大災害が発生するたびに報じられる支援物資の問題

昨今、日本人の多くが危惧する大震災の発生。政府の発表によると30年以内にマグニチュード7程度の地震が発生する確率は、首都直下で70%、東海地方で88%といずれも非常に高くなっている。

また、国の有識者会議では、都心南部直下地震(マグニチュード7.3)の被害を次のように想定している。

<建物被害>(最悪ケースの場合:冬・夕方・風速8m)
全壊・焼失棟数 約61万棟
火災 約41万2,000棟

大災害が発生した際、たびたび報じられるのが支援物資をめぐる問題だ。たとえば2016年の熊本地震では、十分な量の支援物資が県庁などに届いてはいたものの、各避難所には迅速に行きわたらないという問題が頻発した。これは避難所ごとに必要なものが異なるのに、届ける側の地方公共団体などがそれを把握できていなかったといった理由からだ。さらに、支援物資を積んで全国から駆け付けたトラックが避難所に到着後、荷下ろしするまで数時間かかるといった事態も発生していた。これも地方公共団体などの段取りの悪さによるものだ。

被災者の生活を維持するには、必要な支援物資が迅速・確実に届くことが重要だろう。そこで国土交通省は、2019年3月に「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」を策定した。ラストマイルとは、被災地の輸送拠点から避難所までの支援物資供給経路のことなどを指す。今後、被災した際に支援物資がどのような経路で手元に届くのか知ることは、我々一般市民にとっても無駄ではないはずだ。

避難所での生活を維持するには、必要な支援物資が迅速・確実に届くことが重要だろう。そこで国土交通省は、2019年3月に「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」を策定した避難所での生活を維持するには、必要な支援物資が迅速・確実に届くことが重要だろう。そこで国土交通省は、2019年3月に「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」を策定した

支援物資物流の基本的な流れ

同ハンドブックは、基本編、都道府県編、市区町村編の3編構成になっている。基本編は、都道府県編、市区町村編に共通する車両確保や物資拠点の運営等のために平時に行っておくべき基本的な取組みを例示している。都道府県編、市区町村編では、それぞれの立場で災害発生時の組織体制、輸送の手配、物資拠点の開設・運営などのオペレーションを解説している。それぞれの内容を一部紹介しよう。

■基本編
ラストマイルでは、避難所まで支援物資が「必要なときに」「必要な場所へ」「必要な量を」円滑・確実に届けることが最も重要だ。そのための支援物資物流の基本的な流れは次のようになっている。

1.各避難所が必要な物資の要望を市区町村に伝える

2.市区町村が各避難所から要望された物資を都道府県に要請する

3.都道府県が国に物資の要請をする

4.国は物資を調達し、都道府県内の広域物資輸送拠点まで輸送する

5.都道府県が支援物資を市町村内の地域内輸送拠点まで輸送する

6.市町村が支援物資を各避難所まで輸送する

なお、被災地域の市区町村による地域内輸送拠点の開設・運営が困難な場合は、都道府県または国から直接避難所へ支援物資を輸送することもあり得る。

支援物資の流れと役割分担の図。赤線で囲った部分がラストマイルに該当する(出典:「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」)支援物資の流れと役割分担の図。赤線で囲った部分がラストマイルに該当する(出典:「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」)

円滑な輸送を妨げる3つの要因

上記の流れの中で、過去の災害においてありがちな円滑な輸送を妨げる要因は、次の3点にあった。

1.物資の需給調整
過去の事例では、地方公共団体などが一般に向けて支援物資の募集を行うと、必要量の何倍も送られてきたり、輸送に適さない形状で送られてくることなどがあった。

