距離のある「住まい手」と「施工者」の関係を近づける

家づくりやリフォームを行う際に、住まい手の役割は限定されている。もちろん理想の家に近づけるために要望を出し、決定権も持っているが、実際の家づくりで手を動かすことはない。しかも家づくりに携わる人たちとコミュニケーションも希薄だ。顔をきちんとあわせ相談するのは、営業担当者か設計者ぐらいになる。

こうした現実に疑問を抱き、住まい手参加型の“ともに創る”家づくりを進めているのがつみき設計施工社だ。代表の河野 直氏はこの工務店を立ち上げた理由を次のように話す。
「今の家づくりは、住まい手と施工者側が『“垂直”で“遠い”関係』になっていると思うんです。お客さんは工務店の営業担当者や設計者と相談をしていきますが、実際に手を動かす職人さんたちはお客さんの意向を実際に聞くことはありません。施主がトップにいるとしたら、『施主→営業→設計→元請→下請』といったように職人と住まい手の方が非常に遠い存在になっていて、どちらも顔が見えてこない。これが気持ち悪くて仕方がなかったんです」
そこで、河野氏が考えたのは、「住まい手」「設計者」「職人」みんなの顔が見え、ともに手を動かす理想の家づくりの形だった。

つみき設計施工社 代表で建築家の河野直氏(右)、奥様で同じく建築家の河野桃子氏(中)と
長女(3か月)、縫製担当の夏目奈央子氏(左)つみき設計施工社 代表で建築家の河野直氏(右)、奥様で同じく建築家の河野桃子氏(中)と 長女(3か月)、縫製担当の夏目奈央子氏(左)

好きな人が作ったものは、大切なものになる

建築はチームでないとできないと語る河野氏。ものづくりに対する思いが伝わってくる。建築はチームでないとできないと語る河野氏。ものづくりに対する思いが伝わってくる。

つみき設計施工社は建築家2人、大工2人の小さな工務店だ。現在のところ店舗や住まいのリフォームに限定したものづくりを行っている。その特長は設計者や大工はもちろんのこと「造作」「左官」「縫製」といった家づくりに関わるプロと施主側が必ず顔を合わせて打ち合わせをし、施主側も床張りやペンキ塗りなど家づくりに参加することだ。

相談・設計の段階で1つのテーブルに「住まい手・設計者・職人」が集まり、これから作る家への思いを共有する。それこそが今の日本の家づくりには欠けていると河野さんは主張する。
「好きな人が作ったもの、自分で作ったものは大切なものになりますよね。それなのに今の日本の家づくりだと、自分で手を動かさないし、実際に手を動かす職人さんたちの思いを感じることもできない。だからそれを壊したくてウチでは打ち合わせ・設計の段階を長くとっているんです」
つみき設計施工社では、ヒアリングと設計までのプロセスに時間をかける。ここにそれぞれのプロフェッショナルが集結し、住まい手の顔を見ながら決めていく。もちろん毎回の打ち合わせに全員が集合するわけではないが、設計の早い段階から職人の方々に相談が入るのが同社の特長でもある。「建築はチームでないとできない。だからこそそれぞれのプロの意見を反映しながらチームビルティングを目指している」と河野さんは力を込める。
その後、設計が決まった段階で施主側の希望に合わせ、家づくりへの参加プランを提案していくそうだ。もちろん、構造に関わる場所はプロが行うが、「床貼り」「ペンキ塗り」「左官作業」「レンガ積み」などみんな積極的に参加するという。

結果、ローコストにつながる“ともに創る”というコンセプト

自宅兼オフィスには、かわいらしい手作りの棚や木工製品であふれている。自宅兼オフィスには、かわいらしい手作りの棚や木工製品であふれている。

こうした“ともに創る”利点は、コスト面にも反映されてくるという。つみき設計施工社では、職人の方々に直接声をかけてチームを形成するため、間接マージンというのが発生しない。また、施主自ら手を動かすことで人件費を多少なりとも削減することができる。そしてもう一つ大きな要因となっているのが“素材選びの妙”にあるという。

「実は今、家づくりの素材は“本物”と“偽物”が逆転することがあるんです。当然本物は高く、偽物が安いように思いますが実はそうではないことも多い。たとえば左官材料で漆喰は高いからと模造品を探そうとすると、実は消石灰などの原材料から漆喰にした方が安上がりになったりします。そういうことは、その道の職人さんだからこそ知っていること。設計段階から職人さんと相談ができるというのは、素材選びから知恵を絞れるということで、結果コストダウンにもつながるんです」
また、つみき設計施工社ではリノベーションの際に既存のものを再利用する方針をとっている。そのほか「縫製」のプロがチームにいることもローコストで仕上がる一因だそうだ。
「布は圧倒的に住まいに影響力を与えます。大きくいじらなくても、ソファーカバーやカーテンを変えるだけでガラリと雰囲気が変えられる。縫製のプロもきちんとウチではお客様と相談する機会がありますから、そうした点でもコストをかけずにイメージ通りの住まいに近づける工夫ができます」

リフォーム後にも残る“つくるよろこび”

玄関に並ぶ木製のイス。手作りの温かみが伝わってくる。玄関に並ぶ木製のイス。手作りの温かみが伝わってくる。

“ともに創る”家づくりの魅力は、住まい手に「つくる」よろこびを家が完成したその後も残せることだと河野さんは言う。
「実際に一緒に家づくりに参加されると、コツが掴めるんでしょうね。リフォームが終わったあとも、棚を加えたり、ちょっとした造作をされて住まいを成長させていらっしゃったりします。そういうのを見ると、本当にうれしくなります。それこそが愛着を持って住まいに暮らすということですよね」
かつて地方によっては、家づくりは村の男衆が集まってつくるものであった。そこまでいかなくとも、昭和の頃は大工さんが家を建てる傍らには、余った木片で遊ぶ子供たちの姿があった。それが今ではブルーシートに覆われた中で人知れずつくられていくような時代だ。私たちはもう少し、自分たちの家づくりを肌で感じてみてもいいのではないだろうか。
次回は、“ともに創る”を現在進行中のリフォーム現場を訪ねてみたい。

2013年 11月08日 10時05分