難問が山積する地方都市の将来

これからの日本には、克服しなければならない大きな問題が待ち構えている。まず筆頭に挙げられるのが人口減少と高齢化だ。2010年に1億2,806万人だった日本の総人口は、これから徐々に減っていく。国立社会保障・人口問題研究所(2013年3月推計)によれば、2040年までの30年間で全体人口は16%減少し、とくに生産年齢人口は29%減、幼年人口は37%減となる。それとは対照的に老年人口は31%増で、高齢化社会は急速に進行するのだ。

さらに長期の推計をみると、2100年の総人口はピーク時の約3分の1まで激減(中位推計)するものとされている。不確定要素は多いものの、人口減が緩やかな高位推計でも約2分の1に減少し、低位推計なら約4分の1の水準にまで落ち込むようだ。100年後のことまで考えなくても、人口減少がすでに進行中の地方都市は、深刻な事態が目の前に迫っているといえるだろう。

地方公共団体における財政状況の悪化も大きな懸念材料だ。生産年齢人口の減少に伴って税収は減り、地場産業の停滞や地域の活力低下も財政を圧迫する。その一方で、老朽化したインフラの更新費用は年々積み上がっていくのである。社会資本(道路、港湾、空港、公共賃貸住宅、下水道、都市公園、治水、海岸)のうち、国および地方公共団体による事業(国土交通省所管分)だけの推計をみても、2011年度から2060年度までの50年間に必要な「更新費」は約190兆円とされ、2037年度には維持管理・更新費が賄えなくなる可能性も指摘(2011年度国土交通白書)されている。

これまで外へ向かって膨張を続けてきた都市では、中心市街地のドーナツ化現象も問題となっている。高度成長期から1990年代頃までの車社会の進展により、巨大ショッピングセンターやロードサイド型店舗の郊外立地化も進んだ。また、地価高騰期などを経て、公共施設や病院などが地価の安い郊外へ移転する例も多かった。都市の無秩序なスプロール現象により旧来の中心市街地は空洞化が進み、シャッター商店街となったところも少なくない。

都市の郊外への拡大はインフラ整備などの公共投資を伴ったが、それらを永久的に使えるわけではなく、維持管理費用や耐用年数を過ぎた設備の更新費用など、将来的に膨大なコストを生む。ところが地方公共団体の財政悪化などにより、都市機能を維持すること自体が困難になっているところも多いのだ。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2012年1月推計)をもとに作成国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2012年1月推計)をもとに作成

コンパクトシティの基本的な考え方

このままでは、さほど遠くない将来に破綻する都市が続出することになりかねないため、経済情勢や社会情勢の変化に応じた持続可能な都市構造への再構築(リノベーション)が大きな政策課題となっている。その方策として考えられているのが「コンパクトシティ」だ。

これは都市の中心部に住宅や公共施設、商業施設などさまざまな機能を集約し、徒歩や自転車で移動できる程度のコンパクトな規模に市街地を収める都市形態である。これまでの郊外へ向かって膨張する都市構造から、中心拠点へ集約した都市構造への大転換であり、人口が減少しても都市機能や地域の活力が維持できることを目的としている。ただし、さまざまな人々の生き方の多様化を否定するわけではなく、すべての人を中心市街地に集めようとするものでもない。1点集中ではなく、多極ネットワーク型のコンパクトシティが想定されている。

また、コンパクトシティが目指すものは財政負担の軽減や行政の効率化だけではない。2012年12月に施行された「都市の低炭素化の促進に関する法律」ともリンクし、都市機能の集約化、公共交通機関の利用促進、建築物の低炭素化、緑・エネルギーの面的管理や利用の促進などによる「低炭素まちづくり」が掲げられている。とくに公共交通機関の利用促進は、バス路線やLRT(次世代型路面電車システム)などの整備によって自動車の利用を抑制し、CO2排出量を削減しようとするものだ。

国によるコンパクトシティへの取組が本格化してきた

コンパクトシティの構想は1970年代からあったようだが、成長を続ける社会において都市の膨張を止めることはできなかった。1998年のいわゆる「まちづくり3法」(改正都市計画法、大規模小売店舗立地法、中心市街地活性化法)によって、コンパクトシティの計画が一部の自治体で取り入れられるようになったものの、あまり大きな社会的関心を集めることはなかっただろう。また、2006年の都市計画法および中心市街地活性化法の改正において、再度コンパクトシティが焦点にされている。

