湘南モノレールの車内とターミナル駅を舞台に、中吊り大の展示で住宅を提案
地域住民の足である電車と駅を舞台に、ローカル色を意識した住宅案を展示する…そんなユニークな試みが、湘南モノレールで行われた。主催は「鎌倉・藤沢リングプロジェクト研究会」。地元出身の若手建築家を中心に、生活環境プロデューサーで建築ジャーナリストの中崎隆司さんがコーディネートを手掛ける。協賛に、木造建築の会社、シェルターが名を連ねた。
「鎌倉・藤沢リング」とは、大船・鎌倉・江ノ島・藤沢を結ぶ3つの鉄道(湘南モノレール、江ノ島電鉄、JR横須賀線)がかたちづくるリングを指す。研究会の創設メンバーの一人で湘南育ちの建築家・伊藤立平さんは「鉄道がつなぐ街の価値を再発見し、魅力を引き出していきたい」と語る。
今回のプロジェクトには、個性豊かな7人の建築家が集結。中吊りサイズの展示の中に、それぞれユニークな「サーファーの家」のアイデアを描き出した。展示はすでに終了したが、ここで改めて、それぞれの提案を紹介したい。
※記事中の図版は各建築家から提供された画像を編集部で再構成したもので、展示とは異なる。
01:大野力さんが提案する、「内」と「外」と「その間」が連なるシェアハウス
大野力さんは、JR新宿駅新南口や新潟駅のコンコースデザインも手掛けた、鉄道には縁の深い建築家だ。大野さんの「湘南といえばサーフィンを連想する」という発言が、今回の企画に結び付いたという。
大野さんが提案した「サーファーの家」はシェアハウス。「サーファーの生活では、バルコニーやテラスといった外部空間を利用する機会が、ふつうの人よりずっと多いはず」という着想から練られた。
単身用の賃貸マンションでは、20〜30m2の部屋に、部屋の面積の1割程度の小さなバルコニーが付いているのが一般的だ。バルコニーでは、せいぜい洗濯物を干すぐらいで、生活空間としてはあまり使われないだろう。「けれども、サーファーは屋外でシャワーを使ったり、サーフボードの手入れをしたりする。ふつうの生活者にとっては内外の比率が9対1で十分でも、サーファーなら5対5ぐらい欲しいのではないでしょうか」。
そこで、このシェアハウスは、ひとつの個室に対し、バルコニーと屋外ロフトという、高さの異なるふたつの外部空間を組み合わせて1ユニットとしている。このユニットを8つ重ね合わせて、全6戸、共用のリビングとキッチン、屋上デッキと屋上菜園を備えた1棟のシェアハウスを構成する。
各戸はそれぞれミニキッチンとシャワーブースを備え、ひととおりの生活が送れる。いっぽうで、バルコニー同士がスロープでつながれ、共用廊下を兼ねているため、入居者は必然的にお互いの家の前を行き来することになる。他人が立ち入らない屋外ロフトも、外からは丸見えだ。「同じ趣味を持ち、価値観の近い人々なら、こうしたオープンな交流が楽しめるはず。外部空間での生活を通じて、濃密なコミュニティが育まれるでしょう」。
sinato http://www.sinato.jp/
02:海を見晴らす「高さ」を楽しむ。オンデザインによる「展望屋根の家」
横浜に本拠を置く建築家チーム、オンデザインパートナーズ。今回の展示は西田司さん・伊藤健吾さん・吉村梓さん・田中比呂夢さんの4人で取り組んだが、その中にサーフィン経験者は一人もいないそう。「サーファーの世界観を理解するために、しばらくはサーファーが書いた本を読んだり、サーフィン雑誌を眺めたりする日々が続きました」と西田さん。
その中から見えてきた“サーファー像”は、常にサーフィンに絶好のコンディションをうかがって、海の様子を観察する姿だったという。「それなら、自宅に常時、高いところから海を見晴らせる場所が欲しいはず。常識を超えた高さの建物をつくり、その高さを活かした住まいができたらおもしろいのでは、と考えました」(西田さん)
名付けて「展望屋根の家」は「4階建てに相当する高さです」と伊藤さん。寄せ棟屋根をぐーっと上に引き延ばし、頂部を切り取って展望台にしたような形だ。「1階に、みんなで集まれるテラスとダイニングキッチン。2階は海から直行できるお風呂になっています。上の階は狭くなるのでプライベートな空間に。壁の外側に取り付いた箱のような部屋は、書斎を想定しています。最上階が寝室です」(伊藤さん)
