「どんな家を建てるか」よりも大切なのは、「どんな暮らしをしたいのか」ということ

そもそも、の質問になるが、「家を建てる」となったら、何をまず考えるだろう?
間取り、デザイン、広さ、設備、コスト……考えることは山ほどあり、得られる情報も山ほどある。あれも素敵、これも良さそう、そんなことを思いながら、展示場へ行ったり、こうしてインターネットを見たり…そして、いつの間にか情報の波にさらわれて、本当はどうすべきか余計に悩みが深まる。

家を建てようとすると、1度や2度はそんな経験をすることになる。実は、そういった具体的なことに取り掛かる前に、考えておいた方がいいことは、もっとほかにもある、というのが今回の話である。

具体的な行動に入る前に考えてみてほしいこと…それは「その家で"どんな"暮らしをしたいのか」だ。

その答えを見つけに行くのが、積水ハウス株式会社の住ムフムラボだ。「見つけに行く」と言ったが、見つからなくてもいい、「考えに行く」のだ。しかも、コーヒーでも飲みながら「ぼんやりと」。住まいを考えている人も、そしてまだ考えてない人もウェルカム。それでよいというのが、この施設のおもしろいところだ。

住ムフムラボは積水ハウスの施設ではあるが、ここには営業スタッフがいない。代わりにいるのは、積水ハウス総合住宅研究所の研究員。日替わりで1~2人常駐している。だが、いると言っても、接客を積極的にするわけではない。来場者が聞きたいことがあれば、答えてくれる。こうして、ユーザの生の声を肌で感じて、住まいに本当に必要なこととは何かを考え、研究に生かす、そのための貴重な場所でもあるのだ。

グランフロント大阪(北館)ナレッジキャピタル4階にある住ムフムラボ(提供:積水ハウス)グランフロント大阪(北館)ナレッジキャピタル4階にある住ムフムラボ(提供:積水ハウス)

ブックカフェのような空間にあるのは、たくさんの"気付き"

このなんとも不思議な住ムフムラボが、大阪駅に隣接するグランフロント大阪北館にオープンしたのは、2013年の4月。すでにこの年の秋、LIFULL HOME’S PRESSでも取材に訪れ、紹介している(体験しながら、考える。様々な世帯ごとの「理想の暮らし」が見える“住ムフムラボ”)。

5年が経ち、来館者のニーズに合わせてインテリアのコーナーを新設するなど、内容はより充実しているが、今回の記事ではコーナーそれぞれの紹介ではなく、少し視点を変えて、「住ムフムラボ」で「住まいと暮らしについて考えること」にどんなメリットがあるかをテーマとしたい。

実は、最初に住ムフムラボを訪れたとき、「本当にここが?」と思ったのが正直な感想である。理由は、たくさんの人がソファに座ってコーヒーを飲みながら談笑したり、本を読んだり。街によくあるカフェのような光景が広がっていたからだ。失礼ながら、家の相談をしているようには見えなかった。

「ここが積水ハウスと知らずに入っていらっしゃる方も、おられると思いますよ」と話すのは、積水ハウス総合住宅研究所長の石井正義さん。「住まいや暮らしを考えるとき大切なことは、"気付く"こと。その延長線上に家を建てることがある。ここはその第一歩のようなところになればと思っているんです」

たくさんの人が寛ぐ、ブックカフェのような雰囲気だ(提供:積水ハウス)たくさんの人が寛ぐ、ブックカフェのような雰囲気だ(提供:積水ハウス)

生活のシーンを切り口に、住まいと暮らしを考える話題を提供

住ムフムラボでは、コーヒーなどのドリンクが販売され、住まいに関するさまざまな本が3000冊ほど置いてある。まるでブックカフェのようだ。中央のカフェスペースの周囲に、住まいに関するトピックスを紹介するコーナーが設置されていることで、住宅会社の施設と気付くだろう。だが、その展示されている話題の切り口は、かなりユニークだ。

「リタイア後に何をしたいですか?」「よく眠れていますか?」

という、掲示された問いかけは、家づくりからではなく、生活のシーンから入る特徴を物語っている。

例えばダイニング。「シニアの夫婦2人暮らしになっても6人掛けの大きなテーブルを」とは、家事やライフスタイルなどの幸せ住まい研究をしている住生活研究所長・河崎由美子さん。
「こうして人が集まることができれば、シャイなお父さんでも地域デビューできます。2人しかいないからと、小さいテーブルにしてしまうと、そういう機会を逃してしまうんです」。
そして、夫婦それぞれの趣味のスペースもダイニングに。夫婦が別々に自室に引きこもってしまうよりは、邪魔にならず、集中できる程度の距離を保ちつつ、お互いの気配を感じながらシニアライフを充実させようという提案だ。

また、奥には、壁で仕切られた個室のようなブースが。靴を脱いで入ってみると、中央にはひょうたん型のくぼみがあり、そして空間の端には、イスが置いてあったり、こあがりが設けてある。さらに、窓際にはベンチにもテーブルにもなりそうな設えも。
「部屋にいろいろな"いどころ"を用意してあります。自分の居心地がいい場所はどんなところか、実際に座って試してみてください」(河崎さん)。
窓となっている部分には大きなモニターが設置され、四季に加え、梅雨や晩秋なども加えた8つの季節の映像が映し出されていた。窓の外の景色を見ながら、居間でのんびり過ごす、そんなシーンをイメージできるのだ。

