雨どいのデザインをまじまじ見たことはありますか?

私のように街を歩き、建物を見る機会が多いと、変なことが気になる。それなりに景観なども気にしているので、あるとき、突然、雨どいが気になった。
軒とい(屋根の軒先に着いている雨どい)から水を流す管(たてとい)が、太いし、丸いし、建物からはみ出してるし、もしかすると壊れているし、かしがっている。家全体のデザインを良くしているとは思えない。むしろデザインから見れば必要悪だ。

そもそも雨どいって何のためにあるのだろうと思った。もちろん屋根に降った雨を集めて流すため。雨どいがないとだらだらと下に雨が落ちて、はねた水が壁に当たって壁を傷める。隣の家や通行人を泥で汚す。そういう機能を持つ。いわば家の外側の下水道。地味な役割だ。

雨どいなんて、あって当然すぎて、あまり意識しない。家の中にいたら見えないし。うちの雨どい、どのメーカーにする? 色はどうする? なんて悩んで選んだこともない。
賃貸住宅住まいなら、なおさら。雨どいが気に入って住むことも、気に入らずに住まないこともない。
トイレや流し台や洗面台と比べると、全然脇役。というか黒子。だが黒子の割には気になり出すととても目立つのだ。

今度自分の家や近所の家の雨どいを見てみてほしい。
いちばん多いのは1980年代後半に発売されたタイプで、どう言ったらいいか、まあ、スープ皿を横から見て縦に半分に切ったような形をしている。

それより古いのは、もっと単純で半円形だ。古いアパートはまずこれだ。しばしば押さえの金具からはずれて、雨がじょぼじょぼ流れていたりする。まあ、レトロである。

もっと古いのは、銅葺きである。緑青が吹いているはずだ。プラスチック製や樹脂製の雨どいができるまでは銅葺きが普通。庶民の家ではブリキだった。銅葺きは、今ではお金持ちの邸宅が趣味で付けた以外は見られないだろう。

昔の半円形の雨どい。ブリキ製やプラスチック製がある(右上)くねくねして家全体の外観を損ねる(左)高級な銅葺き(右下)三浦展撮影
昔の半円形の雨どい。ブリキ製やプラスチック製がある(右上)くねくねして家全体の外観を損ねる(左)高級な銅葺き(右下)三浦展撮影

街を美しくするための新製品

従来の雨どい(写真:パナソニック株式会社)従来の雨どい(写真:パナソニック株式会社)

そのように雨どいについて考え始めた矢先、偶然パナソニックの新しい雨どいArchi-spec TOIを知った。かっこいい。目立たない。スリム。シュっとしている。

Archi-specはパナソニック株式会社のエコソリューションズ社が2012年12月に発売したインテリア住宅部材シリーズだ。キッチン・洗面・浴室・トイレ周辺部材など水まわり製品のほか、LEDライン発光技術を採用した常夜灯、天然石の豊かな表情を再現した石目柄の床材など建材製品などからなる。TOIは2014年に発売。2014年のグッドデザイン賞も受賞したという。こういう雨どいを付けた家が並んでいれば、街並みもきれいだろうと思った。開発者も街並みを美しくしたいという気持ちからこうした雨どいをつくったという。

パナソニックとして新しい雨どいを開発するのは約10年ぶりだったそうだ。そもそも住宅用雨どい市場においてパナソニックはナンバーワンシェア。5割を超えるという。
流行がほとんどなく、誰も意識しない商品であり、放っておいてもパナソニックが選ばれる可能性が高いのだから、わざわざ新製品をどんどん開発することはないのだ。

それでもパナソニックには新しい雨どいを開発することにした! そこにまず感動した。機能一辺倒で開発がされがちな日本のメーカーにおいて、個人の所有物をかっこよくデザインすることは考えても、街全体を美しくしたいという観点から新製品が開発されたというのは、残念ながら貴重な例であろう。

「雨どいは建築の善し悪しを決める」と言われた

デザイン担当の黒田久美子さんデザイン担当の黒田久美子さん

だが道のりは平坦ではなかった。雨どいに新製品を造ろうという決断を会社がするまでに3年かかった。

当初、TOIの開発担当者は滋賀県や千葉県の新興住宅地、あるいは湘南の高級住宅地などを歩き、雨どいを観察した。新興住宅地の家の雨どいは、自社製品もあるから何だけど、あまり良くない。由比ヶ浜あたりに行くと、建築家の設計した家が多いので、雨どいのデザインも参考になった。建築学科卒の若い女性でデザイン担当の黒田久美子さんは「雨どいのデザインを何とかしたほうがよい。雨どいがよくなれば街並みも美しくなる」と思うようになった。

