一極集中型のまま膨張し続けた東京

東京のかたちは、一連の地主・戸建て優遇政策が作用して、一極集中型のまま膨張し続けた。

その結果、震災リスク、ヒートアイランド現象、資産格差が生じ、都市としての持続性が危ぶまれている。これからは都市の成長管理政策として、市街化地域をコンパクトに10㎞圏に絞って中層・低層に抑えて多極化し、さらに土地差益を公共還元することによって、地震多発地帯・温暖湿潤気候・勤労倫理にふさわしい都市構造に転換することが求められる。

東京区部・市部の概算容積率を追うと、東京のかたちが見えてくる。横軸には区・市ごとの宅地面積をとっており、長方形の面積がその区・市の総延床面積に相当する。
約40年前の概算容積率と現在とを比較してみよう。1983年では千代田区399.9%、渋谷区133.3%、世田谷区60.0%、八王子市44.3%という裾広がりの形である。これが2011年になると千代田区608.5%、渋谷区236.6%、世田谷区102.8%、八王子市69.8%と、いずれも約1.5倍になっている。都心は高く、裾野はさらに遠く、と東京はひたすら膨張した。
膨張によって形成された東京の都市景観は、都心からの距離に応じて類型化される。都心は高層ビルが林立し、ビジネスセンターとして郊外からのサラリーマンを集めている。都心周辺では、駅前や幹線道路沿いに中高層ビルが並び、街区内に密集する木造戸建てを囲む。近郊では、ミニ開発も交えて木造一戸建てが連なり、街区全体に広がる。郊外では山の際まで宅地造成が進み、戸建てが散在する。果たして、心を豊かにする都市景観として、自分たちの街を誇りに思えるものになっているだろうか?

一極集中型都市構造の膨張一極集中型都市構造の膨張

膨張を続けた理由、「地主・戸建て優遇政策」

一極集中型のまま膨張を続けた理由は、地主優遇策・木造戸建て優遇策に求められる。

地主優遇策は以下の通り。
1950年代にはロンドンを見習い、既成市街地の外周に幅10㎞のグリーンベルトを設置するために都圏整備計画や緑地地域では建蔽率を10%に抑える制度もあった。しかしグリーンベルトは具体的に地域指定されず、緑地地域も山林原野が適用外にされたために、しり抜けになる。農地解放で土地を取得した農家は、将来の転売をにらんで反対運動を展開し、東京都も開発優先路線で政治的に圧力をかけたために、都市の成長管理はなしくずしにされた。このような経緯で東京の区部・市部のほとんどが市街化区域となり、地主は保有する土地(農地、山林を含む)を宅地として活用・転売できるようになった。

次は、容積率緩和策である。
1970年代、都心部の区議会議員の主な役割は、商店主ら地元の有力支持者のために、容積率をかさ上げし、下水道を優先的に引き込むように働きかけることだった。都市計画法・建築基準法改正に伴い、容積率のより大きな商業・近隣商業地域として指定を受けるためである。近年では、都心部の大土地所有者の意向が反映され、総合設計制度や都市再生特別措置法などで容積率はほぼ青天井になり、高層ビルが林立するようになった。指定容積率が上がれば、地主にはそれだけ土地含み益がもたらされる。都市再生関連では、主な土地所有者は数千億円から数兆円の資産差益を得ている。

課税面については、土地保有者は著しく優遇される。
資本化仮説が示すように、都市の集積効果は土地代上昇となってすべて地主の含み益になる。これは明らかに不労所得なので、欧米ではこの差益の大半は土地課税として自治体に公共還元され、都市基盤整備に再投資される。しかし日本では土地課税は低廉に抑えられている。土地の実勢価格に比べて課税評価額は大きく割り引かれ、アパートでも建てれば小規模宅地優遇税制が適用されるため、固定資産税は実効税率0.2%に過ぎない。農地になるとその数十から数百分の一になる。相続税でも土地評価額は8割まで減免され、実勢10億円まで無税となる。転売時にかかる長期譲渡益課税も、税率は最大 20%に留まる。こうして不労所得である土地含み益は、ほぼ丸々地主の所得になった。昭和の間、所得税・住民税を合わせた最高税率が76%に上ったのとは好対照である。かつて高額納税者リストの大半を、土地成金が占めたわけである。

