9回目を迎えた若手建築家の登竜門

会場のうめきたシップホール会場のうめきたシップホール

2010年から大阪で開催されている「Under 35 Architect exhibition|35歳以下の若手建築家による建築の展覧会」(U-35)。文字通り、35歳以下の若手建築家を審査対象として開催されている展覧会で、公募作品と審査員による指名推薦枠から選出された各3組と、前年の最優秀作品「Gold Medal」を獲得したシード枠の1組の計7組が出展。同時開催のシンポジウムにて、10名の審査員の前でプレゼンを行い、その後の審議によって「Gold Medal」が決まる。また、隔年で、建築家伊東豊雄氏の名を冠した特別賞、「伊東賞」も選出される。審査員を務めるのは、五十嵐太郎氏、芦澤竜一氏、五十嵐淳氏、石上純也氏、谷尻誠氏、今回の審査委員長である平田晃久氏、オーガナイザーも務める平沼孝啓氏、藤本壮介氏、吉村靖孝氏という、U-35世代のひと世代上の、建築界を代表する建築家たちだ。
9回目の開催となる2018年は、Gold Medalと伊東賞、それぞれの受賞者が選ばれる年にあたる。大阪・梅田のうめきたシップホールで行われた展示には、建築を学ぶ学生など多くの人が訪れていた。

今回のテーマ『その若さは、「新しい」か。』にふさわしく、新進気鋭の建築家たちの作品は、既存の建物を新しく生まれ変わらせたり、斬新な発想が盛り込まれていたり、はたまたアートのようであったりと、それぞれに『新しさ』を感じさせるものだった。今回はほとんどの作品が実際に建てられた作品であり、限られたスペースでいかに展示を行い、伝えるかという点でも、出展者それぞれの個性が見られた。

まちに求められ、まちに溶け込む建築たち

今回のシンポジウムは、1作品ごとに出展者のプレゼンテーションと各審査員からの質問や講評を行う形式で行われた(藤本壮介氏は欠席)。それでは展示作品を講評とともに見ていこう。

可愛らしいドローイングが目を引く展示は「tomito architecture」冨永美保氏の『真鶴出版2号店』。神奈川県真鶴半島に移住し「泊まれる出版社」を営む真鶴出版の2号店として作られたものだ。細道に挟まれた辻のような場所にある空き家を、現地で集めた廃材なども活用してローコストで改修。宿泊施設・キオスク・出版社として生まれ変わらせた。「自然が豊かな場所なので、なるべく窓を多くしました。窓から見える外の景色も自分の家の庭のように感じてもらうため、開口部がつながってヌケがあるように工夫しています」と冨永氏は語る。
五十嵐太郎氏は「現地の生態系を読み取って細やかな設計をしている」と評した一方、石上純也氏からは「内部が元々どういう建築だったかわからないほど内装を変えているので、内部空間の記憶が感じられない。外と中とのギャップが強すぎるのではないか」と指摘した。

『塔とオノマトペ』と題した、江戸川区の空地に建てるペンシルビルの設計に使用した模型を展示したのは中川エリカ氏。目の前に幅33mの広い道路が通っているのに対し、この土地は3.2m×8mと狭く、都市スケールと身体スケールを横断する建築が求められたという。そこで、スケールを正確に把握するために、1/50サイズから1/1サイズまで、多くの模型を作り、住まい方までシミュレーションすることで検討を進めていった。狭さゆえに1つのものが2つ以上の役割を果たす必要があり、例えば四方の柱のうち2本を居室の外に出し、階段を支える柱としても機能させるなどの工夫が見られた。
審査員の五十嵐淳氏からは「エリカ節全開。言うことなし」と称賛されたが、芦澤竜一氏からは「今は片側の建物が低いため壁面が抜けているが、今後周りの環境が変わった場合に対応できるのか」との懸念も。ただ、理路整然としたプレゼンテーションは審査員を唸らせた。

前年Gold Medalの三井嶺氏はシードでの出展。今回は『柳小路南角』という複合施設を出展した。柳小路という地名は、二子玉川にかつてあった花街の名残だ。そのイメージや、オーナーからの「新築だが新築に見えないように」「デザインするがそれが前面に出ないように」といったオーダーにより、木造を選択。1・2階を支える柱は加工前の木材を束ねて力強さを出し、かつ外観にはガラスを使用して内部構造が見えるようにしたという。3階は増築したイメージで、こちらは鉄骨造。木+コンクリート+鉄骨という、異素材の組み合わせが不思議と調和し、力強い印象を作り出していた。
三井氏は「あくまでオーナーの意向を反映しており、恣意的に作っているつもりはない」と語るが、十分に三井氏の独自性がにじみ出ており、吉村靖孝氏も「素材の混合や、それらをコントロールせずそのまま組み合わせるなど、多分に倒錯的というかフェティッシュな面がある」と指摘し、プレゼンテーションの言葉選びの難しさが浮き彫りとなった。

中川エリカ氏『塔とオノマトペ』(左)冨永美保氏『真鶴出版2号店』(右上)三井嶺氏『柳小路南角』(右下)中川エリカ氏『塔とオノマトペ』(左)冨永美保氏『真鶴出版2号店』(右上)三井嶺氏『柳小路南角』(右下)

