2016年の熊本地震を機に減災ガールズ始動

川崎市高津区溝の口にパークシティ溝の口という大規模マンションがある。管理組合の地道で熱心な活動で知られており、最近は近隣のザ・タワー&パークス田園都市溝の口、メイフェアパークス溝の口とも連携して祭りや防災訓練などを行っている。溝の口減災ガールズ(以下減災ガールズ)もそうした活動から生まれた。

きっかけとなったのは2016年4月に起きた熊本地震。3つのマンションではすぐさま支援物資集めが始まり、被災地益城町で活動する人たちとの交流がスタート。同時に支援の経験を自分たちにどう生かすかの模索が行われ、その結果、2016年6月に3つのマンション合同で開催されたのが「炊き出しフェス」である。おいしく、楽しく、お金をかけずに実践的な防災を目指した同フェスで減災ガールズが誕生した。

自分たちのマンションでの活動に始まり、徐々に地元の自治体や小中高等学校、川崎市全体と各地の防災イベントに呼ばれるようになった減災ガールズだが、メンバーは15人ほど。といっても常時その人数で活動しているわけではなく、できる人ができる時に、できることをするというのがモットー。何かを無理強いすることはない。30代から幅は広く、70代の女性も。

「防災に興味があるからとワークショップに参加されて、以降、活動にも参加いただいています。彼女がいることで年齢の高い層にも共感していただけて、多世代での活動のメリットを感じています」(リーダー・山本詩野氏)

マンションの防災イベントで登場したことが発端となり、さまざまな場で活躍するようになった減災ガールズマンションの防災イベントで登場したことが発端となり、さまざまな場で活躍するようになった減災ガールズ

ローリングストック料理で楽しく、おいしく減災

防災のためのイベントを楽しくするためにアウトドア+防災で子どもたちにも楽しみながら学んでもらう試みも防災のためのイベントを楽しくするためにアウトドア+防災で子どもたちにも楽しみながら学んでもらう試みも

活動はローリングストック料理のワークショップ、ハザードマップ、災害時のトイレのワークショップなど。ローリングストックとは缶詰や乾物・ドライパック、乾麺など自宅に備蓄(ストック)してある食品をローリング(回転)させながら使うというもの。備蓄を定期的に消費、その都度買い足して循環させるという方法で、こうすれば食品を無駄にすることなく、常に一定量を災害時に向けて備蓄し続けることができる。さらに備蓄した食品を日常的に使っていれば、災害時にもいつもと同じ味が食べられ、食べる側も作る側も安心だ。減災ガールズの活動のベースには「いつもの味が心と体を癒した」という被災体験者の言葉があるという。

「食に関心がある人は多いので、ローリングストックを入り口にすることは減災へのハードルを下げる意味があると思います。マニアックで特別なことでは続きませんから。ただ、ローリングストックという考え方自体を知らない人はまだまだ多いようですし、すでに味がついたレトルト食品を買うことと勘違いしている人も。また余分に買うことと思っている人もいますが、いつもに少しプラスするだけ。広く知っていただきたいものです」

備蓄に向く食品は長期に、常温で保存できるもの。缶詰はその代表格で鯖缶、ツナ缶、コーン缶に大豆缶、コンビーフなど。ただし、空き缶にはゴミ処理、臭いの問題があるので、代用できるものはドライパック商品を利用する手もあるとメンバーの望月由貴子氏。「店頭では冷蔵庫に置かれているものでも、表示を見ると常温で保存できるものもあるのでチェックしてみてください」

常温で長期保存がきくものを常備しておこう

レシピの開発もみんなで知恵を出し合って。取材時も楽しそうな表情が印象的だったレシピの開発もみんなで知恵を出し合って。取材時も楽しそうな表情が印象的だった

乾物、乾麺類も同様に常温で長く持つ。「もう一袋余分に買うという意識をすればいつも備蓄があることになります」とやはり、メンバーの畑野ちか子氏。畑野氏は活動に加わってから夫と経営する会社にも備蓄が必要と考え、トイレ、食べ物、水などを3日分用意したという。「以前は備えていないことに漠然とした不安を覚えていましたが、水さえ用意していませんでした。でも、参加することでやるべきことが整理でき、一歩進んだと安心感があります」

それ以外で常備しておきたい食材としてはふりかけや塩昆布などの調味品、真空パックに入った調味料、ジャガイモやニンジンなど保存のきく野菜、粉末ココアやドライフルーツなど甘いもの、ホットケーキミックスや白玉粉などの粉モノ、味に変化をつけてくれるスパイス類やカレー粉、七味唐辛子などのプラスαの調味料など。

ワークショップではこれらの食品を使って実際に参加者に料理をしてもらう。炊き出しフェスの際には参加者が自宅からひとつずつ缶詰を持参、水浸けパスタのやり方を伝えて、持ってきた缶詰でソースを作ってもらった。チームに分かれて作ったそうだが、1品作るはずが、みんなで作るのが楽しかったのか、2品目、3品目を作ったチームもあったとか。一緒に作って食べることは人を笑顔にし、仲良くするようだ。