それから、一連の木造戸建て優遇政策。戦後の住宅難に対し、公共による集合住宅の供給は財政難のために限界的だったために、都市部においても民間主体の木造戸建てが基本となった。
こうして1950年に、建築基準法の制定、住宅金融公庫の創設、スギ植林の奨励がなされた。その後、税制面の優遇策としては、200㎡以下の小規模宅地では固定資産税は1/6、相続税も80%減免された。住宅ローンも建物に比べて土地への担保評価は高く、そのぶん土地付き一戸建ては有利だった。木造では構造計算書も不要であり、43条但書き等で接道条件も緩和され、完了検査未了(7割相当)のまま入居できたために、基準を逸脱した住宅建設でも事実上が容認された。木造で延焼被害を及ぼしても、1899年に制定された法律によって失火の賠償責任は問われない。開発許可制度も弾力的に運用され、郊外の農地や山林は宅地造成された。

こうした結果、木造戸建てが都心から50㎞以上も続くという都市の「スプロール化」が進展した。

膨張型都市構造が引き起こす問題

一極集中型の都市構造のまま膨張しつづけたために、震災リスク、ヒートアイランド現象、資産格差といった構造的な問題が生じ、今後の持続性が危ぶまれている。

(1)地震多発地帯
膨張型都市構造は、地震には脆弱である。ひとたび大地震があると、木造戸建て等の密集する地域は短時間で延焼が85万棟以上*2に拡大して、数万・数十万人規模の犠牲者が生まれる危険性が高い。家屋倒壊も多発し、被害想定でも15万棟にも及ぶ。高層ビルでも設備配管や構造躯体に一か所でも損壊を受けると、ビルとしての機能を果たせなくなる。耐震基準は倒壊しないという目安でしかない。堤防が決壊すれば、ビル地下の制御室が浸水して機能は停止する。損傷を受けた高層ビルは、解体もできずそのままスラム化しかねない。さらに高層ビルは上昇気流を生んで、延焼拡大から火災旋風を多発させうる。このように木造戸建てと高層ビルに埋め尽くされた都市構造は、地震多発地帯には向かない。

(2)温暖湿潤気候
東京は温暖湿潤気候帯に位置するため、高層化とスプロール化は深刻なヒートアイランド現象*4をもたらしている。東京は、100年間で平均気温が約3℃上昇した。地球温暖化の影響が世界全体では0.6℃なのに比べると、その深刻さが伺える。いまでは8月はシンガポールよりも暑く、夕涼みの風習が失われた。気温上昇は、約2℃分がスプロール化に起因する。草地や裸地が区部には70%あったのが、いまでは40%となり、蒸散効果が失われたためである。そして約1℃分は、舗装やビル外壁等の輻射熱の影響とされる。さらに高層ビル群は涼しい海風を遮断し、上昇気流は風下に局所的豪雨をもたらす。戸建てが隙間なく建て込んだ地区では、風通しも悪い。こうして東京は、機械式空調なしでは過ごせなくなった。そして山林の際まで切土・盛土で宅地開発が進めば、台風や集中豪雨、大地震のときに土砂災害も発生する。戸建てと高層ビルの都市構造は、温暖湿潤気候には合わない。

(3)社会的公平性
そして社会的な公平性も損なわれている。地主優遇策は結果として地主に富を集中させた。いまでは、たかだか約5万の所有者が、東京区部の宅地全体の36.1%を占有している*1。こうした大土地所有者の土地資産は10億円規模、金融資産もこの超富裕層に集中している。勤労者がどれだけ頑張って稼いでも、所得税率等も高いためにここまでは資産形成できない。所得格差よりも資産格差の方が深刻なのである。このように不労所得が勤労所得よりも優遇される社会は、はたして公平なのであろうか?

