消費税8%引き上げ後のマンション市況

消費増税前に新築マンション需要の「先食い」をしてしまった後遺症は、マンション業界が予測した期間よりも長引いている消費増税前に新築マンション需要の「先食い」をしてしまった後遺症は、マンション業界が予測した期間よりも長引いている

消費税が今年4月に8%に引き上げられ、その後低迷が続いているマンション市場だが、2015年10月から2017年4月に延期された10%への消費税再引き上げが実際に行われるとマーケットはどうなるのか、いくつかの要素をもとに予測を試みる。

まずはその前に現状把握。
4月に8%に引き上げられた消費税の影響が最も大きく表れたのが不動産市場と言われるように、4月以降の新築マンション分譲実績は大きく落ち込んでいる。今年4月の首都圏新築マンション販売は、前年同月比で実に39.6%減の2473戸となり、初月契約率も同比3.5ポイント低下の74.7%を記録した。契約率が好調と言われる70%超の水準をかろうじて維持したのは、新規供給が4割近く減少したからに他ならない。それだけ消費増税前の駆け込み需要と反動が大きかったということになる(近畿圏でも同比9.3%減の1222戸となっている)。
その後も前年同月比で比較的大きな販売戸数の減少が続いており、消費増税前に新築マンション需要の「先食い」をしてしまった後遺症は、マンション業界が予測した期間よりも長引いている。

一方の中古マンション販売は、市場に流通する件数は大きく減少していないものの、一般仲介物件(売主も買主も個人で流通会社が仲介する物件)は土地だけでなく上物にも消費税がかからないにも関わらず、価格は同じく首都圏で0.7%低下している。不動産購入については、高額であるということもあり、消費増税が購入者の意欲を冷やしてしまったことだけは疑いの余地がない。消費増税前&経過措置終了後の2013年9月~2014年3月は中古マンションが新築ニーズの受け皿となって好調に推移していたことを考慮すれば、やはり消費増税の影響は中古でも小さくなかったと言えるだろう。

また、消費増税後の住宅地価の上昇ペースは、今から1年前の駆け込み需要がピークに達していた頃と比べると、明らかに頭打ちになっている。これも消費増税の影響で需要が限定的になっている証左と捉えることができる。

公的指標やマンションの売れ行きは依然好調と言われるが…

駆け込み需要終了後も、「地価LOOKレポート」は投資意欲の継続により調査地点150ポイントのうち80%の120ポイントで地価が上昇していることを示しており、また新築マンション市況も好不調の目安となる初月契約率70%を維持するなど、引き続き市況堅調を伝える指標が公表されているが、筆者はさらに二極分化の傾向が強まってきたと感じている。

即ち、「地価LOOKレポート」が対象とする地域やマンション分譲が積極展開されている地域は、もともと事業&人口集積性が高く、利用価値の高い市街地の商業地、住宅地なのであって、これらの地域では地価の高騰で用地仕入れが逼迫しており、勢い街区の大きい湾岸エリアや準近郊エリアに開発地域を求める状況が8%引き上げ前から(2012年以降)続いている。一方、都市圏の郊外や準郊外、地方圏では地価の上昇はほとんど見られず、国内の経済指標の動きとは全く関係なく緩やかに下落しているエリアも多くある。7月に公表された基準地価でも地方圏の住宅地価10625地点の平均変動率は前年比-2.2%であったし、東京圏の住宅地価は0.6%上昇しているが、調査地点は2407ポイントと地方圏の1/4以下である。

つまり圧倒的多数の調査地点がアベノミクスによる経済環境の改善の恩恵を全く受けていないにもかかわらず、東京をはじめとした都市圏およびその中心地で地価が反転上昇しているから大丈夫、というようなコンセンサスが醸成されているとすれば、甚だ残念なことだ。
不動産市場の約70%の取引が発生すると言われる都市圏の動向を軽視することはできないが、消費増税前後で市況が大きく変化しているのは専ら東京や横浜、大阪、名古屋、福岡などの市場であって、大多数の地方圏ではそもそも需要自体が弱く、アベノミクスによっても需要が喚起されていないという状況を認識する必要がある。

不動産市況は「木を見て森を見ず」ではいけない。「木も森も見る」ことが大切だ。

消費税10%後の新築市場は一気にシュリンクする

このように住宅地価の二極分化を端緒とする(鶏と卵の関係なので端緒と言うかは微妙だが)不動産市況の変化は、専ら都市圏に特有の事象であるとの前提に立って消費税10%後の市況について予測してみたい。

現在想定されている2017年4月1日から消費税が10%に引き上げられれば、その6ヵ月前の2016年9月30日までは8%に引き上げられた際と同様に「経過措置」の適用が行われるから、今から1年半後の2016年初頭から9月末までは再び駆け込み需要が顕在化するのは確実だ。5%から8%への引き上げ時のような「お得感」は減退するものの、物件の引き渡しが2017年4月以降でも2016年9月末までに造作請負契約(オプション契約)のある新築住宅の購入契約を締結していれば適用される消費税は8%であるから、せめて8%のうちにとの購入意欲は確実に高まるものと推察される。

ポイントは、現状8%増税後に冷え込んでいる需要が駆け込みでどの程度押し上げられるのかということだが、現状の新築マンションおよび建売分譲住宅の価格水準は、供給中心地である都市圏市街地を対象とすると昨年同時期より明らかに上昇しており、対して所得水準が向上して価格上昇についてこられる層は限られているから、2013年夏に発生した駆け込みほどの盛り上がりは期待できない。しかも消費税は購入時点のみ発生するものであり、住宅ローン金利は借入期間中継続するものであるから、消費税よりも住宅ローン金利の水準を重視し、10%上昇後の価格下落を予測する冷静な(そして頼もしい)購入予備軍が増えてきていることを考慮すると、なおさら“経過措置効果”は限定的なものに留まるものと考えられる。