建物の底辺は5m四方(25m2)なので、小さな敷地でも建てられて、庭も確保しやすい。各階をつなぐ階段はすべて屋外で、屋内より屋外が強調された建物だ。その意味では、上記の大野さんの発想にも通じる。
「サーファーにとっては、海の上にいる時間こそが最上の時間。この家は、海に行くまでの“予告編”のような位置付けなんです」(西田さん)
オンデザインパートナーズ http://www.ondesign.co.jp/
03:ギネスホルダー・川添善行さんの、地球とつながる「地面のある家」
海とのかかわりでは「ダイビングはしてみたいけど、まだ機会がなくて」と語る川添善行さん。モノレールの中で展覧会を行うという企画は、川添さんのアイデアから始まったそうだ。
川添さんが提案する「地面のある家」は、シンプルな切妻屋根の木造住宅。床を重ねただけのオープンな空間には「住む人に自由に使ってほしい」という思いが込められている。ポイントは写真でサーファーが佇む土間の部分で、この土間は文字通りの土の間、すなわち「地面」になっている。
「現代の日常生活では、街を歩いていても土に接する機会がありませんよね。地面はアスファルトやコンクリートに覆われて、息苦しさを感じます。ましてや住宅は今、すごく制約された空間になっていて、みんなそれを当たり前に思ってしまっている。もっといろんなことをしていいんだよ、と訴えたいですね。
この地面は地球と接する場所、地球が家の中に入り込む場所です。そこでは、サーフボードの手入れをしてもいいし、バイクいじりや陶芸をしてもいい。そして、高さの異なる床は、それぞれ地面との距離が異なる場所です。そのことが、家の中の空間に、グラデーションをつくってくれるでしょう」。
この建物、賃貸一戸建てとして実際に建てる計画が進んでいるという。場所は湘南ではなく東京都内だが、実現すれば、これまでにない住宅になりそうだ。
余談だが、川添さんはハウステンボス「変なホテル」の設計でギネスに登録されている。ロボットがもてなす“世界初”のホテルという記録で「速さや多さを競う記録と違って、永久に破られることのない記録なんです」と語った。
空間構想 http://kousou.org/
04:「大地と空をサーフする」。海法圭さんが提案する、自然と行き来する住まい
「サーフィンするとはどういうことか? その原点を探ることからこの住宅を着想しました」と海法圭さんは語る。「サーファーとは、海と空のあわいを漂う存在。サーフボードを境界として、2つの環境を行き来します。同様に、陸の上でも大地と空を行ったり来たりするような住まいを考えました」。
細長い建物を敷地の片側に寄せて建て、庭を広く取る。1階の床は地面とスムーズにつながる高さで、窓やドアを開放すれば、ほとんど庭にいるのと変わらない感覚だ。ダイニングキッチンも寝室もお風呂も、生活に必要な機能はすべてこの1階にまとまっている。
1階から外階段で上る2階は、2階というより“屋根の上”だ。マストのような柱を立て、光と風を透過する膜を掛けている。「半透明の膜に覆われた空間の中にいると、周囲の景色はぼんやりと抽象化されて見えるでしょう。日光も風も和らげられ、屋外より穏やかな環境でありながら、青空に包まれているように感じられるはずです」。
このがらんとした大きな空間は、アトリエに使ってもいいし、パーティーを開いてもいいし、お店にしてもいい。テントを張って寝たり、フリマやマルシェを開催するのも楽しそうだ。
「これからの時代は、ひとつの家族がひとつの家に住むとは限りません。シェアして住んだり、相互に行き来したり。多様な生き方、多様なライフスタイルを受け入れられる住宅を提案したかった。海と空が間近にある、湘南のおおらかな環境に向いていると思います」
海法圭建築設計事務所 http://kaihoh.jp/
残る3人の提案は、後編で紹介する。
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