また職住分離の都市構造のまま、容積緩和により一極集中が進めば、勤労者の通勤疲労費用(丸の内再開発で最大441億円/円*5)は増加する。通勤に往復2時間もかければ、それだけ貴重な生活時間が奪われる。郊外に居住するほど、保育園はじめ自治体が負担する都市基盤整備の範囲も広がる。自動車中心の生活になって、エネルギー消費も嵩む。そして都心の巨大ビルが出来ても、オフィス需要を増やすわけではなく周辺のビルからテナントを奪うに過ぎない。

このように東京のいまの都市構造は、自然の摂理(地震多発地帯、温暖湿潤気候)、社会の摂理(公平性、勤勉)に反している。

都市構造を地震多発地帯・温暖湿潤気候・社会的公正性に合うように転換させてみる

こうした膨張型の都市構造を、地震多発地帯・温暖湿潤気候・社会的公正性に合うように転換させることは可能だろうか?概算容積率のグラフを用いて、シミュレーションを行ってみよう。

まず、高層化を転じて、都心部を絶対高さ31m、一ツ橋パレスサイドビルの高さに抑えて、一極集中から多極化を促すこととする。
都心の容積率は概ね400%に制限され、都心周辺は300%、15㎞圏は200%として、中低層の分棟式の集合住宅群(もちろん鉄筋コンクリート造で不燃化される)が基本とする。これで地震被害のリスクも根本的に抑えられる。このように都市の成長管理政策を施せば、現在の都区部の延床面積は、ほぼ10㎞圏にすっぽり収めることができる。職住近接になって、自動車に頼らず、徒歩・自転車・鉄道で行き来が出来る。インフラ整備の範囲も絞られるので、合流式下水道を分流式に置き換える、共同溝によって路上から電柱をなくす、といった事業も効率的にできる。仮に、世田谷・杉並・葛飾・足立・練馬区、そして武蔵野市・狛江市・調布市を容積率ゼロにしても間に合う。こうした地域には、広大な緑地帯を形成することができる。そうなれば都市生活者も、週末にピクニックや野鳥観察、森林浴、農作業などを楽しめるだろう。もちろん、ヒートアイランド化も抑えられる。

東京西部には、もうひとつ都市圏ができる。
たとえば国分寺を中心に、府中・小金井・国立を容積率300%、多摩・立川・小平を容積率200% にすれば、東京市部全体の延床面積もすっぽり収められる。こんな調子で延々と続く東京圏を、広大な緑地帯の間にいくつかの都市圏が分散する都市構造に転換する。なお、線引きについてはあくまで試算なので、目くじらを立てないで欲しい。

二極コンパクト化二極コンパクト化

21世紀の東京

地区開発計画を定めて、開発・建築制限をかける。

土地所有者に土地差益が生じないように固定資産課税を正常化させる(毎期の実勢価格に現在価値割引率相当の税率で課税すれば、相続や譲渡の時点で差益に100%課税するのと同等になる)。

固定資産税が増収になる分、所得税や法人税はシンガポール並みに大幅に減税できる。

すでに自宅を保有している勤労者には損はない。そして、固定資産税率が正常化されて今の5倍位になれば、指定容積率一杯に建物を建てるインセンティブが土地所有者に働く。

そのため隣接地主と協調して区画を統合し、共同で中低層の集合住宅に建替えていく。既存不適格の建物の区画は建て替えできないが、実勢価格が下がるので固定資産課税も抑えられる。

緑地帯では最低敷地面積1,000㎡、建蔽率5%、容積率10%とすれば、固定資産税率が低廉になる分、田園生活を好む層には人気になるだろう。

建て替えでは地価は半分くらいになるので、勤労者はいまよりずっと楽に住宅を取得できるようになる。住宅ストックも後世に残る。こうして社会的公平性も達成される。

21世紀の東京-これでいいのだ!

延々と続く東京圏を、広大な緑地帯の間にいくつかの都市圏が分散する都市構造に転換する。</br>そうなれば都市生活者も、週末にピクニックや野鳥観察、森林浴、農作業などを楽しめるだろう。</br>もちろん、ヒートアイランド化も抑えられる。延々と続く東京圏を、広大な緑地帯の間にいくつかの都市圏が分散する都市構造に転換する。
そうなれば都市生活者も、週末にピクニックや野鳥観察、森林浴、農作業などを楽しめるだろう。
もちろん、ヒートアイランド化も抑えられる。

2014年 10月29日 11時04分