令和2年7月豪雨により被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます

今年もまたわが国で甚大な豪雨災害が発生した。わが家に住めないという現実ほど、受け入れ難いものは無いに違いない。住宅購入を検討中の皆様はぜひ、購入候補地のハザードマップを確認してほしい。だが、ハザードマップに表示される災害リスク情報は、いわば想定内。想定外の自然災害による被害を最小限に抑えるには、日頃からの備えが大切であり、危険な場所を避けるということもまた重要だ。

住まい選びは、何にこだわる?

Place選びにおいて交通利便性は重要視されるポイントだPlace選びにおいて交通利便性は重要視されるポイントだ

住まい選びのポイントは、価格(Price)、モノ(Plan)、立地(Place)の”3つのP”のバランスを整えることだが、取得後に変更可能な間取りや設備仕様とは異なって、変更できないPlaceの選択は最重要事項だといえる。取り組んでいただきたいのは、Placeに関する希望条件をすべて書き出し、優先順位を付けること。早い段階で希望の整理ができていると、物件選択の迷いが減り、効率的な住まい探しが可能となる。

住まいのPlace選びにおいて、あなたは何を重視するのだろうか。交通利便性、地域、沿線、最寄駅、駅からの徒歩分数、住環境、行政サービス、教育環境、スポーツ施設、買物施設、公園、趣味・娯楽施設、高台、眺望、湾岸など、交通利便性や生活利便性へのこだわりは個々それぞれだ。マイホーム購入の主たる層である30代、40代にとって交通利便性すなわち通勤利便性は最重要項目だろう。職場まで乗り換えなしで行けるのか、短時間で行けるのか、通勤時間が長くても座れるのか、駅近か、など。辛い通勤ラッシュは是が非でも避けたい。

だが、問題はPrice。利便性の良い住宅ほど高額となる。予算に限りが無ければ、好きな場所の気に入った住宅を購入できる。だが、8,000万円、9,000万円などの都心マンションを教育費の支払いを抱えながら購入するのは簡単ではない。教育費の負担がなくても、長い老後を思えば、今買えるからと単純に購入するわけにはいかないのが現状だ。

予算内におさめるには、築年数を古く、面積を狭く、そして、通勤不便を許容することとなる。かつてのバブル時は、高額過ぎる都心を避け、購入可能な住宅を郊外へ求めるドーナツ化現象が起った。都心部の価格が高くなるにつれドーナツの穴が大きくなったものだ。家族の希望である庭付き一戸建てや広さと部屋数を確保するために、通勤不便をパパが一手に引き受ける構図だった。ところが、時代は変わったのである。

感染症と災害がもたらす立地条件への要望の変化

住まいのPlace選びの条件に、実家や親族と行き来がしやすい距離を加えてもいいかもしれない住まいのPlace選びの条件に、実家や親族と行き来がしやすい距離を加えてもいいかもしれない

新型コロナウイルス感染症の広がりにより、働き方改革に拍車がかかる。大手企業では緊急事態宣言解除後もリモートワークを推進。通勤定期代の支給をとりやめ、リモートワーク環境を整える費用として支給する企業も出てきている。通勤しなくてよい時代がやって来つつある。

もちろん、すべての職場や職種が該当するわけではない。だが、緊急事態宣言の間に我々は自粛生活を経験した。買物はネットショッピング、打合せはweb会議、交替制の出社もスーパーフレックス。となると、あんなにこだわっていた通勤利便性も、おのずと優先順位が下がる。交通アクセスの目標地点は本社、支社、支店から身近なサテライトオフィスなどに変わり、交通手段は三密の公共交通機関から自動車、自転車へとシフトする可能性もある。となると優先すべきは、渋滞が無い自転車路が整備された広くて安全な道路ということになる。

「立地条件=交通利便性」という思い込みから、「立地条件=安全性」という認識への転換がおこる。安全性とは、災害に対する安全性が含まれることは言うまでも無い。だが、自然災害を完全に回避することは日本では不可能に近い。いったん災害が発生すれば、避難を考えることになるが、コロナ禍での避難所は敬遠されがちだ。いざというときに、頼れる、頼られる親族が身近にいれば心強い。住まいのPlace選びの条件に、実家や親族との程よい距離感を加えておきたい。