ちなみに水浸けパスタとは言葉通り、事前にパスタを1時間ほど(季節によって所要時間は異なる)浸けておく。それにより茹で時間を短縮し、水量も控えられるというもの。全体が白くなり、うっすらと芯が残る程度、持ち上げても折れないくらいの状態になっていれば茹で時間は1~2分ほどで済むそうだ。

役立つ!「おいしいミニ炊き出しレシピブック」

ポリ袋やキッチンばさみ、ピーラーなどを上手に活用するノウハウも重要ポリ袋やキッチンばさみ、ピーラーなどを上手に活用するノウハウも重要

備蓄法だけでなく、調理法にもノウハウがある。たとえば保存袋を活用、袋の中で混ぜる、合える、戻す、こねる、茹でるなどの工程を行えば皿も手も汚れず、洗い物を減らせる。耐熱性のポリ袋を使えばご飯も炊ける(厳密にいえば炊くわけではないが)。キッチンばさみで食品を鍋やフライパンの上でカットすれば、まないたや包丁を使わずに済み、洗い物を減らせる。同様にピーラー利用もまないた、包丁、洗い物要らずな上に薄切りにすることで火の通りが早くなり、味もしみこみやすくなる。こうしたことを知っているか、実践できているかで災害時の食卓は全く違うものになるはず。

そのためにワークショップなどが行われているわけだが、彼女たちがそれ以外でお勧めしているのは普段の生活に減災を意識したメニュー、ノウハウを取り込むやり方。賞味期限が切れそうな食材を使ってご近所の仲間や友人とのごはん会や地域の集まり、バーベキューやキャンプに行った時に試してみるという手である。

減災ガールズも関わり、2018年4月に「おいしいミニ炊き出しレシピブック」という書籍が作られているのだが、ここにはそんな時に役立つレシピ、ノウハウ、備えておきたいグッズなど役立つ情報がまとめられている。難しそうな防災の本なら買っただけで安心してしまい、その後は開かない可能性が高いが、レシピ本なら日常的に使える。ちなみにミニ炊き出しとは、行政などが行う多くの人たちを対象にしたものではなく、カセットコンロを使ってコンパクトに我が家のキッチンくらいのサイズで行える炊き出しを指している。身構えずに誰にでもできる炊き出し、そう思えば良いだろう。

レシピの中には中学生くらいならアウトドアで楽しめるメニュー、子どもでも作れるメニューもあり、子どもが自分で長期休暇時などのお昼ご飯が作れるようになれば親も楽ができるというもの。さらにその経験がいざという時に役立つなら、一石二鳥以上に美味しい話である。

地域ごとに減災ガールズを

一石二鳥といえば、活動に加わったことで本多陽子氏や杉本さおり氏のようにノウハウを身に付けただけではなく、「減災を自分の問題として考えられるようになった」という人も多く、さらにそれ以上に社会に目を開かれたという人も。

マンション自治会の役員だったことから参加するようになった伏見幸氏は「参加するだけなら美味しい、楽しいだけだったでしょうが、やる側になって気づくことが増えました。知らないとネット情報を鵜呑みにして不安になり、我が家に必要でないものまで買い込みたくなりますが、今はウチにあるから不要と情報を選択でき、かつ安心できます」

地元で弁当・惣菜店を営む江口可枝氏は「災害時に地域にいる人間としてどんな貢献ができるか、考えるようになりました」。また、食への興味から参加した小畑奈津子氏はローリングストックのみならず、最近はフードロスを減らすことにも関心があるとも。活動が参加する一人ひとりにも影響をもたらしていることが分かる。

また、女性が防災、減災に加わることでこれまでの高齢男性中心の避難所の運営などが変わる可能性もある。地元でラジオ制作に関わる前田牧絵氏は地元町内会の防災チームに参加、従来の避難所開設、運営のやり方に大きな疑問を持ったという。「トイレの配置など随所に女性への配慮がないのに加え、トイレだったら設置するところまでしか頭が回っていない。実際には使い方、清掃その他のルールを作るなど細かい配慮がいるはず。行政はこれだけの組織がある地区は少ないと褒めますが、組織があっても運営できるかは別問題です」

阪神・淡路大震災以降、日本の防災、減災は進化してきたように思うが、まだまだ、足りない部分が多々ある。そこに楽しく、明るく、新風をもたらす減災ガールズ。溝の口と地名を冠したのは、それぞれの地域や環境によって違いがあるので、他の地域でも同様に●●減災ガールズ、ボーイズというご当地が立ちあがってきてくれることを期待しているからとか。皆さんの地域でもぜひ。その気になったら、きっと彼女たちがいろいろ教えてくれるはずだ。

写真は前列左から望月氏、小畑氏、山本氏、前田氏、後列左から江口氏、本多氏、畑野氏、伏見氏、杉本氏写真は前列左から望月氏、小畑氏、山本氏、前田氏、後列左から江口氏、本多氏、畑野氏、伏見氏、杉本氏

2020年 05月21日 11時05分