建築家にヒヤリングを始めた。試作品を造り彼らにプレゼンした。すると建築家からいろいろな意見が聞けた。多様な作風の建築家を集めてブレーン会議を開いた。各建築家は食い入るように試作品を見て、熱心に意見を出してくれた。「雨どいは建築の善し悪しを決める」と言われた。

「雨どいは建築家に響くんだ」と初めて気がついた。ニーズはある。しかし新しい雨どいを発売して確実に売れることを証明しないといけない。何種類も試作品をつくり、施工業者、ハウスビルダー、工務店などに見せた。
反応は良かった。営業マンも早く出してくれと言った。
だが社内にうまく説明できなかった。

先述したようにトップシェアだし、成熟商品だから、あえて新製品を投入する必要がないからだ。
それに同じ住宅関連商品でも、目立つし単価も高いキッチンと比べると、住宅の外側の屋根とか壁とかポストとか、まして雨どいとかはあまりに地味である。
「まあ、箸休め程度ですね」という気持ちが社内にもある。

「こんなの絶対売れないね」と言われたこともあった。
でも、日本の大手メーカーにとっては成熟商品だった掃除機や扇風機が、ダイソンやバルミューダの登場によって革新されたという例もある。成熟商品だからこそ、新しい時代に向けてやるべきことがあるとも言えるのだ。
TOIは雨どいとして新しすぎて、誰も売れるかどうかわからなかった。でも、わからないなら、やってみようと、ようやく決裁が下りた。

性能面でも新しい挑戦

それから突貫工事のような忙しさでスペックを詰めた。
たとえば従来の軒どいは雨水が勢いよく流れ落ちるのを受け止めるために、軒先から数センチ離れて取り付けられている。かつ、「あんこう」と呼ばれる雨水を集めて落とす部品がある。そこからたてといに接続するが、たてといは軒といから地面に対して垂直に接続される。
そこからまた直角に曲がって、地面に水平に壁に向かう。壁にたどり着くと、また垂直に下に降りる。曲がる部分に別の部品が付き、ごてごてする。だから目立つのである。このごてごてした配管を今回はどうしてもやめたかった。

デザインはいいが性能が悪いのでは元も子もない。TOIは性能面でも新しい挑戦をした。軒先と一体化したデザインにするためには、雨水が軒先からできるだけ真下に落ちないといけない。そのために導水板という部品を付けた。これにより雨水が軒先からすぐ下に流れるようになるので、軒といも軒先のすぐ下に設置できる。だから屋根と一体化して見えるのである。

ごてごてを避けるために接続部をなくし、屋根に対して直角に(地面に対して斜めに)といを設置して、軒といから壁まで直結させた。かつ、たてといの直径は従来の60ミリから45ミリと非常に細くした。
45ミリでは、軒といから水が十分に流れ込まないだろうという意見もあった。しかし、といの内部構造を変えることでサイホン効果が生み出し、一度軒といに溜まった水がしばらくすると勢いよく流れ落ちるため、排水量は変わらなかったのである。

すっきりしたデザインで建築を美しく見せる(設計:横内敏人 写真:パナソニック株式会社)すっきりしたデザインで建築を美しく見せる(設計:横内敏人 写真:パナソニック株式会社)

軒先とは日本舞踊にたとえると指先だね

排水性能も向上させた(写真:パナソニック株式会社)排水性能も向上させた(写真:パナソニック株式会社)

宣伝方法も変えた。まずウェブでのプロモーションに力を入れた。普通は会社の意向を伝えてデザインしてもらうだけだが、今回はウェブデザイナーとディスカッションしながらコンテンツをつくった。それによっていろいろな視点が加わった。

屋根、軒先の美しさを表すために、比叡山根本中堂をイメージ写真に使った。また、商品機能の解説をするだけではなく、建築家に登場してもらって軒先の重要性やTOIの良さを語ってもらうようにした。
建築家は忙しいので、なかなか雨どいの情報にまで精通はしていない。だがウェブやカタログの冒頭に建築家へのインタビューを入れることで、建築家が注目するようにしたのである。
建築家を集めて工場見学もしてもらった。製造の現場を見ると建築家たちはものすごく関心を持ってくれた。
発売3年を記念して2017年にはTOI のフォトブックをつくり、TOI を採用した住宅の例を写真で並べた。

インタビューで建築家の横内敏人氏が「軒先とは日本舞踊にたとえると指先だね」と語っているのが印象的である。雨どいは黒子だが、浄瑠璃人形を動かすのは黒子。黒子が人形の指先にまで命を吹き込む。そういう存在に雨どいがなれる日が来るかも知れない。

2018年 10月25日 11時05分