当然のことながら、2016年秋の経過措置期間が終了すれば、デベロッパー各社が増税分+α補填や値引き交渉に応じるとの柔軟な姿勢を示さない限り、新築マンションと分譲戸建市場は急激にシュリンクすることは想像に難くない。ただし、消費税10%への引き上げとセットにしてどのような住宅購入支援策が導入されるのかにも注意する必要があるだろう。各不動産業界団体は、生鮮食料品などと同様に住宅購入に関する「軽減税率」の適用を要望しており、それは期日が差し迫るにしたがって強まることは想像に難くない。つまり、今度こそ増税前がお得か、増税後がお得かを考えるべき時に来ていると言える。

消費税10%後も売れる「住宅分野」とは?

近年では趣味を通じたコミュニティが育っていきそうな物件が相次いで登場している。一般化するか否かは別にして根強い支持を集めることが可能という点で「売れる」住宅の条件の一つとなり得る
近年では趣味を通じたコミュニティが育っていきそうな物件が相次いで登場している。一般化するか否かは別にして根強い支持を集めることが可能という点で「売れる」住宅の条件の一つとなり得る

消費税が10%に引き上げられれば、そのこと自体が消費意欲を冷やし、特に高額な不動産市場は大きな影響を受けることについて異論は少ないと思うが、その中でも需要が堅調に推移するであろう「住宅分野」がある。

需要が堅調に推移するのがほぼ確実なのは、「都心&湾岸のタワーマンション」である。これらの需要者は、①買って住むという実需層だけでなく、②相続税対策として購入したい富裕者層や、③立地条件&賃料水準の高さから投資目的で購入する向きも少なくない。加えて、④海外の個人投資家の需要は中国の不動産バブルの縮小傾向を受けて、香港やマカオ、上海、シンガポール中心部などと比べれば大変安価に見える東京のタワーマンションに目が向いており、さらに円安が購入の背中を押しているという事実もある。このように需要者が多数想定できる都心および湾岸エリアを中心とする立地条件の良いタワーマンションは、価格次第だが需要は十分維持できる可能性がある。これは京都や神戸の中心部など海外からの需要が期待できるエリアにも共通する特性と言える。

次に注目されるのは、同じく都心など立地条件の良いエリアでの「付加価値住宅」に対する需要である。介護や医療サービスがパッケージ化されたマンションや、育児施設に優先入所可能なオプションが設定されたマンションなどは、一定の需要を喚起することができるため、消費税10%の壁を乗り越えて購入予定者に訴求する可能性を持っている。また、やや脱線することをお許しいただければ、近年では「ワインソムリエが常駐するマンション」や「楽器演奏し放題の防音性能の高いマンション」、「大型高級バイクのパーキング&メンテナンス対応マンション」、「自転車置き場がサロンスペースになっているマンション」など趣味を通じたコミュニティが育っていきそうな物件が相次いで登場している。どれも試験的に導入されたものばかりで波及するかは未知数だが、生活自体を豊かに、楽しいものにしようとする「装置」が付加された住宅は、一般化するか否かは別にして根強い支持を集めることが可能という点で「売れる」住宅の条件の一つとなり得る。ソフト面、またハードの充実が今後の住宅購入に関するニーズを確実に捉えるであろう蓋然性は確実に高まっていると言えるだろう。

増税後、中古物件の優位は当面動かない

その中でも、消費税10%後も売れる「住宅分野」の最右翼は、言うまでもなく中古物件である。中古物件は一般仲介においては消費税対象外だから、例えばオークションのように個人間売買が消費税対象外であることが浸透すれば、消費税10%時代においてできるだけ安価に不動産購入するための手段として、中古選択が増えることはごく自然の成り行きだろう。

また、近年のリフォーム&リノベーションは単なるブームを超えて完全に定着し、安価に購入できた中古物件に手を加えて機能的な向上、安全性の確保=居住快適性の向上を目指す購入者が増えており、単に安いということではなく、動かせない財産としての不動産の特性をよく理解して「変えられるスペックは変える」という購入者の意思が、中古物件に向かわせているという言い方もできる。今や、専有部分で変えられない設備は間取りも含めてほぼないのである。

さらに、中古物件は何と言っても絶対数が新築の比ではないから、戸建でもマンションでも、近郊でも郊外でも予算に応じてその選択肢は極めて多数に上る。自分の好みに応じて内装や設備を入れ替え、機能性と安全性を確保しつつ居住満足度が高められる中古物件は、お仕着せではない住宅購入の楽しさを体験させてくれるとも言える。

一昔前は、住宅ローンが組める期間も新築物件より短く設定されていた中古物件だが、現状はそういった「差別」がなくなって、新築・中古の別なく立地重視、価値重視で選択可能な状況が到来しているのであり、新築でなければならない理由は時を追うにつれて希薄になっている。その意味でも消費税10%後の中古優位は市況を支えるものとして認識しておく必要がある。

あとは「消費税を10%に改定した際に軽減税率を導入するのか」という命題に、政府がいつ、どのような回答を用意するのか、だが。

参考レポート:地価LOOKレポート 平成26年(2014年)第2四半期
http://tochi.mlit.go.jp/wp-content/uploads/2014/08/2b7e0a7f64d140905f4184d9cbc20a21.pdf

新築・中古の別なく立地重視、価値重視で選択可能な状況が到来している新築・中古の別なく立地重視、価値重視で選択可能な状況が到来している

2014年 12月03日 11時10分