駐車場を活用することでこれまで育まれてこなかった周囲との人間関係が生まれる可能性が示唆されたことは興味深かった。

ミサワホームの調査からは、使われていない駐車場を外に向けて開くような使い方に新たな地域での人間関係が生まれる可能性が示唆された(写真提供/ミサワホーム)ミサワホームの調査からは、使われていない駐車場を外に向けて開くような使い方に新たな地域での人間関係が生まれる可能性が示唆された(写真提供/ミサワホーム)

郊外住宅地の疎がこれからはメリットに?

こま武蔵台で若年世帯向けにリノベーションされた住宅のビフォーとアフター(写真提供/東急不動産)こま武蔵台で若年世帯向けにリノベーションされた住宅のビフォーとアフター(写真提供/東急不動産)

3件目の事例は1953年から90件を超える住宅地開発を行ってきた東急不動産株式会社が1977年から約10年にわたり、約2,000戸を供給した埼玉県日高市にあるこま武蔵台のもの。同地では約50%にも及ぶ高齢化率と若年層の減少、空き家の増加や、買い物や移動手段などといった生活水準の低下が起こっており、その解決のためにと考えられた手は大きく3種類。若年世帯向けの空き家のリノベーション、月2回の地元商店街のマルシェ開催と連携した子どもの居場所作りと多世代交流、そして働く場としてのコワーキングスペース作り(今後実証スタート)である。

コロナの影響でマルシェが3月から中止になるなど活動への影響はあるものの、徐々に都内からの引越し、下見に来る姿なども見られるようになっているとか。これまでずっと都市通勤圏が縮小、郊外がより遠く感じられるようになってきていたが、コロナ禍で今度はそれが再度近づきつつあるのかもしれない。密の反対が疎であることを考えると、かつてゆったりと作られた郊外住宅地には疎が多く、今後はそれがメリットになる可能性も考えられる。

25年周期で都心と郊外の人気は揺れ動く

3つの事例発表に続き、事例発表者に他の研究者も加わってのパネルディスカッションが行われた。どの先生方からも興味深い発言があったのだが、そのうちからごく一部を紹介したい。

1945年以降、日本では25年を周期に都心と郊外でどちらを良しとするかの振り子が揺れ動いてきたと明治大学の園田真理子教授。1945年から1970年、戦後復興の時代には人は地方から大都市へ向かった。続く1970年~1995年はジャパンアズナンバーワンの時代で、団塊世代は郊外に住宅を求めて、そこで団塊ジュニアが育ち、1995年~2020年はグローバル化、少子化、単身化が進み、人はより利便性を求めて都心を目指した。

では、次の2020年から2045年はどうなるか。すべての郊外住宅地が生き残れるわけではないものの、地域における経済循環が生み出せれば、郊外住宅地のサヨナラホームランもあり得るかもしれないと園田教授。こま武蔵台の疎にチャンスがあるという言葉とも重なり、コロナが大きな転換点になるかもしれない。

港北ニュータウンの研究などに携わってきた東京都市大学の室田昌子教授の発言では清掃管理頻度と大変さの意識、自己評価からなる年代別居住環境管理能力という言葉が興味を惹いた。この能力が80代以降に下がってくるのは分かるが、不思議なことに40~50代の管理能力が低いという。働き盛りが家に関心を持たない、手入れを面倒に思っているというわけで、それがその後の住宅の放置に繋がるのかもしれないと考えると、住宅はずいぶんと軽視されているものだと思う。購入時には人生で最大くらいの高い買い物と考えたはずであろうに、不思議である。

園田教授の資料から25年周期の説明部分。ずっと都心でも、ずっと郊外でもなく、私たちの意識は振り子のように変遷してきたという園田教授の資料から25年周期の説明部分。ずっと都心でも、ずっと郊外でもなく、私たちの意識は振り子のように変遷してきたという

コロナの影響に変化の兆しを見る人多数

都市計画、建築以外で都市交通を研究する東京大学の高見淳史准教授の参加からは問題の広がりが感じられた。郊外住宅地を衰退に向かわせている要因のひとつが交通利便性の低下であることを考えると、公共交通の在り方も含め、交通がどうあるべきかはもっと研究されるべきだろう。

東京大学の大月敏雄教授の引越しをどうデザイン、コントロールできるかという発言も今後多数発生するであろう郊外住宅地の空き家対策としては重要と思った。事例として挙げられたのが新潟県のサービス付き高齢者向け住宅(以下サ高住)の越冬プラン。高齢者が一人暮らしの大変な時期だけ自宅からサ高住に住むことで、徐々に他の場所に住むことに慣れていくというものだ。

高齢者のなかには自宅以外の場所に住むという経験、発想がなく、広い家に一人になり、それが不便でも住み替えを考えつかない場合が多々ある。その意識が変わるだけでも、本人にも住宅にも、そして周辺にもプラスになるのではなかろうか。

長らく衰退、衰退といわれてきた郊外住宅地だが、今回のフォーラムでは働き方の変化、それによる居住者とまちの関係の変化などを転機と考える意見が多く、非常に前向きだった。園田教授の言葉ではないが、逆転サヨナラホームランがあったら面白い。

2020年 07月20日 11時05分