海外で活動するユニットも。広がる活躍の場

静岡県を中心に活動する403architecture[dajiba]の彌田徹氏、辻琢磨氏、橋本健史氏は、磐田市郊外の民家の納屋を改修した『東貝塚の納屋』を出展。この地区の住宅は敷地の周りに生け垣があるのが特徴で、1階部分はあえてオープンにし、生け垣を利用して外部とのゆるやかなつながりをもたせた。2階は居住空間に。壁や柱、梁などは建材がむき出しの状態で、構造が分かるようになっている。鉄骨や金網といった無機質なマテリアルを多く取り入れながら、温かみも感じられるのが印象的だった。
芦澤氏は「場所の文脈をとらえ、各階で構成を分けたのは非常に分かりやすい」と評した。また吉村氏からの「DIY的な要素を持ちながらそのままの素材を活かした” 数寄屋化”することについてはどう考えるか」との質問に対しては、「どう作られているか分かるようにすることで、住み手のリテラシー次第で細やかに建物を改造していけると考えた」と述べていた。

ベルギーを拠点に活動する高杉真由氏とヨハネス・ベリー氏のユニット「SUGIBERRY」は、ベルギーで開催されたビエンナーレのパビリオンとして作られたカフェ『NOSE』を出展。ここでは、自然環境をイメージした4種類のメニューと香りを楽しむというコンセプトだったため、建物自体には何のイメージも持たせないように作られた。壁やテーブルにはポリウレタンフォームを使用。寸法の異なる素材をリズミカルに配置することで全体を形成したという。
コンセプチュアルなこの作品に対し、「日本の建築家とは明らかに異なる作品で、クオリティが高く、美しい」と五十嵐淳氏。常に今回のようなアプロ―チをしているのかと問われると、「普段は日本の建築家と同じスタンスだが、今回はイベント会場で1度きりの開催だったため、異なるアプローチを行った」と回答した。

京谷友也氏が出展した『伊根の舟屋』は、重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)である京都府伊根町独特の、漁師たちが船や漁の道具を置いていた「舟屋」を改修した一棟貸しの簡易宿所。もともと船が収納されていた場所にシンボルとして” 湯舟”を設置し、また、全体を海に向かって下っていくようなつくりにすることで、空き家に舟屋としての役割を復活させているところに氏のユニークな感性を感じられた。
建築基準法やバリアフリー法、景観法の条件を満たしながらの改修には大変な苦労があったが、「無条件に決まりを受け入れるのではなく、合理的に物事を再構築する態度が建築家には必要」と、調整に心を砕いたという。平沼孝啓氏から「伝建地区での修復に際して行ったことは?」と問われると、「一般的には外観だけを守って、中は改装して普通の住宅やホテルにしてしまうケースが多いと思うが、それでは舟屋としての価値が外観のみになってしまう」と持論を展開し、きちんと舟屋たらしめる工夫を施したことをアピールした。

スイスで出会った服部大祐氏とスティーブン・シェンク氏のユニット、「Schenk Hattori」が出展したのは『Territory of Perception』と題した4つのプロジェクト。「人の知覚や無意識が空間認識にどう影響しているのかに興味がある」と服部氏。今回出展されたプロジェクトも、見方によって役割を変える木の庇、壁面を延長することによって拡張される展示など、建築と空間をうまく活用していることが感じられた。そして何よりも、一つひとつがアートのように美しい。ところどころに和のエッセンスを感じられる部分もあり、日本とベルギー、2つの拠点を持って活躍するユニットならではの「味」がある作品群だった。
「ディテールから空間まで統一されている」と評したのは吉村氏。日本人建築家のアプローチとの違いを問われ、シェンク氏は「私たちはスイスで“ものを見ることが設計のスタート”であることを学びました。そのため、どこからが設計行為と考えるかは異なるかもしれません」と述べた。

403architecture[dajiba]『東貝塚の納屋』(左上)SUGIBERRY『NOSE』のプレゼンテーションより(右上)<br>京谷友也氏『伊根の舟屋』のプレゼンテーションより(右下)Schenk Hattori『Territory of Perception』(左下)403architecture[dajiba]『東貝塚の納屋』(左上)SUGIBERRY『NOSE』のプレゼンテーションより(右上)
京谷友也氏『伊根の舟屋』のプレゼンテーションより(右下)Schenk Hattori『Territory of Perception』(左下)

ローカルに、グローバルに。深化する2つの方向性

シンポジウムの様子シンポジウムの様子

全10組のプレゼンテーションと講評終了後、Gold Medalの審議が行われ、中川エリカ氏の『塔とオノマトペ』が選ばれた。中川氏は、翌週行われたシンポジウムIIにて伊東賞にも輝いた。
中川氏は受賞に際し、「この度、2018年U-35の展示に際して、Gold Medalと伊東賞を受賞することになりました。会場では、多様なスケールの13の模型と7のドローイングを展示しましたが、これらは展示のために用意したのではなく、実際の設計プロセスで活用していたものです。模型を設計の最重要ツールとして使い倒すことで、生まれる建築も変わっていくのではないか、と信じて日々建築に向かっていますので、今回の受賞は大変励みになります。ありがとうございました」と述べた。

まちや地域、周辺環境とのつながりを大切にする作品が増えてきたように感じられた今回の展覧会。海外で学び、拠点を国外に置いているユニットが選ばれたことも特徴的だった。地域に寄り添う建築家が増えていることを感じるとともに、これからグローバル化が進み、今までの日本の建築を変えるような感性をもった建築家が現れるのではないかという期待感もある。今回出展した建築家たちの今後の活躍と、彼らに続いて出てくる若い建築家たちに来年も出会えることが楽しみだ。


■Under 35 Architects exhibition 2018
http://u35.aaf.ac/

■AAF アートアンドアーキテクトフェスタ
http://aaf.ac/

2018年 11月18日 11時00分