性能表示に疑問がある
住生活基本法の施行以来、性能表示ができるようになった。要は、ストック社会に向けて、住宅の性能を明確にすれば、ストックの評価ができるようになるということだ。もちろん方向性は十分に理解できる。でも、とても複雑な判断の世界に消費者を巻き込んでいるのではないかと思うようになった。
この根源にあるのは、スケルトンとインフィルの考え方だ。そもそも、性能としての評価はスケルトンの評価をしようとしているものと思われる。そしてそのスケルトンが価値として残り、住宅ストックの指標となる。予定である。が、ほんとうだろうか。
たとえば耐震等級。これが2級であれば基準より25%強い。スケルトンではなく建物そのものへの評価であるから、屋根や壁の荷重を軽くすることで、耐震等級2級をクリアしている建物がたくさん出てくる。
社会のストックとなれば、当然のように住み継ぐ人が出てくるのが前提だ。将来の住まい手が、たとえば屋根に重たい瓦を載せてリフォームしたら耐震等級が落ちることが考えられる。それはそれ、都度、建物を評価して性能を表示しなさいということだ。正直言って面倒だ。面倒なことは普及に手間取り、結局は廃れるのを待つことになる。
スケルトンとインフィル
これをスケルトンとインフィルで考えると、もう少し矛盾が分かる。屋根材は仕上げだと考えればインフィルである。インフィルを変えることにより、スケルトンの評価が変わってしまうからおかしくなる。これではスケルトンの評価にはならない。結果的には、ごちゃ混ぜになった、建物の評価をしてしまっているのだ。
ひとつの整理方法は、極めて単純なことだ。
屋根や壁の積載荷重を統一して計算をすればよい。その積載荷重より軽い材料であれば保有耐力が残されていることになる。積雪の多い地区では雪の荷重は計算されているのだから、同じことだ。たったそれだけで、純粋なスケルトンの評価をすることができる。つまるところ多様化する仕様に対応し、民間の競争力の中で進めるという大義の下、単純なルールを決めていないのが混乱の元凶だ。
ルールを単純にして、サッサと評価できるようにした方がよい。
結局、強度というのは鎧や防具やプロテクターを付けているようなものだ。だから、これらを選んで着るように、耐震補強をすることができる。やはり、耐震性はインフィルだ。
省エネもインフィル
さらに省エネルギー性能も本当にスケルトンとしての性能であろうか。家庭で消費されるエネルギーは自家用車を含めると、冷暖房に使われているエネルギー量は17%強しかない。住宅の省エネ化には、冷暖房機器の性能向上による貢献が大きい。そして基本的に熱の出入りが大きいのは開口部だ。
今どき、壁・天井に断熱材が入っていない家などまずないから、北海道などの寒冷地でない限り多少の差としか思えない。断熱材など最低の仕様を決めておけば、それで充分だ。そのうえ寒暖の感覚には個人差があるので、生活者個人やその暮らし方によって消費エネルギー量も変わる。
これらを考えると、断熱性能で住宅の性能を評価できるものとは思えない。そもそも、冷暖房機器を取り付けることを考えても、これらがインフィルであることは明確だ。そして断熱サッシも、今では比較的容易にリフォームで取り替えることができるようになった。また、新しい塗料系の断熱効果も発揮できるものもあるという。つまり住まい手個人の感覚に合わせて、簡単に断熱性を向上させることもできるということだ。
結局、省エネ性能もコートやカイロを着用するようなものだ。
これらを考えれば、断熱性能もインフィルと考えた方がよい。スケルトンでもないもので性能表示をすることは、ストック社会への対処にはならない。
ほんとうの裸ん坊
それではスケルトンとは何か。この答えも単純だと思う。構造材で使われている材料の明細書があればそれでいい。木造住宅であれば、構造用木材の材積表で十分に判断できる。どれだけの木材が使われているかで、ストックとしての価値が決まるということだ。建築業法20条にある通りに、材料の明細と価格を明示すれば良い。
それが、ほんとうの裸ん坊のスケルトンだ。
もちろん、これらの材料を見抜くための目利きも必要となる。そこには、いくつかの単純な法則がある。外材よりも国産材が高い。乾燥率が低いほど高い。見栄えが良いほど高い。つまり値段が高いほど当然のことながら価値も高くなる。産地だけではなく、木材の品質としてのトレーサビリティを明確に表示すればよい。
さらに、柱材と横架材の比率も参考になりそうだ。柱の材積が多いと梁を小さくして組んでいるので、将来の間取りの変更をしにくい家である可能性が高い。同様に延床面積あたりの材積量でも、傾向値はつかめそうだ。材をケチれば少なくなり、悪い設計であれば余分な材を使うことがある。これにも適正値がありそうだ。
このような分析をしっかりしておけば、後はインフィルで耐震性能も省エネ性能も住まい手の要望に合わせて対応させればよい。
間面記法が教えてくれる
裸ん坊になったスケルトンを評価するのに、古来の「間面記法」が役に立つ。要は空間を確保するには、田の字プランを原点とした方が単純なのだ。現代に残されている古民家では、間面記法に則っていない事例を探す方が難しい。複雑な構造計算ができなかったからこそ、間面記法の造り方が基本であり、単純だから現代でも再生して使うことができる。4号特例のような申請を、間面記法を前提にすればよい。
ただし田の字プランでなくても評価できるように、少し解析できるようにしたい。古民家の造りで、大黒柱を見てみると、まず間違いなく四方から梁が架かっている。大黒柱は太さの問題ではなく、四方から荷重を受ける柱が大黒柱だ。間面記法の造りとは、現代の建物のポスト&ビーム構法だ。
ポスト&ビームでは、大梁と小梁の区別がしっかりとできている。二方、三方からの梁が架かる柱ではなく、四方から梁の架かる柱がしっかりと設計できているようであれば、そのスケルトンは価値が高いと考えられる。そしてもちろん、将来の再生による間取りの使い方の幅も広がってくる。つまり、残されるべきスケルトンなのだ。
これらの整理ができると、構造強度としての評価にも影響がある。大梁の下の耐力壁と、小梁の下の 耐力壁では、建物への影響が違うと考えられるからだ。
話は尽きないが、裸んぼにするところまでが今回の主張だ。
そして性能表示では、真のスケルトンの価値を表していない。
インフィルでも考えられる、こざかしい性能などは脱ぎ捨てて、理想的なスケルトンの家を地域の工務店でも簡単に建てられるようにしないと、ほんとうのストック社会の住宅の時代は来ない。
2014年 08月15日 13時42分