2.物資拠点の選定と運営
県庁や市役所などを物資拠点とした結果、それらの拠点で支援物資が滞留し、その先の避難所へ配送されないことが度々あった。

3.輸送車両
地方公共団体職員のスキル不足から支援物資を輸送する車両が確保できない、また効率的に運用できないことがあった。

これらの課題に対し、同ハンドブックでは以下のような対策を推進している。

・「1.物資の需要調整」に対しては、「支援物資の必要量・必要保管面積に関する算出基準設定」などを行うとしている。具体的には、避難者にとって必要不可欠なものとして、食料、毛布、育児用調製粉乳、乳児・小児用おむつ、大人用おむつ、携帯・簡易トイレ、トイレットペーパー、生理用品の8品目を選定。これらの必要量・保管面積の原単位を算出基準として整理しておく。
例:ペットボトル入り飲料水(500ml)の場合、必要量の原単位が1人1日4本、1m2当たりの保管量をオフィス324本、倉庫2,592本とする。

・「2.物資拠点の選定と運営」に対しては、「物資拠点の選定・確保の円滑化のための準備」などを行うとしている。「支援物資の必要量・必要保管面積に関する算出基準設定」によって物資を保管するのに必要な面積を算出し、さらに物資拠点には通路や仕分け場所等の面積も必要になることから、それらも加えて拠点面積を確保する。

・「3.輸送車両」に対しては、「輸送手段の確保・運用の円滑化に関する準備」などを行うとしている。たとえば、輸送に関する協定の締結先であるトラック協会・物流事業者等と災害時の連絡窓口、連絡手段、費用負担などについて協議し、配車計画策定等が行える物流専門家の派遣についても定めておく。協定の提携に関しては、すでに徳島県などが物流事業者に対して行っている。同県では、災害発生時に協定を結んだ物流事業者に対して速やかに「緊急通行車両証」を発行することなどを発表している。

都道府県・市区町村が準備すべきこと

■都道府県編・市区町村編
都道府県編、市区町村編では、まずフェーズの設定およびタイムラインの作成を行うことを推進している。

・フェーズの設定
支援物資の物流に関する取組みは、災害発生後の時間経過に応じて変化する。そのため、「災害発生直後~24時間後」、「24時間後~3日後」、などの複数のフェーズに区分し、各フェーズのオペレーションを決めておくことで、支援物資の物流に関する業務が円滑に行われるはずだ。

・タイムラインの作成
たとえば、都道府県と国を主体としたタイムラインとしては下の図のようなものが考えられる。特に災害発生後の早い時期では、国以外に他の地方公共団体や企業などが個別に支援物資の供給を行うと、円滑な支援物資の受け入れが阻害される可能性がある。そこで都道府県に供給する支援物資は、国からに限定することが望ましいと判断された場合は、そのことを迅速に周知することが必要となる。

都道府県の支援物資物流に関するタイムライン例。プッシュ型支援とは被災地からの要請を待たずに物資を送付する方法。プル型支援とは被災地からの要望にもとづき物資を送付する方法(出典:「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」)都道府県の支援物資物流に関するタイムライン例。プッシュ型支援とは被災地からの要請を待たずに物資を送付する方法。プル型支援とは被災地からの要望にもとづき物資を送付する方法(出典:「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」)

支援物資の物流は一般市民でも知っておきたい

同ハンドブックでは、このほかにもニーズ管理票といった帳票サンプルも含め、全100ページにわたって支援物資の円滑な物流のためのノウハウを紹介している。このハンドブックは、おもに地方公共団体向けに策定されたものだが、実際の避難所では我々一般人からの要望が支援物資物流を左右することもある。また、被災していない人でもボランティアなどで物流に携わることもあるだろうし、「支援物資の必要量・必要保管面積に関する算出基準設定」は自宅での備えに応用できる情報だ。そのため、地方公共団体の職員以外の人でも、このハンドブックに目を通してみる価値はあるのではないだろうか。

「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」

同ハンドブックでは、このような帳票サンプルも複数紹介されている(出典:「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」)同ハンドブックでは、このような帳票サンプルも複数紹介されている(出典:「ラストマイルにおける支援物資輸送・拠点開設・運営ハンドブック」)

2019年 05月21日 11時05分