買物困難者は、全国で700万人

ここ10年ほど前から、「買物弱者」「買物困難者」の問題は、日本の社会課題として大きく取り沙汰されるようになってきた。高齢化や過疎化の問題、地元小売業の廃業、地域商店街の衰退など、都市部でも決して無関係ではない問題だが、公共交通インフラが脆弱な地方の過疎地域では、地域での生活の存続を左右するほどの重要な課題となっている。

経済産業省の調査によれば、最新の2015年の調査における全国での買物弱者数は約700万人と推計され、前回の2010年調査時の約600万人から100万人も増加している状況だ。

当然、地方自治体でも、こうした買物困難者に向けたサポートを始めているが、中でもユニークな取り組みとして挙げられるのが秋田県で行われている「お互いさまスーパー」だ。これは、地域住民が主体となりミニショップを設置・運営し、地域活動の拠点を創設する取り組みを県がサポートするもの。

現在、秋田県内には3地域に「お互いさまスーパー」が開設され、それぞれの地域性を活かした店舗運営が行われている。始まりこそ県で助成を行っているが、地域の主体的な運営で継続展開することは簡単ではないだろう。継続運営を実現している「お互いさまスーパー」の取り組みにはどのような工夫があるのだろうか。県と店舗側、それぞれお話をうかがってきた。まず今回は県の取り組みを中心に紹介しよう。

秋田県では、買物困難という課題を解決するため「お互いさまスーパー創設事業」を実施。その1店舗「赤田ふれあいスーパー」の様子秋田県では、買物困難という課題を解決するため「お互いさまスーパー創設事業」を実施。その1店舗「赤田ふれあいスーパー」の様子

生活必需品を、さっと買える場所を

秋田県あきた未来創造部 主査の松倉和美氏秋田県あきた未来創造部 主査の松倉和美氏

「秋田県の人口のピークは昭和31年の135万人。昭和40年代後半から50年半ばまでは一時持ち直したものの、それ以降は年々人口が減少。平成29年4月には、100万人を割り込みました」と語るのは、秋田県あきた未来創造部 主査の松倉和美氏だ。

しかも秋田では、平成5年の段階で14歳までの人口と65歳以上の人口が逆転する高齢化社会に突入していた。もちろんこの少子高齢化は秋田県に限った話ではない。日本全国が抱える問題だが、さらに都市部と異なる課題が地方におけるマイカー社会の弊害だと松倉氏は続ける。

「都市と異なる田舎の課題が、モータリゼーションの進行によるバス路線などの廃止です。路線バス利用者は、昭和40年代中頃のピーク時にくらべ、平成28年には1/8を下回るまで減少し、それに伴って山間部を中心に路線の廃止が進みました。加えて、郊外に大型ショッピングセンターが参入したことで、地域の個人商店の閉店も進んでいます。車が運転できる間は困りませんが、高齢者の独居も増える中で、地域での生活が今後成り立たなくなると懸念されています」

何かあった際にさっと買い物ができる場所が地域にない――。これでは、その地域で暮らし続けることができなくなる。最低限のものは地域で買えるようにしたい。そこで県が打ち出したのが「お互いさまスーパー」だ。

「“買物困難”の課題にどう取り組むかを考えた時に、地域の方々が自ら店舗を運営し、買物困難の課題解決を図るとともに、集いの場を創出できないかと考えました。行政としては、将来にわたって資金的支援をしていくことは困難であるため、まず行政が立ち上げを支援し、そこからは自立した運営が実現する形を目指したのです」(松倉氏)

補助金だけでなく、組織づくりを含めた地域密着型の支援

「お互いさまスーパー」とは「お互いさま」の名前にも現れるように、売る側も買う側も同じ住民であり、地域住民が協力し「お互いさま」の精神で運営・利用していく商店である。しかも、単なる商店としてではなくコミュニティスペースの併設など、地域課題を解決する拠点を目指すもの。民間事業者に店舗運営を委託するような事業ではなく、地域住民の自主性をサポートするのが目的だ。

「平成27年度の単年度予算として、このお互いさまスーパー創設のための補助金を県が提供しましたが、単に補助金を出して終わりではありません。補助金で店舗となるハードを整えたところで運営に必要なソフト部分の構築をサポートできないと意味がありません。そのため、“住民による合意形成”、“運営組織づくり”など、地域に密着した支援を行いました」(松倉氏)

「お互いさまスーパー創設事業」を利用して、現在営業を続けるのは3店舗。世帯数117世帯の五城目町浅見内地域の「みせっこあさみない」、世帯数114世帯の由利本荘市赤田地域の「赤田ふれあいスーパー」、そして世帯数366世帯の羽後町仙道地域の「仙道てんぽ」だ。いずれも最寄りの店舗まで車で15分以上かかる地域。品ぞろえでは、それぞれの地域によって必要なものを仕入れるようにしており、日用品を中心に、肉や魚といった生鮮食品を扱う店舗もある。仕入れでは、民間スーパーと提携したり、近くの個人商店から協力を得るなど、それぞれが工夫を凝らしている。