しかし、その取組が本格化し始めたのは2013年からだといえるだろう。2013年4月から7月にかけて「都市再構築戦略検討委員会」が7回開催され、7月に提示された中間とりまとめでは「まちなか居住や都市機能の集約を推進することにより、まちなかの人口密度を維持していく集約型の都市構造を作っていく必要性」が打ち出された。

それらを踏まえて、コンパクトシティ推進のために国土交通省が2014年度予算へ計上したのは46億円で、人口密度の維持や都市機能(医療・福祉・商業等)の計画的な配置について、都市全体の観点から戦略的に計画する地方公共団体に対し、重点的に支援を行うものとしている。それとは別に経済産業省も6.9億円を計上している。具体的な施策として、都市の中心部に福祉施設や病院などを整備する民間事業者に対する補助制度や税制優遇制度、都市の中心部に大規模商業施設を整備する民間事業者に対する補助制度などが掲げられている。

コンパクトシティの推進に向けて、さまざまな支援制度などを盛り込んだ法案が通常国会へ提出され、「中心市街地の活性化に関する法律の一部を改正する法律案」(経済産業省)は2014年4月18日に可決成立し、同4月25日に公布された。さらに「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案」および「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律案」(いずれも国土交通省)は2014年4月17日に衆院で可決され、引き続いて参院で審議されている(4月末現在)。

単にコンパクトシティ化すれば良いという問題ではない

コンパクトシティ化が急がれるのは財政事情の厳しい地方公共団体だ。先行して取組んだ事例として青森市、富山市、金沢市など県庁所在都市がいくつか挙げられ、県内2番目、3番目といった都市が着手している例もある。しかし、順調に目論見どおりの成果を上げているところはあまりないというのが実情だろう。コンパクトシティ化のために新たな公共投資をして借金を増やしたのでは本末転倒であり、かえって破綻を引き寄せることにもなりかねない。いわゆる「ハコモノ行政」の手段として利用されることなく、公共事業の増大とならない方策が求められる。既存ストックを最大限に有効活用していくことも必要だ。

また、コンパクトシティ化を推進したとしても少子高齢化を止めることはできない。同じ中心市街地でも、再開発した地区に人が集まることの反面で他の地区が衰退する可能性もあるだろう。公共交通機関を整備したときにそれが十分に利用されるか、中心市街地へのマンション建設を促進したときに入居者が十分に集まるかどうか、などといった懸念もある。

古い木造住宅が密集した市街地の再開発、自然環境や歴史遺産などの保護、地域コミュニティの創出など、都市によって抱える課題は多様であり、地域ごとの特性を見極めてきめ細かな対応をすることも必要だ。行政側が方向性を示しつつ、住民が積極的に参加してそれぞれの地域にふさわしい将来の姿を考えなければならない。

また、持続できる郊外住宅地のあり方を考えることも大きな課題だ。コンパクトシティの推進によって郊外から中心市街地への移転を促すとき、その旧住居をどうするのかという問題も生じる。郊外の中でもとくに外側の住居では売ることも貸すこともままならず、荒廃する住居、住宅地が増えることもあるだろう。郊外を切り捨てることはできず、かといって郊外を切り捨てなければすでに造ってしまったインフラの維持管理費用はあまり減らないのである。都市の活気を取り戻すことは重要だが、単に中心市街地へ集めれば良いという話ではない。

折しも、民間の有識者による「日本創成会議」の「人口減少問題検討分科会」は2014年5月8日に「2040年には全国の約半数の市区町村で消滅の可能性がある」との推計結果を公表した。そのまま何もしなければ「将来的に消滅する可能性が生じる」ということで、2040年時点でいきなり消えて無くなるという意味ではないが、深刻な事態が迫っていることに変わりはない。コンパクトシティを成功させるのは、その危機感をいかに住民が共有し、真摯に取組めるかどうかにかかっているだろう。他の自治体が消滅あるいは破たんするのを目の当たりにしてから、慌てて取組んだのでは遅いのだ。

2014年 05月17日 09時46分