リモートワーク対応の住まい選びは、幅広い選択肢と長期視点で

郊外のリモートワークに適した住宅という選択肢も考えられる郊外のリモートワークに適した住宅という選択肢も考えられる

在宅勤務が増え、室内環境がクローズアップされている。住宅販売の現場では、IT環境の充実をPRし、ウォークインクロゼットをweb会議対応のワークスペースに変更するメニューなども提案される。収納かワークスペースかという選択は悩ましいが、予算と面積に限りのある都心のマンションでは仕方がない。

在宅勤務は、家族との密集・密接時間を長くする。感染リスクもさることながら、心理的ストレスも気にしたい。コロナの流行による外出制限によって世界中で家庭内暴力(DV)が増えていると国連が警鐘を鳴らしている。児童虐待も同様であり、日本もけっして例外ではない。都心のコンパクトでジャストサイズの住まいは、働きに出る核家族を前提になり立っていたと言えよう。夫も妻も在宅勤務が日常となるならば、働き方や暮らし方に合った広さと間取りの検証が必要だ。

交通利便性は住宅価格への影響度が高いが、リモートワークが日常化して交通利便性へのこだわりが無くなれば、高額な都心マンションを購入する必然性が薄れる。郊外のリモートワークに適した住宅を購入すれば、都心以上の広さと都心以下の価格を実現できる可能性がでてくるのだ。

さらにこの際、ひと思いに「田舎暮らし」という地方移住の選択肢もある。内閣府が6月21日に発表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によれば、20歳代、30歳代で地方移住への関心が高い傾向がみられ、東京都23区の20歳代では35.4%が地方移住への関心が高まっていると回答した。政府も地方創生の施策として地方における起業、UIJターンを起業支援金・移住支援金にて支援する。LIFULL HOME'Sも「空き家バンク」にて、全国の地方自治体が管理する空き家・空き地の情報を提供して、地方移住をサポートしている。

郊外暮らしも地方移住も魅力的だ。だが、リモートワークの状況は職種や職場によって異なる。まったく出社する必要はないのか。出社の頻度はどれくらいか。顧客訪問はどうか。子どもの学校のことも考慮したい。今は快適だが、20年後、30年後、40年後も快適でいられるのか。人の寿命は延び、働く期間も延びる。一方で、住宅にも寿命があることを忘れてはならない。ゆくゆく住み替えを希望するなら売ったり貸したりする場面も想定し、将来性のある郊外や地方を選択したい。

中心部にオフィス・住まいは郊外。自治体の思惑は?

7月1日、兵庫県神戸市で市中心部でのタワーマンション建築を規制する条例が施行された。ちょうど1年前、横浜市に次いでの事例だと市議会での可決が話題になった条例だ。その横浜市では、2006年に都心部における建築物の用途と容積率を制限する条例が制定されている。住宅開発の急増による居住人口と就業人口とのアンバランスを是正し、業務・商業などの都心機能の回復が目的だ。

先にバブル時のドーナツ化現象についてふれたが、バブルが崩壊し、不動産価格が下がると、ドーナツの中心部へ住宅が戻ってきた。開発された郊外の住宅地は空き地と空き家問題を抱え、住宅価格が下がった住民の中には、売却代金では住宅ローンの残債を清算できず、都心に戻りたくても戻れないという事態に陥ったケースが多々発生したのだ。タワマン規制条例を施行した神戸市は、市内中心部のタワーマンションの集中を抑制してオフィス需要を取り込み、郊外には住宅を整備して人を呼び込み、空き家の増加にも対応する狙いだ。

タワマン規制は東京都の中央区や江東区などにも存在するが、1棟で1,000戸以上が入るケースもあるタワーマンションは、1棟建てばひとつの街ができ、ヒト・モノ・カネの流れが変わる。自治体は税収も増えるが、交通、道路、学校、病院などインフラの整備が欠かせない。
インフラが未整備のままタワーマンションが集中すると、最寄駅のキャパが人口増に対応できなかったり、災害に対して地域が脆弱になったりとあまり良いことは無い。

我々は、購入する住宅に住むのだが、「その地域に住む」ということを肝に銘じておきたい。室内環境を整えただけでは、安全・快適で豊かな暮らしとはならないのが現実だ。行政のホームページなどで街づくり方針なども参考にし、総合的な住まい選びをすすめよう。

2020年 08月06日 11時05分