このほかにも、階段幅を広くとった階段や隠れ家のような空間がある子ども部屋、空間のイメージを想像できるたくさんの壁紙サンプルなど、「そこに暮らすなら…」と思わず想像が膨らみそうな仕掛けが盛りだくさんだ。そして近くには、そのテーマに関連する本が置いてある。

こうして展示や本を見ることで、「あぁ、こういうことも考えておいた方がいいのか」と、私の、そして家族の"気付き"が、来館者に与えられる。
「"住む""暮らす"ということについて、こうして考えてみると、自分にとっての"良い暮らし""幸せな暮らし"とは何なのか、気付くことがあると思います。住ムフムラボはそういうことにつながる情報を"受発信"する役目を持っているんです」と石井さん。

上)大テーブルをはさんで、夫婦が趣味の机を配したダイニング 下)さまざまな“いどころ”を用意した空間(提供:積水ハウス)上)大テーブルをはさんで、夫婦が趣味の机を配したダイニング 下)さまざまな“いどころ”を用意した空間(提供:積水ハウス)

2万5000人の会員の声が、細やかな家づくりを支えている

石井さんが言った「受発信」。つまりここは、展示や本で、そしてセミナーやワークショップを開催して情報を発信するが、それだけではない。受信もする積水ハウスのオープンイノベーション施設という大きな特色も持っている。

それを可能にしているのが住ムフムラボの"研究メンバー"たち。会員登録をすれば誰でもなることができ、現在、会員数は2万5000人。研究メンバーは、住まいや暮らしに関するさまざまなアンケートに答えてくれ、その回答が研究員たちにも"気付き"を与える。

アンケートは住ムフムラボのホームページから回答ができるほか、住ムフムラボの一角に、常時5本が用意されている。内容は、家に直接的に関わるようなことから、暮らしの細やかなことまでさまざま。この日実施していたのは、「ポリ袋はどのように収納している?」という質問。「収納計画を立てる参考になるんです。過去には、スリッパやタオルかけについても聞いたこともありました」と河崎さん。身近な切り口から、生活者の目線を知ることができるのだ。

さらに、構造や防災研究を専門にしている、総合住宅研究所構造・防災研究開発Gの東田豊彦さんが、興味深い取り組みを紹介してくれた。
置いてあったのはスーツケース。「今は"旅行と防災"と言うテーマで展示をしています」。旅行に行くとき以外は使わず、収納場所に困るスーツケース。その中に防災グッズをいれておこうというアイデアだ。
「防災って、わざわざしないといけないんです。だから、"いつもの暮らし"に"もしもの備え"の気付きを与えたい。今の耐震基準で建てた家であれば、地震が起こっても、家がパタッと倒壊することは考えにくい。そこで、大切になってくるのは"防災力"の高い暮らし。被災後も暮らしを続けるために必要なことは何か。家を提供するだけではなく、安心して住み続けるための情報提供が必要なんです」

その傍らには、防災グッズの中に、お金をいくら入れておくかというアンケートも。こうして、実際に目にすると、自分もしなくては……と実感する。同社では、大きな災害が発生した後には、これまで建てたすべての家を社員が訪問して被害状況を確認するのだという。そうして得た経験も、住まいづくりに役立てている。

アンケートコーナーには、5種類のアンケートが用意されている(提供:積水ハウス)アンケートコーナーには、5種類のアンケートが用意されている(提供:積水ハウス)

切っても切り離せない「住む」と「生きる」。だからこそじっくり考えたい

最初の問いに戻ってみよう。「家を建てる」となったら、何をまず考えるか。

個人的なことだが私の場合は、間取りだった。もしそうではなく、自分が暮らす生活のシーンを思い浮かべていれば、少し違う家に住んでいたかもしれない。建てた家に、自分の暮らしを合わせるのではなく、自分の暮らしに合わせた家を建てることが、この住ムフムラボに来ていたら、できていただろう。

「生きるコトを、住むコトに。」これが、住ムフムラボのコンセプトだ。建てる時間より、住む時間のほうが、はるかに長い。そして住む時間を豊かにしてくれ、家族の思い出を紡ぐのは家だ。「住む」と「生きる」は、重なるところがあると思う。家を建てる前に、ここ住ムフムラボでじっくり自分と、家族と向き合ってみてはどうだろう。

「その家でどんな暮らしをしたいのか?」と。

左から、積水ハウス総合住宅研究所所長の石井正義さん、ライフスタイルを研究している住生活研究所所長の河崎由美子さん、構造や防災を研究している東田豊彦さん左から、積水ハウス総合住宅研究所所長の石井正義さん、ライフスタイルを研究している住生活研究所所長の河崎由美子さん、構造や防災を研究している東田豊彦さん

2018年 12月14日 11時05分