建物も、「みせっこあさみない」は旧児童館の一部を改修、「赤田ふれあいスーパー」では従来の直売所を拡張、「仙道てんぽ」も既存店舗の補修・機能増強を行うなど地域の事情によって変わってくる。さらに、地域の拠点としての機能も「みせっこあさみない」では、交流スペースとしての食堂機能を付加し、「赤田ふれあいスーパー」では地域住民が山で採った山菜などの加工所を隣接。「仙道てんぽ」では、交流サロンを備え、社会福祉協議会主催のサロンを週2回開催するなど人の流れを生むイベント開催にも注力している。

もちろん、どの店舗も住民の力で運営が成り立っている。店舗開設までに地域ぐるみの意識あわせをしている点などが、成功要因なのだろう。

食堂を併設する「みせっこあさみない」。食堂では、てんぷらうどんやカレーライスなどが提供され、訪れる地域の方の憩いの場となっている食堂を併設する「みせっこあさみない」。食堂では、てんぷらうどんやカレーライスなどが提供され、訪れる地域の方の憩いの場となっている

事業と事業をつなぎ、シナジーも

好調なGBビジネス。春と秋に、千葉県の京北スーパー全店で「秋田県フェア」を開催している好調なGBビジネス。春と秋に、千葉県の京北スーパー全店で「秋田県フェア」を開催している

「お互いさまスーパー創設事業」は平成27年に行われた単年度事業であるが、もちろん秋田県では現在の3店舗をモデルケースに、必要であれば他地域での展開も支援する。

「建物や設備のハードを備えるための補助金事業としては、既存の国の制度で利用できるものがあります。それよりも、むしろ重要なのは、継続して運営していくための地域づくりの部分です。我々としては、3店舗をモデルケースにワークショップの開催やアンケート実施など、より地域に密着した運営についてのサポートをしていきたいと考えています」(松倉氏)

県では、単独の事業をそれぞれに行うのではなく、それぞれの事業を組み合わせて、シナジーを出していけるように取り組んでいるともいう。例えば「元気ムラGB(じっちゃんばっちゃん)ビジネス」だ。「GBビジネス」とは、各地域のお年寄りが収穫した山菜を集めて首都圏に出荷する事業。平成25年に県が主導となって始め、平成29年にはお年寄りたち自らNPO法人「あきた元気ムラGBビジネス」を立ち上げた。

地域の人たちが当たり前に採って食べていた山菜、価値があるなどと地元では考えていなかったが、都市部ではこれが立派な商品になった。県では、首都圏のスーパーなどの販路を確保し平成25年度に約330万円だった売上は29年度には1200万円と3.6倍にも増加。「赤田ふれあいスーパー」に隣接した加工所は、GBビジネスとして首都圏に送る山菜の加工に使われる。「お互いさまスーパーを小さな拠点として、GBビジネスなど様々な取組をつなげていくことで、地域コミュニティの活性化を図ることを狙っている」と松倉氏は説明する。

地域の自主性を生むソフトづくりの支援

地域の活性化で重要なのは、やはり地域住民の方々がいかに自立的に活動していけるかだ。「お互いさまスーパー」をはじめ、秋田県ではうまく最初の立ち上げをサポートしつつ、住民の手に渡している印象だ。

「行政が筋道を立てるのではなく、地域の方々で課題や魅力を見つめ直していただく、その過程こそが重要だと思っています。お互いさまスーパーも他の地域にも広げられればと思いますが、単純な“横展開”は失敗しがち。隣がやったからそれを同じようにやってみようでは、うまくいきません。地域の特性に合わせ、それぞれのやり方で柔軟に対応していけるよう支援していけたらと思っています」(松倉氏)

県では、3店舗の関係者が集まり、課題や取り組みについて意見交換するネットワーク会議なども開催している。単に、補助金でハードづくりの支援をするだけではなく、継続したサポートは、地域にとっても心強いことだろう。

次回は、実際に「お互いさまスーパー」をどのように立ち上げ運営されているのか、「仙道てんぽ」を詳しく紹介してみたいと思う。

「みせっこあさみない」での衛生管理講習会の様子。店舗内の衛生管理についてプロからアドバイスを受ける。こうした店舗運営のためのソフト部分を県では多くサポートする「みせっこあさみない」での衛生管理講習会の様子。店舗内の衛生管理についてプロからアドバイスを受ける。こうした店舗運営のためのソフト部分を県では多くサポートする

2018年 10月19日 11時03分